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2024/05/04 06:08 |
Slow love 2
実はこの回、先月(6月)に完成していました。
ですが、細かい修正や先のことでの伏線や矛盾をどうするかでうpまでかなり時間をかけてしまいました。
それらが"ほぼ"解決出来たので、ようやくうpです。



 携帯に表示されている時計はさきほど午前0時40分を回ったところだ。
 一般の学生ならこの時間帯は寝ているか勉強をしているかのどちらかに分類されそうであるが、どちらかと言うとテレビを見ていたり遊んでいたりする学生の方が多い。
 しかしこの時間帯の上条は、寝ようとしているか課題をしているかのどちらかに当てはまることが多い。去年は『外』で事件に巻き込まれていたと物騒な選択肢もあるが、今年になってまだそれはない。
 今のところはかなりの幸運なようであるが、その幸運は長くは続くかどうかは不幸体質に上条には願っても叶わなそうなことであるが。
 さて現在、上条はあることで眠れずにいた。それは毎回のように出される課題を片付けるとか魔術関連でごたごたがあったとか寝心地が悪いとかではなければ、バスタブの中の布団からインデックスに占拠されていたベットで寝ていることに違和感を持ったわけでもない。
「……………寝れん」
 携帯を弄りながら上条は自分に言い聞かせるように呟く。ちなみに、言い聞かせたのはなんとなくであった。
「もういっそ、メールでもしちまったほうがいいか」
 今度は重要なことを言って自分に言い聞かせた。さすがにこれにはちゃんと"やるぞ"と念じる効果を持って言い聞かせてあった。
 そして上条は携帯の電話帳を表示するボタンを押すと、ま行にあった身近な名前を選択してメールを新規作成した。
 その内容は、
「う~ん……単純に『大丈夫か?』でいいか?」
 一言だけだと『何が?』と返されるのがオチだったので、先を見越して『帰るときなんだか具合が悪そうに見えたけど、大丈夫か?』と美琴にならば通じるはずの文章を作ると、件名『夜遅く悪い』と遅い時間帯にメールをしたことを謝罪する件名を入力して送信した。
「ったく。なんで御坂の調子が気になって寝れねえんだか…」
 上条が眠れなかった理由は、帰るときの美琴の様子がおかしかったことが気になっていたからだ。
 いつもは上機嫌に帰っていくというのに、今日はどこか暗いような不機嫌なような、そんなことを感じさせながら玄関を出て行った。
 まあこんな日もあるかとその時は思ったが、何故か寝る寸前になってあの時の表情が頭に思い浮かんでしまい、今までずっと悩んでいたのだ。
 いつもはこんなことを気にはしないだろうけどなと些細な変化を気にはしていないつもりだったが、どうやら今回は気になって仕方ないようだなと、自分の今の思いを自己分析していると、一分足らずでメールが返信された。
「『大丈夫』か。やっぱ、予想通りか…はぁ~」
 メールの悪い部分が良く出た返信であったことに、上条は重たいため息をついた。
 これが電話であったり本人に直接訊いたことならば嘘か本当かの見分けが付けることが出来るかもしれないが、メールだと文字だけなので嘘か本当かまったくわからない。
 そのような不満を思いながらだからメールって面倒なんだよなと、美琴の言ったことが本当か嘘かわからないことに愚痴った。
「これじゃあ余計に気になって寝れねえじゃねえか。仕方ねえ、電話するか」
 時間を考えると電話するのは迷惑そうだったので気を引けたが、このままだと気になって気づいたら朝になんてことになりかねたいので、少々罪悪感はあるが電話帳から美琴の電話番号を選んで電話をかけた。
 コール音は一回、二回、三回、四回、五回……………十三回、十四回、十五回、
『は、はい!!!』
「いや、そんな驚いた声で答えなくても」
 出るまで時間もあったし登録されているはずの名前ならかかってきた時にわかっているはずなのにこの驚き方。白井とでも何かあったのかと思ったが、
『お、驚いてないわよ!!! た、ただ…ベットだと黒子や寮監ばれるから移動しただけよ!』
「いや、移動しただけで驚くって、おかしくないでせうか?」
『うるさい!! せっかくアンタのために移動してあげたんだから、細かいことは気にしないで敬意を払いなさいよね!』
 言った内容だけでなく声まで威張っている。そこまでして出てもらって悪いなと、威張ったことはともかくわざわざ場所を移動してまで出てくれた美琴には感謝をした。
「悪いな御坂。こんな夜遅くに迷惑だったよな?」
『あ……え……うぅん。わ、私も起きてたし…その、ちょっと迷惑だとは思ったけど怒って、ないわよ』
「??? ………そっか」
 気のせいか急にしおらしくなったような気がしたが、大きな声が出せねえからかと勝手な解釈をして話を続けた。
「それでさ。お前、帰るときちょっと元気なかったけど大丈夫か?」
『へ、平気よ。私を誰だと思ってるのよ』
「御坂美琴、だろ? それぐらい嫌でも知ってるよ」
『嫌でもって何よ! 嫌でもって! 大体! いつもはビリビリって言うくせに、なんで今日に限って名前で呼んでるのよ?!』
「ビリビリのがよかったか? ならお前の名前はビリビリって」
『だああーーー!!! そういう意味で言ったんじゃないわよ!!』
 無駄に元気な声でつっこんでくる美琴。過剰に反応しすぎな美琴に上条は少し周りのこと気にしろよと心の奥でツッコミを入れながら、本当に元気そうな美琴の声に安心した。
「んじゃまあビリビリ。元気だってこともわかったし、迷惑みたいだからこれで切るな」
『だからビリビリ言うな! って、ちょっと待ちなさい!!!!』
「あ? もしかして何か用でもあったのか?」
『そうじゃないけど、そのためだけに?』
「そのためって、何の?」
『だから私が元気かどうか確かめるためだけに電話したのって訊いてるの?』
「ああ。そうだけど?」
『……………』
 美琴はしばらく黙ってから小さな声でそうと言うとあちらから一方的に切ってしまった。
 電話をいきなり切られた上条は、よくわかんねえやつと思いながら使い終わった携帯電話をぱかっと閉じた。その心に、小さな違和感を持ちながら…。


 翌日。
 今日は一般の学生は休みの土曜日。だがそのうちの何十名かは部活に励み、学校に用がある者もいるため、全員が全員休みだというわけではない。
 それは日曜日も同じである。だが過去の経験からか、どちらかというと何年か前の土曜には学校があった時期があったので、完全に"この日は休みだ"とは思えない名残が上条にはあった。
 しかしその頃の記憶は現在の上条にはない。ただそんな時期もあったことを『知識』として知っていたので、それが頭にインプットされて覚えていなくとも、無意識に頭がそう判断し、そのように感じたのだろう。
「はぁー不幸だ」
「はいはい。そんなことを言ってる場合があったら頭を働かせてください」
 もっとも、そんなことよりもこの補習の時間に頭を動かすべきなのだが、勉強が不得意な上条にはそんなこともそれほどのことであった。
 勉強以外のことならばいくらでも考えられるが補修中の今はそれらを考えると、今のように補習を担当してくれる月詠小萌に注意されるハメになる。
 注意されるのは自分が悪いことぐらい上条にわかっているが、余裕がない自分の頭に上条ははぁーと重たいため息をついて、はーいと情けない声で返事をした。
「ほらほら。今からそれじゃあ大変ですよ、上条ちゃん。まだ補習が始まって十分も経ってないんですよ?」
「先生。上条さんは進級はしたいけどもう補習はコリゴリです。というよりも、一生無能力者の上条さんには勉強なんて無駄だと思いまーす」
「上条ちゃん! 勉強をすることは無駄じゃありません。それに上条ちゃんの力はこれから目覚めるかもしれないんですよ?」
「これから目覚める、ね~」
 上条は横目で自分の右手を見た。
 『幻想殺し』。科学でも魔術でもない謎の代物。これを能力と一言で片付けていいものかは上条にはわからないが、少なくとも学園都市内では性質上これは仮定ではあるが能力と呼べるものであろう。
 上条当麻は無能力者である。だが、無能力者なら何故こんなものを持っているのだろうか…いや、それよりも大切なのはこれは元々何に使うべき力なのか。
 持ち主の上条はこれを誰かを救う・守る手であると思ってはいるが、本当のことは上条にはわからない。
 でももしかすれば彼ら、『神の右席』と呼ばれた彼らならば今もこの右手の詳しいことを知っているかもしれない。そこまで考えて上条は、
「だああーーー!!! 違う違う!!!」
 おかしな方向に向いてしまった考えを振り払うために、いきなり立ち上がると大声で叫び頭をぶんぶんと横に振った。
 それに黒板に様々なことを書いていた小萌先生は、どうしたんですか上条ちゃん!!!??? といきなりの行動に驚きの声を上げ尻餅をついた。
「え……? あ」
「か、上条ちゃん!! どこか頭をぶつけたんですか!? それともついにおかしくなっちゃったんですか!?」
「あ、いえいえ。ちょっと色々考えてたら、ごっちゃごちゃになっただけです」
 小萌先生の声で我に返った上条は、何してるんだと小さな声で自分に喝を入れてから席に座り直してから、すいませんともう一度小萌先生に謝った。
 小萌先生は戸惑いながらもそうですかと答えると、恐る恐る黒板に書く作業を再開するために上条に背中を見せた。
「……………あのー先生。そんなに硬くならなくても、何もしませんよ?」
「でも上条ちゃんに何かあった時に力になれるのは先生だけです!」
「だから何もないですって! それよりも、今は補習の時間なんですからそっちの方に」
「いいえ! 上条ちゃんは小萌先生のいち、いえ、大切な生徒の一人なんですからこれぐらい当然です!」
「今、一と言おうとしたように思えるのは気のせいでせうか?」
「気のせいですよ、気のせい。それよりも上条ちゃん。大丈夫と言うのなら、いい加減に机の上に勉強道具を出してください。じゃないと久々にコロンブスの卵をやってもらいますよ」
「すいませんでした先生。不肖上条当麻、すぐに補習に入らせていただきます」
 ただでさえ不幸なのにそこに無能力者なりの苦労を重ねられると、たまったものではない。それを知るいい例として、コロンブスの卵があったりする。
 コロンブスの卵の苦労をトラウマのように知る上条には久々にその名前を聞いたなとのん気に思えるわけもなく、逆に聞きたくなかったと気分がブルーな方向へと落ちていった。
「はぁ~不幸だ」
 来る途中にも様々な不幸があったが、精神面に与える苦労も時と場合によっては来る途中に体験した不幸と同じ分類である。
 そんな不幸にあった上条は、重たいため息をつくと自分のカバンから補習で使う教材を出し始めたのだった。


 補習は当初の予定を1時間以上オーバーして終了した。
 帰りにどっさり出された宿題と、また明日という小萌先生のスマイルに上条はぎこちない表情の苦笑いを零すしかなかった。
「はぁ~不幸だ…」
 重たいカバンを持ちながら、まだ取っていない遅い昼食をどこで取ろうか考える。少なくとも現在いる学校の校門の前では昼食にありつけられそうな店は見当たらない。
 一応、近くにコンビニはあるのだがこのような日に限ってはずれの物しか置いていないのは行かなくてもわかってしまうのは不幸な上条の経験とお約束なので、それは考える前に却下してある。
 となると、結局街のほうへと流れていくしか選択肢はなくなる。
 ここから少々歩くが、今日は特に用事もないし家にはインデックスもいない。帰ったら宿題をしなければならないが、それは夜でも十分に間に合う量なので今は考えなくてもいい。
 とりあえず行き先が街の方向と決定した上条は、後ろ髪をボリボリと掻きながら一歩を踏み出そうとした時。
「あれ? もしかして上条さんですか?」
 どこかで聞いたことのある声が横から聞こえた。上条は誰っけと考えながら、声の方へと顔を向けてその人物を見た。
「ん…? あ~えっと……確か御坂の友人の、さてん…さん?」
「そうです! 覚えていてくれたんですね!」
 そういって嬉しそうに近寄ってくる少女は、美琴の後輩であり友人にあたる私服姿の佐天涙子であった。
「もしかして、上条さんの通っている高校ってここなんですか?」
「そうだけど…知らなかった?」
「知りませんよ。御坂さんも上条さんは高校生だって言うことぐらいしか教えてくれませんでしたし、調べようにもあたしは初春みたいにパソコンを使えませんから」
「初春って、あの頭に花を乗せてたあの子か?」
 そうですと答える佐天。上条はあの子かとわかりやすい特徴を持った初春の姿を思い出した。
 先ほどの佐天の言い方だと初春がパソコンを使うことに特化しているようなに聞こえたのは気のせいだろうかと今の発言に少し疑問を感じたが、それはおいおい聞けばいいかとそのことを訊くのは今はやめることにして、意識を佐天との話へと戻した。
「ふーん。まあ上条さんの高校を知っても得をすることはありませんけど」
「そうでもないですよ。学園都市には山のように高校がありますし、その高校に誰が通っていたかを知るのも悪くはないです」
「ん? 誰かが通ってたって重要なことなのか?」
 確かに学園都市には山のように高校がある。それも高い山から深い谷まで幅広く存在し、選ぶのに苦労をしたりする者も毎年いるとどこかの誰かの会話からそんなことを聞いたことがあった。
 だが、誰が通っていたかが重要だなんて話は初耳だった。しかもそれが超能力者の美琴なら筋と折るが、有名でもない普通の無能力者である自分のの学校を気にするなどおかしな話だなと筋が通らないことに疑問に感じた。
 そんな疑問に佐天はそうですねと苦笑いした。
「って言いたいところですけど、あたしみたいな無能力者には無縁の話です。でも御坂さんの友人である上条さんが通う高校を知っておくことだけは、学校見学をするとき、少しだけ得になるかもしれません」
「まあ御坂の友人ってのは確かにあってるけど、得をするかどうかはちょっと違う気がするような、しないような……と言うよりも俺が通ってたからってここを選ぶのはどうかと……」
 それでも佐天は人それぞれですからと上条の高校を知ることができた喜びを崩さなかった。
 そこまで喜ばれるのは予想外だったので、これ以上言うのはやめておくかと喜んでいる佐天のためにも自分の学校のことに触れるのはやめ、別の話題に変えようと思い、上条はとりあえず別の疑問に答えてもらおうと上条から別の話題に話の方向を変えた。
「そういえばなんでここにいるんだ? 佐天さんの家からここって近いのか?」
「いえ。家はあまり近くはないんですけど、さっきまで友達と遊んでて帰りにここを通っただけです。そしたらちょうど上条さんらしき髪型の人がいたので声をかけてみたら、本当に上条さんだったということで」
「上条さんの一番の特徴は髪型なんですか…」
 一番印象に残ったのは髪形だったのかと上条は喜ぼうにも喜べない外見の特徴に、何故か泣きたくなった。
 ちなみに、この髪型は自然体なので好き嫌いは特にない。なので、髪型に触れられても特に過剰な反応はしないし褒められたりしてもあまりどうとも思わない。それでも馬鹿にされたりすると少々傷つく。
 だが泣きたくなったのは馬鹿にされたからではなく、自分の一番印象に残る外見が髪型だったということが少々予想外だったので、驚いて反応に困ってしまったからであった。
 決して佐天に馬鹿にされたように思ったわけではない………たぶん。
「まあそれは置いておいて。一緒にいた初春さんが今日はいないってことは、佐天さんの遊んでた友達って御坂たちじゃないのか?」
「はい。本当は初春とも遊びたかったんですけど、初春は風紀委員ですから」
 佐天は苦笑いしながら答え、上条はそうかと風紀委員の名前で初春が何をしているかを理解して佐天と同じように苦笑いした。
「それよりも上条さん。今日は学校で何かあったんですか…?」
「……………」
 上条はこれに素直に白状をするか、誤魔化すかで迷った。
 いつもは堂々と自分は馬鹿ですと言う上条であるが、さすがに会って間もない知り合いの女の子に『実は馬鹿で補習だったんです、あはは』というのは少々気が引けた。
 これが友人だったり、クラスメイトだったり、事件で関わったことのある者であったならば素直に言うが、何故だか今回、なかなかない普通の出会いをした佐天に上条は少しだけいい印象をつけておきた。そう、思った、のだが。
「ああ。もしかして御坂さんの言っていた補習ですか?」
「……………はい」
 十秒も経たぬ間に、そんなことに悩むのは無駄であったと上条は理解したのだった。
「ま、まあ。あたしも時々補習で呼ばれたりしますし、上条さんのお気持ちは理解できます。あはは、あはははは」
「あはは、あはははは………不幸だ」
 上条へのフォローのつもりなのだが、その時々がどの程度で時々なのか、知り合いの友人にフォローをされてしまう自分に上条はまた泣きたくなった。
 そこにまたフォローを入れようと、佐天はそれよりも! と半ば叫び気味に言うと
「か、上条さん……今は、お暇ですか? よかったら少しお話ししてくれませんか?」
「は、話……?」
 上条は頷くか頷かないか一瞬だけ迷ったが、必至な表情で頭を下げてきた佐天の提案に頷かないわけにはいかなかった。


 上条と佐天の出会いは一ヶ月前、つまり去年の12月までさかのぼる。
 この日、上条は補習と補習の補習祭にただ一人で参加し、担任の小萌先生の指導の下、まったくありがたくない地獄の補習を受けた帰りであった。
 一応休憩は通常の授業通り一時間ごとに五分はいるが、この日の補習はその五分がどれだけありがたいかを身を持って実感できてしまうほどのスパルタ補習であった。
 そして補習地獄から開放された頃には、空は夕焼けのオレンジに染まっていた。
 このときの上条は今回のように昼食を取っておらず、寮にはインデックスがちょうどいなかった。
 なので、少しだけ金銭面に余裕があったこととインデックスがいないこの機会に、昼食けん少し早めの夕食として学校から近いファミレスで少し豪華な食事を取ろうとファミレスへ足を運んだ。
 ちょうどその時はピーク時の1時間以上前だったので、まだ席には余裕があった。なので店に着いたらすぎの何名か聞かれ、ウェイトレスに席へと案内される。
 それが美琴を始めとする、女の子4人グループとの初めての出会いだった。
「あ…」
「え…?」
 まさかこのとき、案内された席の隣に美琴たちが座っていたなど、このときは誰にも考えられなかったであろう。
 もっとも、これが偶然かどうかは上条のフラグ体質と不幸体質の両方の体質が関わっていないと証明できない限り、偶然であったと言えないが…。
「ななななんでアンタがここにいるのよ!!!???」
「ん~、まあお腹がすいたので食事を取りに来ただけですが」
 美琴の疑問に上条は嘘偽りなく真実で返した。
「そそそそんなことじゃなくて! なんでファミレスなんかにいるのよ!!!」
「学校に近いファミレスだから」
 真実である。
「ななななんで……なんで……なんで…?」
「疑問で返されても何に答えればいいんですか、御坂さん?」
 正論である。
「うぅ~。なんでこんなタイミングで…」
 美琴は半べそをかきながら、白井を除くほか二人の少女を見た。
「初春初春。もしかしてこの人が噂の?」
「はい。きっとそうですよ佐天さん!」
 初春と呼ばれた頭に花畑を思わせるほどの豪華な花飾りをした少女と佐天と呼ばれた普通の花飾りをした、常盤台とは違う制服を着た少女二人は興味深そうに上条を見つめた。
 まるで自分が観察されているような錯覚を受けながら、上条は初対面の二人に君たちは? と声をかけると初春と呼ばれた少女から自己紹介を始める。
「あ、そうでした。私は初春飾利と申します。上条さんのことは御坂さんからよくお聞きしてます」
「それであたしは佐天涙子と申します。でも実際に会って話すのは今回が初めてですよね?」
「あ、ああ。そのはずだと思う」
 佐天の言葉に、一瞬だけ記憶喪失以前に会っていたかもしれないとドキッとしたが、同意を求められただけだったので上条はとりあえず頷いておいた。
「二人は知ってるみたいだけど初対面だし一応自己紹介。俺は上条当麻。高一の無能力者で、御坂とは友達、でいいんだよな?」
 確認のために美琴に訊いておくと、不機嫌な表情でなんで私に聞くのよと上条を睨んだ。
 それをいいと取って、そんなわけで友達だと改めて初春と佐天に言いなおした。
「んで白井とは、知り合い…かな?」
「わたくしはいつ貴方と知り合いになりましたの?」
 棘のある言い方をする白井の、上条への態度は相変わらずである。
 心を許していないことがよくわかる態度に白井らしさを感じながら、上条はまあ色々ある関係だと細かい説明すると長くなりそうなのでそのようにまとめた。
 白井はそれを美琴以上に鋭い目つきと殺気で答えるが、気づくと厄介そうなのでスルーした。
「それよりも、君たちはなんでここにいるんでせうか?」
「あたしたちは暇があったりするとこうしてファミレスでお茶をしながらおしゃべりしてるんです。だから今日もお茶をしながらおしゃべりしてたら」
「上条さんが来た、というわけです」
 上条の疑問に佐天と初春は息を合わせてここにいる理由を説明する。それになるほどと納得しながら頷いた。
「それじゃあおしゃべり中に入り込んでしまった上条さんって、今お邪魔だった?」
「いえいえいえ!!! お邪魔なんてとんでもないです! 逆によく来てくれました!!! って言っちゃっていいぐらい大歓迎ですよ」
「そうです! あの上条さんにお会いできたんです。佐天さんの言うとおり大歓迎です!」
 初春と佐天は身を乗り出す勢いで、上条が来てくれたことへの喜びを言葉と共に表現する。
 その一方で美琴は机にひれ伏しながらうぅ~なんでこんな時にと上条が最悪のタイミングで現れてしまった運命を呪い、白井は不機嫌な面持ちで敵意を持って上条を睨む。
「まあ、そういうなら会話に参加するけど、いいのか?」
「はい! むしろ参加してください!! それと、離れていても話しづらいですし他の人にも迷惑なのでこっちの席に来てください!」
 熱心に言う初春。それに押されてか、そういうならと上条は自分の席を立ち隣の席へ移動する。
 しかし佐天の横に座ろうとしたとき、待ってください!と佐天は少し声を大きくして上条を静止させた。
「あのーあたし側よりも御坂さん側に座ってくれませんか?」
「? なんでだ?」
「あのですね。隣り合うとあたしと初春が話しにくいので、向かい合って話し合ったほうが話しやすいかなって思うんで」
「??? まあそれでいいんなら」
 いまいち納得は出来なかったが佐天がそのように頼んできたのなら、その提案に特に問題がない上条は言われた通りにするだけであった。
「んじゃ御坂。隣、いいか?」
「ぁ………ぅ…………す、すきにしなさい」
 顔を逸らしながらツンとした態度で答えた。
 上条は嫌なら嫌って言えばいいのにと、美琴の態度を間違った解釈で受け取りながら美琴の隣に座った。その横の美琴は嬉恥ずかしさに真っ赤になっていることも知らずに。
「それじゃあ、まずは―――」
 これが上条が初春・佐天の二人に初めて出会った瞬間であった。


 時はまた戻り一月現在。
 あれから上条と佐天がやってきたのが上条の高校から数十分歩いた場所にあるファミレスだった。
 今の時間はちょうどティータイムにあたる。ファミレスでは食事をしている人はほとんどいないが、代わりに仲良く話す女の子のグループやカップルなどが多く、昼食をとりに来た上条には少し居心地が悪かった。
 それでも、昼食を取りに来たのだから注文をしなくてはいけない。とりあえず上条はメニュー表のトップにあった安いハンバーグセットを頼むことにした。
 一方の佐天はドリンクバーだけを頼み、セットメニューを頼んだ上条にちょっと食べてきちゃってとお腹を抑えて食べ物は何もいらないことをアピールした。
 それを受けて上条は、悪いなと小さな声で謝ってからお冷やに一口、口をつけた。それと同時に佐天はドリンクバーへ行ってきますと言ってから、席を立った。
 しばらくして、佐天はオレンジ色のジュースが入った大き目のグラスとストローを持って帰ってきた。
「何持ってきたんだ?」
「アイスオレンジココアです。飲んでみますか?」
「あ、いや……いいです」
 オレンジとココア。組み合わせると本当に美味しいのか微妙な気がするが、置いてあったのだから飲めないことはないだろう。
 しかし上条は好んで飲みたくはないなと思ったので、飲みたくないジュースリストにオレンジココアを追加してお冷やをもう一口飲んだ。
「ごくっ……それで、何話す?」
「そうですね~とりあえず最初は……」
「最初は…?」
「両手を見せてくれませんか?」
 話すよりも先に両手を見せて欲しいと言われたが、特には反論せず言われたとおり両手の手のひらをテーブルの中央にくっ付けるように置いた。
「あの、手のひらを見せてもらっていいですか?」
「まあ、いいけど…」
 佐天に言われたとおり、両手をひっくり返し手のひらを天井に向けると、佐天は興味深そうな視線の上条の両手のひらを観察し始めた。
「普通の両手ですね。右手だけがおかしな色だったり変は跡がついてるって思ってましたけど、右手は傷だけがあるぐらいで普通ですね」
「まあ傷跡が残るのは仕方ねえけど、これは自業自得だからな」
 右手に残った傷跡をそのように説明すると、色々あるんですねと同情の苦笑いを浮かべた。
「やっぱ、右手のことが気になるのか?」
「わかっちゃいます?」
「いきなり『両手を見せてください』って言われて熱心に両手を観察されればわかるだろ。まあ、俺の右手に興味を抱くってのもわからないわけじゃないから、気にはしてないけどな」
「あはは……でもありがとうございます。おかげですっきりしました」 
 もう用がなさそうだったので上条は両手を引っ込めた。
 それから次は何と佐天から話題を振るように訊くと。
「それじゃあ、あたしのことをどう思うか…」
「あのー佐天さん。まだ会って間もない上条さんに、それを訊くのはどうかと思いますよ?」
「そうですか? まあ、深く考えず好きに答えてみてください」
 期待した眼差しと笑みで言ってくる佐天。からかっているつもりはないようだが、からかうよりもたちの悪いことを訊いてきたことには変わりはなかった。
 上条は腕を組み、う~んと考えを張り巡らせる。会ってまだそれほど経ってはいないが、難しい質問をされたからには考えて答えを返さないといけないものである。
「佐天さんは、絡みやすいかな。まだ会って間もないけど、友達みたいに気軽に話せるし、他人だと思って変に気を使わなくてもいいし、話しかけやすい」
「えへへ、ありがとうございます。それで?」
「そうだな~あとはやっぱり、話してて楽しい、かな。女の子の会話って難しいかなって思ってたけど、話してみると難しくもなんともないし、むしろ男と話すのとは違う楽しさがあるな。佐天さんと話すと、それがよくわかる…かな」
「それって、あたしじゃなくて会話を褒めているように聞こえるのは気のせいでしょうか?」
「あれ……? えっと、そうなのか?」
 そうですよと言って佐天はジュースを少し飲むと、それでもいいですけどと特には気にした動きは見せなかった。
 ジュースの飲んでいる一瞬の間に今の指摘は佐天の中で解決したのだろう。上条はそう判断して。
「それじゃあ俺はどうだ? 御坂から色々聞いてるだろうし、俺よりも答えやすいんじゃないか?」
「そうですね~……上条さん、か」
(…………あれ?)
 ふと上条は、こんな質問をした自分に疑問を持った。
 自分がどんな人物かを訊くのは、思い返してみれば去年に何回か似たようなことを訊いたことがあったぐらいで、ストレートにどう思っていますかと訊くのは初めてだった。
 過去の自分はどうだったか知らないが、少なくとも現在の自分は気軽にどう思われているかを訊くような人物ではない。
 だというのに上条は佐天にそのことを訊ねた。これも心境の変化なのかと自分らしくなかった行動に疑問を持ちながら、そうした自分に妙な違和感を感じていた。
(なんだか………なんでか、気になるな)
 そこでふと感じた違和感。
 そしておかしなことに、思ったことはある一人の人物のことを―――――。
「上条さんは優しいですね。優しくて困った人を絶対に見捨てない、とてもいい人です。でもこれは御坂さんから聞いた話を元に思ったことで、上条さんと実際に会ってみての意見は少し違います」
 そして佐天は、一呼吸置いて言った。
「実際に会った上条さんって御坂さんの話していた通りの人だと思いましたけど、今の上条さんって前にあったときとは少し違う気がします」
「違うって、どのあたりが?」
「う~ん。なんと言うべきでしょうか。自然なんですけど自然じゃないと言うか、同じに思えるんですけど同じじゃないと言うか………一言で言えば、雰囲気、ですかね」
「つまり、雰囲気が違うってことか?」
「はい」
 少しだけ首を傾げながら佐天は言った。言った佐天はこれでいいのかよくわかっていなそうなのは、聞いていた上条にも十分伝わった。
 その上条はというと、雰囲気が違うと言われたことに驚きは感じなかった。むしろ、納得がいって筋が通るように思えた。
「少し話は変わるけどさ。初めて会った時、御坂の横で俺が色々と話したときは今みたいなことを思った?」
「その時はあまり思いませんでした。でも思わないってことは、御坂さんの話したとおりだったってことでしょうかね」
「そっか……」
 佐天本人もそうだが上条も質問することがこれでいいのか、いまいち納得がいかなかった。
 雰囲気が違う話から始まり、次に美琴の横にいたはどうであったかと続く。関連性があるのは確かであるが、一体何が関連し雰囲気が違うとはどういうことなのかが、二人にはまったくわからなかった。
「「……………………」」
「お待たせしました」
 そうしている間に、横から現れたウェイトレスが上条の注文した料理を運んできた。
 上条は一旦考えることを中断して小さく手を上げて俺のですとアピールをすると、ウェイトレスは慣れた手つきで料理を上条の前に置いて、伝票を置いていった。
「それじゃあ、いただきます」
 礼儀正しく手を合わせてから、ナイフとフォークを取り料理に手をつけ始める。それを佐天は静かに見守りながら、ジュースを飲んだ。
「礼儀正しいんですね。男の子っていただきますって言ったらすぐに食いつくイメージがあったんですけど」
「そのイメージは間違いじゃないな。前の俺だったらそうしてたかもしれないけど、今の俺は御坂のレクチャーが入ってるから、自然と礼儀正しくんだ。まあ悪いことじゃないし、どちらかと言うといいことだしいいんだけどな」
「御坂さんのレクチャー……?」
「ん…? ああ。何度か食事をしたことがあるんだけどその時に色々手厳しく言われちまって身に付いちまったんだ」
 ここで指す"何度かの食事"は自分の寮で夕食を食べた時のことである。だがこのことは上条と美琴だけの秘密なので、他言無用である。
 美琴もそうだが上条も秘密をきっちりと守ってるので、当然美琴の友人である佐天にも言えるわけはなく、曖昧なことを言って誤魔化した。
 曖昧なことであるが佐天はそれ以上は聞くつもりはなかったようなので、御坂さんらしいですねと笑ってその話題を終わらせた。それに上条は心の奥で安堵の息をついた。
「それよりも、本当に俺一人で食べててもいいのか?」
「いいですって。その代わりに話し相手になってくれれば、ちゃらですよ」
「それでいいんなら上条さんは話すけど……食べながらだからゆっくりとお願いします」
 小さくカットしたハンバーグを食べながら、上条は言う。
「それじゃあ……上条さんと御坂さんの関係についてお訊きしてもいいですか?」
「まあいいけど。でもそれって前回も訊いてきたよな。何かに気になることでもあるのか?」
「だって御坂さんが男の人のことを話したりするなんて、珍しかったので気になってしょうがなくて。それに今は御坂さんがいませんから、話しにくいことも話せちゃうかなって」
 質問の意図を素直に白状して、また訊いてごめんなさいと少しだけ頭を下げた。
「あ、いや、別に頭を下げなくても。ただ興味本位で訊いた事だから、気にしないでくれるとありがたい、かな」
「ご、ごめ……じゃなくて、はい!」
 いきなり頭を下げられてしまったので、悪い訊いてしまったと間違った解釈をして間違った罪悪感を感じてしまった上条は、少々慌てて質問の意図を伝えた。
 でもこれは上条が一人で慌てて、一人で間違った結果なので、佐天には困らせてしまったかなとこれまた間違った解釈をしてしまうのである。
「と、とりあえず! 話は御坂と俺の関係だったよな!? ………まあ……一言で言うならやっぱり友人ってのが一番しっくり来るな」
 ここで上条は強引に話を戻す。
「………やっぱり友人ですか」
 それに佐天は少しだけ間をおくが、話には遅れずに付いて来た。それで上条は少しだけ安心し、続きを言う。
「最初は少し仲の深い知り合い程度だったけど、色々と付き合わされたり。いろんなことで助けられたりしたし、それを考えるとやっぱり友人が一番しっくり来る気がするな」
「じゃあ、友人ってだけで親友ではないんですか?」
「親友は……どうだろうな~。親友に近い気はするけど御坂は親友ですってのは何かが違う気がするな。どちらかと言えば、友人と親友の間に近いような気がして、そこまで仲が深い友人だって気はあまりしないな」
「そうなんですか?」
「実はそこまで考えたことないから御坂は友人のどの位置にいるのか考えるのは今回が初めてだってこともあるかもしれないけど、それでも御坂の友人の位置は誰よりも一番わからねえ気がする」
 考えてみると、御坂美琴の存在は上条当麻にとってどの位置にいる存在なのかは、かなりの難問であった。
 最初に友人と言ったのは間違いはないのは断言できる。だが。友人ならどの程度の友人に属するかは定まっていなかった。
 いくつか例を挙げてみよう。
 例えばインデックスの場合。
 インデックスは友人以上の関係であることは確かだ。記憶を失った上条が初めて会った(自分を知る)知り合いであり、同じ寮の部屋ですごしている居候である。
 この時点でインデックスは友人でないことは、上条自身がとてもよく知っていた。ならば何かと考えてみてすぐに思いつき一番しっくり来るのは、相方(パートナー)である。
 しかしこの相方とは、その人と一生を誓うの方ではなく、頼れる理解者の方である。もっとわかりやすく言うのならば、家族に近いものである。
 それが上条当麻とインデックスの関係だと、上条は考える。
 例えば五和。
 五和はとても家庭的女性だ。同時にとても強い女性とも言える。
 五和は魔術側なので会う機会は他の女の子と比べても少なく、会えても平和な時であることはほとんどないので、他の女の子たちよりも話せる機会が少ないが、その少ない間でも五和と言う女性がどんな女性かは、理解しているつもりだ。
 その五和はどの位置にいるかといえば、友人に属する。だが五和は周りの環境や会う機会が少ないこともあって、美琴ほどではないが位置は曖昧である。
 だが、親友に近い存在なのは確かである。それは上条当麻と五和の関係だと、上条は考える。
 ………………。
 例えば、御坂美琴の場合。
 美琴は上条からしてみれば平和な日常の時間で会うたびに命の危険を感じる存在である。
 しかし一方では、家庭的な面・勉強面で誰よりも頼りになり、困った時は文句を言いながらも必ず手伝ってくれる心強い存在だ。
 そんな美琴なのだが、考えている途中でふと何かが引っかかった。
 それは見えているはずなのに、見えない何か。わかっているかもしれないが、実はわかっていない曖昧な存在。そして暖かくて、冷たい、小さな………。
「……………」
「上条さん?」
「あ、悪い。ちょっと考えてて」
 反射的に謝って、思考世界から現実世界へと戻ってくる。
 補習と少しだけ考えすぎたせいか、少し頭痛がしたが佐天に気づかれると心配されてしまうので、何事もなく残りのハンバーグを食べていく。
 それから、何の話だったっけ? と考えすぎて忘れてしまった話題を佐天に教えてもらおうとした。
 時であった。
「何しとんじゃこらーっ!!」
 どこかで聞いたことのある。というよりも、つい十数時間か前に聞いたばかりの声がファミレスに響いた。

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2010/07/31 13:05 | Slow love

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