忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/03 13:24 |
とある恋人の冬物語 前編
今回はシリアスとかがないほのぼの話。
なので深く考えずに、いちゃついている二人をお楽しみくださいwww
あと、誰か別のキャラが出て欲しいなんて期待には、答えられないぜよ。何故なら、そうしようとしたら、頭がパンクして進まなくなってしまいましたからねorz
まあ、とある人物は出そうと思ってますが…どうなるかな…。

あと、毎度のことながらキャラ崩壊、注意です。



 12月24日。
 学園都市の空気はクリスマス色に染まり、その影響で街の活気は未だに衰えていない。
 しかも今年のクリスマスはちょうど週末の日曜日に当たっており、24日のクリスマスイブも休日の土曜日に当たっていたので、例年以上に賑わっているように思えた。
 もっとも、記憶を失った上条当麻からすれば、今年を入れてまだ三度目のクリスマスイブであるが。
 そんな賑わった街から少し離れた住宅街を歩きながら、上条はボロボロになった自分の制服姿を見てクリスマスの雰囲気とは真逆の意味を持つため息をついた。
「はぁ~不幸だ。しかももうこんな時間で、日付が変わってるし」
 上条は先ほどまでちょっとした事件に巻き込まれ、それを解決したばかりだ。
 その事件と言うのはいつも巻き込まれる魔術サイド関連ではなく、珍しく科学サイド関連の事件であった。
 しかし幸いなことに事件に関わっていた一人の超能力者、一方通行と意見の一致で解決に協力をしてもらったおかげで、事件は意外とあっさりと解決し大きな事件にまで広がることもなかった。
 しかし幸い中の不幸で事件を解決し一方通行と別れた頃には、携帯電話の時計は日付が23日から24日に変わってしまっていた。
 日付が変わった今日は12月24日、クリスマスイブ。その日の始まりの時間を事件を解決した帰り道で始めるのは、不幸な自分らしいのかもなと皮肉混じりのため息をついた。
 こういった重要な日ぐらいは、大好きで大好きで愛してやまない御坂美琴と共に始めたかったのだが、不幸な人間上条当麻にはそんな小さな願いも叶うことはないほど、神様に恵まれていない。
 過去にも、夏休み以降行われた大覇星祭、一端覧祭、芸術鑑賞祭など楽しめる行事は全て魔術サイドの揉め事で潰されてしまい、一・二年時代以上に行事に恵まれず三年間最後となる行事を不戦という不幸な結果に終わっている。
 そのくせして中間・期末試験、大掃除、大覇星祭・一端覧祭の準備など上条がまったく得しない、または損をするものは全てこなしてきている。しかも試験と掃除に関しては不幸のスキルが発動し、最終的な結果は悲惨という以外に何も言えない。
 そのおかげで、大学へ行こうにも調査書や成績の関係で最低ランクの大学にしか行けないことが今の時点で決まっている。
 別に将来は~がしたいなど夢や将来のことをまったく考えていない上条からすれば、大学は入れればいいものなので成績が高い・低いなど特には気にしていなかった。
 もっとも、上条の恋人である美琴はレベルの低い大学に行くことに反対ではあったが、現実は美琴の考える通りには進まなかった。
(クリスマスが終わったら、入試一直線。はぁ~不幸だ不幸だ)
 勉強に恵まれていない上条からすれば、入試など受かる気などしなかった。ましてや不幸な自分が入試に挑んだらどうなるのかを想像すると、必ずと不合格の文字しか浮かんでこない。
 一応、勉強の方は専属の家庭教師がいたので問題はないのだが、合格のこととなると確率の問題になってくるので、そこで落ちる気がしていた不幸な上条であった。
(とりあえず帰ろう。それで待っている我が妻を安心させて勉強して寝よう)
 事件に巻き込まれたことによる疲れと、待っている将来の妻を安心させないとと思う使命感を感じながら、上条は一人我が家への帰路を歩く。
 そういえば今日はどうするか決めてなかったなと、クリマスイブの予定を決めていなかったことを思い出しながら…。
 そしてクリスマスプレゼントを何も買っていなかったことを思い出し、どうしようかなと気づくのが遅すぎる悩みに悩みながら…。


 冬の朝は寒くて布団から出てきたくない。
 しかし布団から出てこないと一日は始まらず時間を無駄にするだけだ。ましてやそれが重要な日であったらより一層無駄な時間である。
 それがわかっていても布団から出てきたくないのが、暖かさと言う名の誘惑だった。
「当麻…当麻。朝よ、起きて~。当麻ったら」
「んんっ………寒いです。なのであともう少しだけ眠っていたいです」
「もうっ! 朝からだらしないんだから」
 そう言って頬を膨らませているのは、上条の恋人であり将来の妻である御坂美琴である。
 すでに起きて時間が経っている美琴は、声を聞くだけでもわかるが目が覚め切っている。対する上条は、起こされてまだ五分もたっておらず態度も声もまだも眠たそうであった。
「ほらっ! 朝食が出来たんだから早く起きる。今日はせっかくのクリスマスイブなんだから大事にしないと」
「朝食が出来たことも今日がクリスマスイブなのもわかってるけど、それでも眠っていたいのが今の上条さんです。というか寒い」
「まったく。だらしない旦那さまだこと」
 美琴が上条を起こす理由は、朝食の準備が出来てたからであった。今日はそこにクリスマスイブが追加されているので、余計に起きて欲しいのだろう。
 上条はそれを先ほどの会話で察したが、それでも布団の心地よさから出るに出ることが出来ず、美琴の頼みよりも毛布の暖かさの誘惑の方を取っていた。
「上条さんは布団の心地よさに参ってしまっている旦那さまですよ~。ということなので、この心地よさに身を委ねて~」
「……………わかった」
 美琴は上条の言葉が気に障ったのか、怒った声で返事をした。すると、美琴は上条の潜っていた毛布に身体を入れると上条を正面から抱きしめた。
「起きて。それで私を見て。旦那さま」
「ん? いかがしたのでせうか、姫……………え?」
 眠気で重たかった瞼を開けて美琴を見た瞬間、上条の眠気は一気に吹き飛ばされ、視界上に入っている美琴のその姿に釘付けになった。
「美琴たん。上条さんには上半身しか見えておりませんのでわかりませんが、その格好は?」
「ビキニサンタさんだよ、ダーリン。クリスマスイブだから、土御門のアドバイスを参考に今日の朝のサービスのために気合を入れてみたんだけど…どう?」
 と美琴が説明したとおり、美琴の今の格好は夏の旅行で着ていた純白のビキニと真っ赤な衣服を羽織ったビキニサンタであった。
 毛布の中で寝転がっているため上半身しか見えないが、それでも十分すぎる破壊力を持っているその格好に男の上条は視線を逸らせずに釘付けになった。
 特に破壊力があったのは胸の部分。神裂や五和、吹寄並みの大きさはまだないが、その一つ手前の大きさに成長した美琴の胸は一般的には大きいに分類される大きさである。
 それが上条の顔から数十センチしか離れていない位置にあるのだから、男としては魅力的過ぎる誘惑であり、好きな女の子のものであればさらに魅力が上がり、様々な意味で危険であった。
 それ以外にも、生きていてよかったと見て思ってしまうほど似合っていた純白のビキニ姿と、美鈴のような大人の女らしさと可愛らしさが入り混じった笑顔など…上条の目の前にいる最愛の女の子の全ての要素が上条を釘付けにしていた。
「……………エロイな。しかも、すげえ可愛い! 生きているのが辛くなるほど可愛いすぎですよ美琴!」
「えへへ、ありがとう。でも生きているのが辛いか…美琴さんとしては『生きていることすら忘れるほど可愛い』って言って欲しかったかな」
「悪い悪い。でもこれは本当に可愛すぎ。もうこれだけで二年分のクリスマスプレゼント並みの価値があるな」
「えへへへへ。そっかそっか」
 喜んでくれたのがわかって、頑張ったかいがあったことと嬉しい言葉で褒められたことで、美琴は嬉しさのあまり舞い上がってしまい、当麻大好きモードになってしまった。
 しかもここは家の中で今は朝だ。この状況は二人の愛の巣に邪魔が一切入らず存分にいちゃつける、二人からすれば最高の状況であった。そのため上条も理性をいくつか放棄し、自分の本能のままに行動する。
 その行動の始まりとして、まず上条は美琴を力の限り抱きしめて、美琴と耳元で囁いた。
「遅くなったけどおはよう。朝から美琴の顔を見れて幸せだ。それに美琴は朝から……輝いていて眩しい」
「ま、またマンガの口説き文句? まったく当麻ったら♪」
「でも本心だ。というよりも、これ以外は綺麗だとか可愛いとか世界一だとかしか思いつかないというか知らないというか」
「どれも毎回同じような言葉ね。でも真似ている言葉だけど当麻にそれを言われるのは私は好きだし、言われると幸せになれるわ♪」
 そっかと上条は優しく笑うと、片手を美琴の顎に添えて上条の方から美琴と唇を合わせる。美琴はそれを甘んじて受けると、少しして唇を離した。
「……キスの後って切ないわ」
 言葉の通り切なそうに美琴は言うと、今度は美琴の方から上条に唇を合わせ、また離した。
 それからまた上条が唇を合わせ離すと、その次に美琴が、その次は上条が………と何回か往復した後、上条は起き上がってようやくキスが終わった。
「それじゃあ俺は着替えるけど………???」
 キスをし終わりいつもの冷静さを取り戻した上条であったが、不意に美琴にパジャマの胸元をぎゅっと掴まれると、起き上がって身体を上条に寄せ、可愛らしく鳴く小動物のような声で当麻と名前を呼んだ。
 上条は美琴の可愛らしい言動にドキッとしながら、なんだと普段通りの返事を返すと、
「早いけど一つだけ。当麻のためにプレゼントをあげたいの」
 美琴の言葉にどくんどくんと通常よりも高鳴っている心音は緊張と期待で、強く大きくなっていっている。
 俺のためのプレゼントってなんだと考えながら、上条は美琴を抱きしめ返してあげると美琴はぴくっと一瞬だけ驚いたように身体を小さく振るわせた。
 そしてぎゅっと掴まれた胸元に美琴の手の力がこもるのを感じながら、上条はビキニサンタ姿の美琴を見下ろすと、
「………私を………もらって?」
 上条の顔を見上げる上目遣いで、美琴は自分をプレゼントとして上条に送った。
 それを聞いた上条はどこかで何かが切れる音が聞こえたような気がした。でもそれに気をとめることが出来ないぐらい、上条は………。


 色々とあったがいつもの通りに戻った二人は、朝食の後片付けを終わらせ、居間にあるソファーに座りながらテレビを見ていた。
 昼まで長い朝のこの時間帯のテレビ番組は、ほとんどがニュースでバラエティーにはまだ早い時間帯だ。あと一時間ほど経てば、ニュースではなく何かいい番組が始まるだろうが、上条も美琴も一時間後には家にいるとは限らない。何故ならば、
「ねえ当麻。今日はどうするの?」
「……………」
 美琴はニュースの音をBGMにしながら、今日の予定について上条に訊いてみたが、日付が変わった帰り道に何も考えていなかったことを思い出してからこのソファーで座っている今この瞬間まで、どうしようか美琴にばれないように考えていたが、去年と同じにしようかと思っていたところで訊かれてしまった。
 なので訊かれた今も去年のことは怒りそうだしどうしようかと必死に考えを巡らせながら、とりあえず返事は無言のままでいようと考えていたが、
「ってあの当麻が決めてるわけないか…」
 すでに上条の考えはお見通しであったらしく美琴はため息をついて上条の額を人差し指で弾いた。
「それにプレゼントも買ってないんじゃなかった?」
「うっ。何故それを…」
「去年の当麻ったらプレゼントのことを何も考えてなくて、結局は私が選んだプレゼントを買って終わりだったじゃない。だから今年もそうなんだろうな~って思ったら案の定よ」
 それだけではなくプレゼントは去年と同じ方式でしようかと考えていたことも読まれ、今年もまさに去年通りのままであったことに何も言えなくなってしまい、視線を美琴とは逆の方向へと向けて目を逸らして誤魔化した。
 美琴は上条の考えに呆れながら、でも内心では恋人になっても何も変わらず去年と同じようなスケジュールを考え恋人同士らしくないことを怒りながら、上条の頬をぎゅっと抓った。
「あの時、当麻が何を買ってくるか期待していたんだけど、今年もまさか同じような考えになるなんてねッ!!!」
「いててっ!!! そ、そうだったのか? あの時の上条さんは美琴に選んでもらった方がはずれがないし、安心できたから選んでもらったわけなんですが………そんなことを考えていたなんて知りませんでし、あたたたたっ!!!!」
「ホント、当麻らしいわね。考え方としては間違ってないしそっちの方が選べるからプレゼントは安心できるけど、当麻が何を決めてくるかが興味あったからちょっと残念だったわ」
 でもあの時は付き合ってなかったししょうがないわねと付け加え、上条の頬を開放して今度は上条の左腕に抱きついた。だがその顔はまだ怒っていた。
「前の私だったら怒ってこのままビリビリしちゃうけど…いいかしら?」
「ビリビリは勘弁願いたいのが、今の上条さんの望みです。毎回のように言いますが、ビリビリを間違えて防げなかったことを想像すると怖いです。というか美琴さん! あなたの抱きついている手は左ではなくないでせうか??!!」
「あ、だったら冗談にしておくわ…………今はね」
 今はかよとまったく冗談ではないコメントに、上条はびくびくしながら腕に抱きつく美琴の頭に右手を置いた。一応、何かあったときのための命の保険である。
「……………………なんだよ」
 しかし上条の考えがばれて不満に思ったのか、右手と不満そうに顔を膨らませ目では怒ってますと上条にわかるようにきつい視線で睨みつけながら、
「なんで撫でてくれないの!!??」
 置いただけの右手に不満があったことを愚痴った。どうやら保険のために置いたことに気づいていないようだ。
 上条はああそのことかと不満そうなであった訳に納得したのと同時に、ビリビリさせないために置いたなんて言ったら怒るだろうなと心の奥で苦笑いしながら、ビリビリしないようにと防げるのはわかっているが念のために祈りながら、小動物の頭を撫でるのと同じように頭を優しく撫でてやると、不満と怒りが組み合わさった顔は撫でられたことで嬉しそうなにやけた顔に変わり、上条の左手を抱きしめながらふにゃ~と可愛らしい声で鳴いた。
「う、嬉しそうだな。というか、撫でられるのが好きなんだな」
「好きな人に甘えられるのは彼女の特権だもの。それに、当麻の手ってすっごく暖かくて安心できるんだもん」
「そうなのか? そんなこと初めて聞いたぞ」
「今までも同じようなことを何回も言ってるんだけど…もしかして聞いてなかったの?」
 そう言われればたくさんあったかもと、鮮明にではないが言われたことがあったことを思い出して何度も頷いた。ちなみに内心ではまだ美琴にびくびくしている上条であった。
「ホント、当麻っていつまで経っても当麻よね。だけどそんなところがあるぐらいが当麻らしいくていいのかもね」
「俺らしいね…………美琴だけじゃなくてインデックスにもまだ言われてるんだが、未だに上条さんにはその意味を理解できませんよ」
「そこが当麻らしいのよ………まあ言ってもわからないし治らないから別にいいじゃない」
「そういう問題かよ、ったく」
 少しだけ馬鹿にされたように聞こえたが、もう何度も聞いた台詞だったのでその台詞で馬鹿にされるのはもう慣れてしまっていたので、文句は悪態をつく程度にとどめた。
 それに今の主導権は美琴にあるんだしなと、今の状況下ではどちらが有利であったかを判断してのことであった。
「ほらほら怒らない。代わりに美琴さんが愛のキスをしてあげるから」
「それって、男の上条さんが言うべき台詞だと聞いたことがあるんですけど………まあいいか」
 文句はあると言えばあるが、一日三食の飯よりもキスを取る上条からすれば、文句などキスとは比べ物にならないほど小さな問題だ。というよりも、上条の優先基準は救いを求めている人間or美琴なので量るまでもないことではあるが…。
「ってか、美琴は上条さんにキスをしたかっただけじゃないんでせうか?」
「そうよ♪ だってキスをしたらまたキスをしたくなるし…家の外に出かけたら人の目があるから何度もキス出来ないじゃない」
 人の目が光る家の外以降はほんの少しだけ距離をとって、今のように甘えてばかりの態度を取っているわけではない。
 本心を言うと、いつでもどこでも甘えて甘えていちゃいちゃしたいのが本音であるが、世間の目を知っている思春期あたりの二人からすればそれは少々行き過ぎているので、外では少しだけ自重はしている。
 なので存分にいちゃつけるのは今の場だけであったので、上条に腹を立ててしまった時間はとても大きな無駄であった。
 しかもそれが今日のような何かがある日だと余計に無駄だったので、今更だが美琴はそのことを後悔していた。
 しかし、心を読むことが出来ないだけでなく鈍感の技能も持ち合わせていた上条は、そんなことに気づくことはなかった。
「当麻とキスが出来なくなったら私、死にたくなるわよ。それほど大好きな当麻とキスするのは大好きなの♪」
「上条さんも同じです。あと、美琴を抱きしめられないと、死にたいかも…」
「うんうん。私も、当麻に抱きしめられないと…もう」
 というと美琴は上条の腕から離れ、今度は上条の胸に飛び込んでいった。それから両腕を背中に回して、ぎゅっと離れないように抱きしめた。
「好き…大好き…世界で一番好き…宇宙で一番好き…どんなものよりも、大好き」
「美琴…」
 上条も、美琴と同じように両腕を背中に回してぎゅっと抱きしめ返すと、目の前にあった額に一瞬触れるだけのキスをした。
「えへへ………幸せ♪」
「みたいだな。でもさ…最初にしてくれるって言ったのは美琴じゃないか?」
 だったら…と上条は目を閉じて美琴に先を促すと、そうねと嬉しそうに相槌を打ち、上条と同じように目を閉じた後、上条の唇と合わせた。


 とりあえず家にいても仕方ないということで、家を出て向かったのはこの場所、セブンスミストであった。
 今日のセブンスミストはクリスマスイブの影響が大きいようで、普段以上のお客さんとクリスマスのセールのおかげでいつも以上に熱気が溢れ、ゆっくりと買い物が出来そうにない雰囲気が出入り口からも感じられるほどに混んでいた。
 しかもこの雰囲気を体験するのは記憶上では今回が初めての上条は、いつもと違うセブンスミストの雰囲気に若干押され無意識に小幅一歩下がった。
 しかし下がった小幅一歩も組んでいた美琴の手に引っ張られたせいですぐに無効となり、上条が雰囲気に押されていることを無視して美琴は上条を引っ張って出入り口を抜けた。
「こういった日にはずいぶんと混むもんなんだな」
「クリスマスイブは、誕生日とは違って決まった日にちでみんな共通だから仕方ないわよ。それにセブンスミストだけじゃなくて、近くのデパートもきっと似たようなことになってると思うわよ」
「結構なことだな。静かに買い物するのが好きな上条さんからすればいい迷惑だ」
「それは私もそうよ。というよりも混んでいる場所で買い物をするのが好きな人間なんて普通はいないわよ。でも今日はクリスマスイブなんだし、この混み具合に関しては諦めるしかないわね」
 それもそうだなと頷いてセブンスミスト内を見渡してみると、いつもなら数人程度しか見ない店も、今日に限って安く売られていたりするせいか客が十人以上も入っていたり、通路は客が多かったため肩や荷物がぶつかったりと、周りを深く見渡さなくてもわかるぐらい人で溢れていた。
 こういった日はすげえ混むんだなとセブンスミストの客の多さに驚きながら、上条は連れられる子供のように腕を引かれ美琴のあとを追っていく。
「なあ美琴。セブンスミストって休日や祝日、今日のような何かがある日になると、こんなに混むもんなのか?」
「ん~~~祝日はよくわからないけど、クリスマスみたい日はその日だけの特別セールをやったりする店が多いから結構入るわよ。でも今回は休みが重なってるからいつも以上に入ってるみたいね」
「なるほど。確かにセールって言葉に弱いには誰だって弱いし、今日みたいな休みの日だと時間を気にせずに行けるからな」
 もっとも補習ばかりの上条のような人間は例外であるが、今日に限ってはその例外に属さなかった。
 ある意味補習ばかりで休みが潰されてばかりの不幸な上条からすれば、今日のような日に補習がないのは一つの幸運なのかもしれないが、今回はそのことに気づいておらず、休みであることが当たり前のように思っていた。
 だが数日後には、自分が休みばかり潰される不幸な人間であると再認識することになる補習祭が開催されるのだが、それはまた別のお話で。
「そう言えば、セブンスミストに来たのはいいけど何か買いたいものでもあるのか?」
 ふと思った素朴な疑問を美琴にぶつけてみると、特にはないわよとあっさりと答え、二人はエスカレーターに乗って上へ昇っていく。
「でも今日はセールだし、何かいいものがあるかもしれないわね」
「要するに、来てみていいのがあったら買う。そういうことでせうか?」
 そうよと相槌を打ってある階でエスカレーターを降りると、美琴は迷いなく自分の行きたい店へと歩いていく。その横を歩きながら、上条は降りた階にある店を軽く見てみた。
「そういえばこの階って女物しかないようフロアだったよな?」
「そうよ。あ、でも安心して。下着のお店には行かないであげるから」
 女性の下着売り場は立ち入り禁止の看板でも立てて欲しいほど、行きたくない場所であったため、挑発的な笑みを浮かべた美琴に、上条はお願いしますと丁寧に断った。
 それにこんな混んでいる日に下着売り場に行ったら、きつい視線どころではすまされず、大切な何かを失うような不安があったので、今日は余計に行きたくなかった。
 もっとも、今日はと言っただけ別の日にも行かないと言ってはいなかったことに上条は気づいていないが。
 そうしている間に、美琴は自分がよく来る場所店の近くまで来ると、歩くスピードを少しだけ落とし、周りの店を見た。
「やっぱりここも混んでるわね。でも簡単に見るってことは出来ないし……時間がかかるけど、いい?」
「別に問題ないけど。それに楽しそうに買い物をしている美琴を見るだけでも、買い物をする以上に満足出来ることもあるしな」
「え、そうなの? でもそんなことだけ見て楽しい?」
 それのどこが面白いの? と不思議そうな顔をしている美琴を見て、上条は苦笑いした。それから、まあ最初はつまらなかったけどと過去のことを思い出しながら、
「でも最近は意外と楽しいもんだぞ。どれを買おうか迷っている顔やこれを買おうと決めた顔、似合っているか不安そうな顔もあれば見ただけで着てみたそうにしている顔とか…色々種類があるって気づいてたからは、それだけ見てても十分にいいって思うしな」
「あ………うん」
 楽しそうに話す上条。一方の美琴はそれを聞かされて、嬉しそうに口元を緩ませ少々赤くなっていた。
「そ、そんなことしてたの。知らなかったわ」
「ん、そうだけど?……問題でもあるのか?」
 美琴はううんと首を横に振り、そうだったんだと小さな声で呟いて、見られていたことに恥ずかしさを覚えたのと同時に、買い物中でも見ていてくれたことに喜びを隠せずにいた。
 もしここが人の少ない場所であったら、抱きついてキスをしていたところであるが、残念ながら人の多いセブンスミスト内では、多すぎる人の視線にそんなことをする勇気はなかったので、それは胸の奥に封じてなんとか表情を緩めるだけに留めた。
 しかし美琴の胸の内の喜びにまったく気づいていない上条はというと、そっかと相槌を打ち返すと周りをキョロキョロしながら、そう言えばこの店だよなと美琴の行きつけの店を指差した。
 それに美琴はそうよとまだ少し赤い顔で頷くと、落ち着け落ち着けと念じながら上条の手を引っ張ってその店へと歩いていく。するとそこの店に貼られた張り紙に目が止まったらしく、美琴はあっと声を上げた。
「やっぱりクリスマスセールってだけあって、今日は安いわね」
「だったら寄ってくか?」
「う~ん……迷惑にならないなら寄ってくけど、いい?」
 俺は構わないぞと答えると、美琴はありがとうとお礼を言って、他の客がたくさんいる行きつけの店へと入っていた。

<中編へ>
PR

2010/05/12 22:54 | fortissimo

<<拍手レス(五月) | HOME | とある恋人の夏物語 後編>>
忍者ブログ[PR]