イメージとしては、3巻の『一方通行』との戦いを私なりにアレンジした感じです。
中身はまったく違うんですが、書き終わったイメージがそれでしたので、無意識にそう書いていたのかもしれません。
もっとも、これをみて何を思い浮かべるかは人それぞれでしょうが…。
中身はまったく違うんですが、書き終わったイメージがそれでしたので、無意識にそう書いていたのかもしれません。
もっとも、これをみて何を思い浮かべるかは人それぞれでしょうが…。
魔術師からしてみれば、上条当麻の身体は優れているとは言いがたい。
彼はいくどとなく身体を入れ替え、たくさんの身体を移り渡った経緯を持つ。その代償は、元々あった"自我"であるため、今の彼には"自我"はほとんど残っていない。あるのは、自分と言う存在がどんな人間であったかの記憶だけ。それゆえに『正体不明』と彼は名乗っていた。
そして今回彼が手に入れたのは、能力者の身体。今までとは打って変わって、一般的な人間の身体だが能力は十分なほど驚異的であった。
「『幻想殺し』噂はきいていましたがいざ手にしてると、すばらしい能力です」
そういう魔術師の下にはインデックスと御坂美琴がボロボロのまま転がっていた。時間にして五分足らずで、二人は魔術師の拳にひれ伏すこととなった二人には、もはや立ち上がることもままならなかった。
「禁書目録は…気絶してますか。まあ彼女には、少しやりすぎてしまいましたからね」
それだけ言うと、魔術師はインデックスには興味をなくし、代わりに美琴に興味を持った視線を送った。
「あなたのことは見てましたよ。毎日毎日、上条当麻のことを心配して付き添う姿を、ね。でも皮肉なことに、その相手にあなたは倒されました。なかなか悲劇だと思いませんか?」
魔術師はくっくっくと笑って、床にふっしている美琴の顔を強引に上げさせた。もちろん、細心の注意を払って右手で触れた。
「私の喜びは壊すことでしてね、ですからあなたには、ある事実を教えてあげようと思います」
魔術師は、美琴の首を持ちその身体を宙に上げた。首を圧迫され、息が出来なくなった美琴は右手を掴んで離させようと、力の差と圧迫によってほとんど力が出せず離させられるわけもなかった。
「上条当麻の精神は、私の作り出した世界に溶けようとしてます。彼は危険な存在ですから、念入りな術が必要だと思ったので
、殺さずに生かすには精神を取り込むのが一番だと思いまして、このような手段をとらせていただきました。
もっとも、あまり使わない術だったので時間がかかってしまいましたが、この病院では上条当麻は優遇されていましたから、時間なんてあまり関係しませんでしたが」
「ぐっ……ッ…ぁ」
時間が指すのは、美琴が上条に付き添っていたことだ。美琴が付き添えば付き添うほど、上条の周りからは人がいなくなる。ましてや、けが人や病人でもなく意識がなかっただけの上条は医者からすれば余計なことをしたくなかったのだろう。
美琴は医療関係に通ずるわけではないが、上条が優遇されていることは、ここのカエルに似た顔をした医師を通じて知っていた。それを逆手に取られたのは、自分が起こした不覚だった。
「きっとあなたが死ねば、さぞ悲しむでしょうね。くっくっく、これを見れない上条当麻は、本当に残念です」
本気の殺意を、美琴は上条の皮を被った魔術師から感じた。今の言葉はきっと真意、殺すつもりなんだとわかると、今まで感じたことのないほどの恐怖を感じた。
妹達を救うために死にに行くときの非ではない。目の前にいるのは正真正銘の死神、自分を殺す相手だと理解すると、超能力者の美琴もただの女の子として足掻くしかなくなった。
「ぁ………ぃ…ゃ」
「おびえなくても大丈夫ですよ。一瞬で終わる。あなたの想いも、上条当麻の努力も、私…俺が力を込めれば全てね」
もはや目の前の光景も見えなくなってくる。だがこれは意識がくらむのではない。怖くて流してしまった涙で、前が見えなかったのだ。
(死ぬ……今度こそ、死ぬ。しかも、アイツの皮を被ったやつに…)
悔しさと悲しさ、恐怖に後悔。そして、現実に美琴は…覚悟できなかった。
「た……すけ……て」
死にたくない一心で。誰も助けに来てくれないと知っていながらも、美琴は言った。
それはあの時、橋の上で自分が死のうとした決意した時、ボロボロになって耐え切れなくなった時に似ていた。その後に来たのは…命の恩人、彼だった。
でも今は違う。命の恩人が、自分を殺そうとしているのだ。
だけど……それでも……心の底では小さな期待…信じたいと思った。
また助けてくれる。今度も……あの時みたいに……。
「がっ……はっ??!!」
それは予想外の出来事。美琴の身体は魔術師の手を離れ、床に落ちた。
げほげほと、咳き込みながら何度も息をして、空気を体に取り込んだ。掴まれた首の部分が痛んだので、それを抑えながら美琴はその相手を見た。
「な、ん……だとっ??!!!」
相手は、魔術師は自分の現状に驚愕していた。上条当麻の身体は大きく大の字に開かれ、まるであの時のように動かなかったのだ。
美琴はその姿を見て、知っていると気づくと、ふらふらの無理やり立たせ壁を支えに身体を立たせた。
「何故……生きてる…?!『幻想殺し』」
それを指すのは、上条当麻本人だと理解すると、美琴の力が少しだけ出たような気がした。
「……遅いわよ……馬鹿」
超能力者、御坂美琴はもう一度、電撃を作り片手にそれを溜め込んだ。あえてコインを使った超電磁砲を使わないのではない。それよりも、いつも防がれてしまう電撃の槍をあえて上条に対して放とうとしていた。
「くっ……こ、いつ」
動けない魔術師には自分の電撃は通じる。美琴はそれを確信したからこそ、あの時と同じ槍を作りたかったのだ。
(細かい計算はどうでもいい。今はこの身体の力を使い果たそうとも、あいつの期待に答える)
わかっていた。これはあの時立ちふさがった少年と同じ。でも今回は、立ちふさがるではなく守るために、少年はこの身にていしたのだ。
「まったく……これで負けたら承知しないわ、よッ!!!」
電撃の槍はあっという間に上条の身体を貫いた。そして、上条の身体はゆっくりと倒れ、焦げたような煙が身体から上がっていた。
「また撃たせたんだから…責任…とり、な…さ」
美琴は最後まで言えずに限界だった身体をまた床に倒すこととなった。
魔術師は意識を精神世界で取り戻した。
上条当麻と戦い精神を手に入れたはずの世界にまた戻ってきたのだ。それは、御坂美琴によって気絶させられたことだと理解し、舌を打った。
少なくとも、起きるまでの間はこの場にとどまるしかない。だが次はいつ起きるかわからない。ましてやあの二人の状態に誰かが気づいたら、自分に自由はなくなる。そして、最後に待つのは…敗北、死だった。
「くっ……こうなったら」
上条当麻を殺すしかなかった。『幻想殺し』はなくなるが、身体は完全に魔術師のものになり、意識の回復が少なからず早くなるかもしれない。
そう思い、魔術師は周りを見渡した。が、真っ暗な空間の中に上条当麻はいなかった。
「……どういうことだ」
精神空間は魔術師が作り出したもの。ここに上条当麻は確かにいたはずなのに、いなかった。
ありえないと思ったが、魔術師はそのありえないからもっともありそうなことを思い浮かべた。
「いまじん……ブレイカー?」
空間を抜けるとしたら、上条が『幻想殺し』を持っているとしか考えられなかった。だが、違った。
「よう、魔術師」
声は背中からだった。魔術師は、反射的に前に飛び、背中からの相手をにらんだ。
「上条…当麻ッ!!」
そこにいたのはボロボロになった上条当麻自身。魔術を乗り越え、ここに戻ってきたのだ。
魔術師は、額から流れていた汗を拭うと拳を握って相手の出方を待った。
「てめえ、人の身体であの二人を散々痛めつけてくれたよな!!!」
上条は今までにないほど怒っていた。殺意というものを上条はどうやって出すか知らないが、少なくとも今の前にいる敵を殺してやりたいと心の底から思っていた。そしてそれは上条の怒りとなって、魔術師を怯ませた。
「出来るんなら殺してやりたいが、残念ながら俺の力じゃそれは出来ない。でもよ……」
上条は………吼えた。
「てめえの幻想はどんなものに代えても必ずぶっ殺すッ!!!!」
上条の気迫に押され、魔術師は負けると思ってしまった。相手は無能力者、しかも『幻想殺し』を持っていない、ただの高校生だ。だというのに、負けると思った。
魔術師は唇を噛んで、どうすればいいか自問した。だが、考えても考えても負けるとしか返ってこなかった。
「ありえない……そんな、ありえない!!」
答えを信じきれず、魔術師はさきほど殺さないために出さなかった全力を上条に向けた。それでも返ってくる答えは負ける、敗北だった。
地面を割るように蹴り、最大のスピードで魔術師は上条に近づき、顔面を殴る。………はずだった。
「ぶっ……ごぁ!!!」
殴るよりも先に殴られたことに気づくのは、吹き飛ばされ終わってからだった。
そして、上条の拳は顔面に確かに入ったのだが、魔術師は顔面を殴れた事実を理解できなかった。
「なんでだ!!??なんで、お前は――」
「『正体不明』ねぇ……ホント、よく作られたもんだぜ。気づくまで時間がかかっちまったよ」
上条は後ろ髪を掻きながら、魔術師に近づいてくる。
「今、俺が殴ったのはあんたの顔面だ。でも殴った方向は、アンタの顔面の横、肩の上辺りだった。だっていうのに、アンタは俺に殴られた。
こんなもん、種さえわかれば難しくもなんともねぇよ」
上条は手品を明かすときの手品師のように、簡単に言うが魔術師には理解できていなかった。
「俺はあんたの位置を間違えてたんだ。視界を錯覚させてたのか、さりげなくずれていたのかはこの際どうだっていい。
それよりも、重要なのは右手だ」
上条は右手で拳を作ると、今度は上条から魔術師に向かっていく。
「調子に……乗るな!!!」
対して魔術師はぶんっ!と音を鳴らすほどのストレートを放った。だが、上条はそれを予測していた。
「なっ…!!??」
上条の右手の拳と魔術師のストレートがぶつかりあった。そして、ぶつかりあった拳……魔術師の拳は文字通りに砕けた。
「あんたは俺の右手に触れたんだ。『正体不明』(まじゅつ)は、もう死んでるんだぜ!!!」
そういった上条は、すでに力を取り戻した右手で『正体不明』を殺した。
『after the after』
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