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2024/05/06 00:03 |
ゼロプラスファイブ 2
『失恋(しつれん)とは、恋する相手への気持ちが成就しないこと。また、恋愛が何らかの形で終止符を打たれる事である。その形は様々だが、多くの人は、深い悲しみとショックに陥る。基本的に死別は失恋に含めない』(Wikipediaより引用)

今回は自己満足で書いているというよりも、テーマに沿って自分なりの意見を文章にして書いている感が圧倒的に強いです。なので、「イチャイチャがほとんどないから話を楽しもう」ではなくて「このシーンはこうではないか? こうするのがいいのではないか? こう思わないか?」と考えながら読んで欲しいです。特にこれ以降は…。



 上条が学園都市からいなくなって一ヶ月が経とうとしていた。
 クリスマスも終わり今年もあと残すところは一週間を切っていた。学校が終わった学生たちは、帰省シーズンに入り来年と言う年を家族と共に過ごす学生は学園都市では八割近くいる。もちろん、教師や研究者たちにもそのような考えのものもいるが、彼らは学園都市で貴重な大人であったため、大概は年越しも学園都市ですごす。その中にも仕事をする人たちもいたりするのだが、それを省いても学園都市には大人たちはいた。
 そして、上条の通うとある高校も美琴と白井の通う常盤台にも帰省していく生徒はたくさんいた。
 だが美琴と白井は今年は帰省する気は一切なかった。その理由はもちろん、上条当麻の件が残っていたからだ。
「お姉様。お身体のほうは大丈夫ですの?」
「あ、うん。最近は何もないから今は平気」
 美琴と白井は上条がよく入院するカエル顔の医師にいた。
 そして何故二人がここにいるのかと言うと、
「お姉様がご入院されてそろそろ二週間。そういえばお姉様は帰省されないのですの?」
「今年は…出来ないかな。ほら、入院しちゃってるし、それの件で家族にも迷惑はかけたくないから」
 美琴はぎこちなく笑って窓の外を見た。
 今年は雪が降ることはないが、相変わらずの寒さであった。この病室にも暖房が配備されているため、部屋の中は暖かいが窓の外はとても寒い。 病院までやってきた白井はその寒さを体感しながらここまでやってきた。だからここと外ではどれほど寒いのかがよくわかる。しかし美琴はここから出ていないらしく、今の部屋との差がわからないそうだ。
「一度お外で出てたどうでしょうか? ずっとお部屋にいても退屈でしょうし」
「いいよ。外に出ても寒いだけだし……」
 といって美琴は自分の携帯の視線を落とし、悲しそうな表情を浮かべた。
 何度も見舞いに来ている白井には何故そんな表情をして携帯を眺めるのかわかっていた。つらそうな表情は悲しさを表現しており、携帯は彼との唯一の連絡手段として大切に持ち続けている。
 白井は視線を床に落とし少しばかり考えた。そして考えを決めると、恐る恐る美琴の表情を伺いながら訊いてみた。
「上条さんからは……」
 白井の質問に美琴は首を横に振るだけだった。
 そうですか、と白井は言うと右手を握り締めて唇を噛んだ。連絡がないと薄々気づいていたが、美琴から答えられると残念だと肩を落としたくなる。だがそれよりも白井が感じていたものは、力がなかったことへの後悔だった。
「来るわけ……ないじゃん」
 今にも泣き出しそうな声で美琴は言うと自分の持っていた携帯を強く握り締めた。
 悲しいではきっと済まされないほど美琴は追い詰められ抜け出せずにいる。あの日の後悔をまだ引きずっている。白井にはそれが痛いほどわかっていた。だが白井には美琴の悲しみを癒す術は持ち合わせていない。
「私はアイツに嫌われたんだよ。だからさ……もう、来るわけ……ないじゃない」
「……………」
「それに、戻ってきたところでどうするの? 謝って許してくれても私は………きっと耐えられない。もう…嫌なの」
 すっかりと弱々しくなってしまった美琴を見ても、白井は軽蔑や幻滅などはしない。
 元々白井は美琴の弱い部分も知っていたしその程度で見捨てるほど白井は悪人でもない。むしろ感じたのは、救いたいと思う一人の後輩としての手助けだった。
 だけど本当に助けることが出来るのは上条だけ。姿を消す前に見せた、美琴が好きであるとはっきりと言った少年だけだ。
 しかし白井はそのことを美琴には言っていない。いや言う気は一切なかったと言うべきであろう。
「お姉様は、そこまで上条さんが好きなんですね」
「ごめんね、黒子。私、もうアイツがいないと全部ダメなの」
 申し訳なさそうに頭を下げる美琴に白井はいいですのと優しく首を振った。
 白井には上条が美琴を好きだとわかったときからもう気づいている。上条と美琴にあった本当に小さなすれ違い、上条の小さい勘違いがここまで大きくなるなど今思い返すとまだ信じられないのが白井の本音である。
 しかしそれほどまでなのだと、美琴の上条への感情を思い知らされる。ここまで行くと恋愛などでは片付けられないような気がしているのが今の白井の意見だった。そして美琴が上条に持つのはきっと『愛』。恋人ではなく夫婦となったものたちがお互いの注ぐものだ。
「アイツがいなくなるのは慣れてるはずなのに、今回は体調を崩して病院生活だなんて……自分でも信じられないんだ。たかがアイツがいなくなったぐらいでさ。でも、たかがだけなんだけどあのことがあってから私、もっとアイツが好きになっちゃってさ」
「……ええ」
「おかしな話だよね。アイツからは嫌われているって思われてるって知ってさ、気づいてみたらアイツの顔を叩いててさ。きっと私は嫌われたんじゃなくて、アイツが私に嫌われたって勘違いしているだけだと思うんだけどさ。………だけど、さ」
「………………」
「結局、同じなんだよ。私からすればそれは私を嫌って避けられているのと同じ。アイツと肩を並べられないのは振られたのと同じ。だから、諦めようかなって考えたりもするんだけどさ」
 そこまで言われて白井は美琴を一切視界に写さないように背を向けた。
 でも白井には美琴がどんな顔をしているのかが想像できてしまう。想像できるのは見たことがあるからではない。泣いている声から白井の頭にそれが鮮明に映像となって考えられてしまうからであったからだ。
 そしてそれが頭に思い描かれた瞬間、白井は胸が痛くなり腕を置いてそれに耐える。この痛みは白井にはわかっているし対処法もわかっている。だから白井は美琴に悟られぬように痛みに耐えながら、美琴の話しだけに耳を傾けた。
「無理なんだよ。私はアイツしか知らないしアイツしか考えられない。忘れようとしても私にはアイツしかいないのよ。それをさ、つい最近になって気づくなんて…どうかしてるわよ、私」
「……………」
「私の世界はアイツで回ってるの。だから助けてと呼ばれれば助けに行くし、呼ばれなくても助けに行く。誰よりもアイツが好き。誰よりもアイツといたい。誰よりも……私を……見て…欲しかった」
 その言葉の数々は白井が初めて聞いた想いばかりであった。素直にならず、友人にさえもそれを認めなかった美琴が、初めて白井に上条が好きだと心の真実を告げたのだ。
 それを聞いていた白井が思ったことは、上条への嫉妬ではなく美琴への想いの諦めだった。しかもあっさりとした悔いのない感覚であった。
「ごめん、黒子。アンタにはきつい話だった」
「いいえ。わたくしは………わかっておりましたから」
 言われる前からずっとわかっていた。上条への想いの強さを美琴が口にする前からずっと昔に……。
 だから白井は自分の想いが届かないことに動揺もせずに素直に受け入れられた。受け入れられたからこそ、白井は責任を果たして美琴を幸せにしなければならない決意を再度固めた。
 そして次にやることを決めると、白井は背を向けたまま見舞い客用のパイプ椅子から立って出口へと向かった、途中で白井は、黒子と言う美琴の声に振り替えそうになったが、白井はなんですのと見ないように答えた。
「今年はもう来なくてもいいわよ。黒子にも黒子のことがあるだろうし、私は―――」
「もう聞き飽きましたわ、お姉様」
 ぴしゃりと白井は言って出口の戸に手をかけて、戸を開けた。
「上条さんを守れなかった責任はわたくしにあります。それに黒子は黒子のしたいことをしているだけですの。ですからお姉様」
 そこで白井は後ろを振り返って美琴を見る。そして美琴に微笑みかけて優しい声で、
「信じてください。わたくしと上条さんを……」
 病室を後にした。

 美琴へのお見舞いを後に白井が向かったのは、第一七七支部。
 距離はそれなりにあったが移動時間の短縮に空間移動を用いながら、白井はそこへと一気に飛んでいった。
 そして、支部の入り口のドアを開けると白井はゆっくりと支部にただ一人でいるある人物の元へと歩いてく。その人物はこちらに一切気づいていなかったが、仕事中であったので白井はあえて声をかけずにその人物の近くで止まって肩を叩いた。
「うひゃぁ!! あ、白井さんですか。御坂さんのお見舞いは終わったんですか?」
「ええ、おかげさまでね。それで急ですけど初春。結果は?」
 その人物、初春飾利は首を横に振って申し訳なさそうな表情を浮かべた。白井は残念だと思いながら、何かありましたかと初春に再度問いかけてみたが初春の反応は同じだった。
「今日も帰ってきた報告はなし。監視カメラと衛星を用いていも学園都市内では発見できませんでした」
「そうですか。わかりました、ありがとう初春」
 そういい残すと白井は自分の席に座って、パソコンを起動して初春の行っていた作業を引き継いだ。
 その作業と言うのは第七学区内の全ての監視カメラを使った張り込み調査だった。そして張り込みの相手は学園都市にいるかわからない上条当麻である。
 この作業は上条の行方がわからなくなった数日後から今まで行われていた白井の独断の調査だ。もちろん風紀委員の本部は上条の調査には一切関わっていない。つまりこれは風紀委員としてではなく、白井黒子としてのけじめの調査であった。
 と、言ってもこの調査には自由性があるが制限は多い。日常生活と風紀委員の仕事も両立させなければならないため、時間が圧倒的に少ない。さらに美琴へのお見舞いなども含まれたりしているので、この作業が出来るのは本当にわずかな時間だけだ。
 さらに現地調査などが向いている白井には、このような情報関連の作業は得意とはいいがたい。一応、常人よりも情報関連のスキルはあるがそこには限界があり、全て一人でこなせるほどの力は白井は持ち合わせていなかった。
 なので今回の件には、情報処理のエキスパートである初春に協力を仰いだ。もちろん個人的な調査であったため、無理強いはしていないが事情の説明と白井の必死の頼みに初春は頷いて今日まで手伝ってくれている。白井は感謝しても仕切れない大きな借りを初春にしてしまったが、今の白井には借りの話はどうだってよかった。今は協力をしてくれる初春に感謝しながらこの作業を続けるだけだった。
「そういえば初春は明日から帰省でしたのよね。帰ってくるのは来年ですの?」
 画面とにらねっこしながら、初春と二人きりの支部で帰省の時期のことを思い出した。
 風紀委員である白井と初春の帰省は少しばかり制限されている。この時期はどこも休みであるため、必然的に犯罪や騒ぎが多くなる傾向にある。本来、その時期にこそ風紀委員は全員でしっかりと活動しなければならないのだが、今年の最後のとなる月では風紀委員の中にも帰省をする生徒は多く全員の活動は難しくなる。さらにこの時期は、学園都市の生徒が一気に減るため、同じように風紀委員も一気に減ってしまう。
 なのでそれらを防ぐために年明け前に帰省する生徒と年明けに帰省する生徒にわけて、風紀委員の活動を行う生徒をわけている。本当ならば帰省をさせたくないのが上層部の意見であるが、そんなことをするほど上層部は鬼ではないし反論が飛んでくるのはわかっていたため、この政策を行っている。
 そして年明け前に帰省する初春は、そうなりますねと年明けに帰ってくることを白井に伝えた。ちなみに初春が帰ってきた後に、白井が帰省するパターンであるため、白井が初春の帰省の時期を知るように初春も白井が帰省する時期を知っていた。
「固法先輩は年が明けた翌日に帰って来るそうなので、それまでの間はお願いします」
「言われなくともそのつもりですわ。それに今のわたくしには逆にそれは好都合ですわ」
 明日からこの支部は白井一人での配属となる。本当ならばまだ一年目の新人の白井がここに一人で残るのはあまり良いものではないが、初春と固法は年明け前のグループにわけられてしまっていたため、こればかりは仕方なかった。
 だが白井からすればこれはとても都合のいいものでもある。なぜならここを一人で扱えると言うことは、上条を探すのに専念できるということである。もちろん、風紀委員の仕事もしっかりこなすが最近はこの第七学区は平和であるため大きな事件はないだろうし、仕事をこなすと言ってもいつものことなので苦にはならないはずだ。
「初春、帰るときに監視カメラと衛星のアクセス権の設定をお願い出来るかしら? 面倒なら今すぐにでも構いませんけど」
「じゃあ、今設定しときます。ついでに簡単なアクセス方法があるのでそれも一緒に教えときます」
 そういうと初春に席を立ち白井の横に立つと、白井と操作を代わってもらってキーボードを打ち込んでいく。白井よりも早いキーボードさばきで初春はどんどん作業をこなしていく中、不意に白井の携帯電話の着信メロディが鳴り始める。
 誰ですのと白井は携帯を取り出すと、画面を眺めて誰からの着信かを見てみた。
「……あら? ご登録されていないお方ですの?」
 電話番号だけが表示される画面には登録されていない番号が表示されている。このような時は大概間違い電話の線が大きいが、気づいたからには一応とって相手に一言言うのも礼儀であろう。それに間違い電話だと気づかないと何度でも来る可能性もあったし、それはそれで面倒であったので白井は本体を耳に当て通話ボタンを押した。
「はい。こちらは風紀委員の白井黒子ですの。どちら様でご用件はなんでしょうか?」
『………白井か?』
 その声を聞いて白井は身体は凍りつくほどの大きな衝撃を受けた。
 電話先の相手の声は白井が知っている相手だ。交流は多くないが知り合いの域を出た友人に近い存在であり、今の白井を悩ませていた原因。
「上条さん!!?? 上条さんですのよね!!??」
 興奮のあまり白井は大声で相手が誰かを確認する。当然、作業をしていた初春も上条の名前が出たことで作業をやめ、驚きながら白井を見て電話の相手との会話に耳を傾けた。
『ああ、上条当麻であってる。久しぶりだな、白井』
「久しぶりじゃありません! わたくしもお姉様もずっと心配しておりましたのよ!」
『ああ………わかってる。悪かった』
「………上条さん。なんだか声が暗いようですけど、何かありましたの?」
 ふとした違和感を白井は通話越しの上条の声から察した。それに上条はちょっとなと微妙な返答を返すと、白井はそれ以上追及せずにそうですかとあとを引いた。
「それで、今はどちらにおりますの? それにわたくしに電話をするということは何かあるということでよろしいのですよね?」
『ああ、今は自分の部屋にいる。すっかり埃が被っちまった部屋だったから掃除しようと思ってたら、ちょっと連絡が遅れた』
「自分の部屋……ああ、男子寮の」
 電話に答えながら、白井は初春を見て視線で指示を送った。初春はそれに頷いて、白井のパソコンを弄ると第七学区内にある上条の男子寮の監視カメラの映像が一気に表示された。その中には上条は映っていなかった。
「それでご用件の方は?」
『ああ。実は頼みたいことがあるんだけど、聞いてもらえないか?』
「それは電話でないとダメなことですの?」
『……………………………』
 上条は何も答えない。というよりは答える気がない。
 白井はそう判断するとわかりましたと言って、席を立った。
「今からそちらにお伺いします。話はそれからお聞きしますわ」
『あ、おい。しら』
 最後まで聞かずに白井は携帯を切ると、初春と呼んで初春の顔を見た。
 そして白井に見られた初春は何をすればいいのかわかったらしく、はいと言うと自分の携帯を取り出して白井に電話をかけた。
「白井さん、何かあったらすぐに報告します。なので携帯は帰ってくるまでの間、切らないでください」
「わかっておりますの。以前のこともあるだろうし今回は少し警戒して行ってきますわ」
 そう言い残すと白井は扉を開けて、走っていった。そして携帯を耳に当てながら白井は上条の待つ男子寮へと向かった。

<その3>
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2010/03/22 13:57 | ゼロプラスファイブ

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