忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/04 00:13 |
Slow love 3
遅くなってすいません。第3話です。
ここからシリアスパートに突入です。ちょっと短いですorz



「それで、なんで御坂がここにいるんだ?」
「何よ。私がどこにいたってもいいでしょう。それよりも! 私はなんでアンタが佐天さんと一緒にいるかを訊きたいわ!」
 どこかで聞いたことのある声の持ち主こと、御坂美琴は昨日となんら変わずに上条と接する。
 しかし何も変わらずに接すられると、さきほどの大声は一体なんだったのかが時間がたつたびに気になってくる。
 だが美琴はそのことには触れてるなと黒い威圧感を上条に対して発していた。それに押し負け訊く勇気をなくした上条には訊けるわけもなく、とりあえずいつも通りに接してそのことを自然に忘れるしかなかった。
「なんでって…補習の帰りに会って、話したいって言うから話してただけだけど」
「……………ホント?」
「嘘ついてどうするんだよ」
 疑いの目を向け続けてくる美琴の言葉に、上条は呆れながら答える。
「大体、一回佐天さんには会ってるじゃねえかよ。だからそのことを訊くのっておかしくねえか?」
「おかしいって…何がよ?」
「だから知り合い同士が会うのって悪いことなのかってことだよ」
 これが見知らぬもの同士なら美琴が訊いてくるのも友人として佐天が心配などで説明が付くが、一回会って話してまでいる者同士が会うことに心配などを感じるのはおかしいと上条は思う。
 ましてや友人関係である上条と美琴が、美琴の友人の佐天と話しただけでここまでうるさく言うのは少し変ではないのか。普段は考えないようなことを上条は何故か思った。
「俺も一応は佐天さんとは知り合いだったし初めてあったときは佐天さんと一緒にいたじゃねえかよ。その時、おかしなことなかっただろう?」
「そ、そうだけど………あ、アンタが女といると変なちょっかいを出すんじゃないかって思って!」
「ださねえよ! というか、俺ってそんなやつだったのかよ!?」
「そ、そうよ! アンタは女のことになると、まったく信頼できないんだから…」
「はぁ~。上条さんがいつ女に手を出す危ない人になってんでせうか?」
 上条にはそのような覚えが一切ないのだが、美琴はあると言った。
「なら聞くけど、アンタの友達は男よりも女の方が多いんじゃない?」
「それは……………そうです」
 記憶を失ってから友人と呼べる人物を全て思い出すと、美琴の言った通り女の方が多くなる。
 だから信頼されていないのかと、はぁーとため息をついた。
(わかってたけどさ……やっぱ、傷つく)
 上条は美琴とは友人としてとてもいい関係であると思っていたが、どうもそうではないらしい。
 それがより上条の気持ちを沈め、いつもの決まり文句を気持ちを美琴たちに伝えるかのように沈んだ声で呟いた。
「不幸だ」
 いつもの言葉。いつもの不幸。いつもの…。
「何が不幸よ!!!」
 ビリビリ。
 上条には不幸なことであるが、美琴のいる場ではこの三点はセットのようなもの。
 記憶を失った後でも変わらない三点セットであるが、魔術関連で忙しかった去年ではあまり実感できなかったものだったので、今年になってそれが綺麗な形となって面倒なこと、不幸なことへ変化した。
 内心では、いつものことだと諦めが付いていることでもあったが、素直にそれを認めると何かを失ってしまうような気がしたので考えないようにして、ここでは省いている。
「不幸だ。佐天さん、大丈夫か?」
「はい……ははは」
 美琴の隣にいたのは佐天は、苦笑いをしながら答えた。
「はぁ~。とりあえずだ、ビリビリ。落ち着け」
「落ち着けないのはアンタのせいでしょうが!!」
 今度はビリビリを出さなかったが、食って掛かるような気迫は健在であった。
 さてどうしたものかと、美琴の怒りを手っ取り早く静める方法を考えようとする。だが、考えて十秒も経たない間に意外な形で美琴の怒りは静まった。
「まあまあ御坂さん。それよりも、上条さんの隣に座り変えた方がいいんじゃないんですか?」
「ふぇっ!!?? ななな、なにいってるのよ佐天さん!!!」
「何って、言葉どおりですよ。それよりもほら、早く」
 というと佐天は美琴の手を掴み、上条の隣まで誘導した。
 そして上条の隣に座らせると、元いた場所に戻って、ニッコリと笑った。
「あぅ…………うぅぅぅ」
「ほらほら! せっかく上条さんの隣に座ったんだから―――」
「べべべべつになにもしないわよ!!! こいつの隣にいるだけじゃない! そうよ、こいつの……隣…」
 と言って、美琴は横目でちらりと上条の伺った。
 その時、運が良かったのか悪かったのか、上条と美琴の目が合った。
「……………」
「……………ふ」
「ふ?」
「ふにゃー」
 美琴はいきなり顔を真っ赤にすると、ビリビリと身体から青い稲妻を発しながら上条の方へと倒れた。
 それを幻想殺しの右手で受け止めて稲妻を消すと、今度は別の意味でのため息をついて、佐天の方を見た。
「………どうすればいいんだ?」
「さ、さぁ…?」
 予想外のことだったのは、上条だけではなく佐天も同じのようであった。


 とりあえず佐天に気絶した美琴のことを任せることにした上条は、少しいずらい雰囲気の席から逃れたくなり佐天に一声かけた後、男子トイレへと逃げた。
「はぁ、不幸だ」
 今の自分の現状を表すのに、これ以上の言葉はなかった。
 しかし、不幸でも少しだけ心地よさがある不思議な不幸だったため、気持ちはいい方向であった。
「……………」
 ふと上条は、気持ちのいい不幸に違和感を持った。
 毎回毎回、不幸だと思うことがあるごとに気持ちが沈む。
 大型車に撥ねられそうになったり、何もしていないのに団体の不良に絡まれたり、財布を落としたり、上から降ってきた鉢植えで頭を打ったり、故障した警備ロボに追いかけたりなどなどなど。
 まるで漫画の世界にでもいるかのように、起きる不幸の数々は心身ともにダメージをもたらすものであった。
 しかし、心地の良い不幸はそれらとは違う。
 身体にはダメージをおうこともあるが、心は逆に癒される。例えるなら、暖かい何かに心を包まれるかのような心地よさだ。
 それが本当にいいものか悪いものかはわからないが、上条が自分で判断するとなるといいものに属していた。
 疲れた心を癒す意味だけではなく、何かにすがれる暖かさと喜び。それと、幸せだと思える小さな幸福。
 上条は不幸であるが不幸であることを後悔したことは一度たりともない。心身ともにダメージは受けるが、傷跡が残るほどでもないし、不幸であることが当たり前だったので今更嘆くことでもなかった。
 だが今は、不幸であることに少し違和感を持っている。心地の良い不幸があることに……。
「不幸、か」
 違和感を持ったのは数分前であったが、思い返してみれば違和感に近いものを感じたのは何週間か前からずっとあった。
 ただその時は不幸だと言わず、思わず、スルーしていたので、実際に気づくまではここまで時間がかかってしまった。
 あの時に違和感に気づいていれば、もっと早く気づけたであろうに…と思い上条は、心地のよい不幸を思い返してみた。
「……………?」
 そして、気づいた。
「………まさか、な」
 しかし、それを否定した。
 そんなわけがないと、根拠はないが直感的にその可能性を否定し、別の可能性を考えた。
「……………………いや、まさか」
 が、気づいてしまったのが不幸だったのか、それ以外の可能性は思いつかなかった。
 だが、もしこれが真実であったのなら、これをどのように受け取ればいいのだろうか。
 上条はその可能性を認めることにに焦りを感じて、ブンブンと頭を横に振って考えを散らした。
「いやいやいや。ありえない……ありえないって」
 心地の良い不幸の原因が、そうだったとしてもそうだと言える根拠がない。
 むしろ、そうだったら迷惑するのは自分よりも………。
 そのためにも上条は否定をしたかった…いや、正確には否定するべきだと思った。
「ありえない………ありえない、よな」
 自分のためではなく、あいつのために。
 上条はそう思って、改めてその可能性を否定した。


 おかしなことを考えたせいで、思っていたよりも時間をかけて席を戻ることになった。
 これぐらいの時間ならば、佐天が戻したであろう美琴が機嫌悪く待っているに違いない。そう思うと少しだけ戻るのを躊躇したくなるが、戻らないと余計に機嫌が悪くなるだろうし、任せた佐天にも迷惑をかけるので結局は戻るしかなかった。
「戻ったらあいつ、怒ってるだろうな…不幸だ」
 でも、悪い気はしなかった。
「……………何話してるんだ?」
 と、席が目の前に見えた時、上条の視界に美琴と佐天の二人が隣同士で話している背中姿が見えた。
 どうやら背中を向けているせいで、近づいてきている上条の姿や気配に気づかず、熱心に二人でこそこそと何かを話しているようだ。
 こういった場合は声をかけたほうがいいのか、と二人の話の間に入るべきかどうか迷ったが、熱心そうだったので声をかけるのをやめて、少し遠くで終わるのを待とうと思ったときだった。
「―――御坂さんは上条さんにどうしたいんですか?」
 小さな声だったが、確かに上条の耳には届いていた。
「ど………って…」
(ここじゃあ、聞こえない………おっ! ちょうど席の後ろが)
 運良く美琴たちの背後の席が空いていたので、そこならと思った上条はなるべく足音を立てず、静かに後ろの席に座った。
 美琴たちとの間は30~40センチ程度しかなかったが、これも運が良かったのか上条であることに一切気づかないどころか後ろに座った人のことさえ気にせず、二人は話を続けていた。
「私は……そんな」
「何言ってるんですか。何ヶ月の前からずっと言ってたじゃないですか」
「そ、そうだけど……」
(ここまで接近しても気づかないのは背中を向けているからなのか、熱心なのがいいのかわかんねえな)
 それ以外にも座る時に音を立てやすい木製の椅子ではなく長いソファーだったこととと、席の間にあった短い仕切りが少しではあるが姿を隠せていたことが、ばれない要因にもなっていた。
 そして決定的だったのは、美琴が発している電磁波のレーダーが先ほどの上条とのやり取りで上手く制御できず、レーダーの役割を失ってしまい、ただの電磁波として発していたことが気づかない大きな要因であった。
「色々やってきてるのに気づかないとなると、これはもう直接言うしかないじゃないですか!」
「~~~~~~~~~無理無理無理!!! そそそそそれにあいつのことは……そんなんじゃ」
「今更何を言ってるんですか御坂さん。去年からずっと言ってたことでしょ?」
「そ、そう……だけど……でも………そう、でも」
(御坂ってこんなキャラだっけ? というよりも、これじゃあ……)
 ここまで聞いてもまだ確信がもてない上条は、様々なことを思いながら息を潜め、二人の話の続きを静かに聞く。
「このままだと他の人に上条さんをとられちゃいますよ? いいんですか?」
「そ、それは……………」
「ですから早くしないとダメですって。もし誰かに先を越されたら手遅れになるんですよ?」
「ううぅぅぅ~~~。そ、そう……だけど………でも…」
「御坂さん! 上条さんのこと―――なんでしょ? だったら―――って言わないと」
(…………………ぇ?)
「た、たしかに……あいつのことは、――――かもしれないけど…でも…―――……って」
(………………―――って)
 それは今まで聞いた事がなかった言葉だった。同時に、認めることが―――。
「たしかに―――って言うのが一番楽だけど……でも……―――って言えたら苦労しないわよ」
(…………………―――)
「でもいつかは言わないといけないと思いますよ? そうじゃないと御坂さんが―――だってこと上条さん、気づきませんよ」
(―――………―――)
「だから―――とかじゃなくて………」
(―――…―――………み、さか)
 上条は、それ以上聞く事が出来ずバン!!とテーブルを叩いた。
 そしてその音に驚き何事かと背後を向いた美琴と佐天は、ここでやっと上条がいたことに気づいた。
「あ、あん……た…」
「か、かみじょう…さん…」
 背中から聞こえる驚きを隠せない声は、予想通りのものであった。
 当然と言えば当然だよなと一人納得した上条は、座っていた席から離れ、元いた席に置いてあった自分のカバンの中身を開いた。そこから財布を取り出し、中から千円札を取り出すと机の上においた。
「俺、帰るから……」
 そういって財布をカバンにしまうと、二人に背を向けて出口へ向かおうとした。
 だがそれを止める美琴の手が上条の腕を掴んだ。
「………何?」
「ぁ…………ん」
 上条は振り向かずに声だけで美琴に答えた。
 美琴はそれを怒っていると感じ取ったのか、小さな声でごめんと謝るとしおらしい声で聞いてたと確信部分を訊いてきた。
「……………ああ」
「ッ!!!」
 一瞬掴んだ手がとても強い力で握られたが、上条は動揺だと察した程度でそれには触れず、話を続けた。
「御坂は俺のこと、―――なんだってな」
「ッ!!!???」
「聞いてたよ…全部じゃないけど…聞いてた」
「……………ごめん」
 美琴はゆっくりと手を離して、もう一度ごめんと謝った。
「別に怒ってねえよ………」
「うん……ごめん」
「…………………じゃあ、な」
 結局、上条は振り向く仕草も見せないまま、出口へと歩いていった。その背中を、美琴と佐天は何も言わず送る。
 ―――――少しだけ、残念だった。

<4へ>
PR

2010/09/01 16:09 | Slow love

<<水の中で甘えて | HOME | 人差し指>>
忍者ブログ[PR]