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2024/05/05 23:00 |
ゼロプラスファイブ 1
本当は『0+5』にしたかったんですが、カッコ悪いのでカタカナにwww
今回は『失恋』をテーマにして考えたお話です。
そして、シリアスなのでお気をつけを~

3月19日、修正と話の追加。
最初の展開の変更と白井の来訪からの続きを追加。あと一場面の視点が固定されずめちゃめちゃだったので、見やすいように一部修正。



 十二月某日
 上条は今日も不幸な日々を送りながら、ボロボロになった身体でいつもの通学路を歩いていた。
「はぁー、不良に絡まれるなんて、不幸だ」
 逃げて逃げて捕まらないように全力で逃げて、やっと撒いたと思ったまた逃げて、そして気づけば逃げ切っていたのだが、走り続けたその身体は飲み物でもなんでもいいから何か、栄養になるものを求めていた。
 そして、ボロボロの上条は生活費がピンチなのだが状況が状況だったので、自販機で適当に何か買おうと思って、財布を開くと。
「………にせんえん」
 何かのデジャビュではなく、以前も似た経験をしたことを思い出した。そして、何か思うこともあったのであたりを見渡した。
「…………あの自販機」
 どう考えてもこれは何かある。しかも大体予想がついている。
 なにやら嫌な予感がしたので、上条は涙ながらも自販機を諦め、そこから逃げようとしたのだが。
「ちょろっと。またなんでアンタボロボロなわけ?」
 やっぱりと上条はため息をつくが内心では、そこまで残念ではない。むしろ、幸だった。
「おお、御坂さんではありませんか。ちょうどいい、何か奢ってくれ」
「い、いきなり何よ。いつもなら無視するくせに、今日に限っては無視しないで名前呼んでくれるし」
「まあまあ、その話は置いておいてだ。御坂、上条さんはいまやボロボロ状態です。ここは知り合いのよしみとして何か奢ってくれ。どうせここに来たってことは、お前も暇だろ?」
「ま、まぁね。私も暇だったし、せっかくの機会だから付き合ってあげるわ。で、でも、知り合いとしてよ! そのあたりを勘違いしないでよね」
「もう何でもいいですから、上条さんにお恵みをー。久々に餓死しそうです」
 重要な奢ってもらうの部分を無視されているが、付き合ってくれるということであったので、何かしらの利益にはなるはずだろうと思った。もっとも、機嫌のシーソーゲームの美琴をコントロールするのは至難の業ではあったがそのあたりはなるようになれ、であった。
「でも、女に奢らせるってどういうことよ」
「御坂さん、上条さんの生活費の辛さを知っておるのでしたら、ご協力ください。というか、今はお前だけが頼りだ」
「た、頼り!!?? だ、だったら……しょ、しょうがないわね! 美琴さんが助けてあげるわ!」
 美琴は感謝しなさいとえらそうに胸を張って答えた。その答えに上条は不幸であった人生もたまには救いがあるんだなと、目の前の女神こと美琴に感謝した。
「幸運というのもあるものですね。ありがとう、御坂」
「べ、べつに…いいわよ。それよりも、行くわよ!」
 笑って答える上条に、美琴はそっぽ向いてぞんざいに答えた。上条は美琴への感謝の気持ちでいっぱいだったため、そのような態度を取られても特には気に止めていなかった。
「どこでもいいわよね。ここらへんの近くならファミレスだけど」
「別にどこでもいいぞ。こっちは奢ってもらう身なんだしとやかく言えねぇよ」
「それもそうね。ならそこにしましょう。ファミレスなら私も何か頼めるし、お手軽だわ」
 そういうと美琴の足は目的地のファミレスに向かった。その後ろを上条は付き人のようについていく。
 背中から見る美琴の姿は何故か楽しそうに見えた。上条が思うのもなんだが払うのは美琴だというのに、なんでそんなに楽しそうなのか良く理解できず頭をかしげた。
(なんで楽しそうにスキップ気味に歩いてるんだ? 普通、仕方ないとか思わないか?)
 さきほどの会話はどちらかと言えば美琴が怒りそうな要素しかない。だというのに美琴は喜んでいる。ということは何かいいことがあったのかと思い返すと、ファミレスという単語を思い浮かべた。
「ああ、なるほど。カエルか」
「カエルじゃないわよ!!! あれにはゲコ太っていう名前があるのよ。いい加減に覚えろ!!!」
 つい呟いた独り言だったはずなのに、いきなりの美琴からのツッコミには上条も驚きを隠せなかった。そして言った美琴も心なしか、顔が赤いように見えなくもない。
 また風邪かと最近、時々赤くなる美琴を心配して上条は美琴のでこに手を置こうとした。
「ちょッ!? ちょっとストップ!!」
 美琴の額に触れる瞬間、上条の手は美琴の手にとても強く叩かれた。その手には叩かれた手の赤い跡があった。
 上条はそれを見てとても申し訳なさそうな顔でごめんと謝った。それに対して美琴は頭を下げてごめんなさい! と声を挙げて謝った。
「悪い。お前がこれが嫌だって気がつけなかった」
「そ、そんなことは………」
 上条は謝ってもなお申し訳ない気持ちでいっぱいだった。今まで何度か美琴の額に手を置いて熱を測ったことがある。だが今さっきはたかれたと言うことは今までずっと嫌だったことに耐えていたのではないかと上条は思った。
 だったらそれも知らずにずっと嫌であったが耐えてきてくれた美琴には何を言えばいいのか、いまいちわからなかった。
「はぁー、そんなに嫌だったら言えばいいだろう。俺も嫌がることはしたくないんだからさ」
「だからそんなことは」
「お前、俺がいくら嫌いだからってさ、そんな無理に付き合わなくてもいいんだぜ。嫌いなら嫌いってはっきり言えばいいだろう、御坂らしくない」
「え……?」
 美琴は上条の言葉を聞くと固まった。
 なんだ図星なのかと思った上条は予想以上に嫌われていることが悲しくなった。なんとなくわかっていたけど、いざ本人がこのような反応を示されるわかっていてもショックはあった。
 そして上条はいつもとは違う不幸のため息をついて、横で固まった美琴の横に止まって続きを言った。
「やっぱり超能力者(レベル5)のプライドを汚すようなことをしている気がするし、毎回毎回お前を怒らせちまうし、困らせるようなこともしちまう。それに毎回のように電撃を浴びせてくるし、名前も呼んでくれないし……なんというか、無理やり付き合ってますよと思うようなものを感じるたりする」
「…………………」
「それに俺って不幸だからさ。それもあって嫌われてるかな―――」
「なんでそう思うのよ」
 不意に黒く沈んだ声が美琴を中心に重く広がった。
 美琴の重く広がった声に上条は怒りとは違う何かを感じ動揺したが、いつものように逃げようとは思わなかった。むしろ逃げてはいけないような気がしていた。
 上条は言った責任もあったので何を言われるのかを聞かなければならない。それに嫌っているといったことに怒っているのか、それとも別のことに怒っているのかわからない今、話を聞いてしっかりと謝らないとと思い上条は少しくらい表情で美琴の見た。
「アンタは……なんでそう思ってるのって訊いてるのよ!?」
「それはさっき言ったとおり―――」
「そんなこと、理由にならないわよ!!」
 美琴はあたり人間を無視して、大声で叫んだ。だがその声にはいつもの迫力はない。
(御坂……泣いてるのか?)
 怒りの激しい声ではなく内に秘めていたかのような悲しみの叫びだと上条には理解できた。そして、自分は間違えていたことを言って間違ったことを思っていたことを理解したが、すでに遅かった。
「……………悪い」
 苦し紛れに答えたのはこの言葉だった。自分が悪かったのは、誰がどう見ても明白だった。
 そして、今までとんでもない勘違いをして美琴と付き合っていたということに、上条は胸を痛めた。
「アンタなんて……アンタなんて、知らないわよ! 馬鹿ッ!!」
 美琴は耐え切れなくなって、上条の右頬を思いっきり叩いて去ってしまった。
 上条はその背中を追おうと思うことも出来ず、自分の視界から消え去るまで美琴の泣いている背中だけを見ていた。そして見えなくなったところで終わったなと上条は悟った時、今まで感じたことのない痛みが胸を支配した。傷とは違って身体の奥から痛み、ズキズキと刺されるような痛み。さらに、その痛みは数々の戦いで傷ついてきた傷よりもはるかに痛い。
 そしてそれは苦しみに変わっていく。内側を圧迫されるような息苦しさと不快感。あまりのことに、痛んだ胸に手を置いて掴んだ。
「は…ははは……ははははは」
 最後にやってきたのは……悲しみ。それが、止めだった。
「失恋って、こういうことを言うのか?」
 上条当麻は生まれてはじめて、絶望感を味わった跡の涙を流した。どんなことがあっても泣かなかったはずなのに、一人の女の子に嫌われてしまっただけで泣いてしまったが、不思議なことに疑問はなかった。
 なぜなら泣いた理由に気づいてしまったからだ。
「俺…あいつの笑顔、好きだったんだな」
 小さくとも、確かにあった恋愛感情、御坂美琴を一人の女の子として好きであったことに…。


 常盤台中学女子寮。
 いつもならもう少ししてから帰ってくるはずの女子寮だが、今日は違った。
「うっ…っく…ひっく」
 ここまで涙したのはきっと生まれて初めてだと思う、と美琴は思った。
 好きな人からのいきなりの告白。だがその告白は自分の思い描いたものとは大きく違い、残酷な闇の中に引きずり込まれるような絶望感と喪失感を美琴に与えた。それは妹達(シスターズ)を救えなかった時とは違い、建物の鉄骨を抜かれ、建物内から壊れていくような感覚であった。
 失くしてしまったと思うのと同時に、崩れ落ちた感覚があったのだ。そう、美琴の理想は上条に"殺された"のだ。
「なんで…気づいてくれないのよ!」
 ずっと一緒にいたから、最悪友人だと思っていてくれていると思ったが、箱を開けてみると私に嫌われていることにびくびくしていた。最低な男とまではいかないが、あの時は確かに上条を軽蔑した。
 美琴はそうしてしまった自分が、許せない。きっとあのシスターなら上条に優しく答えてくれると思うのだが、美琴にはそれが無理だった。
 いつだろうか『誰かを好きになるということは、誰かを信じるということ』という言葉を聞いたことがある。歴史上の人物なのか、はたまたどこかで聞いた女の子の会話の一部なのか、マンガのセリフなのか思い出せないが、美琴には胸に刻まれるほどの印象があったということを覚えている。そして、これに当てはまるのは自分ではなく、あのシスターであたったということ。
 あの時は頭に血が上っていたが、涙を流している今、考え直してみれば、上条の言っていることは酷く正論だった。
 自分の言動・行動・態度は上条からいい印象を受けるものではない。むしろ、あそこまで過剰に絡んでくるということは、何かしらの恨みか何かを持っていると思われても、仕方ないのかもしれない。プライドを傷つけられた超能力者ということも言っていたし、上条はそのことで負目を持っていたのかもしれない。
 しかし美琴は特にそれを気にしていない。いや、超能力者であることに負目を追っていた時期もあった。だから超能力者でい続けなければならないというものも、ない。言うなれば、ただの肩書き。名誉であるとは思っているが、上条を叩いてしまっても名誉だと思えるほどのものではない。
 自分だけの現実すら崩壊させる存在を、美琴は自分で崩壊させてしまった。それが待つのは…喪失感と絶望だけ。
 今の御坂美琴は、能力者になって初めての『崩壊』を見せつつあった。
 だからこそ、気づけなかった。
「………お姉様」
 扉のかすかな隙間から覗いていた、後輩の存在を。
(あのお姉様がここまで……まさか!? あの殿方の件で!?)
 美琴をここまで壊す出来事、白井にはただ一人の少年しか原因がないと確信した。白井は今すぐにでも励ましたいと思う気持ちより、上条に何か言ってやりたいと思う怒りの方が強かった。


 白井は何かあったときのために、上条の部屋の住所と番号は事前に調査していた。
 風紀委員の権力を利用し、自分で調べ上げておいた住所は携帯にメモしてあったのでそれを頼りに白井は空間移動(テレポート)での移動を繰り返していた。
(お姉様をとられた時に突入するためのものでしたのに、まさかこんなことで役に立つなんて思いもしませんでしたわ)
 不幸なことで役に立つのは、白井からしても嫌なものであった。しかも、こんな役を演じることとなるとは、夢にまで思いもしなかった。
 道だけではなく、自販機や家の屋根、アパートの屋上に『空間移動』する白井が一回で飛ぶ距離は、80メートル。それを秒単位で繰り返すのだから、走るよりも全然速く体力を使わない。その代わり、演算の失敗が出来ないという欠点を持つが、風紀委員の仕事ではない白井からすれば、急なトラブルが起きない限りは計算を間違えたりはしない。
(見えましたわ。あれですの)
 常盤台から上条の部屋までは意外と距離はあるが、白井からすればそう長くは感じなかった。白井は一旦、男子寮の前で止まるとそこからは徒歩とエレベーターで上条の部屋に行くことした。
 常盤台とは違い、古臭く一般的な男子寮は白井からは自分との差を感じるものであった。だが常盤台は世界に匹敵する場。それと比べるのは失礼な気がしたので、白井は深く考えないことにした。
 男子寮に入ってすぐにあった小さなエレベーターに乗り、7階で降りた。そして直線通路の先が上条の部屋であると、確認すると白井はインターホンを鳴らした。
「……………おりませんの?」
 少し待ったがドアの先から音が一切なかった。もう一度押して、しばらく待ったが結果は同じだ。
 失礼ですけど、と白井はドアノブをまわしてみた。すると鍵がかかっていなかったドアは、いっさいの防御がなく開かれた。
「………上条さん?」
 失礼だとわかっていたが、ドアを閉めて玄関で部屋の中にいるかどうかわからない相手に、声をかけた。だが返ってくる声はない。
 このような場合は玄関に靴があるか確かめれば、と白井は自分の足元を見ると、上条のものらしきスニーカーがあった。白井は美琴のようによく上条に会うわけでもないし、特徴的な髪の毛や顔、程度しか覚えていない。細かい体格や服装までは白井も知らないため、あくまで予測するしかなかった。
 だが、ここは男の部屋。しかも一人暮らしであるのなら、この靴は自然と上条のものだとわかった。
「いらっしゃいましたら、お返事くださいませ。上条さん」
 そして白井は玄関で靴を脱ぎ、部屋の中に入っていった。


 上条はどのようにして家に帰ったのかをよく覚えていない。
 気づいたら家の玄関を開け靴を脱いで部屋に上がって、カバンを適当な場所に放り投げるとかつての同居人が寝ていたベットに倒れた。
 今はいない同居人の名はインデックス。彼女は12月を気に上条の部屋から近くにある『必要悪の教会(ネセサリウス)』の所属である教会に住む場所を変え、そこでシスターとして働いている。
 元々、教会育ちであったインデックスからすれば教会での仕事は決して難しくない。しかもそこにはステイルや神裂がいたため、人間関係にも一切困ることはない。そのため食生活以外は教会での暮らしに不便はないらしい。
 それに安心して数日。帰っても誰もいないこの部屋を寂しく思わなくなったというのに、今は誰もいないこの部屋の寂しさが上条の悲しみを大きくさせた。
「インデックス………ッ」
 何を今更思ってるんだと上条はシーツを掴んだ。
 インデックスはもうここにはいない。自分が一番それをわかっているはずなのに、上条はつい彼女に戻ってきて欲しいと思った。
(たかが失恋したぐらいで何を考えているんだ)
 迷える子羊は放っておけないと言ったインデックスだったが、今の上条はそんなことを言われた記憶をすっ飛ばしていた。
 誰にも助けを求められず、きっと今日はこのまま後悔したままだと思うと、と上条は何もやる気が起きずこのまま寝てしまおうと目を閉じた。
 その時、玄関のインターホンが鳴る音が聞こえた。
「……………おりませんの?」
 どこかで聞いたことがあるなと思い出すが今は出る気にはなれずに放っておいて、もう一度目を閉じた。
 しかしさらにもう一回インターホンの音がなった。
「………上条さん?」
 声の相手は白井だとわかると上条はベットから起き上がった。
 白井の能力は空間移動(テレポート)。ならばきっと能力を使って上がってくるだろうと予想できていた。
 すると案の定、玄関先から小さな音が聞こえた。
「いらっしゃいましたら、お返事くださいませ。上条さん」
 靴が脱げる音を聞くと上条は小さく息を吐いて、いるよと返事をし返した。
 すると白井は玄関からゆっくりと歩いてきて、だったら返事をしてくださいと怒った表情で上条を見た。
「それで、常盤台の白井さんが俺に何のようですか?」
「………」
 上条はあくまでいつも通りを装った。
 弱みを見られるのが嫌だったのではなく、白井がここに来た理由がわかっていたから上条はいつもの態度を示した。それが気に触れたのか白井は上条を睨みつけると、上条の左頬を手加減せずに叩いた。
「何故叩かれたかは、貴方が一番わかっていると思いますの」
 白井の怒りは美琴を泣かしたことの怒りであるのは、白井が来た時点で気づいていた。
 御坂美琴に最も近い少女と言えば、上条は白井しか知らない。そしてさきほどの美琴の件といきなりの白井の来訪は偶然ではなく必然であったことも気づいていた。
 しかし白井に怒られたところで上条はそこまで大きな痛みを感じなかった。もっと苦痛を感じると思ったのだが、それは少しばかり予想外だった。でもその原因は………すぐにわかった。
「お前に何がわかるんだよ、白井」
 上条は怒った口調で白井を睨みつける。
 叩かれたことに上条は怒ったのではなく、自分の気持ちも知らずに怒られたことに上条は腹を立てたのだ。機嫌の悪い子供のように大人気ないのはわかっているが、上条はその怒りを抑える余裕など一切なく、そのままの口調で言葉を続けた。
「御坂だけを見ているお前に、俺の何がわかるんだよ。言ってみろよ、白井」
「そ、それは……」
 白井は返答に迷い上条への視線を逸らした。
 上条の言い分はもっともだったのだ。美琴だけを見ていた白井からすれば、白井の視点は"美琴が上条の件で苦しんでいた"という美琴だけを見た真実しか見ていない。その逆に上条が何をしたのかを、白井は一切知らず何も聞いてはいなかったのだ。
「白井、お前が御坂の件で怒っているのはわかる。でもな、俺のことも知らずに勝手に怒りに来るなよ。今の俺は少し機嫌が悪いんだ」
「上条さん……それは申し訳ありませんでしたの」
 上条が本気で怒っていることを知り、早とちりしてしまった自分の行動を素直に謝罪して頭を下げた。
 機嫌が悪かった上条は、別にと普段よりも冷めた返答をして視線を下に向け、見上げるように白井と目を合わせた。
「泣いてたか、あいつ」
「ええ。わたくしの存在に気づくことも出来ないほど、泣いておりましたわ」
「そ………っか」
 それを聞いて上条はまた後悔の念に胸を痛ませた。
 やはりと予想はしていたが、いざ言われると自分の行動が腹立たしかった。さらに自分の好きであった女の子を傷つけてしまったことは刺されるよりも痛く残る心の傷であった。
 白井は上条の心の変化に気づいたのか、はたまた表情で気づいたのか。何がありましたのと上条に問いかけてきた。
「わたくしではお力になれるかわかりませんが、上条さんはわたくしのご友人のお一人。出来ることがあればわたくしにご相談ください」
「ああ、ありがとう白井。それじゃあ少しだけ話を聞いてくれ」
 相談してください。今の上条にはこれほど嬉しい言葉はなく、誰かに相談できる状況に上条は少しだけ心が落ち着きイライラしていた態度が少しばかり和らいだような気がした。
 そして、床に向けていた視線を白井と平行に見詰め合うように向けると上条はゆっくりと、自分の後悔の話を始めた。


 全てを話し終えた上条は少し心が楽になったような気がした。
 静かに聞いてくれた白井には感謝しても仕切れない大きな借りを作った。上条はいつか返さないとなと思いながら、もう一度天井を仰ぐと思っていたことを声にして言った。
「俺は御坂が好きなんだと思う。あいつの笑った顔が凄く好きで、一緒にいて凄く楽しかった。でも泣かしちまったし傷つけちまったから多分、嫌われただろうな」
「そんなことはありませんわ!! お姉様が貴方をお嫌いになるなんて!!」
 白井はすぐさま反論するが、上条にはよく聞こえていなかった。それどころか、取り乱した白井の変化にも気づいていなかった。
「あいつは、御坂は泣いてた。なあ白井、なんであいつは泣いたんだ?」
 今思い返すと上条はそれが一番の疑問だったのだ。
 何故、御坂美琴は涙したのかが上条にはわからなかったのだ。友人であったことを否定されてなのかと最初は思ったが、その程度でなくほど美琴は弱くはない。だが逆に大きな何かに耐え切れるほど強くもないのだ。
 妹達の件で上条は美琴が泣き虫であることを知っている。あれ以来、泣き顔は一切見ていなかったがその美琴が今まで溜めていたように涙するのは上条には大きな疑問であったのだ。
「わかりま、せんの?」
「わからない。わからないから苦しんだ。あいつが何に怒っていたのか、何に涙したのか、何に耐え切れなくなったのかがわからないから俺は……俺は……!!」
 白井は何かを言おうとしたが、声を出す一歩前でやめた。
 その代わり、白井は上条と向き合うと真剣な眼差しで上条の目を見た。
「上条さんは、お姉様が好きなのですね」
「ああ、好きさ! 失ってから気づいたが誰よりも好きさ!!」
「ならば、少しヒントをあげましょう。わたくしから言ってもよろしいのですが、それではお姉様に一生恨まれますので」
 白井は何を言おうとしているのか上条にはまったく理解できなかった。
 今更何をと言おうと思ったが、真剣な白井の眼差しと優しい声に上条は無言で頷くことにした。それに何を言うのか、少しばかり興味もあった。
「上条さん、上条さんから見たお姉様はどんなお方ですか?」
「どんなって……短気ですぐにビリビリ電撃を飛ばしてくるやつだけど、一緒にいて楽しいし可愛い。それに困ってたらちゃんと助けてくれるしすげえいいやつだと思うけど」
「では上条さん。お姉さまから見た上条さんはどういったお方だと思いますか?」
「どうって……言われてもな」
 美琴から見た上条は、と言われ上条は考えても見なかったと思いながら予想できる限り、美琴から見た上条自身を想像して見た。
「あいつからすれば最初の頃の俺は喧嘩の相手だったのか。」
 美琴が泣いた理由は、美琴が上条を嫌っているからではないかと訊いたからだ。ならば、美琴は上条のことを嫌いではない。それはわかっている。
 では美琴は嫌いではなければ何故泣いたのだろうか?
 友人であると思っていた美琴自身の考えを否定されたからなのか?
 それとも、友人ではなくもっと別の…何かを……。
(別の……何か?)
 そこで上条はある疑問に気づいた。
 友人として涙するのも筋が通る。では逆にそれ以外の、友人以外の関係で涙する理由は一体何のか?
「…………いや、待て。あいつは俺を友人だと思ってるんじゃないのか? 俺はさっきまでは友人だと思ってたけど、違うってことなのか?」
「…………………」
 白井は何も答えずに、上条を見たままだ。
 答えてくれなさそうなだなと上条は思うと、はぁーとため息をついて頭をボリボリと掻いた。
「まさかと思うんだけど、両思いってやつか?」
「わたくしにはお答えできません。お答えできるのはお姉さまだけですの」
「答えないか……まあ、もしそうだったら他人である白井は絶対に答えないよな」
 美琴は自分のことが好き。それに気づくと悲しみは消え去り、一瞬のうちに嬉しさがこみ上げてきた。
 まだ美琴から答えは聞いていないが、美琴の言動や先ほどのやり取りを良く考えれば考えるほど好意があったと考えられなくない。好きでもない相手に何度も何度もつっかかってくるなんて、美琴ならばやらない。やるのなら無視をしたり、知り合いの域を出ない程度の付き合いしかしないはずだ。
 逆に美琴は上条にばかり付きまとってきていた。常盤台からいちいち上条の通学路まで来て待っていたし、あまり用がないのに電話やメールもしてきた。最近では進んで宿題を手伝ってもくれたし、買い物にも付き合ってくれた。思い返せば思い返すほど、嫌いとは逆の好意ばかりを抱いた行動と考えられなくもない。
 だというのに、上条はそれにいっさい気づかなかった。いや気づこうとしなかったのかもしれない。
「白井、俺からちょっと質問していいか?」
「いいですけど、ヒントの答えはお教えしません」
「それじゃあねえよ。ちょっと単純な質問だよ。白井、無能力者と超能力者が付き合うって世間から見たらどう思う?」
 気づかなかった理由の一つはきっとこれだろうと思い白井に訊いてみた。
 世間からすればたった七人しかいない超能力者が落ちこぼれである無能力者と付き合うと言うのは、学園都市の上層部からすればいい印象にはならない。学園都市の象徴でもあるはずなのに、恋人が落ちこぼれである現実は超能力者のイメージダウンに繋がるだろう。
 それに美琴自身のイメージもダウンする。優秀な美琴にはいいままでいて欲しい学園側からすればそれも避けたい大きな事実であろう。
「御坂は多分、それなんてどうだっていいとか言うけど、やっぱり世間の目と言うのは隠し切れない。そうなったらあいつはいいかもしれないけど、俺は責任とかで…その」
「らしくありませんわね、上条さん。それでもお姉様やわたくしを救った男性ですの?」
 白井は上条の言いたいことはわかっているだろう。それでも白井は迷いもなく自分の意見を上条に返した。
「貴方もお姉様もその程度のことは気にしてないはずですわ。なのに、今更何を言うのですの。上条さんにはその程度、障害にはならないはずではなくて? だって貴方は様々な人を助け不可能なこともやり遂げたお方のはずですわ。世間の目なんてそれと比べればどうってこともないと思うのですが」
「…………………」
 白井に言われて上条はしばらくの間、きょとんと固まった。
 だがしばらくして、はははと笑うと上条は立ち上った。
 その通りだった。今更世間の目など気にしているわけはなかったのだ。学園都市の『外』で魔術師と戦ったりしていたし関係のないことにも関わったりもしていた。それは世間など見ず周りに何を言われようが、上条は自分のしたいことを貫いてきた結果ではないか。
 それに気づくと全てが馬鹿らしく思え、どれだけ道化を演じていたのかを実感したような気分だった。だが吹っ切れた今は、そんなことは過去の話だ。
「白井。御坂は常盤台か?」
「ええ。常盤台の自室で一人涙しておりますわ」
 白井も立ち上がると上条の前を進み、玄関へと向かっていく。上条は机においてあった携帯をポケットに突っ込み、白井の後を追う。
「あいつを泣かせたのは俺だ。それ相応の責任は取るつもりだ」
 そういって上条と白井は玄関で自分の靴をはくと、ドアノブに手を置いた。そして白井を見るとドアノブを押して扉を開いた。
「当然ですの。どのようなことであれ、お姉様を泣かしたのは貴方ですわ。責任を取らないというのならわたくしがお姉様に代わって責任を取らせますわ」
「そんなことはしなくていい。俺は俺のしたいことで、御坂に責任を取るさ」
 上条はいつもの調子で答えると部屋を出てドアを閉めた。
 その時だった。

「悪いなーカミやん。ちょっとそれはまた今度にしてもらうにゃー」

 その声に振り返った瞬間、隣にいた白井は腹と後頭部を殴られその場で気絶してしまい、上条も白井と同様の場所を殴られ気絶しそうになった。
 だがタフであった上条は気絶することなく足で踏ん張ると殴りかかってきた相手をにらみつけた。
「さすがだぜい、カミやん、でも悪いんだけど説明している暇はないんだにゃー。大人しく捕まってくれるなら気絶はしないけど、どうする?」
「断る! どんな理由であれいきなり殴りかかってきて、しかも白井を気絶させたんだ。それに大事な用があるんだ。邪魔をするな土御門ッ!!」
 上条は怒りながら土御門を睨みつけると、地面を蹴って土御門に殴りかかろうとした。
 だが土御門はそれをあっさりと横に避けると、上条の腹をもう一発殴った。
「本当に悪いにゃー、カミやん。今回の件は"上条当麻は誘拐された"って名目じゃないとダメなんだにゃー。だからその用ってのも今回の件が終わってからってことで頼むぜよ」
 土御門の声は相変わらずの口ぶり。だが動きはどう見てもいつもとは違う魔術師での動きだ。
 上条はかつて土御門と戦って負けたことがある。その時よりも時間は過ぎ上条も成長しているはずなのに、それでも土御門には勝てなかった。
 かはっ、と腹に食い込んだ拳は息を圧迫させるように上条の呼吸を止める。一気に意識が消えかかりそうになるが、それでも上条は足を踏ん張り地面を蹴って一歩下がった。だが、
「時間がないんで、手加減なしでいくぜよ!」
 上条の手を読んでいた土御門は右足で上条のわき腹を思いっきり蹴り飛ばした。
 蹴られた上条は勢いを殺せず男子寮の壁に身体を飛ばされ、そのまま地面に倒れた。
 タフな上条でも土御門の的確な攻撃は体に響き、動くこともままならなかった。まだかすかに意識はあったが立ち上がる気力はもうなかった。
「く、っそ………土御、門」
「あとでぼこぼこに殴られせてやるぜよ。だから今はそのまま気絶してくれにゃー」
 そういった土御門は上条に近づくと、上条の身体を肩に乗せてエレベーターに歩いていく。すっかりとボロボロにされた上条は一切の抵抗が出来ず、消え行く意識の中で御坂美琴の名前を呼びながら意識を手放すしかなかった。

<その2>
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2010/03/19 22:19 | ゼロプラスファイブ

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