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2024/05/04 11:55 |
Slow love 1
ちょっとした新作です。
思いつき…なんですけどね。
(個人的に気になったり反応次第で、文章を修正する…かも)



 戦争終結から数ヶ月が経った一月十五日の金曜日。
 戦争の後始末もほとんど終わり、学園都市にもやっと"いつも"が戻り始めた。
 ところどころには、撤去していない瓦礫や抉られた道路など、まだ完全には戦争の後を消し去れておらず、それを見るたびに戦争の大きさを再認識させられる者もまだ多い。
 少なくとも、学園都市始まって以来の出来事であったことはは間違いなかった。
 そして戦争の中心にいた人物『右方のフィアンマ』。それが上条当麻が戦った最大最悪の相手であった。同時に、戦争の渦の中心であり、学園都市を壊そうとした"科学"の敵でもあった。
 今思い返しても、なんであんな相手に勝つことが出来たか不思議でならない。
 圧倒的な力の差をロシアで見せられても、それでも勝とうとした過去の自分。たった一人の少女を救うために、大きすぎる相手と戦った過去は、上条には容量が大きすぎる過去であった。
 今は思い出すたび不思議な出来事であったと断言できるほど、思い出深い記憶であり、自分を変えてしまった大きな過去であった。
「…………」
 ふと、上条はifの出来事を想像した。
 もしあの時、インデックスを救う信念なしにフィアンマに挑んでいたら、果たして自分は勝つことが出来たのだろうか、と。
 その答えは、100パーセントNoであった。
 あの時、自分を動かしていたのは、誰かのために動こうとした自分の信念とインデックスへの想いだった。
 信じられないだろうが、フィアンマにはそれがあって勝つことが出来たのだろうと、最後の戦いのことを思い返した。
 それとは過去も今も変わらないもののことであった。だが戦争が終わり、元に戻った日常が目の前に戻ってきた今、それの中にある"ある一つのこと"だけわからなくなってしまった。
 日常に戻ってきた頃には"ある一つのこと"はなかった。でも今はその"ある一つこと"、"たった一つだけこと"が、どうしてもわからなかった。
 それは言葉ではなんと言えばいいのだろうかと考えてみても、これを言葉にするとなんという言葉になるか、上条にはまったくわからなかった。………今、このときは。
「何一人でシリアスやってるのよ」
 様々な考えや思い出を振り返っていた思考は、今の一声でシャボン玉のように弾け、思考世界の中から現実世界へと意識が戻ってきた。
「なんだ、御坂か」
 戻った現実―――自分の部屋―――にいたのは、制服の上に自分の好きなカエルのキャラがプリントされたエプロンをつけていた御坂美琴であった。
 美琴は、むーっとベットに腰をかけていた上条の見下ろしながら
「なんだとは何よ。まるで私が今来たかのような言い方じゃない」
 どうやら怒ってはいないようだが、今の発言に不満があったことは美琴の表情を見てみてわかった。
 前なら問答無用でビリビリだったのだが、とある出来事があった時に決めた決まりが大きな効果を生み、怒られるだけですんでいる。
 しかし態度は相変わらず年下なのに敬意を払わず、戦う以外の力も美琴の方が断然上であり、ビリビリをすること以外は上条は一切頭が上がらなかった。
 上条はそのことで文句があるわけではないが、長い付き合いで身についてしまった力関係をそろそろ直さないと、この先もずっと美琴に引っ張られぱなしになるような気がしていたので、最近は力関係を直すことを真剣に考えている。
 もっとも、今それを考えても手遅れな気が少々しているが、それをもっと考えてしまうと負けなような気がするので考えないようにしている。
「そんなこと思ってねえよ。というよりも、サボってていいのかよ?」
「今は待つ時間よ。馬鹿にするなっつーの」
 別に馬鹿になんかしてねえよと言おうと思ったが、話が長引きそうだったので言う寸前で飲み込んだ。
「それで? シリアスだった上条さんに何かようでせうか?」
「………アンタ、喧嘩売ってるの?」
「はぁ!? いや待て待て待て! なんでそんなことを言っただけで、そうなるんですか!?」
「っ!!?? それは!!」
「それは…?」
「それは…………ああ、もうどうだっていいでしょう!!」
 いきなりの逆切れである。しかも、些細なことでの。
 さらに逆切れ時に何故か美琴は漏電しかけた。が、人よりは何倍も良かった上条の反射神経がこのときに幸いし、周りに被害を及ばす前に右手で美琴の肩に触れ、漏電を抑え込んだ。
「お前な。ここでビリビリをしなくなったのは嬉しいけど、その漏電も一緒に直さねえと」
「し、仕方ないじゃない! それに、私だって好きで漏電をしてるんじゃないのよ、この馬鹿!」
 美琴は何故か怒りながら言うと、上条の右手を払って台所へと戻っていた。
 その後姿を見ていた上条は、はぁーと重たいため息をつくと、なんなんだ? と首をかしげて今の美琴の態度に疑問を持ったのだった。


 今日の夕食は、鯖の塩焼き。
 一般の主婦ならば、誰だって作れそうなシンプルなメニューだが、シンプルゆえに焼き方や塩加減などにどのような工夫を加えるかで味が変わってくる料理である。
「こんなもの、常盤台のメニューにはないわね」
「自分で作っておきながら何言ってるんだよ。というか、比べるものが違いすぎるだろ。それにお嬢様が鯖の塩焼きを食べるシーンなんて……なんか想像してはいけない気がするんだよな」
 それが最高級の鯖だったら問題ないが、お嬢様思考の者たちならば塩焼きにするどころか、もっと美味しい料理になっているに決まっている。
 自信が持てる予想をしながら、上条は美琴が作ってくれた一般的な料理と美琴を見比べて、違和感を持った。
(全然違う。図が合ってなさすぎる。一応、こんなやつでもお嬢様だし、御坂と鯖の塩焼きを同等に見れるわけないか)
 作った本人には無礼だと思うが、どうしてもそう思えてしまうのが美琴への最悪な皮肉であった。
「ホント、アンタはお嬢様を何だと思ってるのよ。別に想像しても痛くも痒くもないんだから問題ないじゃない。それに思うぐらいならアンタに罰は当たらないわよ」
「………お嬢様には貧乏人で不幸な上条さんの気持ちなんてわかるわけないんですよ」
 上条は何かを呪うように呟いた。
 美琴と白井を除く常盤台のお嬢様像を壊さないようにしたかったと言う意味であったが、言うだけ無駄なのはわかっていたので言わない。
 また、常盤台の内部事情を深く知りたいほど、上条は常盤台に興味を持っているわけでもなかったのも、言わない訳の一つである。
「それにしても、意外だな。常盤台の御坂って言ったら、何万もする高級料理しか作らないイメージしかなかったのに」
「アンタは私にどんなことを想像してたわけ? 大体、私だって普通の料理ぐらい作れるわって前に言ったじゃない?」
「………そうでしたっけ?」
「忘れてるんじゃないわよ!!!」
 過去に何度か料理の話をしたとき、普通の料理も問題なく作れると上条に言っているが、言われた本人はその時の記憶が飛んでいるようだ。
 しかし、前に言われたことを置いておいても、目の前にあった料理は十分に美味しそうであり、作れると言った言葉には間違いがなかった。
「前回はカレーで、その前はハンバーグ。んでさらにその前はステーキだったよな? あの時は嘘だろうって決めてたけど、本当だったんですね御坂さん」
「随分言いたい放題言ってくれたわね…ここがアンタの部屋じゃなかったら、電撃浴びせてるところだったのに…」
 眉間にしわを寄せながら、拳をぎゅっと握って耐える美琴。それを横で見ていた上条は、ほっと安堵の息をついた。
「わがまま言って作らせて貰っている身だし、アンタの言うことには従うしかないわ。まったく、どうして出入り禁止令なんて面倒なものを作ったのかしら」
「そうでもしないと、お前は電撃ビリビリをやめないだろう。それに電撃の一番の被害者はわたくし、上条当麻なのですがね」
 上条は被害を受けた電化製品の代わりとなる最新型の液晶テレビを見た。
 実はこれは美琴が弁償したテレビで、変えてまだ一ヶ月もたっていないおニューのテレビだ。
 そしてこの前のテレビは、上条が記憶を失う前からずっとお世話になっていたが、約一ヶ月前に美琴の電撃を受け、その役目を終えてしまっている。
 まだまだ使えそうであったが、壊れてしまってはもう使えない。なので、弁償すると言った美琴に弁償をさせたのが、これであった。
 と言っても、実は上条はテレビがなくてもまったく問題ない。むしろ、なくてもあまり困らなかった。
 しかし、それは上条が一人暮らしだった頃の話で、今はインデックスとの二人暮しでの話をしている。
 そのインデックスは今はイギリスへ出張中であるが、戻ってきた時にテレビがないとなると怒り狂うインデックスの表情が容易に想像できてしまうので、もしそれが現実になれば上条の頭蓋骨が割れてしまう可能性が非常に高い。
 ということで、自分の頭蓋骨のためにも、今回はちゃんと弁償をさせたわけであった。
 もっとも、年下の中学二年生にテレビを弁償させたのはかなりの罪悪感があったが、過ぎてしまったことなので今は気にしないようにしている。
 その弁償した本人の買ったときの表情は、蚊に刺される程度にしか思っていなそうであったが……思い出すと何故か涙を流したくなるので忘れることにした。 
「うっ。わ、わかってるわよ。あれは、私が悪かったって」
「別に責めてるわけじゃねえよ。それにテレビだって弁償してもらったし、上条さんが決めたルールでこの部屋にいる間は電撃がなくなっただけで、十分満足ですよ、御坂さん」
「ま、まあ私も料理が美味しいかどうかアドバイスをもらえるし、ま、満足よ。電撃だって、別にどうだっていいし」
「電撃に関しては怪しいけど、上条さんも美味しい夕食を食べれることには満足です。でも、買い物から皿洗いまで全部やらせてばかりだと悪いと思うんだけど」
「なんでそんなことでアンタが罪悪感を感じてるのよ。私はこれで満足してるんだから気にしなくてもいいわよ」
 そうは言うけど、気にしちまうんだよなと腕を組みながら思った。。
 確かに美琴に夕食をただで作ってもらえるのは、貧乏であり居候を抱えている上条からしてみれば、まさに天の助けである。だが同時に、申し訳のないと思う罪悪感はどうやっても必ず出てしまう。
 そのことに美琴は気にするなと言っているが、言われると余計に思ってしまい、さらに罪悪感を募らす。
「でもやっぱ、恩はきっちりとした恩で返すもんだし、気にするなって言われて気にしなくなるほど、俺は楽に出来てねえよ」
「お人よしのアンタなら、その通りかもね。でも本当に気にしなくていいのよ。私は私のしたいことをしてるだけだからさ」
「………ならいいけどな」
 したいことをしているだけ。そのように言われてしまっては返す言葉が思いつかず、無理やりにでも納得するしかなかった。
 だが、今の言葉に上条は少々疑問を持った。
(したいことをしている……それって俺の部屋に来て夕食を作ることだよな。でもそれがしたいことって、どういうことだ?)
 そのことを理解するためには、"はじめ"を思い返す必要があるのかもしれない。
 そう思いながら、上条は去年の十二月のことを思い返した。


 去年の十二月三一日。
 クリスマスが終わり、あとは今年最後の締めくくりである大晦日と来年の始まりを告げる元旦を待つだけであった。
 その最中、何故か上条家と御坂家は親交が深い関係により、十二月三一日と一月一日を御坂邸で過ごすこととなった。
「というか御坂。お前、こうなるって知ってたのか?」
「……………まあ、一応は」
 そして招かれた御坂邸の一室で、何故か上条は椅子に座っている美琴と二人っきりで話をしていた。
「はぁー、不幸…ではないけどしてやられたって思うな」
「わ、悪かったわよね! してやっちまってさ!!!」
 その言葉が言い終わると同時に、美琴の前髪から少し細い雷撃の槍が飛んだ。上条はそれを右手で咄嗟に防ぐと、今度こそ不幸だと言って肩を落とした。
「お前な。いきなりビリビリしてくるなって。この距離じゃ、右手が間に合わないかもしれないんだぞ」
「そうなったらアンタの自業自得よ。それに、威力を落としてるから当たっても何時間か気絶するぐらいだから安心なさい」
「それで安心しろと言うほうが無理に決まってるだろう!!! ああ、もう不幸だー!」
 まさか今年の最後の最後までビリビリを防ぐことになるとは、思いもしなかったと上条はさらに気持ちが沈んだ。
 今年最後は家族で平和に科学と魔術のことも忘れ、のんびりと年を越せると思っていたら、現実はこれであった。 
 どうやらどこへ行っても科学と魔術、不幸は必ず付いてくるんだなと上条は嫌なことを改めて認識しながら、もう一度不幸だと言ってため息をついた。
「ああ、もうイライラするわね! 不幸不幸ってそんなに私と一緒なのが嫌なの!!」
「別に嫌なわけじゃねえけど、ビリビリばっかしてくるのは嫌だ。というか、そんなにイライラしてるんなら、ここじゃなくて下にいる親のところにでも行った方がいいか?」
「ッ!!?? 別にここにいてもいいわよ!!! というかいなさいよ、馬鹿!」
 と、また同じように雷撃の槍が飛んできて、上条はそれを防いだ。結局なんなんだよと、振り回されっぱなしのこの状況に、上条は重たいため息をついた。
「まあいいか。んで、なんで上条さんはここに来させられたのでせうか?」
「え……? あ…そ、そうだったわね」
「そうだったわねって、お前な。呼んだのはお前だろ?」
 二人っきりの理由、それは美琴が上条をここに、自室に呼んだからだ。
 下では大人組がワイワイと騒いでいるのか、仲良く話し合っているのかどうか知らないが、とりあえず仲の良い両家であったため、うまくやっているのは想像が出来た。
 それに御坂邸に呼んで年を越そうと考えるほどの仲が良かったようなので、無駄なことを心配する必要もなかった。
 ただ唯一心配するとしたら、御坂美琴の存在だけであったが、さすがにそれを口に出して言ったら、面倒になることは必至だったので言いはしなかった。
「いきなり『あとで部屋に来なさい』って言うから来てみたら、電撃が飛んでくるし、怒られるし、イライラさせちまうし、踏んだり蹴ったりすぎる」
「そ、それは……アンタが悪いのよ」
「はぁ~また俺のせいかよ。最近ずっと俺のせいばかりにされるよな」
 不幸だとため息をついた。その行為が美琴の苛立たせる原因であるのだが、当の本人はそのことにまったく気づいていなかった。
「もう全部全部アンタが悪いのよ!! 自覚あるの!!??」
「全部俺のせいなのかよ。はぁ~ここまで来て、なんでそんなことを言われるんだか」
 言われるだけ言われてしまった上条は、五回目の不幸だを言うと、本当は用がないんじゃねえかと思いこみ部屋を出ようとした。
「って、待ちなさいって!」
 しかし部屋を出ようとドアへ向かった上条を大きな声で静止させる。それに上条は一つため息をついて振り返った。
「だから、用件はなんなんだ? 用があるからって聞いたけど、さっきから全然何も言ってくれねえじゃねえか。それに全て俺のせいと言われてしまった上条さんは、ここにいてもまた苛立たせちまうだけだろ?」
「うっ…………わ、わかったわよ。さっきのは言い過ぎた。だから本当に用があるんだから、出て行くのならそれを聞いてからにしてよ」
 苛立っていた態度がいきなりしおらしくなった。
 これは出て行こうとしたからなのか、本当に申し訳ないと思ったのか。それとも別の訳があるのか…いきなりの変化の訳を考え出したら、キリがなかった。
 ただやっと用件を話してくれるようになったことはわかったので、上条はドアから離れた。
「ほら、座りなさいよ。さっきから立ちっぱなしでしょ」
「あ、ああ。そうだったな」
 と誘導されたのは美琴のベットであった。そこに上条は腰をかけようと思ったのだが、女の子のベットに座っていいものか不安になった。
「あの、御坂さん。本当に座ってもよろしいでせうか?」
「何よ? 別に何も仕掛けてないから安心しなさい」
「いや、そういうわけではなくてですね。ここは貴方様のベットではなかったのでせうか?」
「ぁ…………っ!! そんなことはどうでもいいから早く座りなさい! じゃないとまた電撃を―――」
「はいわかりましたありがたく座らせていただきます!」
 電撃を喰らうのならば素直に座った方が何十倍もよかったので、上条はすぐさま頷くと椅子取りゲームをするかのようにパッと座った。
 それを見ていた美琴は、アイツが私のベットに座っちゃったと上条に聞こえないほど小さな声で言って赤く染めた。
「? 御坂、顔が赤いけどどうかしたのか?」
「な、なんでもないわよ! なんでも!! アンタが気にすることじゃないわ!!」
「??? ならいいけど……」
 苛立ったと思ったらいきなりしおらしく、と思ったらまた苛立ったり、すぐさま変わる美琴の感情の変化に上条は、いつものことかと特に疑問を持たなかった。
 というよりも、前々から感情の変化が激しかったことを知っていたので、知らぬ間にそれに慣れてしまったことだったので、疑問を持つことをいつの間にか忘れてしまっているだけであった。
 その原因は上条自身にあったというのに、その本人はまったく気づいていなかったことは、かなりの皮肉で美琴からすれば泣きたくなるほどの問題であったが…。
「それで、そろそろ用ってやつに入って欲しいんだけど」
「あ、ぅっ……そ、そう、ね」
 歯切れ悪くであったが美琴は何度も頷いて、そうよね、そうとブツブツ独り言を言いながら俯いた。
 用ってそんなに言いにくいことなのか? と言おうとしない美琴を見て疑問に思った。だがそう思えば、長い無駄話(?)をして用件をすぐに言おうとしなかった理由に繋がるような気がした。
 しかしこのまま待っていても、また同じようにはぐらかされそうになると思ったので、念のために一言だけ手を打った。
「とりあえず気になったことが一つあるんだけど、いいか?」
「いいわよ。答えられる範囲なら…」
「んじゃ訊くけど、俺にはメリットとデメリット、どっちのが大きいんだ?」
「……………メリットのが大きいわよ」
 考える素振りは見せなかったが、言うまでの間が妙に長かったことは気になった。
 しかし上条にはちゃんとメリットがあることはわかったので、面倒なことではないと今の段階では思えたので、不幸な不安が一つ解消されたようであった。
 が、不幸な自分には気を抜くと落とし穴が待っているオチが存在するので、まだ気は抜けなかった。
「言うからには当然、御坂にはメリットはあるんだよな?」
「う……うん。私にも、あるわ」
 美琴にも得があり、上条にも得があるもの。美琴はそれを上条に頼もうとしている。
 あまりにも情報が少なすぎるため、一体何のかまったく想像が出来ない。そうなると後はもう言ってもらったほうが早いと思った上条は、それで何の? ともう一度問いかけると、わかったわよと言って美琴は頷いた。
 それから言うわよ…言うわと小さな声で上条に念を押すと、上条はそれにどうぞと頷いてみせた。
「その……あ、アンタってさ………あの子、インデックスに食べさせてあげてるんでしょ?」
「ああ。そのおかげで上条さんの生活は、貧乏生活が超貧乏生活に変わって日々苦労してるが、それがどうかしたのか?」
「え…!? あ、ああ……うん。それね…それがね…それ……それが…ね……」
 美琴は後一歩が踏み出せない。上条は言いたくても言えない気持ちなんだろうと今の美琴の気持ちを理解しているように思っているが、上条が理解したものと美琴が今抱いている感情はまったく別物であった。
 だが別の感情であったが、上条は何も言わないで待ったほうがいいかと思い、何も声をかけず言うまで待つことにした。
「…………………………………………」
 何回もそれを繰り返し、その先を言おうとしない美琴。それでも上条は痺れを切らせずに、じっくり気長に待ってあげた。
 そしてそれが一〇〇回あたり繰り返された時、
「それが………………………大変そう、だから………夕食、作ってあげに行ってあげよう……かな、て。も、もちろん…買い物代は自分で払うから、さ」
「…………へ?」
 美琴の言うとおり、貧乏人の上条にはとても魅力的な提案であったが、同時になんと反応すればいいか困る提案であった。 


 時は戻って一月。
 今日の夕食も美味しくいただけた上条は、満腹になったおなかを撫でながらベットに腰を降ろして食休みをしていた。
 その間、夕食を担当してくれた美琴は作るのに使った調理道具や汚れた食器を一人で片付けをしていた。
「毎回毎回悪いな、御坂。作るだけじゃなくて皿洗いまでやってもらって」
「いいのよ。これも私がやりたかったことだし、わがままを言っているの私なんだから、それを聞いてくれているアンタが気にすることじゃないわよ」
「そうは言われてもな~毎回食べるだけって言うのもなんだか申し訳ないぞ?」
「そう思うんなら、そこで食休みしてなさい。それが一番の協力よ」
 上条の心遣いに美琴は機嫌よく答えた。
 表情だけ見てもとても機嫌が良さそうだし、珍しく鼻歌なんかも歌っている。さすがにその気分を害すようなことが出来なかった上条は、後片付けの仕事を奪うのは逆に悪いなと思って、それ以上は何も言えず美琴の言われた通りにするしかなかった。
 しかもそう思うのは後片付けだけでなく、夕食を作っている最中にも手伝うのは逆に悪いなと似たようなことを思っていた。
 それほどまで料理をするのが好きなんだなと、毎回上機嫌に夕食を作り後片づけをしている美琴を見て思った。
 作る前まで不機嫌になりやすいと言うのに、いざ作り始めてから作った夕食を二人で共にするととても上機嫌になる。そしてその上機嫌が続くのは、大体部屋を出るあたり。つまり帰るまでだ。
(自分で作った料理を食べるってそんなに嬉しいことなのか? それとも美味しいって言ってもらって自信がついたりでもしたからか?)
 まず最初の一口は、美味しいか不味いかを言わなければいけないという決まりがある。これを決めた美琴が言うには、どの料理が得意で、どの料理が苦手かをはっきりしておきたいという。
 しかしいざ試食してみると、お世辞抜きで十分に美味しい。しかも今のところ、不味いものは一切なく全て美味しいと自信を持って言えるほど、美琴の作る夕食は美味しい。
 その腕前は夕食だけではなく、朝昼も作って欲しいほどだ。だが、美琴には美琴の生活がありただで夕食を食べさせてもらっている上条からすれば、これ以上を望むと不幸よりも重い罰が当たりそうな気がしていた。
 それに、今はいないインデックスがいるときにこの部屋で遭遇してしまったりなんてしたら、大事になることは必至だったので今だけで満足しておこうと、これ以上の欲は自分のためにも抑えた。
「そういえば、次はいつ来るんだ?」
「次…? そうね~………明後日で、どうかしら?」
「明後日、か。わかった」
 毎日夕食を作ってくれる、というわけではなく二、三日に一回は作ってくれる。なので、次はいつかを聞いておかないと翌日、買いすぎたなんてこともありうる。
 それを回避するために、上条は皿洗い中に次はいつかを毎回訊いている。これも貧乏学生である自分が損をしないようにするための一つの努力である。
「あ、そうだ。ねえ」
「ん…?」
「リクエスト、とかある?」
「リクエスト? って次の夕食のリクエストでせうか?」
「そうよ。次の夕食のリクエスト」
 そう言われて、上条は少々戸惑った。
 実は、何回も作ってもらってはいるが、自分でこれが食べたいと考えたことはまだないのだ。その理由は、美琴の料理はどれを作らせても美味しいので、値段のことで愚痴ったりはしたが、どんなものでも味に満足してしまっていたのだ。
 そのため、どんなものでは食べれればいい、という考えを少し変えて、御坂の料理ならどれも美味いと考えるようになってしまった。
 その結果、美琴のこんな料理を食べたいと考えるよりも、どんな美味い夕食が食えるかとメニューよりも味への期待が圧勝してしまい、自分でリクエストしてみたいと考えたことは今までなかったのだ。
 しかし今は問われてしまった状況だ。上条は今まで作ってもらったものを思い返しながら考える。
「いきなり言われてもな………リクエストなんて何も思い浮かばないぞ」
「何かあるでしょう? 自分が食べてみたいものとか」
「いや、それを考えたことがなくてな……う~ん、食べたいもの、ねぇ」
 美琴は、そんなに真剣に考えることかしらと呆れてため息をついた。
「はぁ~。なら洋食か和食でいいわよ」
「洋食か和食。今日は和食だったし、次は洋食っていくのがセオリーか?」
「まあ…和食和食っていくも悪くはないけど、アンタがそう言うなら洋食にするけど…」
「じゃあそれでいい」
 上条は流れに任せてあっさりと、特に考えずにセオリー通りに決めた。。
 それに美琴はまたため息をつくと、
「……………期待して訊いた私が馬鹿みたい」
 と切なそうに呟くと
「ん? 何か言ったか?」
「……なんでもないわよ」
 何言ったんだ? と聞こえた言葉が気になったが、美琴は答えてくれなかった。

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2010/06/15 22:57 | Slow love

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