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2024/05/03 20:31 |
とある恋人の登校風景 前編
入学式の前編部分です。
実はこのシリーズ、途中でネタ切れを恐れて手加減していたネタがあったのですが、今回はそれらを恐れずまったく自重していません。
といっても二人のデレデレ度は最高値までいっておりませんけど(これは話の展開上仕方ないことです)
追記…文字数を入ってるワープロで調べてみたら1万千文字でした。これは多いのか?



 4月4日。
 3日の始業式を終えた上条当麻は、隣にいる恋人こと御坂美琴と裸のままベットで寝転がっていた。
 だが単純に眠いから転がっていたのではなく、3日の夜から行っていた契りを終えて疲れ切ってしまった身体を休めるために転がっていたのだ。その隣の美琴も激しく動かした身体と様々なことですっかりと体力切れであった。
 そんな時間を過ぎている間にすっかりと日付は入学式当日になっていたことに、寝室のデジタル時計を見て上条は気づいた。
「ん? どうしたの?」
「ついにこの日が来てしまったんだな、って思いまして」
 上条はデジタル時計を指差すと美琴はああ、なるほどと上条の言いたいことに納得した。
「今日は私の入学式だったわね。なんだかこの家に来てあっという間だったな」
「って言ってもまだ二週間しか経ってないし、上条さんは一週間この家にいられませんでした」
「それは自業自得……ではないかな。当麻らしいと言えば当麻らしいわね」
 悲しそうな表情を浮かべながら、上条の胸に顔を埋めた美琴の頭を上条は優しく撫でた。
 サラサラと逃げていく綺麗な髪が手のひらをくすぐり、触れるだけで心地よい。さらに自分の好きな相手を撫でているためか、心が安らぐような気がした。
「退院したと思ったらちょうどその日が始業式だし…せっかく二人で夜まですごせると思ったらインデックスのところに行っちゃって、帰ってくるのは8時過ぎだし。これってあんまりじゃないかしら、当麻」
「わ、悪かったよ美琴。でも退院の時期は始業式と繋がって仕方なかったことだし、約束は『外』に行く前からインデックスとしていたことだったから」
「そういう意味じゃないわよ。私が言いたいのはそれの見返りよ。彼女を待たせた分、それなりのことを払って欲しかったんだけど、今日のアンタもいつも通りだったから私が甘えるしかなかったじゃない」
「ああ、だからあんなに積極的だったし普段よりもノリノリだったわけか。てっきり薬でも何かを使ったと思ってました」
「そ、それは!! その……また、今度、ね」
 美琴は上条の胸にさらに顔を押し付けて答えた。だが最後のあたりは小さくなっていくのを聞いて、ああと美琴の心境を察すると上条は美琴の耳元に顔を移動させると小さな声で囁いた。
「ならさらにエッチな美琴を楽しみにしてるよ」
「…………ふにゃ」
 耳元をくすぐる息と甘いささやきに美琴は意識を飛ばしそうになった。だが成長した美琴は意識を飛ばすことと漏電することがないぐらいの耐性がついていたため、意識を失う一歩手前で意識を持ち直し小さな声で馬鹿と呟いた。
 そんな美琴が愛しくて、上条は美琴の身体を抱きしめると強く強く離さない様に身体を密着させた。
「暖かい…それに、心臓の音が聞こえる」
「そっか。美琴の身体も十分に暖かいぞ」
 美琴も上条を抱き返し、二人はベットの上で抱き合いながら笑いあう。
 そして上条の胸の顔を埋めていた美琴は、顔を上げ上条に向き合うと上条にだけ見せる満面の笑みを浮かべて、言いたかった言葉を伝えた。
「遅くなったけど言わせて。『お帰りなさい、当麻』」
「ああ。『ただいま、美琴』」
 それは上条が『外』へ行ったり、事件に巻き込まれたりした時に言うと決めた二人の約束の言葉。
 今更になってだが、上条も美琴もそれを言い終えて初めていつもの二人になれたことを実感して笑いあった。そして、約束の言葉の後にあったもう一つの約束。
「んっ……ちゅっ。大好きだよ、当麻」
「俺も大好きだよ、美琴」
 上条と美琴は抱き合いながら、キスをして愛しかった人との再会を喜んだのだった。


 いつもよりも早い朝の目覚まし時計のアラームの音が耳に響く。
 上条は眠たい身体を起こして少し離れた机においてあったデジタル時計のアラームを切ると、うああーと眠たいあくびをしながら頭をボリボリと掻いた。
 いつもよりも一時間近い目覚めと昨日の反動でまだ身体は眠りを欲していた。だが隣で寝ていたはずの美琴がいないことに気づくと自分も寝ていられないなと思い、仕方なく起きることにした。
「うぅー寒っ。まずはシャワーシャワーっと」
 あのまま寝てしまっていたので身包みは一切ない。こんな姿で家を歩くのはどうかと思ったので、上条は近くに脱ぎ捨ててあった下着を身につけると、服を手に持って一回自室へと向かうために廊下に出た。
 廊下は来た当初よりもすっかりと様になって、予定表のカレンダーや美琴が用意した花や壁紙などが飾られていた。最初の頃は、どこの大豪邸ですかと自分の住んでいた男子寮と比べて迫力のある廊下に違和感を抱いていたが、自分の住む場所に慣れるというのは意外にも難しくなかったのか違和感はすぐに消えた。ちなみに、これはこの家にある部屋や飾りにも大体に当てはまることだったが、今はすっかりと自分の家という実感があるため、この家の違和感はもうほとんどなくなっている上条であった。
 廊下を抜けて自室に着くと、上条は制服のワイシャツといつも中に着ているTシャツ、黒のズボンを取ると一階にある風呂場に向かった。
「いちいち階段を下りていくってのは、やっぱり面倒だな」
 寝室と上条と美琴の自室は二階。居間やキッチン、風呂場は一階にある作りであるため、統一だった前の部屋とは違って昇り降りに関しては面倒で仕方ない。それが一軒家というものだから仕方ないのだが、上条が面倒なのはそういう意味ではない。
「……………」
 小さな子供のように手すりに両手を置きながらゆっくりと降りていく。高所恐怖症ではないのだが、この階段にはたちの悪いものがすんでいたのでこのように何かにびくびくしながら降りていくしかない。しかし結局はそれも無駄な気がすると感じる上条である。
 と、思った矢先に上条の腕から制服のワイシャツが地面に落ちた。するとそのワイシャツは上条の降りる階段の一段下に落ち、ちょうど上条がその下一段に足を置く瞬間だった。
 そして置いたのと同時に、ずるっと足を滑らすとバランスを崩し階段に尻餅をつく。バランスを崩した上条は支えていた手すりから手を離してしまい、そのまま一階まで滑り落ちていくこととなったのだった。
「いてて……不幸だ」
 幸いなことは頭から落ちなかったことだが、それでも痛みと精神が削られたことには変わりはない。
 これは毎日起きることではないが、毎回普段よりも早起きをするたびの習慣、上条のもつ不幸体質にが生み出す必然であった。だから上条は早起きをするたびに、階段から降りることに慎重になるのだが慎重が役に立った覚えはない。といっても慎重になって不幸を回避できるのならばこの体質に苦しむことがないので、半分諦めているが怪我が軽減できるかもしれないので一応は続けている。
「アンタ、また階段から落っこったの?」
 その声は一階の台所の方から聞こえた。上条はその声に、ああそうだよとやけくそに答えて風呂場に向かおうと立ち上がった時であった。
 いきなり台所の方向のドアが開くと声の本人である美琴が姿を現した。のだが、美琴を見て上条はこう着した。
「まったく。不幸体質だってことはわかっているけど、毎回毎回大きな音で落っこちられたら、心配するつーの。わかってるの?」
「……………………………」
「な、何よ。何かあるの!?」
 上条は何を言えばいいのか真剣に迷っていた。
 このシチュは上条からすれば万々歳かついいんですねと飛びつきたい気持ちがあった。しかし、なにぶん朝でありこれから学校に行かなければいけない状況であったので、鉄壁の理性が働いていたため、一般的な健全男子としてどう反応すればいいのか迷っていた。
 しばらくどう言おうか、どう反応すればいいか迷った末に上条は決断した。
「さーて風呂に入ってこようかなー」
「って、わざとらしく無視すんなやこらーっ!!」
 背を向けて無視しようとしたが、美琴のとび蹴りを背中から喰らってしまい地面にキスする羽目になってしまった。当然のことだがこれも上条の不幸である。
「いてて……だったらお前は俺にどんな反応を期待したんだよ!!?? いきなり襲い掛かってくださいって誘ってるのか!! 羞恥を隠して頑張ったから褒めてほしいのか!! それとも俺をからかってるのか!!」
「そんなんじゃないわよ!! 私はアンタに、当麻に喜んで欲しいからこうしただけよ!!!」
「ああ、嬉しい! 嬉しいですよ!! 時と場合であったら涙を流して土下座してやりたいぐらい嬉しいさ!!! でもな、"御坂"。学校行く朝から裸のエプロン姿!!1 しかも夜の気持ちが抜け切ってない状況でその姿は上条さんからすれば理性を破壊する上条ブレイカーかなんかなんですよ!!! それをわかっているのか"御坂"は!!!」
 上条は一気に言い終わると、はぁはぁと息を荒くしてなるべく美琴の身体を見ないようにそっぽ向いた。
 今の美琴の服装は、男性の夢である女性が裸になったエプロン姿である。エプロンは相変わらずのカエル柄であったが、高校一年生とは思えない整ったスタイルは上条からすれば上条の理性を崩壊させる魔の誘惑であった。出会った当初は小さかった胸も今や吹寄に近いほどの大きさに成長しているというのに、それ以外がモデル顔負けの綺麗でスラリとした足腰を中学二年からほとんど、というより変化なしに保っている。さらに美琴は高校生にもなったと言うことで、可愛さだけではなく大人のような顔立ちも少しばかり見え始めており、普通のままでも理性には十分な脅威であった。
 その美琴が過激な格好で上条の前に出てくると言うのは、上条の理性を壊す気でいるようにしか思えないのが上条の考えであった。決してそんなつもりではないと、頭ではわかっていても上条からそう思えてしまうのだった。
「な、なによ。せっかく喜んでくれると思ったのに」
 喜んでくれなかったことに美琴は残念そうに肩を落とした。
 それを見ていた上条は、言いすぎた罪悪感と美琴の頑張りを無碍にした罪の意識にかられた。上条ははぁとため息をつくと、美琴の頭を優しく撫でた。
「御坂、十分嬉しいんだけど今は勘弁してもらいたい。これから入学式ってイベントがあるのにエンジョイしてたら、上条さんは途中で力尽きます。だからそういったイベントは休みの日とか余裕のある日にしてもらえれば助かる」
「あの……いやじゃ、ないの?」
「嫌なもんかよ。ぶっちゃけ、学校じゃなかったら理性をぶっ壊してベットインしたいよ。でも今日はそんな余裕はないから、またあとでな」
 そういって上条は美琴の頬にキスをすると、撫でていた手を離して風呂場に向かった。
「…………ふにゃー」
 その時、何かが聞こえたがとりあえず無視することにした。
 それに上条の理性とジュニアはそろそろ限界であったため、上条は魔の誘惑から逃げ少し駆け足になって風呂場のドアを開けると後ろを振り向かずに閉めて、大きく息を吐きその場で体育座りをした。
「………朝から上条さんは幸せです。ですが状況は不幸です」
 それからしばらく落ち着くまでの間、上条はその場で体育座りし続けたのだった。その理由に関してはご察しください。


 シャワーを浴び終えると上条は用意しておいた制服に着て、歯を磨いた。
 それら、朝の準備が終わった上条は階段を上がっていき、もう一度自室に戻った。そこでカバンや携帯など身の回りに必要なものを持って上条は部屋を後にする。そのまま階段を降りて(今回は不幸はなし)居間へとドアを開けると、朝ごはんのいい匂いがした。
「ん? ちょうどよかった。お皿の準備、してくれないかしら」
 声の方向であるキッチンにいたのは、上条と同じ高校の制服姿の御坂美琴の姿であった。先ほどまでのサービス姿がないことに上条は安心感を覚えるが、制服姿の美琴の姿に今度は別の関心を寄せた。
 実は美琴の高校生での制服姿を見るのは今回がはじめてであった。一応、美琴は寸法を測るときなどに制服を何回か着ていたようだが、ちょうどその時は『外』に行ってしまっていたため、上条は立ち会えなかった。なので今日この瞬間が、上条が初めて美琴の制服姿を見た瞬間でもあり、美琴が上条に制服姿を見せた初めての瞬間であった。
「やべえ、抱きしめたいほど似合ってる」
「ッ!!?? い、いきなり何言ってるのよ馬鹿ッ!!!」
 見た感想をそのまま口に出してしまった上条は、あ、やべえと赤面した。対する美琴はそっか…と言って黙り込んでしまう。
「………あのー御坂…さん?」
「………名前」
「名前………あ」
 さっきからずっと、と明らかに不機嫌に上条を睨む。上条は美琴に言われて前の呼び方で呼んでいたことに気づき悪いと謝った。
「絶対ってわけじゃないけどさ、この家ぐらいはちゃんと名前で呼んでよ」
「ああ、ごめん。つい癖で」
 上条はまだ御坂と呼んだりアンタと呼ばれたりしている。だが単にこれはまだ名前で呼び合うのが定着していなかったことと他の人の前で名前を呼び合うのになれていないだけだ。
 なので二人はこの家ではお互いに名前で呼び合うように意識している。それはこの家に来て二人が決めた簡単な約束、決まりごとだ。なので上条は当麻(とアンタ)と美琴は美琴と呼ばれているのがこの家での普通だった。
 なので好きな人に名前で呼ばれることが好きな美琴からすれば、この家で御坂と呼ばれるのはちょっぴり悲しい。この話は美琴の独り言のわがままだったと以前、美琴がそんなことを言っていたことを思い出して、心の底から申し訳ないと思った。
 わがままとはいえ恋人である美琴が願ったことだ。やはり彼女の笑顔が見たい上条からすれば、そんなわがままな願いでもかなえたいと思うのも彼氏としての勤めだと思っていたので、美琴には言わずに一人でこっそりと聞いてやろうと思っていた。だがそんなお願いをあっさり破ってしまったことは、自己満足とはいえ上条からすれば後悔すべきことであった。
「私はまだ御坂美琴だけどさ、いずれは上条の名になるんだからこの家ぐらいは名前で呼んでよねって前に言ったじゃない。ま、無理にとは言わないけど」
「悪い。やっぱりまだ意識しないとダメみたいだ」
「あっ……ううん。責めてるんじゃなくて、そのお願いだから気にしないで」
 申し訳ないと思いすぎた上条の表情に気を悪くした美琴は、暗い表情で言い直した。そんな暗い顔の美琴の表情を見た上条は、またつい美琴を抱き寄せてしまった。
 小さな身体といい匂いのする髪の毛の匂い、少し驚いた顔。美琴の一つ一つの仕草を見た上条はあることに気づいて小さく笑ってしまった。
「何笑ってるのよ、ばか当麻」
「別に美琴を見て笑ったんじゃねえよ。ただ、気づいちまっただけだよ」
「気づいたって…何によ?」
 腕の中で上条を見上げてくる美琴が、どうしようもなく愛しい。
 まだこの家に引っ越してきた時間はそれなりに経ったがすごした時間はまだ少ない。それどころか、まだ付き合い始めてやっと一ヶ月のあたりだというのに、今は誰よりもこの手の中にある現実(みこと)を手放したくない。
 上条はこの気持ちを知っている。しかし気づいてみるとそれをどのような言葉で表現すればいいのかわからない。例えるなら、言葉が何語でどんな場面で使うのかわかっているのだが、明確な意味をよく理解できていないような曖昧な気持ちだった。
 だから上条は精一杯考えるのではなく、思ったことを単純に口にすればいいと思い美琴の身体をぎゅっと抱きしめた。
「美琴と付き合う前は誰かを救うことばかり考えてたけど、今それと美琴がいないとダメになっちまったみたいだ」
「なっ!!!??? なにらしくないことを言ってるのよ!!! 当麻、帰って来て全然別人みたいに」
「やっぱ、らしくないか。一応これでもいい彼氏になる勉強をしてたんだけどな」
 勉強? と何を言っているのとキョトンとした表情がまたさらに可愛く思えて、もっと力強く抱きしめたいと思った。しかしこれ以上は美琴の身体が壊れてしまいそうな気がしたので、逆に力を緩めていきなり暴発しても大丈夫なようにした。
 そして、ちょっとなと言ってその話題からは離れようとした。いくら上条でもこの話題は色々と問題があったり恥ずかしかったり、美琴に怒られそうだったので話したくなかった。
「それより、美琴こそさっきの格好をするなんてどうしたんだよ? いつもならあんなこと絶対しなかったし、昨日の夜も含めて『外』帰って来てからずっと積極的じゃないか」
「ああー!!! うるさい言うな言うな!!! その話はおしまい!!!!」
「なんだよそれ。言ってくれたっていいじゃねえかよ!」
「だったら当麻も勉強のこと言ってよ! そしたら私も言うから!!」
 それを言われてしまっては上条もどう答えればいいか躊躇した。
 はっきり言うと、美琴が積極的な理由を聞けるが自分も言わなくてはいけない地獄でもある提案だった。頷けばなんとかなり、頷かないと死ぬ。。
 睨んでくる美琴を見て、上条は自分の意見とその後の祭りを相談してゆっくりと頷いた。この先は天国か地獄か、ではなく地獄よりもさらに怖いなと思いながらこの先に起こりそうな不幸にため息をつくしかなかった。


 少し早めの朝食を済まし二人で皿を洗った。それと美琴の身支度を終えるとカバンを持って上条と美琴は鍵を閉めて家を出た。
 そしてこの瞬間から二人は家にいた頃よりも大人しめの恋人同士へと変化した。
 単純な話、家の中では二人の愛の巣(テリトリー)であるが家の外ではそのような空間は存在しない。気を抜けば友人に会う可能性もあり、他人の目もやはり気になる。二人きりの時は存分に甘えたり甘えさせたりできるが、まだ外に出ている時にそれらを発揮できるほどの耐性はお互い持ち合わせていない。
 そのため、外では相変わらず初々しいカップルになってしまう二人であった。そしてそんなことにも気づけずに、二人は密着していそうだがくっ付いていない微妙な距離を開けて学校へと歩き始めた。
 初めて二人で通る通学路。過去に美琴が思い描いていた理想の夢が、今現実になっている。本来ならここは喜ぶべきことであったが、さきほどの提案のこともあって今はそんな余裕など一切ない。
「んで、御坂。どっちから言えばいいんだ?」
「当然、アンタからよ。話を出したのはアンタが最初なんだったし、私はまだ言うのが恥ずかしい」
「それは上条さんも同じなんですけど、はいわかりました口答えしてすいません」
 美琴は睨みながら右手に青い輝きを発する。どう考えても上条への脅しであった。
 幻想殺しをもってしても、電撃は怖いし危険である。不本意だが上条は脅しに屈して先に言うことにした。
「一応確認ですが、上条さんが言えばいいのは何を勉強したか、ですよね?」
「そうよ。美琴さんと離れている間に何をしていたか、洗いざらい話なさい。それと嘘はダメよ、嘘は」
 今度は左手に青い輝きを発しながら笑った。しかし目はどう考えても笑っておらず、嘘だと気づかれたら焦げた体の出来上がり、になりそうな予感がした。元々誤魔化すつもりはないが、念のために聞いておいてよかったと思った上条は小さな安堵の息を吐いた。
「それで勉強の話か。単純な話、『いい彼氏のなり方』って本があったからそれを何冊か読んで勉強しただけだけど………えっと、言わないとだめでせうか?」
「当然よ。アンタがそれだけであんなに変貌するわけないでしょ」
「はぁー、わかりましたよー。それでその本を読んでたところを土御門に見つかって、実践してみようってことになって」
 そこまで言って、美琴の目がどんどん怒っているように見えてきた。いや怒っているんですね、と上条はびくびくとしながらこれを言い終えたら電撃をもらいそうだったので右手を胸の辺りに置いた。
「それでインデックスや五和に」
「シネ!!! この浮気者!!!!」
 言い終える前に美琴の特製の雷撃の槍が上条目がかけて降り注いできた。
 何度も経験しているとはいえ一歩間違えたら死のこの状況をゲーム感覚で楽しめるわけもなく、ぎゃあああと叫びながら雷撃の槍を右手で確実に殺していく。わかっていたこととはいえ、一瞬で命を奪う雷撃の槍を打ち消すなんてめちゃくちゃなことをしなければいけない状況はどう考えても非日常的であるがこれも日常の一つだ。もっとも、これは自業自得なんだが。
「それじゃあアンタは、抱きしめるのも耳元で囁くのもキスをするのも他の女で練習したって言うの!!??」
「キスだけは違う!! それ以外はあってるけどキスだけは、ぎゃあああーーー!!!」
「私と言う彼女をほったらかしにして、他の女にそんなことをするなんてどんな神経をしてるのよ!!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!! 死ぬ!!! 今回は冗談抜きで死ぬって!!!!」
 どこの紛争地帯の銃撃戦だ、と心の底で思うほどの雷撃の槍の嵐。上条はかつてないほどの命の危険を感じながらも、なんとか美琴の肩に触れるとそのまま抱き寄せた。
「はぁ…はぁ…はぁ…冗談、きついって」
「何が冗談よ、馬鹿。いくらなんでも最低よ、アンタ」
 美琴の声は意外にも沈んでいて目からは少しばかり涙が出ていた。上条はごめんというと額に優しくキスをして涙を拭った。
 あの時は仕方なかった、と以前の上条ならば言っていたが今はそんな言い訳を言うつもりはない。『外』でつい目に留まった本を読んで、それが土御門にばれて、練習してみろと言われて断りきれなかったのは自分のミスだ。あの時、もっとちゃんと断れば彼女を裏切ることはなかったのにと上条は遅すぎる後悔をしながら、優しく美琴の頭を撫でた。
 そして上条は美琴のことをまったく思ってなかったなと思うと、刺された胸の痛みが襲い掛かってくる。上条はその痛みを素直に受けながら、もう一度ごめんと言うと美琴に唇を優しく奪った。
「………いいわよ。私がアンタに信頼されてなかったって証拠だし、悪気があってやったんじゃなくて私のために思ってやっていたことだって、わかったから」
「……ごめん。それでも、ごめん」
 そういって上条はもう一度美琴の唇を奪う。だが、今度は少しばかり違った方法を取った。
「ッ???!!! んんんっ???!!!!」
 上条は唇を合わせると、そのまま美琴の唇を口の中に吸い込んだ。ぎゅっと圧迫される口内に入っている美琴の唇は心なしか甘い味がする。
 まだ舌をつかっていないからいいかと一定のラインを超えていないことをいいことに、上条はそのまま美琴の唇を味わう。
「んんっ!!! ッ!!!! ダメ!!!!」
 だが十秒したあたりで美琴は上条を押し返し、唇を解放させた。
「もう!! 時と場合を考えるって言ったじゃない!!!!」
「まさか……アウト?」
「アウトに決まってるじゃない!!! 私をその気にさせるつもり!?」
「へ……?」
(ソノキトハナンデスカ?)
 さりげない美琴の発言に、上条は思考が凍りついた。
 それに気づいていない美琴は顔を赤くしながら涙目で上条をにらんでいた。しかし美琴が睨んでいる気かもしれないが、上条からすれば睨んでいるようには見えず可愛くみえてしまう罠であったのだが、凍り付いていた思考はそんなことに気づくこともなかった。
「えっと……その気、とは?」
「え……??? あ……ッ!!!??? 私に何を言わせるのよ、馬鹿!!!!」
 自分が何を言ったかを思い出した美琴は、また雷撃の槍を上条に向かって放ち始めようとしたが、放つ寸前に肩に触れ形を織りなしていた雷撃は花火のように消え去った。それを見た上条はふぅと安堵し、美琴はトマトのように真っ赤になって上条を睨んだ。
「全部アンタのせいよ馬鹿。馬鹿馬鹿馬鹿、大馬鹿彼氏」
「すでに上条さんは何度も馬鹿と言われて傷ついているので、そろそろやめて欲しいのが本音です」
「だったら変な話も変なキスもしないでよ! ここは家の外なんだから、それ相応の付き合いってものがあるでしょう!?」
(御坂がそれを言いますか……)
「何か文句でもあるの?」
「ありません」
 いかがわしいことを思ったが、美琴に睨まれたので言わずにないと答えた。そうと信用していない目で言われたがそれ以上は言わず、美琴は黙って先に行こうとした。
(ひとまず回避できたけど……あ、そうだ。御坂の方を聞いてなかったな)
「それで、御坂はどうしてあんなに積極的だったんだ?」
 言われて美琴はぴたっと止まった。すると目を泳がせながら、なんこととしらばっくれた。
「おいてめえ。まさか俺にだけ言わせて逃げようとしてたんじゃないよな?」
「そ、そんなわけないでしょう。私が逃げるなんて、ね」
 目を逸らしながら、言われてもまったく説得力がない。何かを誤魔かそうとしている美琴の手を上条は右手で握ると美琴の横に並んで笑った。
「それじゃあ話せよ。約束だろう?」
「や、約束ね。そ、そうよね。でもなんで手を」
「恋人なんだから手を繋ぐのが普通って前に言わなかったか? 俺はそれに従っただけだが、何かおかしかったか?」
 そういって笑うと、美琴もおかしくないわと引きつって笑った。見ていた上条は、逃げる気だったかと逃がさないように手をぎょっと握った。
「それで、美琴さんはどうして積極的だったんですか?」
「うっ………そ、それは…その」
 相変わらず目を合わせようとしない。言いたくないのか、それとも別に何かあるのか疑問に思ったが、美琴は諦めたのかため息をついて上条の手を握り返した。
「私も、土御門よ」
「……土御門? って義妹の舞夏でいいんだよな?」
「そうよ。その土御門であってるわ」
 土御門舞夏とは、引越しの時以前からの付き合いでもある。男子寮でも世話になっていたし、週に一度あの家の掃除けん遊びにも来てくれる。だから上条と美琴からすれば使用人に近い存在でもあった。
 その土御門の名前が出たことに上条は困惑はしなかったものの、美琴と何をしたのかは想像が出来なかった。
「悪い御坂。上条さんには土御門が何をしたのか想像できない」
「ま、当然よね。私と土御門の付き合いなんて知らないんだし、その時は『外』に行ってた頃だしね」
 そうなると上条と美琴はほとんど同じ時期に何かしらのことをしたことになる。
 何故だろうか、上条はこの偶然が必然のように思えてきた。そしてこれは陰謀ではないと信じたくなったが、今の上条と美琴にはこの偶然が陰謀かもわからなかった。
「それで私は土御門から男が喜ぶことを教えてもらったのよ。何をすれば喜ぶのか、何を着れば見てくれるのか、何をしていけば振り向いてくれるのか、告白とはちょっと違ったことをたくさん教わったわ」
「それで……男性の夢であったあの格好にですか?」
「…………………つ、土御門の案よ。アンタがそういうことにも憧れてるって聞いたって言われたのよ」
 上条が思うにそれは出鱈目だ。
 それをして欲しいのは兄である元春の方だろう。そんな兄の願いを上条の願いに変えたのはどうかと思ったが、予想以上の威力であったので許すことにした。
 一応、不謹慎なことを毎日のようにしている上条であるが、そういったサプライズも男である上条からすれば喜ばしいことであった。それが自分の恋人である美琴の行うことだとその喜びは何倍にも膨れ上がるし、行うのは家の中なので自分には多分大きなリスクはないだろう。
「ま、細かいことはいいか。それはのちのちわかりそうだし、話すよりも実際に見たほうが早いからな」
「百聞は一見にしかず、ね。だけどお互い様よね」
「まあな。偶然じゃないように思えるけど、そのあたりは時間もあることだし焦らずに行きたいもんだな。でも今度はお互いに、な」
 誘うように笑うと、美琴はそうねと頷いた。
 自分たちがどれだけ相手のことを喜ばせたいと、些細な会話の中で上条は知った。だから今度は知った上で、お互いをお互いに喜ばせるために少しずつ様々なことをしていこうと思った。
 そしてそれは家の中だけでなく、家の外でも人の前でも出来るようになって、自分たちの幸せな姿を恥ずかしがることなく自慢したい。
「俺には御坂を信頼しきれなかった責任もある。だから今度は御坂自身が協力して欲しいんだけど、ダメか?」
「そんなこと、言わなくてもわかるでしょ。それに私も同じよ」
 上条は繋がれた手の感触を確かめながら、美琴に笑いかけた。美琴は笑いかけられ、それの答えに笑って答えてみせた。
 まだ外では初々しいが繋がれた手の幸せをかみ締めながら、上条は入学式会場になっているとある高校へと美琴と共に歩いていく。
 だが二人はまだ知らない。
 入学式で待つ大きな事件(サプライズ)を………。

<後編>
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2010/03/21 11:31 | fortissimo

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