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2025/05/15 04:44 |
本当に大切なこと 1
最初は拍手ssの目的で書き始めたんですが予想以上に長くなってしまい、書いていくうちに『これ、面白いかも』と思ったので、普通にアップ。
某掲示板に投稿しようと思ったら、アクセスできない…だと?私のPC、変なとこで使えんよ(涙)投稿できなかったことは悔やみきれませんorz



 第七学区のとある病院の一室。真っ暗な闇の中にはベットに眠る少年と近くによりそう少女が見える。時刻はもう日付が変わる辺りまで来ているが少女は帰ろうとせずに少年だけを見ていた。
 この病室はある少年がよく使用するため、すでに彼専用の一室のようになっている。そのため、この病室には二人だけしか存在しなかった。
 だが、少女からしてみると邪魔が入らず迷惑もかからないため好都合であった。
「アンタ……一体いつまで寝ているつもりなのよ」
 少女の服装はあの有名な常盤台中学の制服だった。季節的に衣替えに入っていたため、夏服から冬服・ベージュのブレザーに紺系チェック柄のスカートを試着していた。
 冬服は見事にあっていたため、知らぬ人から見ても十分に魅力的で他の中学生とは比べ物にならないようなものを持っているようにも思えてしまう。
 しかし、少女の顔は今にも泣き出してもおかしくないほど儚かった。まるで迷子になった子猫のように…何をすればいいのかもはっきりしておらず、一人悲しそうな表情を必死に抑えていた。
「もう一ヶ月よ一ヶ月。十分寝たんだからいい加減におきてもいいんじゃないの?」
 少女の問いにベットで眠る少年は何も反応しない。ただただ個室の中に虚しい音だけを響かせただけだ。
「どれだけの人を心配させれば気が済むのよ。みんな、みんな、アンタを必要としてるのよ?わかってるの?」
 震えた声を隠すことが出来なくなってきた。少女は唇を噛んで、自分を奮い立たせた。
「いい加減にしなさいよ。どれだけ苦しませれば気が済むのよ。アンタは満足かもしれないけど、みんな迷惑してるのよ。アンタ、本当に自覚があるの?」
 自分は今、何を言っているのか少女はわからなくなっていた。
 嘆き?文句?告白?それとも……。
「誰もが笑って誰もが望む、最高に幸福な終わりなんて嘘っぱちよ。アンタ、絶対にわかってないわ」
 少女はそこまで言って、自分の身体を抱きしめて搾り出すように言った。
「上条当麻が欠けているのにそんな終わり方を望むなんて出来るわけないじゃない」
 言い終わって、彼女は顔を伏せた。涙は…止められなかった。



 上条当麻が眠りについて早一ヶ月が経過していた。
 何故こうなったのか、簡単に説明をしておこう。
 上条当麻はその日、補習で下校途中だった。夕暮れに染まる空を見上げながら「不幸だー」と呟いていた時…

 上条当麻は吹き飛ばされた。

 彼は何が起きたかを理解するのに数十秒かかったが、相手はそんなこと時間すらも待たせてくれなかった。次々と飛んでくる何かを回避しながら、飛ばされた衝撃でボロボロになった身体でその相手と対峙した。
 結論から言うと相手は幻想殺し(イマジンブレイカー)を危険視した魔術師だった。
 上条は最初は驚きはしたが、退治した相手が魔術師で目的が自分であると理解した時には驚きよりも冷静であった。魔術師との戦いは何度も経験してきたし、自分の持つ幻想殺しが魔術師にとっては面倒な存在であることも自覚していた。だから上条は冷静に相手は敵と判断して、戦闘を始めた。
 相手の能力名は不明であったが、空気上にある何かを爆発させて相手を攻撃する魔術だったとその場で判断できた。無口な魔術師は多くを語らなかったため最後までどんな魔術かは理解できなかったが、接近したい上条からしてみれば相性の悪さは言うまでもなかった。さらに相手の魔術は識別するのが難しかったため、幻想殺しも扱いにくく苦戦を強いられた。
 その戦闘の最中、途中で乱入してきた人物がいた。それが風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子とレベル5の第三位、御坂美琴だった。
 考えてみれば、学園都市で魔術師が暴れているという現状を風紀委員が放っておくはずはなく、魔術師の前例に『シェリー=クロムウェル』が学園都市にやって来たときの反省を生かした結論であった。
 相手は詳しい能力もわからない魔術師。対してこちらは空間移動(テレポート)と超電磁砲(レールガン)、幻想殺し(イマジンブレイカー)と一対三。魔術師に勝ち目はなかった。
 しかし魔術師の目的は上条当麻、彼さえなんとかすれば魔術師はこの戦いに勝利できた。だから魔術師は”攻撃し続けた”。
 幻想殺しは万能の能力ではない。空気を武器とする相手はアステカの魔術師『トラウィスカルバンテクウトリの槍』よりもたちが悪く、今この距離は遠すぎず近すぎずの微妙な距離。上条が走りこめば接近するのも容易であったし離れようと思えば離れられる距離だ。
 ゆえに接近すれば、多少は勝ち目がある戦いであると上条は判断したのだがこれが間違いであったと気づくのはまだ先の話であった。


「白井、あの魔術師の背後に回りこむのって出来るか?」
「ええ。この距離なら細かな計算も必要ありませんし、体内に針だって―――?」
 白井は言葉の途中である変化に気づいた。そしてそれは上条、美琴の二人にも気づくほどの変化だった。
「霧……?」
 空気。大気を味方につける魔術師からしてみれば霧を発生させるのは応用と言うよりも基本の一つのようなものであった。霧は大気中の水蒸気が集まって細かな水滴となり、地表や水面近くで煙のようにたちこめるものだ。”大気の変化”が魔術の特性であったため、大気を変化させることは魔術師には弾丸を変えた銃を撃つのと同じようなものであった。
「まずいですわ。霧が深くなっては空間移動は逆に危険ですわ」
 黒子は忌々しそうに吐き捨てた。
 接近すれば魔術と言えど隙が生まれる。そこを利用すれば…と思った矢先にこの霧だ。自分が近づかれることを想定する前に近づけさせない魔術を使うことで近づかれる可能性を減らした。逆に言えば、近づくことを恐れた魔術であるとも解釈できる。どちらにせよ、この霧はこちら側が不利になるだけであった。
「残念ながらこの状況下で戦わなくてはいけないようですわね。私の能力もお姉さまの能力も、霧をどうにかできるほど器用なことが出来る能力ではありませんし、下手をすればやられる可能性も拭えませんわ」
「お手上げ、か。ケンカならともかく相手の能力が有利になる環境ってのは私も苦手だし、超電磁砲は電気を使う。下手をすれば電気を利用されて自爆する可能性すらありうるわ」
「そうなると二人の能力も制限されるな。あいにく俺もあいつとは相性が悪い」
 三人は魔術師を睨みつけながら、濃くなっていく霧になす術がなかった。
「もしかしてあのお方の能力って…」
「多分、大気中の水素を利用したものじゃない?そう考えれば、爆発もこの霧も説明がつくわ」
 水素を利用した攻撃ならばその利用の仕方は多種多様。攻めにも守りにも扱うことが出来る。
 攻めの爆発は水蒸気爆発を利用したものなら、守りの霧は水素を水蒸気に変化させたものだ。科学上でも水素は様々なものに扱われている。魔術師の戦いは、どこか科学に近いものを感じたが今はそんな疑問を解決しているような暇はなかった。
「こうなると意地でも接近しないといけない……?」
 魔術師は静かに手を上げた。それを見ていた上条は瞬間、背筋が凍るほどの旋律を覚えた。
(霧を生み出して、水素を生み出した。なら、今のこの状況は…)
 そして、気づいた。霧は目くらましではない。
 今この状態は相手からして見れば、火薬の導火線に火をつけるかどうか…つまり。
「御坂!!白井!!今すぐここから逃げろーーーーー!!!」
 今自分たちは爆心地になる予定の位置にいた。
 しかし、気づくのが遅すぎた三人は魔術師の邪悪な笑みを最後に意識を飛ばした。


 御坂美琴が目を覚ました時には、辺りは暗闇に包まれていた。
 目の前に広がるのは真っ白な天井、鼻につくのは消毒液のにおい、隣に寝ているのは同僚の白井黒子。自分が何でここにいるのか、しばらく時間がかかった。
 ゆっくりとだが何があったか思い出せてきたとき、カエル顔の医師(リアルゲコ太)が部屋に入ってきた。
 そして、何があったかゆっくりと説明してくれた。
 結果から言うと、魔術師との戦いは敗北した。相性の悪さが響いた結果が招いただったが、それでも美琴は負けた悔しさを拭いきれず唇を強く噛んだ。
 その後、魔術師はかけつけた警備員(アンチスキル)によって退き今は行方を捜している。だが魔術師にとってここは敵地。見つかるのも時間の問題であるし、上条当麻が襲われたとなればその仲間が何もするわけはない。
 美琴もその一人だが、怪我をしていた身であった自分は足手まといだった。
(こんな時だって言うのに、足を引っ張るなって)
 レベル5でありながら何も出来ない自分、上条のために役に立ちたかったというのに、肝心な場所で役に立てないのは彼女には屈辱だった。
 しかし、屈辱もすぐに絶望に変わった。彼女が上条当麻の昏睡を知った時に……。



 この一ヶ月で御坂美琴の生活は一変した。
 学校に行くまでは普段どおり。しかし授業はおろか、休み時間でさえも彼女はぼっとしていた。事情を知っているものは少数であったため、知らないものは近寄るべからずと用がない限りは美琴に話しかけなかった。
 授業はと言うと右から入って左に受け流している。授業など頭に入るわけもなかった。指名されても美琴は指名されていることすら聞こえず、教師たちからは幻滅したような声も聞こえるが美琴はどうでも良かった。
 美琴は授業が終わるとすぐに、上条当麻が眠る病院へと足を運ぶ。
 妹達の件で美琴はこの病院の関係者同然になっていたため、手続きもいらずすぐに上条の病室に赴くことが出来た。
 まず美琴が来て最初に行うのは、上条の部屋の周りを見渡すことだ。上条は友人がとても多く、自分が来る前に誰かが来て見舞いに来ていることが多い。インデックス・子萌・妹達など様々な人が来ている。その中には、一方通行やステイルたちも含まれている。彼らが望むのは、上条当麻の復活。だが上条は今日も起きていなかった。
 美琴は起きていないことに、ショックを受ける。毎回来るたびに、起きていればと願っているがまだ一度も起きていない。願う側としては願いが叶っていないことは、何度来ても慣れない苦痛であった。
「…………」
 静かに上条の横にあった椅子に座った。上条のお見舞いのたびに来て座るこの椅子が、今は一番心地が良かった。
 美琴は上条の手を取って、優しく両手で包み込んで話しかけた。
「ねぇ、なんでアンタは眠ってるの?」
 上条は反応せず、一定のリズムを保った呼吸だけが病室を包んでいた。
「一ヶ月も過ぎてもまだ目覚めない。アンタの怪我は治ってるはずなのに、なんで起きないのかな」
 包帯はすでに外され、見た目は静かに眠っているだけのように見える。心地よさそうな表情はしていないが事情を知らないものはただ寝ているだけにしか見えないほどではあるが、知るものからしてみると寝ている現実から目を背けたかった。
「脳にも損傷もないし魔術、だっけ?あのインデックスって子もないって言ってた。だったら、起きてもいいじゃない」
「…………」
「もう一度聞く。なんでアンタは寝てるの。なんでアンタは起きないの。なんで、アンタは……」
「…………」
 上条は何も答えない。人形のようにスヤスヤ眠っているだけで、動くことも話すこともしない。
 しかし、御坂美琴は………限界だった。
「アンタは…いろんな人を助けたのよ!命を救った!手を伸ばしてくれた!救ってくれた恩人なのよ!だって、言うのに……」
「…………」

「なんでアンタが私たちを苦しめなくちゃいけないのよッ!!!」

 美琴は叫んだ。それでも、上条は何も反応しない。
「アンタはここで笑っていいって私に言ってくれた。だから私は今まで笑ってこれたのよ。なのに……なのに……なんでアンタがそれを奪うの!なんで!なんで!」
どんなに泣き叫ぼうが、涙を流そうが、想おうが、上条は起きない。
「なんで……アンタだけ満足してるのよ!アンタがいなくちゃ、誰も……救われないじゃない!!」
 美琴は……心が折れる瀬戸際に来ている。
 何も反応してくれない。死んだように眠り続け、みんなを苦しめている。
 それだけではない。上条は爆発瞬間、美琴と黒子を守るために覆いかぶさって盾になった。責任感の強い美琴はそれがショックで、半日放心状態にさえなった。同じく黒子も大きなショックを受け、今もなおそれを引きずっている。
 そして、美琴が折れそうな一番の原因は……
「私はアンタの力になるって誓った!一緒にいるって誓ったの!……なのに……なのに……」
 上条当麻は御坂美琴にとって、すでに心の一部になっていた。今だけは御坂美琴にはその事実が重荷であった。

その2
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2010/02/18 22:56 | 禁書

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