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2024/05/03 21:17 |
とある恋人の登校風景 後編
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
入学式本編を書いていたはずなのに、短くまとめようと思った前置きが長くなって入学式本編に入らなかった。何が起きたかわ(ry
前回よりもいちゃ分は減って微妙なシリアスが入ってます。




 上条にはある不幸な過去がある。
 といってもそれは記憶を失った時の話や学園都市内での話ではなく、学園都市に来る前の話だ。
 学園都市に来る前の幼少時代、上条の不幸は学園都市の生徒たちのようにギャグのように受け入れられるほど周りは優しくなかったという。上条の不幸は周りからすれば迷惑きわまりない体質、言うなれば嫌うものの対象であった。
 不幸と言うのはまだ子供から見れば何が起こるかわからないもの。さらにそれが怪我に繋がったりすれば不幸は怖いものであると小さな子供は判断してしまう。たとえ大人が違うと言っても、目の前で起きた不幸を否定することには繋がらない。それが長い時間続くとなれば、子供たちは不幸を恐れ嫌っていく。
 そしてその対象であった上条自身が嫌われる。近くにいたら自分も被害にあう、何かに巻き込まれる、自分にも不幸が移る。子供たちはそういって同じ子供である上条を忌み嫌い恐れた。
 それは他の親たちや先生も同様である。目の前の起こる不幸は笑いでは済まされないことも多く、自分たちにもいつ不幸で被害にあうかわからない。それを嫌ってはいけないと思いながらも不幸を恐れてしまう大人たちは、いつしか上条を嫌っていった。
 その結果、彼につけられた名が『疫病神』。一緒にいるだけで自分たちも不幸になってしまうことを恐れた子供や大人たちがつけた名前である。
 その名をつけられた時、過去の上条は何を思ったのかは記憶を失ってしまった今ではわからない。だがとても悲しくかったのではないかと思える。怒りや憎しみではなく、嫌われる悲しさだけが当時の上条を支配していたのだろう。
 だがそれだけではない。その時期に一度、見ず知らずの男の包丁に刺されたこともあったらしい。幸い、包丁に刺された不幸どまりであったがそれが影響してさらに上条の名が広がり、地元では有名人になっていたらしい。
 そしてそれらのことを受け、上条は一人学園都市にやってきた。不幸な疫病神であった上条を守るために。
 閑話休題。
 美琴は上条の小さな頃の過去はよく知らなかった。
 恋人になったとき、時折だが父親から話されたということを知ってはいたが細かな話は上条の口からは出ていない。しかし上条の記憶がない以上は仕方のないことだと美琴はわかっていたので、特に文句はないし無理に聞く気もなかった。
 だが上条が『外』へ行っている間、友人である初春から見せられた雑誌の記事で上条の過去が取り上げられていたことを知ってしまった。、まだ美琴が知らない過去であったため、でたらめな記事かどうかわからないが少なくとも上条の不幸体質をよく知る美琴には真実のように思えた。
 そして美琴はその過去の話を訊ねてみようと思って、通学路の途中にあるいつもの自販機の前で止まって上条の手をゆっくりと離した。
「……御坂?」
「入学式が始まる前に、聞きたかったことがあるの」
 美琴は上条の目を見ながら、はっきりと告げると上条も目を見て頷いてくれた。
 この話を今するのにはある理由があった。
 初春からの話では入学式にはメディア・記者の目も入るらしい。しかもその場でインタビューや会見などを学校側の独断で設けられる可能性もあるということなので、もしかしたら上条の過去を知る人間がいる可能性がある。いや雑誌の記事にされてしまったのだ。ほとんどの記者が知ってしまっているはずだ。だから、その時に何も知らない上条が質問された時のために、美琴は辛いが先に訊いておきたかったのだ。
 こんなことを入学式の直前に聞くことになるのは正直、複雑な思いで気が引けた。だけど何かあってからでは遅いと、気持ちを改めた。
「実はアンタがいない間、ある雑誌の記事にアンタの過去が載せられてたの。私は初春さんから見せてもらったんだけど……もしかしたらアンタは知らないのかもしれない、でももし知っているなら教えて欲しい」
「…………」
「学園都市に来る前に、アンタは不幸体質のせいで周りに蔑まれていたって。アンタがいた地元ではそれなりに有名人で疫病神って言われてたって書いてあったの。ねえ、これって本当のことなの?」
「ああ、本当のこと…なんだろうな」
 上条は神妙な面持ちで頷いた。その顔からは一体どんなことを思っているのか、美琴ですらよくわからなかった。だけど目はかすかに揺らいでいたのを見た。
「父さんに聞いたことがあるんだ。帰省した時に少し興味があったから詳しく教えてもらったけど、そんなことが過去にあったらしい」
「………………」
 さきほどから断言できず曖昧なのは記憶破壊があるからなのだろう。上条の記憶のことを理解している美琴だからこそ、曖昧なことを言っている上条の言葉を理解できた。そして神妙だった表情が少しずつ悲しそうな表情に代わっていくのを見て美琴は罪悪感を感じ始めた。
「でもそれは過去の話だし、俺の不幸で苦しんでいる人を救うことができるならば俺はいいってわかったから。だから今は不幸になったことを後悔してない。って過去を知る前から不幸になったことは後悔してないか」
 不便だけどなと上条は小さく笑う。その話を聞いていた美琴は、上条の強さが羨ましく思えた。
 でも考えてみれば上条が強いのはずっと前から、助けてもらった時から知っていた。どんな絶望にも屈しず最後まで諦めずにあがき続け、自分を助けてくれた上条当麻。思えば美琴が上条にほれたのは、そんな強さを目の前で見せ付けられたからなのかもしれない。
「それでこっちも聞くけど、上条さんの過去を知って御坂は上条さんを嫌いになりましたか?」
 聞いてくることは真剣な内容。なのに上条は笑って聞いてきた。
(わかってて訊いてきてるのね。こいつは)
 答えを知っているその笑顔が少し悔しい。でもと思いながら美琴は上条の胸に飛び込んだ。
「誰かに見つかっても知らねえぞ?」
「それはお互い様でしょう。アンタだって私がこうしてくることを知ってたから、すぐに抱きしめてきたんでしょ?」
「やっぱりわかっておりましたか…」
「当然でしょ。私の大好きな"当麻"だったらそうするって信じてたから」
 美琴は上条の腕の中で笑うと、上条の頬にキスをした。
 家の外なので少しばかり恥ずかしかったが、やってしまえばどうということがなかった。なので今度は逆の方にもキスをして両方の頬に均等なキスをしてあげた。
「それ、家の外じゃ恥ずかしくてやらないって言ってなかったか?」
「今はここに誰もいないでしょ? それに"当麻"だって満更でもないんじゃない?」
「……………ったく。どうしてお前はこんなに可愛いことばかりするんだ、美琴」
「当麻が好きだからよ。好きだから当麻に甘えたいの。わかった?」
 ああというと上条は美琴の唇をキスをする。
 一瞬だけの簡単なキスだが、一瞬だけでも幸せを感じられ気持ちが伝わるキスが上条も美琴も大好きであった。微妙に甘い味や柔らかい唇の感覚、取り込まれそうな艶と煌きは一度だけでは満足させず、何度も何度も求めたくなる。
 今度は美琴が上条にキスをした。だけど今回は少し時間の長いキスで唇をより一層密着させた。
「ちゅっ……んんっ……はぁ」
 長いと言っても時間にすると十秒前後の時間だ。それだというのに二人の体感時間はそれを何十倍もしたぐらい長く疲れるものであった。
 お互いに少しだけ息を荒くしながら、唇をゆっくりと離すと二人を繋いでいた透明の橋が伸びて消えていった。その橋が唾液で出来たものであるとわかると美琴は急に恥ずかしくなり顔が熱くなるのを感じた。
「え、エッチ……」
「お、お前が……言うなよ」
 唾液で出来た橋は少しだけ外での抵抗があったぬ美琴でも刺激が強すぎた。そして作ってしまった張本人は何をいえばいいのかわからず、真っ赤になりながら俯いた。
「………………」
 美琴はおずおずと上条の顔を見上げると、上条は朝って方向を向きながら真っ赤になっていた。それを見た美琴は少しだけ気持ちが落ち着き、上条の胸の顔を隠してほんの少しだけ顔を緩ませた。
「………とーま」
「な、なんでしょうか、ひめ」
「もう少しだけ、このままでいい?」
「………はい」
 そして美琴は上条の抱きしめ返してしばらくの間、二人で抱き合い続けた。
 ちなみにその時、通行人が何名か通りがかろうとしたが雰囲気的に近寄れなかったので遠回りしていくしかなかった…と後日、土御門舞夏からそんな話を聞く美琴であった。


 抱擁が終わって外での関係に戻ると、二人はさきほどよりも少しだけ間をつめて密着寸前の距離で歩いていた。
「……あれ? こんなところに車の列?」
 とある高校に向かう途中の大通りの道路で上条は車の列を見た。
 いつもの通学路であるから気づけたわずかな変化に気づいたのは上条だけだ。隣にいた美琴はよくわからず、キョトンとした顔でどうしたのときいてくる。不覚にもその顔に萌え…いや蕩れてしまった上条はドキッとしてしまったのだが、咄嗟に唇を噛んでなんとか表に出さずにすんだ。
「いつもはここに列なんて並んでないだが、今日に限ってはこんなに並んでるから気になってな」
「ああ、そういうこと。確かにこんな時間に車の列なんて珍しいわね。この近くで何かあるのかしら?」
 二人で興味深そうに車の列を見ながら、学校へと歩いていく。のだが今度は歩道の反対側に人だかりが増えていく。
「あれ? 今度は人の列か?」
「本当ね。しかも車と同じ方向じゃないかしら?」
「言われてみればそうだな。なあ御坂、なんか心当たりないか?」
「残念だけどないわね。このあたりはアンタと私の高校ぐらいしか知らないし、イベントのこととかも特には聞いてないわ」
 そっかと歩きながら相槌を打つと、列の中で上条は見たことのある制服を見た。しかもつい最近までよく見た記憶のある制服姿。ふと上条は横にいた美琴を見てみて、ああと見たことのある制服を常盤台だと思い出す。
「御坂、常盤台の制服の生徒もいるみたいだけど、本当に知らないのか?」
「えっ!? 常盤台の生徒もいるの!? だったら会いたくないわね」
 常盤台の名前を出され美琴は肩を落とした。何がどうしたのかわからない上条は、頭をかしげて常盤台の生徒をもう一度見たがやはりわからなかった。
「なんで会いたくないんだ? 常盤台はお前の母校だろう」
「アンタ、私は常盤台のエースで憧れの的だったということを忘れたの? それに卒業式の件もあったから余計に会いたくないのよ」
 常盤台のエースと卒業式のことを言われ、上条は納得した。そして、卒業式は自分も含まれることを思い出し、今度は上条が肩を落とす。
「肩なんて落としてどったの?」
「上条さんはこれから来る不幸を思い出してテンションが一気にダウンしただけです」
 卒業式にあんなことをしてしまえば、上条の学校の全ての生徒は上条に殺意を覚え殺しにかかってくる未来は、いくら鈍感な上条でも容易に想像できて地獄である。というよりも昨日はまた担任になってしまった月詠小萌のおかげで回避できたが春休み前に学校を無断で休み、友人にも誰とも会わずいたことが奇跡であったと思い返すが、それはきっとこれから来る地獄の前の静けさであったと背筋が凍りつくような恐怖に襲われた。
「ちょ、ちょっと!!?? 真っ青になってどうしたのよ!?」
「美琴たん。上条さんは入学式から無事に生きて帰ってくる自信がありません」
 いつも以上に生き生きして血走った目で走ってくるとある高校の生徒一同から逃げられる気は今回ばかりはなかった。果たして自分を生き残れるのかと自問自答しても返ってくる答えはノーの幻想をぶち殺してやりたいと思った。
 そんな鬱状態の上条が何を考えているのかもわからない美琴は頭をかしげる。しかし何に苦しんでいるのかいまいちわからないが、上条個人の問題そうだったのでそれ以上は何も聞かなかった。
「それにしても一体何なんだ? そろそろ何か見えてきてもいいと思うんだが」
「そうね……あれ? ねえ、あそこの文字見える?」
 二人の斜め前、人の列の先にある小さな文字を指差され、上条は指された方向に視線を向けた。ここからではあまりよく見えず、人の頭が邪魔であったので文字は全て見えないが、一文字一文字を穴が開く勢いで見て読んでいく。
「えっと……にゅうがくしき、いりぐち……?」
「入学式入り口……? どこの?」
「あー待て待て。えっと、学校名は………」
 書いてある文字から高校の前の文字を一つづつ読んでいく。色文字であったのと日差しに影響されなかったのが救いであったため、上条の目では鮮明にとは行かないまでもよく見れば見えるほど漢字を一文字一文字読んでいった。
「…………………はい?」
 そして読み終えた上条は絶句のあまり、しばらく動けず凍りついた。それから美琴に呼びかけられたりしてしばらく、上条は目の前で起きている現実を受け入れられず、驚愕の表情を浮かべた。
「そ、それで……何が書いてあったの?」
「うふふ……御坂さん。わたくしたちはどうやらとんでもないものを見ていたらしいですね。上条さん、あまりのことに現実逃避してこのまま家に帰りたい気分になりました。ですけど現実なんですよね? そうですよね? そうだよな御坂?」
「アンタが何を言いたいのかわからないけど、今ここにあるのは現実の世界よ。そんなに信じられないなら、自分の頬を引っ張るなりしてみれば?」
 もっともな意見が提案されたので提案通りに上条は自分の頬をひっぱてみた。
「痛いですね。しかも目の前の光景が消えませんね。これは現実ですね」
「ねえいい加減に教えてくれてもいいんじゃないの? それともアンタは都合が悪いものでの書かれてたの?」
 何も教えてくれないことに少しばかりイライラして上条を睨んだ。睨まれたあたりでようやく現実を受け入れた上条は表現できない不気味な表情を浮かべ、涙を流しながら美琴を見ると人の列に指を指した。
「あの列の方々、みんな上条さんたちを見に来ているようです」
「わたし…たち……え、ええ???」
 いまいちよく理解できないが、そんな馬鹿なと上条の言葉を理解している自分がいる。それでも美琴はしらばっくれるが上条はそれを知らずに何が書いてあったのかを簡略にまとめていった。
「あの列は、上条さんと御坂の入学式を見に来ている列です」
「……………………」
 そしてしばらくの間、先ほどの上条のように美琴も凍りついたのだった。


 現実を受け入れたくなかった二人であったが、歩いているうちに入学式の宣伝のポスターや人だかりを見せられ嫌でも現実であると実感させられてしまった。そして完全にこれは現実だと受け入れた頃、二人は長かった通学路の最終地点であるとある高校に着いた。
「美琴たん。僕、どうすればいいんだ…」
「知らないわよ。さすがの美琴さんでも今回ばかりは予想外。さらに入学式に何が起こるかは私にもわからないわ」
 まだ入学式が開始するまで二時間以上あるのに、見てきた悲惨な光景の数々。まるで超一流芸能人になってしまったようだと思いながら、上条はため息をつくことすら忘れてしまったほどのなにやら悪い予感を感じていた。
 これはきっと不幸センサーですねと理解しながら、やっとたどり着いたとある高校の門をくぐろうとした時であった。
「いたぞ!!! 上条当麻と御坂美琴だ!!!」
 自分たちがとってきた通学路とは逆の方向から聞いたことのない男の声が聞こえた。
 そしてその声を合図に男の後ろからは一気に人の波が上条と美琴へ向かってきた。カメラを持つ男性がいれば、マイクを持つ女性。スーツ姿でメモ用紙を持った男性もいれば、ケーブルを持って走る男性など波の中には様々な役割を持つ人たちがいた。
 記者団といち早く察したらしく、美琴はすぐさま上条の手を掴んで門をくぐった。だが美琴が出来るのはあくまでそれまで。ここから先の地理は生徒であり上級生の上条に訊かなければならなかった。
「ねえどこかに隠れられる場所ないの?」
「まずは玄関に入れ。そこの玄関に俺の下駄箱があるから、そこから学校の中に入れば」
 最初は驚いていたがこのようなトラブルには毎度毎度慣れっこで世話になっていたため、切り替えるスピードも速い。すぐさま何をすればいいのかを判断すると今度は上条が美琴の手を引いて玄関先へと走っていく。その間も、後ろの記者団は逃がすまいと二人を追いかけてくるが一晩中走り回ったこともある仲であるから二人からすればこのような短距離はまったく問題ない。
 上条と美琴は玄関の戸を開けると、上条の下駄箱に向かって走った。こんな状況でも律儀に外靴を入れて上履きに履き替えるあたり、おかしな部分で几帳面であるが今はこの場を乗り越えることだけを考えるべきだ。美琴は上条とそれに便乗する自分に心の奥で何してるのと一言だけ突っ込んでそれ以上は考えることをやめた。
「とりあえず、上に上がるぞ。このまま一階にいたら乗り込んできた時に厄介だ」
 一階には職員室や事務の受付がある。しかしたくさんのメディア・記者団の前ではそれらはきっと何の障害にもならないだろう。というよりも学園都市が『外』の住人であるメディア関連の人間を引き入れた時点で学校側もそれを受け入れているのと同じだ。
 警備員の先生がここに勤めていると聞いたことがあるが生憎、その人物である黄泉川は今日に限って別の場所で仕事をしている。そのため、今の記者団を無効化するような教師はここには誰もいなかった。のだが追われて余裕がない上条は黄泉川の存在を思い出せるわけなかった。
「ねえ、どこに行くつもり?」
「三階とかにある特別教室でやり過ごす。それで入学式の直前になったら、そこから脱出する。そうすればあいつらに絡まれずに参加できるはずだ」
 上条と美琴は階段を一気にのぼると、二階の廊下を走っていく。誰もいない廊下はなぜか不気味であったが、今はそんなことを考えるよりも隠れられる場所を探す方を優先しなければならなかった。
 上条は走りながら隠れられそうな教室を思い出しながら、廊下の突き当たりにある大きな教室を見つけた。
「しめた! 音楽室だ。確か入学式のリハで開いてるはず!」
 入学式の入場では吹奏楽部の演奏と共に新入生が入場してくる。そのため吹奏楽部は春休みの期間中でも入学式用の曲を練習するため音楽室を利用して練習を重ねる。それから時期が近くなると会場となる体育館でリハを行ない本番に備えている。
 吹奏楽部のことはさっぱりわからない上条であるが、そんなことぐらいは大体は予想がついていた。そしてリハは今日であったはず。
 あてずっぽだが、多分あっているだろうと予想すると上条は突き当たりのある音楽室のドアノブに手をかけた。それからすぐにドアノブを引いて中に入ろうとした。
 だが扉は一切開かずに鍵がかかっていた。
「なん…だと…!?」
 扉が開いていたことを想定したため、開いていなかったことは予想以上にショックであった。
 それもそのはずだ。昨日のうちに吹奏楽部の面々は楽器を会場に移動させ、今現在リハの練習中であることを上条は知らなかったのだ。なので音楽室の扉が開いているわけもなくどんなに頑張ろうが鍵がないと開かないのが現実だった。
「くそ。だったら三階にあるパソコン室でも」
 と上条と美琴が階段を上るために背後を向いた瞬間だった。
「いたぞー!!!! 上条当麻だ!!!!!」
 上条の名前を叫ぶ声が三階から聞こえた。上条がその叫びを耳にしたのと同時にバレンタインデーに起きたある不幸な追いかけっこをした記憶が頭をよぎった。
 まさかと信じたくない気持ちで上条は声の方向へと視線を移した。そこにいたのは上条と今年同じクラスになった隣の男子生徒であった。
「やべえ!!! 急いで逃げねえと」
「え??? え……??? なに、なんなのさ!!??」
 状況を判断できない美琴は上条に手を引かれるのみ。さきほどのメディア関連の記者団たちだけではなく、何故同じ学校の生徒たちからも逃げなければならないのか、美琴にはよくわからなかった。
 一方の上条は不幸だ不幸だと何度も何度も思いながら、来た廊下を戻って走る。のだが一階には記者団がいて三階には学校の生徒たちがいるはず。つまり上にも下に逃げるようにも階段は一切使えない今、いまいる二階で追っ手を振り切るしかないのだ。
 しかし上条は高校の生徒だから知っていた。あと残っている教室は使われていない空き教室と普通に生徒が使う教室のみであり、そこには鍵もなければ隠れられそうなスペースがないことも。
 空き教室は数箇所にあるが、すでに飛ばしてしまっている。だが戻ったところで空き教室には何もない。あるのは使われていない机と椅子が置かれているぐらい。さらに空き教室の半分は何かの行事で使うときのために何も置かれていない広々とした空間だけになっている。そこに隠れようなんて思考回路は幼稚園児でも持っていないであろう(能力者は別として)
 同様に普通の教室も隠れられる場所などない。綺麗に並んだ机と椅子、黒板の前にある教卓には隠れられるわけなどない。他にあるのは教室の正面にある大きめの黒板と後ろにある掲示物を張るための壁。それ以外には何も……。
(あれ……?)
 教室にある物品に一つずつ思い出していたとき、一つだけ隠れられそうな場所がありそうなことに気づいた。
 そこの大きさは上条と美琴の二人でなんとかなりそうだが、問題はその中身だ。だがそこまで考えて下から来る音と上から聞こえる叫び声が上条の考えていた問題を一気に吹き飛ばした。
(こうなったら、破れかぶれだ! 当たった砕けろ!!)
 最終的に上条はやけくそになりながら近くの教室の戸を開けて、痕跡を残さないように静かに閉める。そして美琴の手を引いて教室の後ろにあるそれの元まで歩いていった。


「いたか?!」
「いいや、いないぞ!! クソ、どこへ行った上条当麻!」
「カミやんは絶対に学校内にいるはずや。だからみんなで手分けしけ探す」
「それに記者団の人たちもいる。見つかればその人たちを利用して見つけ出せるはずよ」
「よし!!! それじゃあ手分けして探し出すぞ!!! 散開ッ!!!」
(まるで軍隊みたいだな。これは見つかったら怖いぞ)
 上条は隠れた場所から聞こえる青ピアスと他の面々が指示を出して自分たちを探している会話を聞いていた。何度も学校の生徒たちに追われたりしていた(追われる理由は不明)が、こうやって指示を出している状況に遭遇したのは今回が初めてだ。
 初対面なのか何度も顔をあわせた仲なのかよくわからなかったが連携が取れている以上、探している生徒は自分を見つけたら真っ先に襲い掛かってくるか救援を呼ぶだろう。そうなると無能力者の上条ではその危機を脱出できないのは確実だ。
 同じく追われている超能力者の美琴ならば、この学校の生徒が束になっても負けないだろう。しかしこれから二時間後あたりに控えている入学式前に騒ぎになる可能性があったので、さすがにそれだけは避けたかったので能力を使用させないようにずっと右手で美琴の手を握っている。
 だが美琴からすれば、追われてばかりいるのはイライラの原因になりつつあるので手っ取り早く能力で追い払いたいのが本心であった。
「ねえ、私の能力で」
「ダメだ。お前の能力は強すぎるし騒ぎになる。それに『外』から来た人間に能力を使ったら問題になるぞ」
「そ、そう……だけど…」
「いいからこのままでいろ。ちょっと窮屈だけど」
 二人が隠れていた場所は掃除用具箱の中だ。大体の教室の後ろに配備されており中には清掃用具がたくさんしまわれている教室の物品の一つ。
 上条が見つけ出した以外と見つかりにくい隠れ場所だ。小学校時代であれば子供がよく隠れるために使う密かな隠れ家であるが、高校生にもなればここに隠れられると考える生徒は意外と減るものだ。簡単なのだが意外と見つからない小さい頃からの隠れ家に上条と美琴は隠れて、記者団と高校の生徒たちをやりすごそうとしていたのだ。
 しかしここには欠点がいくつかある。まず埃がまんえんしているこの空間は、くしゃみが出てしまいそうで少し怖い。さらにほうきやちりとりなど様々な掃除用具で占められているせいで動ける場所は限られている。さらにさらに周りは音がしやすい薄いプラスチックの壁であったので無闇に動けば音でばれてしまう。そのため動くにも音を立てないように慎重に動かなければならなかった。
「…ねえ……これさ、きつくない?」
「あ、ああ………きついな」
 密着状態である二人の顔の距離は10㎝もない。話せば互いの息が顔をくすぐり目の前を向けば相手の瞳の中に自分が写る。
 身体は抱き合ってはいないが、だが上条の両手は美琴の顔の横にある壁にそれぞれ置かれ、押し倒そうとしているように見えてしまう。
 さらに美琴の両足の間に上条の片足が入り、美琴の太ももに上条の下腹部が当たっていた。
(あたってるッ!? あたってるって!!??)
 美琴がきついと言ったのは足の問題があるからである。
 生暖かい感触が太ももに触れているのは状況は興奮で動揺が入り混じったパニック状態であった。しかも今日は入学式ということなので、気分転換に短パンを履かずに着てしまっていたので、上条は布越しとはいえ美琴からすれば肌に直接だったので余計にダメージが大きい。
 さらにそんなことも知らない上条は、むず痒さで時折身体を動かす。それがさらなる刺激を呼びこのままでは意識が飛んでいってしまう危機感を感じていた。
「こ、こらぁ。動かないでよー」
「そう言われてもな……動かないとムズムズしないか?」
「それはそうだけど、こんなに近くだから私まで痒くなるじゃない」
「??? お前、いつも家じゃべったりのくせに何言ってるんだ?」
「ッ!!!?? 時と場合があるって言ってるでしょ、馬鹿!!!」
(というよりも、なんで私まで巻き込まれてるのよ)
 手が使えれば上条の頭を叩いている場面だが、左手は上条に握られ開いている右手も動かそうにも視界が悪く動かそうにも音を立ててしまいそうで動かせなかった。なので上条を睨みつけるしかできなかった。
「あのー美琴さん。そんなに睨まれても」
「うるさい! アンタが馬鹿で鈍感なのが悪いのよ!!」
「??? いまいちよくわからないのですが、上条さんは何かしてしまったのでせうか?」
「ッ!!! なんでこんな状況で前みたいにボケられるのよ!!! 実はアンタ、私とこうやって隠れるのを楽しんでるんじゃないわよね?!」
「そんなわけあるかよ! 第一、見つかってボコされるのは俺だけなんだか、楽しめるわけないだろう!」
 小さな声で言いあう二人は、まるで過去の関係に戻ったかのような痴話げんかを始める。しかもさきほどの緊張感はもう二人にはなかった。
「本当かしらね? どうせアンタのことだから私も一緒に道連れにするって腹じゃないのかしら?」
「俺がお前を道連れにしてどんな得があるんだよ。それに道連れにしようとしても学校のやつらは俺だけを狙ってきてるんだし、もし何かあってもお前には能力があるんだろう」
「そういう意味じゃないわよ。アンタは私と一緒に逃げて一緒に苦労をさせようって腹かって訊いてるのよ」
「だから俺に何の得があるんだよ。一緒に苦労を共にして俺はお前に何をさせようってんだよ?」
「それは……あ、アンタがわかってるでしょうが」
「もう言ってることがめちゃくちゃだな。何度も言うがお前と一緒に逃げて俺が得することはない。今までだって追われている時にお前と一緒に逃げてないだろう。なのに付き合い始めたから一緒に逃げますなんてこと、俺がするかよ」
 確かにと美琴は上条の言うことに納得は出来た。だがここで終わるのは何故だか負けるような気がしたので、そんなことは口には出さなかった。
「じゃ、じゃあ何よ。アンタは私と一緒じゃ嫌だってわけ?」
「はぁ!!!??? お前、話が飛躍しすぎてないか?」
「いいから答えなさい!!! 一緒に逃げるのは嫌なの?」
 知らない間に、上条の言うことに頷きたくないおかしな対抗心を持ってしまった美琴は、話の方向を一気に急転換させた。ちなみに負けたくない対抗心は、美琴が持つ負けず嫌いな性格と過去の上条との勝負で生み出された感情であり、想いが叶い結ばれた今でも残り続ける感情であった。だが皮肉なことに美琴は未だにそんなことに気づいておらず、今の上条はそんな対抗心の被害を受けてしまっている状況であった。
「俺は別に嫌じゃねえよ。今回は偶然だよ、偶然」
「そ、そう……偶然ね、偶然」
 しかし偶然ではなく必然であったことを二人はすっかりと忘れている。
 今の二人は、とある高校の生徒に見つからないように隠れているだけだと考えているが、外には記者団たちがいることを忘れている。隠れる前は上条も美琴もそのことを覚えていたのだが、美琴が上条を睨みつけたあたりからそのことをすっかりと忘れていた。
 だから美琴は今回の逃亡劇は自分は被害者だと途中から思い込んでしまっていた。その結果がさきほどの嫌かどうかの質問であった。
(偶然…か。それもそうよね………って何を期待してるの、私は)
 上条の返答に美琴は落胆した。でもなんで落胆したのかよくわからなかった。
 一方、答えた上条はと言うと美琴が悲しそうな表情を浮かべていたのを見ていた。何かを裏切られた悲しそうな表情、一体何を言われるのを期待していたか、上条にはよくわからなかった。
 でも思ったことは一つだけ。そんな顔は見たくない、と。
「…………美琴」
 上条は空いていた左手で美琴の頬を優しく撫でる。そして、優しく笑うと唇を優しく押し付けて三秒数えて離した。
「あ……な、何…よ」
「悪い。でもお前が辛い顔を見ると、どうしても耐え切れなくなって…つい」
「辛い……………顔?」
「こんな状況でも俺はお前のそんな顔を見せられたら放っておけないんだ。何かに耐える顔や悲しそうな顔は見ていると……心臓を鷲づかみにされているみたいな感覚に襲われて……俺」
「………………」
「………悪い。こんな状況だって言うの、変なこといって。俺、なんかおかしくなったみたいだ」
(なんでこんなことを言ったんだ?……わからない………けど気持ちを抑え切れなかった)
 心の中で何かを抑え切れないことがあったのは、上条が一番理解している。感情的になることは多々あるが吐き出さないといけない不快感と胸の痛みは感情的になったときには感じたことのないおかしな感覚であった。
 理性が崩壊した、本能的に言ったのとは違う別のこと。これをなんと言えばいいのか、なんと例えるべきなのか、上条にはわからなかった。でも吐き出してみると不思議と嫌な後味は残らなかった。
「………当麻」
「悪い……わる、んんっ!!??」
 上条の言葉の途中で美琴は上条の言葉を飲み込んだ。キスという愛情表現で。
「それは……私も同じ。アンタがそんな顔してちゃ私も辛いわよ、馬鹿」
「美琴……」
「だから私も笑うから、当麻も笑って。そしたら私はもっと笑えるから」
 そういうと美琴は上条の優しく微笑んで、もう一回キスをした。
(敵わない、な。まったく、どんどん強くなっていっちまう)
 そしてそれに励まされる自分は弱くなっていくように思えた。でも二人は互いを強いと思い、自分を弱いと思ってしまう。だから二人は離れられなくなっていく。自分の光、強さの象徴から……。
 それでも上条と美琴はいいと思えた。なぜなら……。
「「好き」」
 二人は一緒に笑って言える事であったから。
 そして今度は二人は目を瞑って唇を近づけていき……。

「それで……いつまでこれは続くのかしら?」

「「!!!???」」
 唇がふさがった瞬間、上条はバランスを崩し後ろに崩れ、美琴も上条に釣られて倒れてしまった。その結果、扉は開いてしまい上条は唇を押し付けられたまま美琴に押し倒されてしまった体勢になってしまった。
「…………………」
「……………………ちゅ。え、えーっと…」
 唇を離しあたりを見渡すと、二人を取り囲むようにとある高校の生徒たちが立っており、廊下からは記者とテレビカメラがこちらを見ていた。
「…………………………あ………あ、の」
「それでは上条当麻、尋問の時間と行こうか。安心しろ、これも入学式のイベントの一環だ」
 その中の代表者として吹寄制理は上条に死刑(にゅうがくしき)の始まりを告げた。もちろん、こんな状況では上条も美琴も何も言えず、吹寄の言葉に頷くしかなかった。
 そして御坂美琴こと超電磁砲の入学式は始まった。

<入学式、挙行>
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2010/03/23 23:40 | fortissimo

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