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2025/05/15 04:19 |
本当に大切なこと 4
戦闘シーンは割合気味。
小説ではよく読みのですが、いざ書くとなると酷い出来です。



 上条当麻はよくケンカをする。不幸体質ゆえに絡まれることが多く、フラグ体質ゆえに助ける時に戦ったりする。そのため、素手での殴り合いは人よりは出来る自信があった。
 だが目の前の魔術師は上条のケンカとはまったく違っていた。一発一発は重くはないが、とてもすばやい。質よりも量をとった先方だ。しかもあちらには型があるらしいが、武術に詳しくない上条にはそれは理解できなかった。
「っ……くっ」
 すばやいとなれば隙を見つけての攻撃はなかなか難しい。特に切り替えしが速いのは、喰らっている上条が一番理解できていた。
 自分の顔面に向けての拳は、避けられないので腕で顔を覆って守っている。致命傷は避けられても、別の部分からダメージは蓄積されていく。上条は動くことが出来ないこの状況をどうすればいいか考えた。
 一発が軽いのだから、ガードを崩し強引に行こうと最初は考えたが数を相手に強引に行くのは危ないと思い却下。足を出そうと思ったが、ガードが崩れるのでそれもやめた。ならばいっそタックルでもかまそうと思ったが、相手はフットワークを使っていることに気づくとそれも却下した。
「あなたと私とでは、鍛えた環境が違いますから、ね!」
「くっ…チクショウ!」
 上条は地面を蹴って、後ろに下がった。反射的に近い逃げであったが、その選択は正解だった。
「はぁ…はぁ……クソ」
 命に危険を感じる戦いではない。それでも、ダメージが蓄積していくのは危ない。ましてやここは相手の空間、上条に有利になる設定をされているわけがない。
 魔術師は愉快そうな笑みで、こちらに近づいてくる。あちらには余裕と言うものが存分にあった。
「当たらない戦いは苦痛でしょう?私は魔術師とも戦う身ですから、スピードに重点を置いたんです。攻めるのにも逃げるのにも使えますからね。それに、この空間に閉じ込めた時に逃げる相手を追いやすいというのもあります」
 ニヤリと笑うと魔術師は一気に上条の下へ走ってくる。
 逃げられないことは十分に理解していた。有利な立ち位置にいる相手が、逃げるのに有利な空間を作ったりはしない。上条は近づいてくる相手に、渾身の拳を当てることにした。
「おおぉォッ!!」
 近づいてくる相手に上条は右の拳で魔術師の顔を狙った。目で捉えきれる速さであったので、上条の狙いは十分正確であった。 
 だが、魔術師はわかっていたかのように、当たる寸前で動きを止め、上条が空ぶったその瞬間を見逃さなかった。
「ッ?!……かはぁっ…!!」
 空ぶった勢いを殺しきれなかった上条はからだのバランスを一瞬崩した。その時を狙って、魔術師は上条のわき腹を殴った。もろに喰らってしまったため、上条はそのまま倒れそうになったが踏ん張った。
「確かに一撃一撃が弱くとも、こうやって隙を狙えばそれなりのダメージにもなります」
 丁寧な解説をしながら、魔術師は隙だらけの上条の顔面を思いっきり殴りつけた。
「がはぁっ!!……ッ!」
 今度ももろに喰らってしまい、上条は何メートルか先に飛ばされた。しかも今の一撃で鼻の骨が折れてしまった。もっともこの空間では肉体的ダメージは現実に反映されないようなので、現実では無傷だがこの空間では痛みは確かにあった。
「あなたが頑丈なのは調べ済みです。なので、根気良く行くよりは、このような戦いの方があなたには有効でしょうね。もっとも、ここであなたを殺さなくても気絶さえすれば私の勝ちなのですが……」
「なん……だと……?」
「もっとも、この空間は私の領域(テリトリー)です。殴り合って勝たなければ、勝ちはありませんよ?」
 馬鹿にするように笑った魔術師は、もう一度上条との距離を詰めてきた。上条はもう一度、魔術師に向かって拳を放った。だが今回の一発目はフェイント。カウンターの寸前で本命の二発目叩き込む。……はずだった。
「なっ?!……がはぁ???!!!」
 魔術師は片手で上条の拳を掴むと、あろうことか上条を持ち上げ地面に向けて背中から叩き落したのだ。予想外の相手の攻撃に上条は混乱したが、それ以上に動けなくなるのは痛かった。
「面倒なので、これで終わりだ!!!」
 倒れた上条の腹に踵おとしを決め、止めとして魔術師は
(やべえっ!!!)
 上条の脳天に向けて踵を落としてきた。


 上条当麻はベットで寝ているままであったが、インデックスには上条と魔術師が何かを行っているのは予測できた。
 この予測できたというのは、インデックスは途中で上条とのリンクを外されてしまったからだ。なので、今ここにいるインデックスは上条の帰還を待つしかなかった。そして、その隣の少女も同様であった。
「ねえ、こいつは本当に大丈夫なの?」
「わからない。相手は魔術師なのはわかってるんだけど、厄介な分類だからね。とうまも魔術師もただの人だけど、殴り合いになったらどうなるか…わからない」
「……殴り合い…か。なんだか物騒ね」
「そういう魔術なの。だからここはとうまを信じて待つしかないよ」
 インデックスの言葉には上条に対しての本当の信頼があった。美琴はそんな彼女が羨ましいと思った。
 自分と上条にはそのような絆がなく、いつもいつも追い掛け回すだけ。良くても友人、悪くて知り合い程度の関係の自分を上条はどう見ているのだろうか、気になるところだ。
 少なくとも、インデックスには絶対に信頼を寄せているのだろう。だから、上条はいつも彼女と一緒にいて助けるんだろうなと、思うと悔しかった。
(結局、自業自得なのね)
 このような状況にたたされてやっと気づくなんてと、美琴は後悔する。そして、インデックスと自分とでは差があることを実感した。
(きっと…あいつが好きな相手って)
「あ!とう……ま?」
「え…??あ……」
 インデックスの声を聞いて、美琴は上条を見た。そこにいたのは、ベットから起きた上条当麻の姿だった。のだが、様子がおかしかった。
「………違う」
 え?と思った瞬間、インデックスは上条から離れた。そして、美琴も釣られるように一歩下がった。
(違う………あの子が言ったとおり、何か違う?!)
 美琴はポケットからコインを出し、『超電磁砲』をいつでも撃てるように構えた。一方のインデックスは、美琴の横に移動し、美琴の代わりに上条に問いかけた。
「あなたは……魔術師ね」
「……いかにも」
 上条当麻の皮を被った魔術師は笑って、答えた。それを聞いた二人は背筋が凍るような阿寒を感じた。
 危険な殺意を目の前の上条当麻から感じたのだ。それは自分たちに向けられたものだと知ると、足がすくみそうだった。
「あなたの魔術は、人の身体を行き渡るもの。だから、とうまの身体になんか憑いたら」
「もう魔術は使えないですね。ですが、右手の『幻想殺し』は残ります」
 くっくっくと笑う表情は上条のものとは思えないほど、歪んだ表情だった。そして、二人は魔術師を倒さなければならないと理解した。だが……
「出来るわけありませんよね?だからこそ、一ヶ月間待ったのですよ」
「一ヶ月……って、どういう」
「あなたが一ヶ月間付き添ってくれたおかげでここは私たち三人しかいません。つまり」
 上条…いや、魔術師はベットから降りて床に立つと、歪んだ笑みで二人を見比べて言った。
「あなたたち二人が助けを呼ばなければ、誰もこないと言うことですよ!」
 というと魔術師は拳を握って二人に向かっていった。


 美琴は自分に向けられた殺意に対して反射的に『超電磁砲』を撃った。威力としては不十分であるが、人一人を死なない程度の威力は十分に持っていた。
 目の前にいる敵は魔術師とは、身体は上条当麻。敵を倒すといっても肉体を破壊してしまってはいけないのは、無意識に理解していたので美琴の判断は正確だった。

 もっとも、相手が"ただの能力者"であればの話であるが。

「ッ?!右手で…!」
 防がれた右手により『超電磁砲』は威力なくした。『幻想殺し』、上条が持っている能力はまだ健在だったことを、理解した時にはすでに遅かった。
「くっ……かはっ?!」
 魔術師は隙を突いて、美琴を横に蹴り飛ばした。とっさに腕で防いだが、威力は殺しきれなかった美琴の身体は壁に飛ばされた。
 背中を叩きつけられ、久々に痛みを感じたと実感したのもつかの間、隣にいたインデックスも同じように美琴の横に蹴り飛ばされていたのだ。
「この病院は防音をしているようですね。暴れすぎなければ、問題ではなさそうですね」
 会話をしながら、魔術師はゆっくりと倒れた二人に近づいてくる。上条の皮を被ったといっても、身体能力は上条自身のもの。インデックスはそれを理解していたため、自分の力ではどうすることも出来なかった。
 インデックスは、ある疑問を抱いていた。しかしそれは相手が答えてくれるとは思えない。でも、今の相手と自分たちの差は絶望的。なら…。
「とうまは…まだ『生きてる』んだね」
「気絶させただけです。ま、精神世界で気絶なんてしたら起きれるはずもありませんが」
「………でも、とうまはまだ」
 インデックスは、この言葉にある希望を見出した。そして、自分の役目も理解できた。
「あなたの魔術は自分の肉体を代償にする代わり、人の精神に介入し自分のものとしてしまうのが本当の姿。でも欠点が一つだけあって、精神を殺してしまうと魔術師なら魔力を失われてしまう。だから、とうまを殺さないっていうことは殺しちゃったら『幻想殺し』を扱えなくなるということ。
 つまり、あなたを気絶させれば、まだチャンスはある」
「………やはり厄介ですね、禁書目録。知識だけを知っている敵をこんなにまで厄介と思ったのは、あなたが初めてです」
「それは…つまり」
 そこまで言われ、美琴はインデックスと同じ結論に至った。
「とうまはまだ生きてるよ。でも気絶しちゃってるから、その間の時間を稼がないと」
「でも、起きれば勝機…」
「無理ですね」
 魔術師は意図も簡単に断言した。そして、その理由を一言でしめた。
「殺さなかっただけですよ?」
 そういうと魔術師は二人の距離を一気に詰めた。


 上条当麻の精神は眠りについていた。
 魔術師によって飛ばされた意識は真っ暗な闇の中に一人立ち尽くしていた。ここにいるのは自分という世界だけ。目に映るのは光景とは言いがたい闇だけだった。
 上条は自分が負けたことを実感するよりも、この精神世界に一人残されたことに絶望していた。
 誰もいない世界、あるのは自分ひとりという存在だけ。知人・友人も親類も敵もここにはいない。
 何も出来ない世界、まるで自分が世界と一体になったかのような錯覚。
 それは拷問。
 それは地獄。
 それは一人。
 それは……世界と言う名の空間意識。
 上条の中にあるものがどんどん消えかけていく。記憶・思い出・知識・意識・存在・何もかも。
 残った自分には何が残るのだろう…。その考えも消えかけていく。
 その最中、彼は天に右手を伸ばした。今は宿らない『幻想殺し』の力はこの空間でも効力を発揮しないだろう。それでも、最後の力を搾り出すように、上条は伸ばせる限り伸ばした。

 ………たすけて。

 その一言で心が震えた。自分の世界が一気に戻ってきた。そして、上条は確かな目的を取り戻した。
「………まだ…死ねない」
 その声は上条の意識を覚醒させ、この空間を脱出するには十分すぎるほどの力を上条に与えた。
「待ってろよ、御坂」
 御坂美琴と彼女の周りの世界を守る約束は、まだ続いていた。


その5
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2010/02/26 22:34 | 禁書

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