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2024/05/05 12:03 |
memories 第4話-1
この回は上条の話ではなく、美琴の話なので全体的に暗い雰囲気に変えました。
ライトではなくダークに書くことで、日常と非日常が違うことを意識をさせてみた結果がこれです。
個人的には番外に近い雰囲気です。でも本編にはかなり関わってくる重要な回です。



第4話 非日常の世界

PM09:23
 御坂美琴は夜の街を全速力で走っていた。
 街灯が織りなす光や街のBGMとなっている人々の会話とは裏腹に、美琴の日常はすでに終わりを迎えていた。かすかだが聞こえるサイレンの音をたどりながら、携帯電話で友人と連絡を取りながら美琴は走り続けていた。
「初春さん。次はどっち?」
『二つ目の路地を抜けてください。少し狭いですが、一人分の大きさなので問題ないと思います。それと白井さんにも連絡しました。距離は離れているので少し時間がかかりますが、ほとんど同時、もしくは若干早く御坂さんの方が早いかもしれません』
 携帯越しから聞こえる飴玉を転がすような甘ったるい声には、真剣さと焦りがにじみ出ていた。電話の相手、初春飾利の指示通り、美琴は二つ目の路地を曲がり全力で走り抜ける。
『御坂さん。警備員(アンチスキル)からの連絡です。どうやら、魔術師と交戦中の模様です。ですけど、あくまで時間稼ぎ程度しかならないと思います。急いでください』
 美琴はわかってるわよと思いながら、電話越しから聞かされる情報に耳を傾ける。初春の情報網はほとんど完璧だ。しかも今回は、バックアップとして白井と初春の上司に当たる固法美偉もいる。少なからず、今の学園都市の情報に関しては、この二人が全て拾い上げてくれている。ある意味、書庫(バンク)顔負けのメンツだった。
 そして、その固法から連絡が入った。
『御坂さん。相手は一連の事件の犯人であるのは確定なようよ。残念ながら学園都市の人間じゃないからデータはないんだけど、それを肝に銘じておいて』
「いいえ。それで十分です。あと初春さん、黒子は今どこ?」
『白井さんは御坂さんと約1キロ離れてます。そろそろ合流できるんじゃないでしょうか? あ、路地を出たら右に曲がって大通りをまっすぐに走ってください』
 美琴は指示通り、右に曲がり人が少なくなった大通りを走っていく。
『御坂さん、警備員だけど…銃声がやんだみたい。もしかしたら…』
 固法の情報に、美琴はさらに走るスピードを速くする。その時、後ろからお姉様と言う声に振り向くと、『空間移動』(テレポート)しながら近づいてきた白井黒子と目が合った。
「申し訳ありません。遅くなりました」
「気にしないでいいわ。それよりも、戦う前に合流できたから上出来よ」
 美琴は走りながら白井にそう返すと、また新しい情報が電話越しから流された。
『御坂さん、白井さん。どうやら地下に潜ったみたい。警備員も追ってるようだから、とりあえず合流して。その先を真っ直ぐ走れば警備員の車が見えてくるはずよ』
 という固法の情報に相槌を打ち、二人は真っ直ぐ大通りを走り抜けた。それから一分も経たずに、警備員の車のサイレンの光が一人の魔術師を追っていた二人を出迎えてた。


 PM08:24。
 話はこの頃までさかのぼる。
 風紀委員活動第一七七支部、学生だけで構成された風紀委員(ジャッジメント)の支部の一つ。ここでは夜遅くだというのに、昼以上の能力者がここに集結していた。
「それで、情報は?」
 特には、と美琴の質問に首を振ったのは初春飾利。第一七七支部に所属する新人の風紀委員だ。来月、彼女はに中学二年に上がり、後輩を持つことで新人免除となるが、その扱いは新人免除となるか微妙である。だが情報収集・処理能力、ハッカーとしての腕はこの中では一番の腕を持つ。
 初春はパソコン上に出ているいくつもの情報が表示されているが、その中に美琴が探している情報は今のところはない。
「ま、そう簡単には見つかりませんわね。なにせ相手は何日も逃げているお方ですし、学園都市のことを少しばかりは知っておられるようですの」
 常盤台中学一年、御坂美琴のルームメイトであり、初春の上司(年齢ではなく地位の意味で)である白井黒子は、情報のない理由を補足した。
「そちらはどうですか、固法先輩」
 初春のほうには情報がないと知った白井はその向かい側に座るのは、高校一年、来月には二年になる固法美偉に声をかけた。今この三人で仕切られている第一七七支部では、この固法が一番の上司だ。
 固法は首を横に振って、お手上げよと手を上げた。そこで糸が切れたように、美琴はため息をついた。
「わかってるんだけどさ…やっぱ、急ぎたくなんのよね」
 そういって、壁に寄りかかった時、美琴の携帯電話が鳴った。誰かなと、ポケットから出してディスプレイに表示されたのは、『上条当麻』の名前だった。
「ななななななななななんであいつの名前が!!!」
「あら? 誰からですの?」
 興味ありそうに白井は、美琴の携帯のディスプレイを見た。そして、その名前を見た白井はなっ! と驚きを隠せなかった。
「あ、あの殿方からですの?! 上条さん、目が覚めたのですか、お姉様!!!」
「うん。昨日ここに来なかったでしょ? その理由はこいつってわけ」
 白井の動揺に、初春も固法も興味がそそられたのか誰? と美琴に問いかけてくる。そして、美琴は電話のこともあるしこの際だからいいかと、諦めたように言った。
「上条当麻…って言えばわかりますよね。ずっと眠ってたんですけど、昨日起きてずっと世話してたんです。すいません、出ていいですか?」
 "上条当麻"の名前は二人も知っていた。だが美琴の言った眠っていたの意味は理解できなかった。これに関しては、美琴と白井など上条と繋がりを持つ人間にしか知らない情報だったが、ややこしいのでそれ以上は説明しなかった。
「もしもし、私だけど」
『やっと出やがったか、馬鹿彼女。普段からこれだけ待たないとお前は出ないのか?」
「そんなわけないでしょ! こっちにはこっちの事情ってものがあるのよ」
 彼女と言われたのは嬉しいが、馬鹿がついていたのでまったく嬉しくない。美琴はどうしたの? と電話の経緯を聞くと上条は話を続けた。
『いや、お前の部屋をノックしてもまったく返事がなかったからさ。んで、気になって電話してみたってわけ。ん? もしかしてお前、外にいるのか?』
 うんと言って美琴は周りを見渡すと、真剣にこちらを見ている三人の視線に逃げ出したくなった。
 白井は、心配したと思ったらあの類人猿がァァああああ!! と悔しそうに叫んでいる。初春はニヤニヤしながら、どこから取り出したのかボイスレコーダーのスイッチをオンにしている。そして、残った固法はパソコンを見ながらもチラチラとこちらを見ていた。
 やはり三人とも男と電話しているのは気にするんだ、と美琴は出たくても出られない雰囲気の中で心の奥でため息をつきながら通話を続けた。
「まあね。ちょっと用事があってね」
『だったら悪かったな。それで、用事ってのはいつ終わるんだ?』
「わかんないけど、朝には戻ってるわ。もしかして、何か用事があったの?」
『いや、そこまで大きな用事じゃないんだけど、暇だったから一つ教えて欲しいことがあっただけだ』
「教えて欲しいこと? 今は特に何もないから問題ないけど、重要なこと?」
 ああ、と上条は相槌を打つと電話越しからパラパラと、紙の音が聞こえた。そして、あったあったと言って上条は聞きたかったことを聞いた。

『能力者以外の存在が発覚。学園都市を襲った二月の悲劇……って記事なんだけど』

 その記事の名に、美琴は頭が真っ白になった。
『ちょうど一ヶ月前だし、能力者の欄にお前の名前と俺の名前があったんだ。なあ、これってさ』
「そう、よ。………その、事件よ」
 美琴は言葉を紡いでいく。知られてしまったと胸の中にあった何か砕かれたような錯覚に陥った。同時に息苦しさと眩暈に膝ががくんと崩れそうになったが、唇をかみ締め崩れそうな身体を何とか持ち直した。
『………………………………悪い。それだけだ。細かいことは読んでみる』
「ううん。もう知っちゃったようだからね。明日説め―――」
 と言おうとした時、固法から情報よ! という大きな声がここにいる一同と上条の耳に届いた。
「ごめん、またあとで!」
 美琴は半ば強引に電話を切った。そして、そこには『超電磁砲』としての表情が浮かび上がっていた。


 PM08:58。
 白井はとあるビルの中にいた。第一七七支部からかなり離れた位置に存在するが、『空間移動』を駆使すればそう長い距離ではない。
 情報が入ったといわれて、三十分が経過しているがすでにそこはもぬけの殻だ。あるのは、壁に残る何かの爪あとと割られたガラスのあとだけだった。
 すでにここにいた人は避難し終え、今ここには白井しかいない。警備員の到着はまだだったため、さきにこの現場に入ることが出来たのは幸運であった。
「初春、固法先輩。データを送りますわ。解析のほうをよろしくお願いしますわ」
 白井は荒らされた現場を携帯で撮影し、データを送信した。そして、自分なりにも手を加えようと思ったが、荒らされた現場と相手の存在を思い出し、あまり調べても意味ないですわねと捜査する意味がないと判断し先に進んでいった。
「あと初春。お姉様の方はどうなっておりますの?」
『御坂さんは、まだ現場についてません。走っているので白井さんとはスピードが違いますよ。それと、ガラスのデータが出たんですが』
 聞きますわ、と白井は初春にさきを促しながら、現場を進んでいく。
『そこのガラスですが、このビルで使われたものじゃありません。白井さん、ガラスを手にとって、潰してみてください』
「??? とりあえず、潰せばいいのですわね」
 白井は床に落ちていたガラスを取って言われたとおり潰してみると、パリッと言う音ともに簡単にガラスが砕けた。
「砕けてしまいましたわ。どういうことですの、初春?」
『このビルのガラスは少し特殊で、並大抵のことじゃ割れないんです。特徴としてガラスに少しばかり黒を混ぜて、中の様子を見えにくくしているんです』
「つまり、簡単には割れるはずはない、と?」
 はい、と初春は相槌を打つ。白井は割れたガラスの破片を落として、さらに奥へと進んでいく。
『それにそのガラスは現場に必ず落ちてるんです。ですからそれが魔術師の持ち物だと考えてもいいんじゃないんでしょうか?』
「同感ですの。ガラスを持ち歩く、お姉様の『超電磁砲』と同じに考えればいいことですわ」
 ガラスを持つ魔術師、ならばこれも魔術というもので? と白井は考えながら、壁に残った謎の爪あとをつたっていく。長く大きな爪あとは動物のようだが、動物にはつけられない大きさを放ち、以前大きな石の石像と戦った時のことを連想させた。
 そして、壁の爪あとが切れた場所まで来た。そこにあったのは…。
「ガラスの………花?」
 大きなガラスに破片の上にあったのは、小さなガラスの花。芸術品と言ってもおかしくない輝きと形は一瞬だけ、白井の意識を飛ばすほどの美しさを放っていた。言葉で表すなら、神秘というべきか。だが同時に甘い罠を思い浮かばせもした。白井は触れたくなったが、寸前で思いとどまり、このガラスの花もデータとして送った。
「………まさか、これが」
 魔術、と言おうとした瞬間、花はいきなり光を放った。そして、白井は今までの経験がここにいては危険だと叫び、背後へ『空間移動』を繰り返すように促した。ヒュン、ヒュンと冷静にかつ迅速な『空間移動』を繰り返し、最後にガラス窓の向こうに『空間移動』し、落下した。
 そして、落下して数秒後に花があった場所は爆発し火の海に包まれた。白井はその光景を見ながら、近くにあった屋上に『空間移動』して膝をつき、爆発した場所をじっくりと見た。
『白井さん?! 白井さん!! 大丈夫ですか!!??』
「はぁ…はぁ…危なかった、ですの」
 緊張が一気に抜けそうになったが、まだ白井はここで止まる訳には行かない。すぐさま白井は携帯で初春、固法先輩と呼び、安否を知らせながら、燃えるビルを後にして、美琴の向かった方向へと消えていった。
 


 PM09:31
 白井はその後の現場は警備員に任せ美琴と合流した。そして、現場の状況と初春たちのサポートの元、地下へと潜った。
「魔術師が地上に出れば、初春と固法先輩が調べた情報はこちらにやってまいりますの。それに警備員は総力で魔術師捕獲にあたってますわ。ですからわたくしたちは、魔術師を地上に追いやることを優先しましょう」
「ええ、もう逃がさないわ」
 美琴は情報だけの魔術師をにらむように言った。白井はその顔を見て、少しだけ寂しそうな表情を見せたがそれを言葉にはしなかった。
「初春、固法先輩。地下に潜るのでしばらく切りますわ。情報のほうはお任せしますわ」
『わかったわ。それじゃあ、地上に出た際は連絡してちょうだい』
 わかりましたわと白井は通話を切って、美琴の後の続いた。
「この先の地下鉄に逃げこんだそうよ。黒子、任せていいかしら?」
 美琴は白井にそういうと、白井はお任せをと美琴の肩を掴み『空間移動』した。そして明かりの一切ない地下に足を踏み入れた。
 美琴と白井は警備員からもらった懐中電灯であたりを見渡した。破壊の後が特には見当たらなかったため、二人は線路をたどるように走った。
「たしかあの時も、魔術師はここにおりましたわね」
「…………ああ、九月の話ね」
 九月一日、魔術師シェリー=クロムウェルが学園都市にやってきた日。あの時に初めて魔術師という存在と戦った白井と、魔術に遭遇した美琴。あれからすでに半年以上が経つ。思えば、あの時から二人の運命は魔術世界へと向かっていたのかもしれないが、とっくに魔術に関わってしまった二人からすれば、それは過去の話だ。それに魔術に関わるのは二人も承知の上での行動だった。
「そして、二月の事件。………お姉様、上条さんには」
「うん。色々あったからまだ言えてない」
 白井はかすかな光の中で、美琴の横顔を覗いた。暗くて表情の全ては見えなかったが、それでも何かに耐えるような苦しそうな表情は、闇の中でも悲しそうに浮かび上がっていた。
 白井にはその表情の理由はわかっても、その苦しみだけはどんなに努力しようが理解できない。だがそれもそのはず。白井には美琴が上条当麻を失った時の苦しみや悲しみ、そして実際に見た光景がどんなものかわからなかった。何を思い、何に苦しんだかは口に出せば単純ではあったが、感情の痛みはその人、個人のもの。理解など出来るはずもなかった。
「でも、きっとアイツはもうわかってるから。だからあとは…」
 『能力者以外の存在が発覚。学園都市を襲った二月の悲劇』という記事はきっと上条は読んだ後だ。そこで表面上の事実を知ることとなったはず。だが美琴と白井は知る真実は、それとは少し違っている。
 世間では真実を移し返すことが、混乱を防ぐことなどに繋がるように、学園都市でも表面上の事件は、無事に終わっていると報道されている。だがそれは大きな間違えだ。現に美琴と白井は魔術を追いかけている。表では事件が起きたことでの影響下はほとんどないと言っているが、裏ではこのように魔術が科学に介入してしまっている。これが今の学園都市の現状であった。
「今回の相手は絶対に捕まえないと。もし、アイツと会ったりなんてしたら」
 美琴が魔術師関連の件で首を突っ込む理由は、それであった。
 美琴は一人の少年の安息を守りたくて、巻き込みたくなくて、そのために彼女は自分で魔術師を処理し、少年を守ろうとしていたのだ。当然、少年はそんなことも知らない。だが、知らなくていい、知ったら自分に怒り、代わりに戦うのは目に見えていたからだ。
「……………………」
 白井はそのことを知るただ一人の友人であった。そして、陰ながら見守り、彼女の願いを守ろうとするために、白井は美琴と付き添ってきた。だから彼女は何も言わず、少年のためだけに自分を投げ出す憧れ(あね)についていくと決めた。もう自分の願いが叶わない願いだとして…そのために白井は、自分も犠牲になる覚悟だった。
(上条さんは…幸せ者ですわ)
 ただ一人の少年のために、自分を犠牲にする美琴は白井にはまぶしすぎる。好きだと言って、守りたいから守るその感情はすでに、愛情という名の願い。
(お姉様は、貴方の為だけに傷つき、自分を犠牲にしておられるのですの。そして、貴方のために、何事もなく笑って一緒にいる………羨ましいですわ)
 だから白井は、その願いを守るために美琴の言葉に答えた。
「そうですわね。上条さんは魔術にも精通しているお方ですから、会ったら会ったで厄介ですの」
「ええ。絶対に…会わせる訳にはいかない。絶対に……」
 美琴は念を押して自分に言い聞かせた。


 PM09:37
 トンネルに入ってすでに五分以上が経過した。走る先々にはさきほど白井にしかけられた罠は一切なく、不気味な静寂を保っていた。
「さすがにこのような場所では携帯の電波がありませんの。お姉様は?」
「私も……やっぱり情報がないのは痛いわね」
「通話が出来なくとも、電波があれば出来ることはございますのに」
 美琴と白井は、何もないこの状況に疑いを持ち始めていた。なんらかの妨害工作があっても良いはずなのにそれがない。まるで、追っていると思い込まされている、または追う場所を間違えているかのような不安があった。
 情報が入ればそれを否定できる要素が出来るが生憎の圏外。携帯の電波は届くはずもなかった。
「警備員も風紀委員も追っている相手だから、簡単な情報さえ入ればこっちのにも来るんだけど……って愚痴ってる場合じゃないか」
 追っている魔術師は美琴と白井だけではなく、警備員や風紀委員も追っている相手の一人だ。この魔術師以外にも指名手配されている魔術師がいるが、追っている魔術師は破壊が専門であったため、街にも被害が起きていることが報告されていたので優先順位として追っている、また破壊専門ということもあり、追いやすい傾向のも理由の一つだ。
「ですが、解せませんわね。魔術師同士ならば、他の魔術師に協力をするべきだと思いますのに」
「たぶん、指導者。リーダーがいないからよ」
 リーダー? と白井は聞き返すと、美琴は思い出しながら話を続けた。
「二月のあの出来事ってさ、リーダーが・事件を起こした本人が起こしたものじゃない? でも起こしたのはリーダー本人じゃなく、リーダーが指揮していたグループ団体たちが起こしたもの。だけど、そのリーダーはもう捕まって魔術教会だっけ? そこに受け渡したじゃない。つまりリーダーがいないってことはグループの中心にいるものがいない。つまりグループとして成り立たない。結果、統一性がなくなり、個人は個人のしたいことを自由に行う」
「国家と同じですわね。今の日本という国には大臣、アメリカには大統領がいるのと同じで、中心にいる者がいなくなれば、国家は崩壊してしまいますの。法律だってリーダーがいてこそ成り立つものですし」
「言うなれば、私たちが追っている魔術師は崩壊した国家の人間。中心人物がいないから、自分したいことを自由に行う人間よ。こういった人間って自分で自分を止めないようなやつだから、捕まえないと厄介なものよ」
 美琴の説明に白井は納得がいった。言うなれば、今の魔術師は自由主義者の人間であり、規律や法律に左右されない存在。学園都市にはそれらが存在するが、外からやってきた魔術師の目的が破壊にあるのであれば、そんなものを守る義理はない。
 そして、守る義理がないからこそ、さきほど白井を殺そうとしたガラスの花を仕掛けることに戸惑いはなかったはず。こういった相手は白井にとっては厄介な分類に入り、『超電磁砲』にしても簡単には抑えられない相手だと理解している。
 上条当麻。彼なら細かいことを抜きにして魔術師を捕らえ、これ以上の破壊活動を阻止してくれるだろうがと考えたが、我に返った白井はすぐさま首を振ってそれを否定した。
(こういった相手はあの殿方向きだと思いますが…わたくしもあの方にもう無理はさせたくありませんの)
 白井も上条には負目を追っている。それはあの場で戦った一人としてではなく、一人の少年を心配する年下の後輩としての配慮であるが、心配されている本人はそんなことを知る由もないだろう。いや、知っているはずはないかと白井は思い出して訂正した。
「今は、魔術師だけを捕まることを考えましょう、お姉様」
 白井は美琴だけではなく、自分にも言い聞かせるように言った。真っ暗なトンネルはまだまだ続いていた。

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2010/09/15 00:57 | memories

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