自分のネーミングセンスのなさに絶望する回。
こういった展開は苦手っぽいですね。どうにもスピード感と迫力に欠ける気がします。
そこはもう、気合でカバーしてます。そして、働くインデックスの登場です。
こういった展開は苦手っぽいですね。どうにもスピード感と迫力に欠ける気がします。
そこはもう、気合でカバーしてます。そして、働くインデックスの登場です。
「私はね、アン……ッ?!」
病室の廊下から聞こえた足音に驚き、美琴は身を硬くして言葉を飲み込んだ。
目の前が寝ているとはいえ、他の人間に自分の告白を聞かれるのはやはり恥ずかしかった。
だが、この判断がのちに正しかったと気づくのはもう少しあとのお話。
「とうま…!!」
廊下から走ってきたのは純白の修道服を着た小さなシスター。確か彼女の名前は、インデックスと言ったか。
何度か会っているが、そのたびにぶつかりあう言わば犬猿の仲であったが、今はインデックスとぶつかる気持ちにはなれなかった。
何故なら、彼女も同じ上条当麻に救われた人間であり、ほとんど一緒にいる仲であると知っていたからだった。だからインデックスも自分のように苦しんでいるのがわかっていた。
「短髪。とうまの様子に変化はなかった?」
それでも、インデックスは普段と変わらぬままでいた。あまり会ったことがないが、今の彼女を見て美琴は少しだけその強さが羨ましかった。
「一ヶ月間、ずっと寝たままだけど……」
「一ヶ月間……」
確認をもらって、インデックスは上条を見て何かを考えている。美琴も、何か力になれればと考えてみた。
思い返してみても、変化はない。「一ヶ月前とずっと変わらず、眠り続けたまま」と美琴はインデックスにもう一度繰り返すと、納得したと頷き、上条の顔を伺った。
真剣な眼差しが横から見ていた美琴を少し動揺させた。こんな顔も出来るんだ、と思ったためだ。
「やっぱり……そうなんだね」
インデックスはさらに納得をして、上条の顔の辺りまで歩く。
上から見下ろすインデックスと見上げる上条。目の前の世界に美琴は入れないことを悟ってしまった。
「な、なにやってるのよ???!!!」
しかし、悟ってすぐにインデックスは上条当麻のベットに上がり、馬乗りになるとゆっくりと身体をあわせて倒れていく。
美琴は動揺よりも怒りを覚えた。だが、真剣な彼女の表情が何かを漂わせていることに気づくと、自分が恥ずかしく思えて怒りは少しずつ沈下されていった。
「短髪。頼みがあるんだけど」
インデックスは上条を見つめながら言った。
「私がいいって言うまで、ここに誰も入れないでくれない。邪魔、されたくないの」
邪魔…これが何を指すのか美琴にはわからなかった。でも、彼女は彼女なりに上条当麻のために何かをしようとしているように思えたので、ここは彼女の言葉を信頼した。
だけど、一つだけ気になることがあったので訊ねてみた。
「何をする気なの?」
「これから私の力でとうまを戻す。その間、邪魔をされないようにしたいの。だから、お願いできる?」
インデックスの視線は上条から美琴へと移った。
真剣な瞳。嘘偽りない色。そして、強い…光。美琴は頷き、静かにその場を離れた。
(今ここにいても、邪魔になるだけ)
辛いがそれが上条のためだと信じて、美琴は病室を出て扉を背にした。
今、彼女は救おうとしている。しかし、自分には何も出来ない。美琴は上条を救える術を持つインデックスが、とても羨ましくて、より自分の無力さを実感するのだった。
(……ぅ…………と……ま……と……ぅ…ま…とぅま、聞こ……える?)
ふと、頭の中で別の声が響いた。
懐かしく聞きなれた声。もう何年も聞いていなかったのではとさえ思えた声は、すぐに誰のものなのか理解できた。
「インデックス?インデックスなのか?!」
(よ……った。聞こえ……んだ……う……ま)
途切れ途切れだが頭の中で響く声は確かにインデックスだった。上条は、その声を聞いて今まで溜まっていた不要なものが少しずつはがれていく気がした。
「インデックス!なんで、俺のことがわかるんだ?お前の力は―――」
(私…誰だか忘れ……の?魔……書の中から自…でも扱える…のを探すの…楽なことだよ)
インデックスは魔術師だが、他の魔術師とは少し違っている。彼女は魔力がなくても、魔道書を武器に戦う術を持っている。逆に言えば、ステイルたちのように力を振るったりすることが出来ないインデックスは、魔道書を駆使して魔術師には出来ない戦いをすることが出来る。
今のインデックスは、魔道書を扱って上条と話している。これも全て、インデックスだからこそ出来る力だった。
(禁書目録……なるほど。私よりもずっとずっと有能ですね)
(あなたの魔術はとても面白いわ。『精神束縛』(メンタルチェーン)は西アジアとアメリカにあった魔道書を混合させた術式。名前のない魔道書に記されていた嘘だらけの魔術。さながら『偽りの幻術』(フェイクファンタズム)というものかしら?)
「フェイク…ファンタズム…?」
少しずつ鮮明になっていくインデックスの声と魔術師、正体不明の声。その中で気になった単語は『偽りの幻術』。
(魔道書の名前で、魔術の名前だよ。『精神束縛』って魔術も本当は嘘偽りだよ)
嘘…?偽り…?
(正解です、禁書目録。私は『偽りの幻術』、つまりこの世界も)
(嘘、偽りなんだよね。あなたの世界の真実は、『幻術』でありこの世界も幻術)
「じゃあ待てよ。だったらこの世界は」
「幻術から生み出された世界ですよ、上条当麻」
その声の方向を向くと自分と同じ位置に魔術師が立っていた。
そして、上条を縛っていた鎖は知らない間になくなり、身体は自由となっていた。
「この魔術の欠点は幻術を見破られると効果が薄れる点でしてね。本当なら、幻術の中で幻想殺しを封じたかったのですが、そうもいかないみたいです」
魔術師はここに来て、初めて敵だと感じさせる笑みを見せた。その瞬間、上条は目の前の魔術師を倒すべき敵だと再認識した。
「しかし、あっさりと破られるとは意外でした。禁書目録が介入した瞬間に、幻術が崩壊するとは……初めての出来事だったので少し驚きました」
「…お前は……正体不明…なのか?それとも、別人なのか?」
魔術師は、他人事のように答えた。
「両方とも間違えですが、両方とも正解です」と。
「どういう……意味だ?」
「言葉どおりの意味…といってもわからないでしょう。ですが、説明するのもなかなか難しいものです。なにせ、本人すらわからないのですから」
冷静に魔術師は答えるが、自分のことのはずなのに他人事のように話す素振りは少し異常に見えた。
上条は拳を握り、魔術師を警戒をした。だが魔術師は、愉快そうにクスクス笑った。
「安心してください。今の私には魔術は扱えません。言うなれば、あなたと同じ無能力者(レベル0)ですよ」
「どうだかな。お前の魔術は嘘つきなんだろ?だったら、今の言葉も嘘じゃないのか?」
もっともな答えです、と魔術師は頷く。
しかし上条は魔術師はいっさいの警戒をしていないことが不気味で恐ろしかった。今まであったやつらとは違う。雲を掴むような存在に少なからず、上条は動揺を覚えていた。
(飲み込まれちゃダメだよ!とうま)
ふと上条の頭の中でインデックスの声が響いた。
(あの魔術師の魔術は、疑心や動揺があればあるほど力を増す魔術なの。だから、魔術師の言葉に耳を傾けては飲み込まれちゃうよ。
それにこの世界はあいつが作った世界。そういう世界では作った側の方が有利になるように誘導されてるんだよ。だから、気を抜いたらすぐにやられちゃうから気をつけて)
「やはり禁書目録、あなたは厄介ですね」
魔術師は初めて敵意を持つ声を発した。それが功を奏して、上条は改めて魔術師を睨んだ。
「もう彼には話は通じないようですね。では一つ、教えておきましょう」
魔術師は、他人事のように言う。
「私の喜びは、壊すことです。どんなものでもどんなことでも、壊せればいい。だから今からあなたの幻想を壊します。完膚なきまでに、私が満足するまで……」
「………」
上条は拳を握り、相手の出方を伺った。
精神世界では、幻想殺しが使えないことをなんとなく気づいていた。
あの束縛された鎖。あれは、一つの魔術だろうに普通に右手に触れていた。それは、右手の力がない証明であった。幻想殺しが使えたのであれば、鎖は消えていたはずであるし、今この状態で自分の体に右手を置いても何も変化はなかったのは検証済みだ。
つまり、この世界の上条は正真正銘の無能力者(レベル0)で、相手は魔術師。勝ち目は……見た限りは絶望的だった。
だというのに、魔術師はいっさいの素振りを見せない。ただ、歪んだ笑みでこちらを見ていただけだ。
「壊すのが目的、か。じゃあのん気にしてないで、俺を倒しにくるんじゃないのか?」
強がりだとバレバレだが、インデックスから疑心や動揺が相手の糧だと聞かされていた上条は、あえて強がることでそれらをねじ伏せた。
魔術師はそんな上条を嘲るように笑うと、上条の質問にまた他人事のように答えた。
「殺しませんよ。壊すのは好きですけど、殺しは好きじゃないんですよ」
「だったらどうする気だ?魔術で何かをしようたって、現実に戻っちまえば効かねぇぞ」
「…なるほど、気づいていないのですか。ちょうどいい、お教えしましょう」
魔術師は歌うように言った。
「私は魔術師ですが、科学サイドの人間ですよ。ですから魔術はいっさい使えません」
「な……ん、だと……?」
「ですから私が行うのは、あなたと同じ肉弾戦だけですよ!」
というと魔術師といった者は上条との距離を一気につめ、
「魔術師とはたくさん戦いましたが、あなたはどうでしょうか上条当麻!!」
右ストレートを上条の顔面に向けて放った。
その4
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