簡単な小ネタです。
二人の距離間は少々原作に近いです。これぐらいが、原作ではちょうどいいのかも。
二人の距離間は少々原作に近いです。これぐらいが、原作ではちょうどいいのかも。
急がないとタイムセールスに遅れてしまう。
放課後の掃除当番を一人だけでこなした不幸な男は、今日も安さを目当てに帰り道を走っていた。
その目的は、夕方のとある時間帯限定のタイムセールス。今日はちょうどその日であったのだが、不幸なことに掃除当番で十分以上も遅れてしまっていた。
なので始まるまでの残り少ない時間に間に合わせようと、持ち合わせの体力と足の速さでスーパーへ向かっていた。
「――――――――」
道中聞こえる話し声も車の音も、タイムセールスで一杯一杯の上条には耳に入っても無意識に受け流してしまい聞こえなかった。
大きな叫び声も、自分を呼ぶ声も、怒り狂った声も、どこかで聞いたことのある少女の声も、聞こえるはずもなかった。
「いい加減にしやがれえええええぇぇぇぇぇーーーーー!!!!!」
しかし怒りの声とともに放たれた青い殺人光線こと鋭い稲妻には身体が自然と反応し、足を止めて右手の掌を稲妻向けてそれを防いだ。
途端、上条はこんな時にまたあいつかとすでに逃れられない不幸に焦っていた気持ちは一気に憂鬱な気持ちへと沈んだ。
「不幸だ。こんな時にビリビリに会うなんて」
「ビリビリ言うなって何回言えばわかるのよ! 大体! いつもいつもアンタが無視するのがいけないんでしょうが!!」
「なんだか無視する上条さんだけが悪いような言い方。不幸だ。それよりも早くタイムセールスに―――」
「だ・か・ら! 無視するなって言ってるでしょうが!」
すぐさまタイムセールスに意識を向けるとこのざまである。不幸なのはよくわかっているが、どうしてこうも大事な時に限って不幸ばかり起こるのか。
不幸を与えた神様を上条は呪いたくなるが、結局これが自分だからと無意識に呪うことを諦め、それよりも御坂をどうしようかとタイムセールスよりも厄介な壁に上条は頭を抱えたくなった。
「返事をしたらすぐ放置! いい加減にしなさいよね、アンタ!!」
「放置っつうか、最近はタイムセールスの方が忙しいからな。ほら、上条さん貧乏だし」
「それは知ってるけど…というか、先週お金が入ったばかりだって言ってたのにもうないの?」
「ま、まあ、それなりの事情があるんですよ。それにですね、上条さんだって好きでこんな生活をしているわけではないんですよ」
男子寮の自室に住み着いているイギリスの白い悪魔が貧乏生活の大きな原因であるが、美琴はそのことを知らないので適当なことを言って誤魔化す。
美琴はどんな事情を持ってるのよと呆れた表情を上条に向けた。
「思うんだけど、アンタの生活ってそんなに余裕がないわけ? いくら月にもらえる金額が少ないからって、そうすぐになくなる金額じゃないんでしょう?」
「それも事情があるんだよ。それを思い出すと……はぁ~不幸だ」
お金が入っても喜びよりもため息が出るのが最近の生活である。
月がたつごとに厳しくなっていく生活には、上条の能力は一切役に立たず、だからと言って誰かに助けを求めてもインデックスと上条の関係を知っている中では助けてくれるような人物はない。
一応、知らない中でであれば美琴が助けてくれるかもしれないが、インデックスと上条のことを知っていないしインデックスとはあまり仲がよろしくないので、今のところは無理である。
「それで? 今日は何の用だ?」
「ふぇっ!? あ、ああ!! そ、そうよ! 用があったのよ!」
「だからそれを訊いてるんだが、何?」
用と言っても、そんな大きな用でもない。
電話やメールでも問題ない用が多いが、美琴はそれらが嫌いなのか、何かあるたび上条に会って用を済ませる。
ちなみにその内容は上条でなくても出来ることばかりで、なんで俺なんだと思うことばかりなのだが、美琴が言うには上条でないといけない用らしいので毎回付き合うのは上条であった。
このことに別に迷惑はしていないが、何故自分なのかがどうしてもわからず、疑問を残して別れる事も多いが一ヶ月前あたりに慣れてしまったので、今はそこまで深く考えず、ま、いっか程度で済ませている。
これの真の目的は、上条と一緒にいたいと思う美琴の片思いからの遠回りな行動なのだが、上条に気づかせるには何かしらの出来事が起こらない限り、聖杯でも不可能な願いである。
「め……目を瞑りなさい!!!」
「は、はい!?」
「いいから瞑る!! じゃないとアンタに超電磁砲の連射を―――」
「瞑ります瞑ります! 瞑りますから!!!」
二つ下の女の子に脅されながら、上条はぎゅっと目を瞑った。
心の奥で、死ぬのか…僕は…とどこかで聞いた台詞を思い浮かべながら…。
目を瞑った上条の前には顔を真っ赤にした美琴がいた。
目を瞑った後はキスをするのが気持ちに気づいてもらえるセオリーな考えだと思ったが、それは恥ずかしすぎるし少し卑怯だと思い考え直した。
しかし強引に瞑らせた美琴が思うのもなんであるが、瞑ってもらって何もしないのは申し訳なくなってしまい、これからどうするかで頭を抱えた。
(キスはダメだとしたら、抱きつく? って無理無理無理!!!! こいつに抱きついたりなんてしたら私、天に昇っちゃう!!!)
大げさかもしれないが、真面目にありうるのが今の美琴であった。
(だったら好きって言う…って、無理よね。う~~~ん。何かないかしら)
目を瞑った相手に好きと言えたらこんなに苦労はしない。
複雑なツンデレは、肝心なことが言えないのが大きな傷である。しかも好きになってしまった相手が気づかせるのに聖杯を使っても意味なしの相手なので、告白の相性はとても悪かった。
(でもせっかくのチャンスだし、こういった場面で何かしない―――あ!)
と、美琴はある名案を思いついた。
これは佐天の家に言った時に見せてもらったマンガにあった方法であり、これなら恥ずかしいが耐えられそうだし上条には特にデメリットもなく美琴にはもデメリットがない残る方法であった。
その方法とは。
(えっと…………こうだったから、私が最初に………で、最後に私が………)
「御坂。あのーいつまでこうして」
「ッ!!?? いいからそのままでいなさい!!! 私がいいって言うまで瞑ってなかったら連射よ」
「………不幸だ」
(不幸なのはこっちよ。私の気持ちもしらな―――あれ? やりかたは覚えてるんだけど、今のでイメージを忘れちゃった?……………みたいね。イメトレ、無駄だったわ)
いきなり声をかけられたので、考えていたことが真っ白になってしまった。
もう一回イメトレをして整えてからしようと一瞬考えたが、すぐにどうせやるんだしいいかとイメージをせずぶっつけ本番でやることにした。
「じゃあするわよ。それと一つ注意。終わるまで一言も喋っちゃダメよ」
「喋っちゃっダメってなんでだ?」
「すぐ、わかるわ」
美琴は人差し指を自分の唇に押し当てる。途端、これからすることが映像として頭に流れ、心臓がどくんと爆発音を鳴らすかのように大きな音を鳴らし、胸から出ようとするかのように大きく飛び跳ねた。
破裂しそうな暴れる心臓を抱えながら、美琴は人差し指を自分の唇から離して。
「~~~~~~~~~~~!!!!!!」
そのまま上条の唇に押し当てた。
「ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」
瞬間、人差し指から身体へと見えない電流が流れ、身体を麻痺させる。が、麻痺してすぐに雷が落ちたかのような強い衝撃が美琴を襲い掛かり、反射的に人差し指を引っ込めて、上条から100メートルほど距離をとった。
「御坂………?」
「ふみゃあぁぁぁぁ!!! ふにゃあああ!!!」
ちなみに言った言葉は『うるさい!!! まだそのままでいなさい!!!』である。常人には解読不能である。
「なんかよくわかんねえけど、まだダメってことだよな?」
「ふみゃふみゃふにゃ!!!」
訳すと『そうそうそう!!!』である。これなら解読可能かもしれない。
「何言ってるかも、何が起きたかもよくわかんねえけど、終わったら言えよ」
わかっていないが何故だから何を言いたいかを理解したかのように、上条は納得して黙った。
「…………………」
そして美琴は上条の唇に押し当てた人差し指を見て…。
ちゅっ………。
「ふにゃ~」
お決まりの台詞とともに、この世に未練のないかと思ってしまうほどの笑顔で漏電せずに気絶したのだった。
「はぁ~不幸だ」
結局タイムセールスどころか、残り物しかない時間に来てしまったので品質は悪いものがいくつかあった。
今日は放課後から不幸続きなのでこれも不幸だと思えば無理にでも納得できてしまう。だがそれよりもあの部屋にいる悪魔が腹をすかしているかのほうが心配である。
「……頭が割れないことを祈ろう」
訂正。腹をすかせているので、頭が無事なままで明日を迎えられるかが心配であった。
「はぁ~。それよりも、御坂のやつ。さっきのは一体なんだったんだ?」
長時間放置させられ、気づいた時には綺麗な夕焼けと白い月が出ていた時間になっていた。
その間の時間は放置プレイかなんかかと思うほど惨めな時間であったが、上条はこれを不幸で片付け特には気にしなかった。
問題はそれよりも。
「唇のあの感触。キス…じゃなかったけど、一体なんだったんだ?」
小さくて長細い。柔らかくて生暖かい。それでいて震えていた。
「……………ま、あの時は無事だったしどうでもいいか」
詳細が気になったが、それよりも無事だったことの方が重要であった。というよりも、あの時は死ぬのかどうか不安で一杯だったので、結果を考えると無事に生きていられた事実だけで十分であった。
つまり、美琴の頑張りは本人だけの自己満足の形で終わってしまった。
「それよりもインデックスのことを考えないとな~………」
そして先ほどのことを自分の無事だけで完結させた上条は、次に訪れる頭蓋骨の危機をどうしようか考えながら帰路を歩いていったのだった。
<終わり>
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