長い話やオリジナルの設定が加わると矛盾が発生しやすくなりますが、それを補うのも自分の力量。
でも、美琴がヤンデレ化しつつあるのはちょっと複雑です(汗)
だけど……好きになりすぎたら、こうなりそうだ(滝汗)
でも、美琴がヤンデレ化しつつあるのはちょっと複雑です(汗)
だけど……好きになりすぎたら、こうなりそうだ(滝汗)
実は上条当麻は意識があった。
それも怪我をして入院をしている一ヶ月前からずっと、今美琴が叫んだことまで上条は聞こえていた。
だが、今の彼は意識があることを殺すほどの勢いで嫌っていた。
「魔術師。いつまで俺をこんな場所に閉じ込めておくつもりだ」
上条は少し離れた場所に座っている魔術師を睨みつけた。
見た目はステイルよりも年上で黒い長ティーシャツと色落ちした黒のジーパン。胡坐をかきながら、ときおりこちらに目を向けながら魔術師は本を読んでいる。その横には何十冊の本が積み上げられており、かなりの時間ここで本を読んでいたことが伺えた。
この一ヶ月、魔術師はあの場所で座り本を読み続けている。時折姿を消すがその間はあまり長くなく、ほとんど二十四時間、生活を共にしているような気分だ。
「お前の目的は俺の命だったはず。だったらなんで俺を閉じ込めたままでいる。今の俺を殺すのなんてお前には造作もないことだろう」
今の上条当麻はさながら縛り付けられた天使のようだ。
身体中には鎖が縛り付けられ動くのは顔だけ。どこからか伸びているかわからない鎖は右手、幻想殺しにも触れている。右手が効かないということは、鎖は魔術や科学のものではないと予想できた。
この状態の上条に出来ることは、目の前の魔術師に話すことと無駄にあがくこと。そして、自分に問いかけている人たちの言葉を聞くことだった。
「一ヶ月間、なんにも話してねえだろう。いい加減に話せよ」
捕まっている一ヶ月間、魔術師は一切の言葉を語ろうとしない。無口なのか、それともそれも策なのかはこの際、どうでもいい。
話せるか話せないか、どっちなのかを今は上条は知りたかった。それを知ることで会話が始めて成立し、安心感を得るからだ。
(幻想殺し(イマジンブレイカー))
突然、頭の中で声が響いた。上条は目の前の魔術師を再度睨みつけると、魔術師は無表情に上条を見つめ返してきた。
(すでに一ヶ月。私の拷問はどうだ?)
「ふざけやがって!お前の拷問は、御坂たちの言葉を聞くことだとでもいいたいのか??!!」
今ありえそうな拷問はそれぐらいだ。ずっと動けないことは苦でもなくましや相手は何も離さない。それだけなら、ストレスが溜まるぐらいで済む。
しかし、聞くことは別だ。
(すでに心は決壊寸前であろう。声や表情でバレバレだぞ)
「ッ??!!」
(痛みや苦痛はこの場所では意味がない。しかし、精神的ダメージはこの世界もあちらの世界もリンクしている。さらには、精神的ダメージは肉体よりも苦痛であろう?)
上条は唇をかみ締めるしかなかった。
魔術師の言うことは完全な正論だ。たくさんの死線を潜り抜けてきた上条からしてみれば、痛みや苦痛は慣れたも同然(もっとも嫌いでなるべくなら体験したくないことなのは変わらない)。痛みを伴う拷問なら、人より多少耐え切る自信はあった。
だが精神は別だ。今まで味わったことのない攻撃は上条にはかなりの苦痛だ。一言が、不良にボコされたときよりも痛い時があるほどに凶悪な威力であった。
上条は、一ヶ月間その苦痛から耐え切った。しかし…一ヶ月。『一ヶ月』だけだ。
(限界が近いのではないか?最近、話すことが多くなったのを考えれば、それもそろそろか…?)
「なに…言ってやがる」
(一ヶ月間、耐えたことは褒めてやろう。正直半月で終わると思ったが、意外だったな。これも幻想殺しの力か?それとも上条当麻自身の力か?)
くっくっく、と憎たらしい声が頭に響く。魔術師なりに敵に誠意を見せたようだが、上条からしてみればいい迷惑だった。
魔術師はそれを気に留めてか(おっと、すまぬ)と謝罪をした。
「………」
(どうした?おかしなことを言ったか?)
敵である魔術師は、敵である上条当麻に謝ったという事実に上条は驚きを隠せずにいた。一方の魔術師は(何を焦っている)と冷静な声で問いかけてきた。
「俺とお前は敵同士のはずだ。なのに、敵の俺に謝るってどういうことだ」
(……もっともな質問だな。しかし、その質問にどんな意味がある?)
「意味……だと?」
(例えばなー)と魔術師は話を続けた。
(見知らぬ人間に多大な迷惑をかけたら、謝らなくていけないと思うだろう?例などは面倒だから省略するが、様々なかかわりを持ったお前には想像するのは容易だろう?
簡単に言えばそれと同じだ。私とお前は敵同士だが他人同士だ。だから不愉快にしたのであれば謝罪する。これで満足か、幻想殺し)
「……………」
(まあ、こんな場所に閉じ込めて拷問をけしかけた人物が言うことを信じるのは難しいだろうな。だから自由にして構わない)
魔術師の声も、まるで友人に話しかけるみたいに気軽であった。いや、上条を”友人”だと思っている口ぶりだった。
(少なくても、お前の心が壊れるまでの……ざっと数日かな。それまで話し相手として付き合ってやるよ。でも、彼女たちの”声”は聞かせ続けるよ)
そういうと、目の前の魔術師は初めて笑った。笑いなれているように見える微笑は、とても明るい印象として上条の頭に残った。
翌日、御坂美琴は学校を休んだ。
彼女の悲しみのラインはついに境界線上に立たされたのだ。
彼女は今、上条当麻の病室にいた。普段通りの制服、普段通りの個室、普段通りの姿。唯一違ったのは時間が朝だという点だけであった。
ここに来る途中に朝食を済ませた美琴は、すでに昼食も買い込んでいた。今日は、帰るまでこの場を動かないのが、彼女のスケジュールだった。当然、それに反対する人間は…いない。
「………当麻」
今日になって初めて目の前で名前を呼んだ。だというのに、声はあまりにも暗く悲しい。
本当なら、日常で呼んでみたかった。アンタや馬鹿などと言っているが、本当は名前で呼びたかった。
上条当麻。当麻…当麻……とうま。
美琴の心は上条当麻で満たされていた。だが大切な上条当麻がいまやあの状態。
カエル顔の医師は上条を見捨てるつもりはない。だが、今回は少しずつであるが諦めの色がついてきている。
科学側の主張は不明。魔術側も不明。では、何故目覚めないのか?
答えは誰も教えてくれなかった。
「ねえ、当麻。私…どうすればいいのかな?」
彼のことが本当に好きだったと振り返ると、悲しい思い出に思えてきた。いや、違う。彼女は今も彼が好きで、諦めきれない。
だから彼に問う。彼は自分を救ってくれた。どんな時でも駆けつけてくれた。”だから彼に問う”。
上条当麻の精神はそろそろ限界だった。
魔術師と一日中話し続けたが、彼の精神が回復することはなかった。その代わり、様々な情報を得た。
魔術師に名はない。彼は、正体不明(アンノウン)と名乗った。一方通行(アクセラレーター)のようなものだと上条は思ったので、魔術師は正体不明と呼んでいる。
正体不明の能力は、精神束縛(メンタルチェーン)と言う。その能力は詳細に語られなかったが、名前に関しては今の自分の状態を見て、納得出来た。
もう一つ、わかったことがあった。いや、これが一番重要だ。
正体不明は上条当麻を殺すつもりはなかった。彼が目的とするのは、幻想殺しを使えなくすることであった。
「精神を崩壊させれば、自分から幻想殺しを使わなくなる。でも、そうとは限らないぜ」
(嘘は言わないでください。お前の幻想殺しは人のために使っているのだろ?逆に言うと、精神を崩壊させてしまえば他人よりも自分のことで頭が一杯になるはずですよ、幻想殺し)
敬語を含みながらも、かすかだが気軽な雰囲気を含む声に上条は正体不明を睨んだ。
(精神を崩壊させたあとは知ったことじゃない。元に戻ろうが、壊れたままでいようが構いませんよ)
「……………」
わからない。
正体不明を一言で表すのであれば、今の言葉が適切だ。まるで、目的を持たない亡霊のように…何もかもが矛盾している。
殺すと言って襲ってきた魔術師は幻想殺しを使えなくすることが、本当の目的。だというのに、精神を崩壊させて幻想殺しを使えなくする。すでにこの時点で矛盾している。
何故、精神を崩壊させただけで幻想殺しが使えなくといえる?
何故、手っ取り早く殺そうとしない?
何故、一ヶ月間もこんな拷問をさせたのか?しかも、彼女たちの声を聞くだけで精神を崩壊なんてさせるか?
わからない……矛盾だらけでわからない。
「お前の目的は…なんなんだ」
上条は再度、問う。
(幻想殺しを使えなくすること。それが目的です)
魔術師は言葉の通りの返答を上条に返した。
時刻は昼を過ぎ、外では下校途中の小学生が仲良く帰っている光景が窓から見えた。
美琴は買い込んでおいたパンで少し遅めの昼食を取った。
「当麻と一緒に食べれれば、よかったんだけどなー」
なんだか哀れだなー、と美琴は苦笑いしながら一口一口味わう素振りを見せながら食べる。
本当は味なんてよくわからなかった。甘いものを甘いと感じられず、辛いものを辛いと感じられず、すっぱいものをすっぱいと感じられず、美味しいものを美味しいと感じられない。つまり、彼女は味がある”はず”のパンを無理にお腹に入れているだけだった。
一応、腹には溜まるので細かいことは気にしていないが、時折味を懐かしく感じてしまう自分が未練がましかった。
「当麻と食べた時、ドキドキして細かい味を覚えてなかったけど素直に美味しいと思えたんだけど、今はそれも懐かしいや」
崩壊した上条当麻(パーソナルリアリティ)を補うものがないと、自嘲気味に美琴は笑った。
目的をなくした彼女には、上条当麻の存在だけが重要になっている。
心の中で『帰ってくる』と願いながら、それをより信じ込ませたいがために今の彼女はここにいる。しかし、それに『目的』はない。あるのは『願うこと』だけだ。
「願うことしか出来ない…なんてね」
何をすればいいのだろうか、今はもうわからない。
過去、現在、未来。記憶の中にあるもの全てが上条の形成されている。そのたびに美琴はあることを実感するが、ここまで来てしまったら実感は迷うことのない確信へと変化していた。
「今言うのは卑怯かもしれない。それでも……言わせて」
上条の頬を手を置く。暖かいとまだ生きていることを実感できる頬から、勇気を与えてもらえるような気がした。
「私ね。アンタにずっと言いたいことがあったの。こんな場所でしか言えないのも情けないけど、アンタが悪いんだからね」
卑怯者、という単語が頭の中に浮かぶがそれを振り払って、美琴は息を吸った。
「すぅーはぁーすぅーはぁー。それじゃあ、言うわよ。
私はね―――」
その3
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