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2024/05/05 08:40 |
memories 第3話-4
この回の修正時間をかけすぎたのは修正する点で一番反省する部分です。
シリアス展開に持って行くのと伏線をここで出します。ここの伏線はのちの物語で詳しくw



 結果として、ホテルで夜を過ごすこととなった。
 話したとおり、部屋は二つで支払いは美琴持ち。一応、彼氏として払おうかと思ったが、現実は厳しいものだとホテル代を見て実感した。同時に貧乏人とお嬢様の差を身を持って実感した上条は、あまりのことに不幸だとも言えなかった。
「それで、なんであなたがここにいるのですか?」
「いいじゃない。部屋にいても一人だし、やることないんだもん。アンタだって暇だったんじゃないの?」
「上条さんは疲れたので、ベットでぐっすり眠りたか、いえなんでもありませんひまですすごくひまです」
 美琴の視線とビリビリと火花を散らした電撃に、高校一年生の上条は二歳年下の中学二年生に屈した。
 時間はそろそろ五時になる。二月と違ってまだ日が出ているので歩こうと思えば何も気にせずに歩けるが、上条がこの調子だったので少し早めにホテルを取ることにした。
 ちなみに、上条は最後まで頷くことなく半ば強引に従った。それが少しだけ、美琴に罪悪感を与えたことも知らず。
「はぁー。アンタね、私たちの関係覚えてる? 少しは気を使いなさいよ。馬鹿」
「と言われましても姫。上条さんは、どのようにすればいいのか、まったくわからないのですよ」
「………………一応聞くけど、アンタの考える恋人って何?」
「友達の一線を越えた男女の関係………ってとこか? うーん、いまいちよくわからん」
「それってさ、親友に入らない?」
 そうなのか、と上条はボリボリと頭を掻いた。上条にはまだそのあたりの認識がよくわからない。対する美琴は、自分たちの考える違いに頭を悩ませた。
「なんというか、ここまでだとは思わなかったわ。決定的というか、絶望的というか…アンタと私とじゃ考えが違いすぎるわ」
「散々なことを言われている気がしますが、あえて口出しするのはやめます」
 上条は美琴の悩みを理解したが、こればかりは仕方がないと思った。なので、とりあえず美琴の話には口を出すことは止めておくことにした。
「それで、御坂はどんなのが恋人だと思ってるんだ?」
「え……? あ……えっと、ね」
 美琴は顔を真っ赤にして、ブツブツと言葉を繰り返す。
「??? どうしたんだ、そんなちびっちゃくなって」
「ふぇ? そ、その……なんでもない、わよ」
 相変わらず上条はわからなそうな顔をしているが、今の美琴にはそんな顔を見る余裕すらなかった。
 上条はなんだか話が進まないなと思い、とりあえずあの頼みを口にしてみた。
「それで、俺たちは何をすれば恋人っぽくなれるんだ?」
「へ…? あ、ああ。恋人っぽく、ね」
「一応、言っとくけど、俺はキスとか手を繋ぐしかわからねぇぞ」
「ききききききききききききききききききききすぅぅぅぅぅぅ------------???!!!!」
 御坂美琴、今日一番の動揺。
 恋人耐性のない美琴からしてみれば、それは禁忌の禁句の禁句の禁忌である。人類が消滅する爆弾を放り込まれたときと同じぐらいの迫力と破壊力、そして最終的な到達点であった。
(キス??!! あいつ、キスって言ったのよね??!! ええーー!! 早い早い早すぎる!!!! で、でも…恋人のやることだって言ってたし…その、あいつだって嫌がるとは限らないし………こ、ここは…早いけどやったほうがいいの…かしら?)
 妄想と現実が交差する中、美琴はやるかどうかを命をかける勢いで悩んでいた。上条は、薮蛇だったかと自分の発言による美琴の変化に気づき、また何か起こりそうだと心の底でため息をついた。
(もういい加減に、名前ネタだけは勘弁して欲しいぜ。あれは、毒だ)
 彼女の名前を言えない時点で、上条も恋人耐性は皆無だ。もっとも、数秒後に最高に恥ずかしい展開が待っていることをこの時の彼はまだ知らない。
「えっと……上条当麻!!!!」
「フルネーム?! アンタからすごい格上げされた気分!!」
「私とき、ききき……きききききき」
 キスと言えず、きを何度も何度も繰り返す美琴は、色々な意味で不気味だった。上条はき? と何度も何度も繰り返れる言葉が何か考えた。
「うーん。きで関連するものって…なんだ?」
「ききき………ききき、き……ききききき」
「……えっと、さっきから同じ言葉を繰り返してどうしたんですか?」
 顔を真っ赤にしながら、その先が言えない美琴はなんとも言えない姿だ。もっとも鈍感な上条は、何がどうなっているかなど理解していなかった。
「なんか言いたいなら、言えば」
「って言えるかボケェェェーーーー!!!!!!!」
 そして、怒りをぶちまけるように叫ぶ彼女と、何故か怒りの矛先が自分に来てしまった彼氏。美琴は耐え切れなくなり、上条の顔面を思いっきり殴った。
「り、理不尽だ……ガクッ」
 美琴のパンチは上条の顔面にクリティカルヒットした。そして近くにいたことで被害にあってしまった上条は、もう何度目かわからない不幸にあってしまい、そのままベットに倒れふし意識を飛ばした。


 上条は頬の痛みを感じながら、意識を取り戻した。
 頭には柔らかい感触と近くから聞こえた声で、自分がどうしてしまったのか思い出せてきた。美琴に殴られてしまい、そのまま気絶してしまったのだ。それを思い出してみると情けない理由だなと上条は、心の奥で不幸だと呟いた。 
「……………ダメだな、私」
 ふと、不安そうで儚い声が聞こえた。上条は起きようかと思ったが、なんだかここでは起きれない雰囲気だったので、とりあえず寝ているふりをしようと目を閉じたままにした。
「せっかく恋人になれたって言うのに、これじゃあ意味ないじゃない。これなら、前のほうがマシかもしれないわね」
 落ち込んでいるのかと上条は思ったが、声だけで判断するのは難しい。それに今起きて聞いたとしても、はぐらかされるような気がしたのでそのまま寝たふりを続けた。
「起きて……ないわよね? はぁー、こんな時でしか言えないなんて、私も弱虫だな」
 何故か上条は、美琴が悲しそうな顔をしていると確信できた。実際に目で見たわけではないが、目を閉じてもそれがわかるような気がした。
「私はアンタと…当麻と恋人になれて嬉しいのよ。だっていうのに、私は意地っ張りで素直になれないからアン、当麻を困らせちゃうのよね。それに色々と恥ずかしいのよ……この馬鹿」
(それはお互い様ですよ、美琴さん)
 心の中でツッコミながらも、上条は美琴の話に耳を傾け続けた。
「今だって名前、当麻って言うのも恥ずかしいのよ? でもアンタは鈍いから、私がどれだけ苦労してこの名前を言ってるか、あ、当麻にはわからないわよね?」
(少なくとも、わたくし上条当麻も、あなたの名前を言うことに苦労してますよ)
「だけどさ、アンタの名前を言えるってことは、恥ずかしいけど幸せなのかもね。だって、記憶を失う前のアンタには一回も名前を呼べなかったし、アンタも私のことを『御坂』とか『ビリビリ』としか言わなかった。だからそれを思い返すと十分すぎるのかもしれないわね」
(……………)
「でもアンタは変わらないから、きっと無茶もするしボロボロになる。今はまだ大丈夫だけど、あの子が帰ってきたらきっとアンタは元の世界に戻ってしまう。そんなのは…嫌だ。出来ることなら、止めたい。だけど……それすらを無視してでもアンタは行ってしまうんだろうな。そしてアンタは傷ついて戻ってくる」
(…………………)
「もっと自分を大事にしなさいよ、馬鹿。アンタはいいとしても私は……悲しいのよ。傷つくアンタが見てられないのよ。入院した時だってどれだけアンタを心配したか、アンタにはわからないわよね? ずっとずっと帰ってくる日を待って、最初の頃は寝込んでたのよ? 日が経つにつれてそれはなくなったけど、疲労で疲れて倒れたり、夜も眠れない日もあったわ。そんな苦しみ、アンタにはわからないだろうけど」
 上条は胸がずきずきと痛くなる。語られる真実は恋愛感情をとっくに越えている。ただ好きな人を待つのであれば、そんなに苦しまなかったのではないか、と上条は思った。
 上条はこの言葉を良く知らないが、きっと今はこの言葉があっていると思って、上条は心の底で呟いてみた。
(『上条当麻』への……愛)
 ただ戻ってきて欲しいと思う日々は全てそれで支配されていたのだろう。この一ヶ月、美琴はそれだけで生きてきたのではないか? そして、もし自分が死んだのなら彼女も一緒に……。
「ははは…まったく、何言ってるんだろう。こんなこと言ったって意味なんてないのに……苦しむだけなのに……私、何をしたいんだろう」
 ふと美琴の手が上条の額を優しく撫でた。まるで、親が子をあやすかのような愛情を感じさせながら、何度も何度も確かめるように、額を撫でた。
「私はアンタが好きよ。でもね、傷ついて帰ってくるアンタは大嫌い。勝手なことかもしれないけど、アンタには無傷で帰ってきて欲しいわ。どこかへ行っても何をしても無傷で私の元に帰って来て笑って欲しいわ。ねぇ、それを願うのは行き過ぎた願いなのかしら?」
 本気で上条を心配する美琴は、起きているときには見せないほど、弱々しく不安な存在だ。声だけでしかわからないが、上条には美琴がどれだけ自分のことに気を回してくれているのか、痛いほどわかった。そして、恋人ごっこではないかと疑ってしまった自分を恥じ、ごめんと心の奥で言った。
「…………はぁー、ばっかじゃないの私。恋人になって浮かれてるのが丸見えよ。こんなことをするために、恋人になったわけじゃないのに……何やってるんだろう」
「………………何やってるんだろう、じゃねぇよ馬鹿」
 美琴の泣き言を聞いているのも限界だった。自分の罪を語るように話し続け、願えばいいことを願わず、自分の中に全部抱え込んで何も言わない美琴に上条は腹が立った。寝たふりをして聞いていたことは悪いと思ってはいるが、美琴の話はそれよりも全然悪い。
 上条は目をあけて、上から見下ろしていた美琴と視線を合わせた。その奥にあったのは、悲しみと……愛情だった。
「お前は俺の『彼女』なんだろ? だったら、俺はお前のわがままを聞いてやってもいいし、言いたいことがあれば言えばいいだろう。ったく、まどろっこしいこと言ってんじゃねぇよ、馬鹿彼女」
「………怒ってるの?」
 ああ、と上条は美琴をにらみつけた。そして、言いたかったことをガツンと言ってやった。
「つべこべ言わず、お前が考える『彼女』らしくしろ! 俺はお前の『彼氏』らしくしてやるからさ!」
 上条は起き上がって美琴の頭を撫でた。
「とりあえず、"美琴"。俺はどうすれば、『彼氏』らしくなれるんだ?」
「……………………一言だけいい?」
「ああ…いいけどッ?!」
 美琴は上条に体当たりし、ベットに押し倒した。そして、上条の胸に顔を埋めてその一言を忌々しそうに言った。
「アンタは最低の『彼氏』よ、当麻」
「はぁー??!!」
「私の幻想(理想)ばかり裏切る…最低の彼氏よ。思い通りにいかないし、彼氏らしくしようともしない。だって言うのに、『彼氏』を気取る。本当に…最低よ」
「悪かったな! どうせ俺はお前の幻想(理想)通りに行かない彼氏ですよ」
 上条には美琴の幻想(理想)が何を指しているのかわからない。言ってもくれないし、行動にも示してくれないからではなく、何も行おうとしないからわからない。まだ扉すら見えていない状況だ。
 そんな自分に美琴は何をしたいのだろうか、上条にはまったく理解できない。理解できないのだが、上条と美琴はすでに『恋人同士』。いつかはそれを理解しなければならないことを、上条は知っている。
「だからお前は俺に何を求めてるんだよ! それさえわかれば俺は」
「そんな単純なこともわからないの、この大馬鹿彼氏!!!」
 美琴は顔を埋めたまま、上条に抱きついた。そして、ぎゅっと離さない様に捕まえるように力を込めて言った。
「まずは私を好きになりなさいよ! 私の幻想とか、アンタの幻想とか抜きにして、アンタはまず私を好きになりなさい! 話はそれからよ、馬鹿!」
「………………………」
「人の気持ちを知らないで、勝手に恋人を気取らないでよ! アンタの優しさは時として残酷だってことを、覚えておきなさいよ! 最低な『彼氏』」
 上条は………唇をかみ締め、何も言い返せない自分を無力だと感じた。唯一できたのは、ごめんと心の奥で謝るだけだった。 


 美琴は濡れた身体をタオルで拭き、常盤台の制服に手をかけた。ゆっくりと下着を着て、ブラウスのボタンを一つ一つ閉め、最後にベージュのブレザーと紺のチェックのスカートに入っているコインを確かめた。文字にすると官能的に思えるが、今の御坂美琴の雰囲気にはそんなものはいっさい感じられない。ピリピリした棘のある雰囲気と、まっすぐな視線はもはや『超電磁砲』その人の姿だった。
 美琴は自分の身の回りのものを全て持ち何も残さずに部屋を出た。電気を消し鍵を閉めてドアノブを一回回して閉まっていることを確認すると、美琴は導かれるように隣の部屋のドアの前に立った。ドアのノックしようと思ったが、寸前でやめて手を下ろした。
 上条当麻は今は部屋の中で寝ている。疲れが溜まり、夕食を簡単なコンビニのパンで済ませようと買い込んだのは約三十分前の出来事。それから上条は疲れがピークに達していたので、すぐさまベットに倒れそのまま寝てしまった。
 無理もないと美琴は思った。上条は昨日まで病院で寝ていた状態の人間。身体に異常がなくても、身体能力は下がっている。普段なら半分の距離も上条には半分がとても遠い。きっと、一晩中追いかけたら体力切れになり追いつけるだろうが、今はそんな関係ではないので首を振って打ち消した。
 美琴はさきほど言われたことをもう一度思い返してみた。
 好きでもない彼女にあそこまで言う彼氏はきっと上条だけだ。自分が望む『彼女』を演じ上条はその『彼氏』を演じる。でもそれでは劇での役柄だけの関係、本当の『恋人』にはなれない。
 上条の勘違いはきっとそこにある。上条は美琴が望む幻想(理想)を演じることで、近づけると思っている。幻想を演じ、幻想に飲み込まれ、幻想の愛情を手に入れる。だがそれは美琴が望まない結末、バッドエンドでしかない。
 それではきっと崩壊の一途をたどるしかない。そして、最終地点で待つのは上条の優しさが美琴を"殺す"結末だ。
 優しすぎると美琴は目の前にいない彼氏を思った。 そう、上条は優しすぎる。だから、伝わらない。間違えている。
 それがわかったから美琴は、好きになれと言った。上条当麻が御坂美琴を一人の女性として、心の残り続ける一番の女性として、愛情を注ぐに相応しく注ぎたいと思える女性として好きになって欲しいと言った。そしてこれも、自分の幻想(理想)だった。
 だがこっちは正解に近い"正解"だ。同時に間違えに近い"正解"だ。この結果が待つものは……。
 美琴は頭をもう一回振り、そのことを考えないことにした。ここを去ったら、戻ってくるのは当分先だと知っていたから。
「…………ごめん」
 それだけ言い残すと、美琴はドアを離れエレベータに続く廊下を一人だけ歩き始めた。
 この先は、日常から非日常へと続く道だ。その道はかつて少年が歩いていた道だがその少年はもういない。いや、いるがまだ『眠っている』だけだ。
 少年は絶対に戻ってきてしまうことは、少年が目覚める前から知っている真実。四月二日、この日に少年はもう一度道を歩き始め、御坂美琴から離れていく。誰かを救うために歩き、誰かを守るために戦い、誰かを想うために傷つく。
 そんなのは嫌だとわかっていても、少年は絶対に言うことを聞かない。さきほどの答えも絶対に破るだろう。"それでも"今だけは守りたいと思う。たった数日だけでいい。今はその少年に安息の日々を与えてもいいだろう。
 一ヶ月前、学園都市のために戦い、守りたかったものを守り、満足な顔をして消えていってしまった少年の姿を御坂美琴は知っている。何もかもやり遂げたような顔をして、笑って消えていった最低な初恋の人を御坂美琴はまだ覚えている。
 じきに戻ってきてしまうとわかっていても、今だけは守りたい。それが、少年への最後のわがままで懺悔であると御坂美琴はわかっていても。
「少しの間だけど、アンタは私の命に代えても」
 ―――守る。
 『超電磁砲』は真っ暗な夜の街へと足を踏み出す。そこは一ヶ月以上前の科学の世界ではなく、科学と魔術が交差した世界だった。
 そして眠っている少年はそのことを知らない。

<第4話-1へ>
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2010/09/14 22:06 | memories

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