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2024/05/03 18:09 |
とある恋人の夏物語 後編
スランプに苦しみ続けて一週間以上、ようやく完成しました!!!
やっと出来て編集し終えあげることが出来ると思った瞬間、ちょっとガッツポーズ。ああ~本当に苦しかった!!! 何回かこのまま投げ出そうとか適当にしようとか思ったけど、最後までやりきって無事に終わった!!!

スランプのポイントだったのは、前半で言動や感情の動きが終わってしまい後半をどうするかに迷ったこと。結果的に地の文を減らして会話重視にすることで手を打ちました。
なので、後半は会話重視で動きはほとんどありません。なんだか三人称の化物語みたいだな<後半
あと今回の章のテーマだった『愛』がおかしな方向へ行ってしまったこと。これで一週間がつぶれたorz



 身体を洗い終わった上条は、美琴と少し離れた位置から湯船に浸かった。
 一応、離れていれば勘違いの度合いも少しは軽くなると思ってのことであっただろうが、すでにここに男女が裸で入浴している時点で、逃げ切れないような気がしていた。もっとも、勘違いされるのは上条だけであると思うが、それを覚悟の上だろうと上条の心情を察した。
 しかし本音は、近くで美琴と湯船に浸かりたかったのだろう。
 なんとなくの予想ではあったが、美琴も同じ考えだったのできっと…と思いながら、何を話そうか考えていなかったことを、今更になって思い出した。
 その時、ふぅ~と気の抜けた息を吐く上条の声が聞こえた。
「美琴、逆上せないのか?」
「え……? あ、うん。さっき、少し湯船に出てたから」
「ならいいけど、無理はするなよ。逆上せて漏電なんてしたら、洒落にならないからな」
 そういう上条の声は、何故だか落ち着いていた。美琴と入り慣れているからなのか、誰も来ないことに安心でもしたのか、美琴にはよくわからなかったが。
「俺の幻想殺しなら漏電は防げるけど、今は美琴に近づけないからな。少しでも火花が散ったら出ろよ」
「それぐらいわかってるわよ。それに自分のことは、自分が一番よく知ってるわよ」
「そうか? 意外と気づいてなさそうに見えるけどな」
「そう言うアンタこそ気づいてないじゃない! 大体、私が女心を教えてあげなくちゃ、アンタは何もわからない超鈍感のままだったじゃない」
「うっ…それもそうですね。今でこそ、上条さんが鈍感でしたとわかります」
 まったくと美琴は呆れてため息をついた。対する上条も、美琴と似たようなため息をついたが美琴よりも重いため息だった。
 そうしてため息をついた美琴は、今の会話に些細な違和感に気づきねえと上条に声をかけた。
「今の会話ってさ、友人だった時代の会話みたいじゃなかった?」
「………確かにそうだな。自然すぎて、まったく気づかなかった」
 不意に上条の自然という言葉を聞いて、美琴の身体は無意識にピクリと震えた。そして震えたのとほとんど同時に、美琴はある質問を思いついた。
「ねえ、友人時代の私と恋人時代、今の私。どっちが私がアンタの好み? もちろん、両方ともなんて答えはなしよ」
 自然である。それが意味するのは、友人関係であった頃の態度がまだ染みついていることを意味していた。だが今はまだ友人であった頃の時間の方が長いので、態度が完全に変わったとは言えない。
 しかし、美琴の質問はそれとリンクしているが、同時にリンクしていないとも言える質問だった。それに気づいていないのか、上条はなんだその質問とわかっていなそうであった。
「いいから答えて。友人時代のビリビリしてきた私か当麻が大好きな私か、どっち?」
「待て。いきなり言われても思いつかないから、しばらく時間をくれ」
 そう言うと上条は、自分の顔にお湯をかけて顔を洗った。気分を入れ替えているのだろう、といつか自分の同じようなことをしたなと美琴は上条の方を見ながら、何を言ってくるかを待った。
 その間に、誰かが入ってきたらと先ほどまでなら考えているが、もう美琴の考えの中には誰かが入ってくることなど蚊帳の外へと放り出されていた。
 それからしばらくの間、美琴は湯船の入り口にある段差に下半身だけを浸かり、上半身はタオルで隠しながら考えている上条の方を見ていた。
 こうして逆上せないようにしないと、能力の暴発が起こりうるのでどんな状況でも、こればかりは気をつけないといけなかった。それをわかっていた上条は特には何も言わず、時折美琴を見ながら考え続けた。
 そして上条は、やっぱりなと小さな独り言を呟くと美琴と呼んで質問に答えた。

「悪い。両方しか思いつかねえや」

 それが考えた末の上条の答えであった。
 どうしてと美琴は、上条の答えに不満を述べずに理由を続けざまに訊いてみた。すると天を仰ぎながら
「どっちも同じ美琴だ。だからどっちか片方を選べなんて俺には無理だ」
「………」
「ビリビリばかりしてきて素直じゃない美琴も、俺が大好きで甘えてばかりの美琴も、どっちも俺が大好きな美琴。卑怯だけど、俺は両方とも比べることなんて最初から出来るわけないんだ」
 上条は優しい人間だ。誰にでも優しく接し、危なくなった時は決して見捨てないのが彼であった。だから両方と答えたのだろうかと、最初は思ったが…そうではなかった。
 上条は美琴を愛している。だからどっちが好きかなんて訊いても、彼は美琴自身が好きだったので両方としか答えない。
 それが、御坂美琴を愛している上条当麻という男であった。
(卑怯…本当に卑怯よ、馬鹿)
 美琴は、小さなため息をつくと、上条と同じように天を仰いだ。そして、独り言のように話し始めた。
「付き合い始めは感情のコントロールが出来なかったわ。一年以上も持ち続けた恋心がやっと報われて、上条の名前を貰った一週間の生活と当麻との同棲。極めつけは、当麻と同じ高校に通うことが出来る幻想(夢)の現実化。夢を見ていたことが、一瞬のうちに現実になったような日々だったわ」
「………」
「散々甘えてばかりだったけど、当麻も私と同じように甘えてきたわ。今も家の中だとそうしているけど、あの頃はどこでも甘えてばかりでべったりだった」
 上条を好きになり告白を成功させる間の日々は、どんなに頑張ろうとも友人関係から先へと行くことが出来なかった。
 その最大の原因は、上条に素直になれず、友人から先へと進もうとしなかった美琴自身が悪かったのだ。
 そしてあの卒業式の日も、最後は友人の手を借りて告白したようなものだ。友人時代の美琴は、最後の最後まで素直になることは出来なかったと、今の美琴は過去の自分をそのように評価した。
 それから想いが叶って相思相愛になった二人は、沖縄にある地図にない島で一週間生活をした。それが終わると待っていたのは上条との一つ屋根の下の同棲生活とホワイトデーのプレゼント。そして翌月の入学式での一波乱。
 しかしそれが終わったところで、二ヶ月間の間に起きた絶頂期は終焉を迎えた。
 今でも夢かと思ってしまうほど幸せだった時間であったと美琴は思い返すが、同時に自分の子供らしさを強く実感する時間でもあった。その二つの思いに美琴は苦笑いを零すと、お湯を自分の顔にかけて顔を洗った。
「……でも、入学式を終えてから学園都市の人たちの反応で世間の目を実感し始めた。その一方で、当麻は『外』へ頻繁に行くようになって四月から五月のゴールデンウィークにかけていつも以上の怪我で帰ってくるばかりだった」
「………そう、だったな」
「そのあたりからだった。私が子供の愛情を当麻にぶつけてきたって気づいたのは………」
 ただ甘えること、好きだと言うことは小さな子供にだって出来る。
 それに気づく間まで美琴が注いできた愛情は、大人の愛情ではなく子供の愛情。好きと相手を想うのではなく、自分を見て欲しいと思う興味を引くための愛情。それは小さな子供が構って欲しい時に行うことととてもよく似ていた。
 それが約七割を占めていて、残りは様々な感情たちと大人の愛情で形成されていた。そのことに気づいたのは、ゴールデンウィークあたりであった。
「ゴールデンウィークが終わってからだよな。美琴が昔みたいにツンツンし始めたのは」
「当麻への気持ちを改めていた時期よ。だからあの時は友人時代に戻ったみたいで、当麻も最初は戸惑ってたわよね」
「でも一週間して、俺も美琴の変化に気づいて態度を変えた。って言っても、俺はあんまり変わってない気がするけどな」
「それもそうね。根本的なことは一切変化はなかったみたいだけど」
 ほっとけと上条は言い捨てると、顔を美琴の方へと向けた。そして真剣な表情で、言った。
「子供の愛情でもいいじゃん」
 え? といきなりの言葉に美琴は驚きの声を上げた。上条はそれを聞いて、え…じゃねえだろうがとため息をついた。
「俺たちってまだ付きあって五ヶ月の恋人同士じゃねえかよ。そりゃ、一線を越えた生活をしたり結婚前提で付き合ってたり、色々と行き過ぎてるだろうけど、それでも俺たちはまだ子供じゃねえか」
「………」
「なのにたった数ヶ月で大人になろうとして、大人の愛情を注ごうとして…焦りすぎだろう」
「あせり…すぎ? 私が?」
「そうだよ。お前、何をそんなに焦ってるんだよ。大人にならないといけない理由でもあったのか?」
 まるで美琴の心の奥底を読んでいるかのように、上条はゆっくりと一つ一つの言葉に何かを乗せながら言った。
 それに揺さぶられるように、美琴は心の奥にある大きな不安が一言の言葉になって頭の中に浮かび上がってくる。そして、そっかと不安を理解した美琴は小さな声で話し始めた。
「私が不安なのは当麻が死ぬこと。いつか、どこかなんて関係ない。当麻が死んでしまうってことがすごく不安なの」
「………」
「死なないって信じたいけど…怪我をしてくる当麻を見るたびに、信じようと思う気持ちが小さくなるの。当麻が出て行ってしまったら、無事に帰ってくるのだろうか。死んじゃうんじゃないか、って」
「美琴………」
「怪我で帰って来ても、次は怪我でじゃなくて死体で帰ってくるんじゃないかとかも考えたりしちゃったり、最近だと当麻が出て行くたびにその不安に押しつぶされてしまいそうで…」
 それは不安と言うよりは恐怖、絶望に近いことなんだろうと心の中で訂正しながら、美琴は自分で自分の身体を抱きしめた。
 話しながら震えていた自分の身体は、さきほどまで湯船に浸かっていたのかわからないぐらい冷たく小さかった。
 それが自分でわかるのだから、この不安は一体どれだけのものなのかは自分でも測ることは出来ないが、大きなものであったのは理解できた。
 そしてその不安は美琴の精神にも異常を来たし、美琴の顔の目の前で小さな青い光を生み出す。それはまさに能力の暴発の予兆であった。
「ごめん、逆上せたみたい。能力がコントロールできなくなりそうだから、先に上がるね」
 美琴は一言上条に声をかけると、タオルで前を隠して脱衣所へと向かおうとした。その時、美琴と上条の力強い声が風呂場に響いた。
 いきなりだったので驚いてビクッとしてしまったが、すぐに驚きは収まり何と上条の方へと振り向いた。そして上条は、湯船から上がってくると美琴に近づいて、優しく抱きしめた。
「悪い………悪い」
「どうして? なんでアンタが謝ってるのよ?」
「ずっと気づけなくて、ごめん。悪かった、美琴」
 上条の声はとても優しかった。美琴は優しさのあまりつい力を抜いて身体を預けたくなりそうになったが、まだ上条が何を言いたいのかわからなかった。
 そのせいか、緊張を解くのはまだ早いと緊張感を保ちながら、別にいいわよといつもと変わらない態度で答えた。
「それに、私が当麻と付き合う上では覚悟してたことだから。だから当麻が…アンタが気にすることじゃないわよ」
「何言ってるんだよ。気に出来ないわけ、ないだろう」
「そうよね…アンタ、優しいから」
 上条のことはよくわかっている。だから美琴は上条の優しさが誰よりもよくわかってしまう。同時に上条がどんなことを思って美琴を抱きしめているのかも。
「そんなに自分を責めないで。私はアンタが今ここにいるだけで、満足なんだから」
「……………悪い」
「別に悪いとなんて思ってないわよ。私はただ―――」
「そうじゃねえ! そうじゃ、ないんだ美琴」
 と言うと上条はさらに美琴を強く抱きしめた。そして、抱きしめたまま
「自分を責めるとか、美琴に負目があるとか、そんなこと思ってないんだ」
 美琴の耳元をくすぐる様に、優しく囁いた。
「俺は美琴が好きだ。一人の男として一人の女が好きだ。だから、悪いと思ったんだよ」
「何、大人ぶったこと言って…」
「確かに大人ぶった言い方だよな。でもさ、好きな女が自分のことを心配してくれているのに、何も感じないわけないだろう?」
「………アンタは、私が心配していたことに気づかなかったことに謝ってるの? それとも、自分が傷つくのをやめられないから謝ってるの?」
 もしどちらかならば、上条は自分を責めているか負目を持っているかのどちらかに当てはまることになる。そうなると、美琴が考えていることと同じになる。
 しかしもしも、もしもである。それとは違う答え、予想もしなかった答えを言った時、果たしてそれはどちらに当てはまるだろうか。いや、当てはまらない可能性もある。
 それを考えると、どうしても期待をしてしまう自分がいた。上条だからなのか、美琴が一人の女だからなのか、考えてしまう根拠はわからなかったが。
「俺は美琴が心配していたことも傷つくのをやめられないことも、謝るつもりはない。というよりも、前に入院中のとき、俺はそれで謝ったはずだ」
「そんなこともあったわね。アンタが両手足に包帯ぐるぐる巻いて、一週間外しちゃダメって言われた時の話よ。その時私は心配しているのよって大きな声で何度も叫んで」
「俺は悪いって何度も謝った。でもこれが俺の今の生き方だから怪我は仕方ないって言って、お前が納得した…って話だったよな」
「そうよ。あの時はアンタの怪我も酷かったし、今までで最長の十日間も帰ってこなかったんだから、心配で心配で死ぬかと思ったんだから」
「ああ、悪かったって今も思ってるよ。あの時は、本当に反省した」
「嘘っぽい……………でも、仕方ないのよね」
 その話は夏休みに入る前の病室での話だ。
 魔術がらみで『外』へ行き、十日ぶり学園都市に帰ってきたとき、上条の両手足は包帯で巻かれていた。怪我の内容に関しては省力するが、全治一週間以上。包帯は一週間、巻かれっぱなしと今までにないほどの大怪我だった。
 さすがにその時は美琴も我慢の限界を超えてしまい、上条に自分が思っていたことを全てぶつけてしまった。
 最初は感情的になってしまい後悔したが、終わった今となっては全てぶつけたのは自分も上条もいい薬であっただろうと、美琴は振り返った。
 そして上条に全てをぶつけたあと、上条は怪我ばかりはどうにもならないと頭を下げて謝った。それに関しては、最初は怒ったが帰宅する直前で嫌々納得した。
「俺は助けを呼ばれたら、自分を犠牲にしてでも絶対に助ける。悪いけど美琴、今の俺もそれだけは変えられない」
「………わかってるわよ。それぐらい」
 美琴は上条の右手に自分の左手を置いて、目を閉じた。
 上条の右手、何者にも囚われない最強にして最弱の能力、幻想殺し。この力の正体は、美琴にはわからない。科学でもなければ、上条の言う魔術と言うものでもない。だったらこれは一体…。
 しかし、持ち主の上条はそんなことを一切気にしない。右手のことにまったく興味がないといえば嘘になるであろうが、上条にとって右手は真実を知るものではなく何かを救うものだ。
 その右手であらゆる幻想を殺し、あらゆるものを救う。今の上条には能力の真意よりもそちらの方が重要であった。
 それが上条当麻という最弱(最強)であるから。
「アン…当麻。答えを聞く前にさ、一つだけ訊いていい?」
「ああ、俺に答えられることなら」
 そして、美琴は上条の右手をぎゅっと握り締めながら目を開けて笑った。
「私が不幸になったとき、当麻だったらどうやって助けてくる?」
「なんだ、そんなことか」
 上条も美琴もわかりきっている。でもわかっていても美琴は訊かずにはいられなかった。
 今にも押しつぶされそうなほどの重たい不安。この不安(幻想)を殺すことが出来るのは、彼の一言。何者にも負けない絶対の力の言葉。

「そんな幻想(不幸)は俺がぶち殺す」

 御坂美琴は上条当麻が好きである。
 だからその言葉を信じて、もう一度信じようと思った。彼、上条当麻を。いずれ自分の夫になる美琴が世界で一番と認めた男を…。


 時刻は深夜の三時。
 外はいまだ夜の闇の覆われている。しかし夜の闇の中でも虫たちは鳴き声の合唱を行ない、明かりのない夜を盛り上げていた。
 これが学園都市であれば、夜でも車や能力による雑音が聞こえたり、街の明かりや道の所々にある電灯の明かりが夜を明るく照らしていただろう。
 しかし『わだつみ』では、雑音がなければ電灯などの明かりも一切存在しない。まさにあるべき自然な夜の姿を、ここでは綺麗に再現しているようであった。
 そんな静かなこの時間に、美琴はふと目を覚ましてしまった。
(………まだ日も上がってないってことは眠って二、三時間程度かしら?)
 この部屋には時計があるが、まだ目がぼやけていたのでよく見えなかった。しかしまだ日が上がっていない深夜であることは、目の前の真っ暗な世界で理解することが出来た。
 少なくとも日付は変わっていると、予想をつけながら美琴は朝からの予定を思い出してみた。
 今日は朝から忙しい。朝食後、帰るための準備と使ったこの部屋の掃除して少し早めに『わだつみ』を出る。それからは電車の時間まで、また街に行って時間を潰す。
 それが学園都市へ帰る前の今日の予定である。予定としてはシンプルであるが、内容としては予定以上になってしまい、電車に乗るまで体力が持たないかもしれない。
 そうならないためにしっかり休んでおかなけれならない。これは昨日の一日で学んだ教訓と皮肉であった。
(……………………………眠れない)
 少々細かく予定を思い返してしまったせいか、頭が活性化され余計に目が覚めてしまったようだ。
 細かくじゃなくて大雑把にしておけばばよかったと、思い返しすぎたこと後悔しながら、美琴は隣で寝息を立てている上条に視線を移した。
(ふふふ…気持ちよさそう。それになんだか子供っぽくて可愛いわね)
 上条と美琴の顔の距離は美琴が少し動けば顔と顔がぶつかるほど近かった。そのおかげでスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている上条の顔が、近くで見れたことに美琴は得をした気持ちになった。
 しかしそれが眠りに繋がるかどうかは話が別であった。なので、上条の顔を見ても眠くなることなんてなかった。
(ずいぶんとのん気に寝てるわね………でものん気なのも不幸がない間だけ、か)
 今日も不幸に振り回されそうな予感を感じながら、美琴は心の奥でため息をついた。
 確実にあるであろう上条の不幸は、朝からきっと二人に猛威を振るうに違いない。それがどんな不幸なのかはまだわからないが、少なくとも昨日と同じ度合いの不幸がまた起きるのは大体予想できた。
 これが回避できれば万々歳であるが、昨日の時点で回避できていなかったので、きっと朝から家に帰るまでは回避は難しいか不可能だろう。
(ああ、不幸ね。でも泣き言を言うのも今更だわ)
 友人時代から上条の不幸に巻き込まれていた美琴からすれば、今回の上条の不幸に嘆くのは今更のことであった。
 さらに言うなら、今回は怪我や問題などに巻き込まれていないのでまだ不幸のレベルも低い方であり、嘆いたり気持ちが沈んだりするほどではなかった。
 なので今回の旅行の不幸はまだ可愛いものであり、少し気になる程度の問題であった。
 しかし昨日なくてもまだ今日が残っているからもしかしたら…と大きな不幸がある可能性はまだある。さすがにそれだけは気にせずにはいられず、美琴は心の底でまたため息をついた。
(不幸はあっても構わないから、せめて平和に帰りたいものね。電車の時間に遅れました、なんてこともありそうだし…大変ね。でも当麻と一緒だからいいか)
 誰にも見られていないが、こっそりと笑って当麻と声を出さず口だけ動かして呼んでみたが、上条が起きる気配はなかった。
 わかってはいたが、少しだけ期待を裏切られた気分になった。ここで起きてくれたら面白かったのにと、寝ている上条に少しだけ不満を思いながら、上条から視線を逸らし、天井に視線を向けた。
(…………………当麻)
 視線の方向を天井に向けて約二十秒で、美琴は天井の光景が虚しく思えまた上条に視線を向けた。
「………あ」
「ん…? あれ…起きてたのか?」
 上条の顔に視線を向けると、目を擦りながら眠たそうに欠伸をする上条が視界に入った。それを見て、名前を呼んだ効果かしらとロマンチックなことを想像してみた。
 しかしそれをぶち壊すように上条は
「痒い。蚊にでも刺されたか?」
 首の辺りをボリボリと痒そうに掻いた。どうやら美琴の予想とは反して、ただ痒さで目覚めただけのようだ。
「はぁーなんかこう…アンタらしいと言うか、無意識にロマンを壊すのが得意と言うか」
「なんだそれ? ってか、なんで残念な顔してるんだ?」
「はぁー、こういったことだけは私は恵まれてないわね。……………でも好きなのよね」
「??? さっきからよくわからねえけど、俺も美琴のこと好きだぞ?」
「わかってるわよ………わかってるわ。………でも言われるとやっぱり嬉しいわ」
 上条にロマンを求めるのは絶望的ではあるが、安心させてくれることには期待出来る。その例として、今のように好きに好きと言い返してくれる。
 わかっているのだが声に出してもらうと、それがとても心地よく暖かな気持ちになる。同時に心の不安が吹き飛び、代わりに心に安心が訪れる。
 そしてそれらは、今の美琴の胸の奥にその通り全てとまではいかないが、それと同じぐらいの変化を見せていた。
 先ほどまで考えていたネガティブな考えは吹き飛び、好きと言われた喜びが水が紙にしみこむように美琴の胸の奥を一瞬にして喜びの色に変える。しかもそれは内面だけではなく表面上にも現れ
「みたいだな。その顔でよくわかる」
 眠そうな上条も、嬉しそうだとわかるぐらい口元を嬉しそうに緩ませていた。
「好きな人に好きって言ってもらうのは嬉しいものよ。もう何度も言うけど、わかってそうでわかってないのかしら?」
「上条さんは耳にたこが出来るぐらいその言葉を聞きましたよ。でも言われるたびに、そうだなって実はわかっていないように思えちまうんです。頭ではちゃんとわかってるんだけど…おかしなもんだな」
「それは頭じゃなくて心で感じるものよ。まったく、当麻はいつまで経っても当麻ね」
「お前までインデックスみたいなことを言うか。でもまあ否定はしない」
 いつであったか、とうまはとうまなんだよと言った一人のシスターがいた。最初はよくわからなかったが、こうして長い間一緒にいるとその言葉の重みを理解できた。
 確かに当麻は当麻のままねと今度は心の底で思いながら、美琴は片方の手を上条に向けて伸ばした。上条はそれが何をするかをわかっていたのでニッコリと笑いかけると、ほらと掌を合わせて指を絡ませた。
「……………」
「……………」
 恋人繋ぎをした上条と美琴は、お互いに何も言わず幸せそうに笑い合いながら相手の手の体温を感じた。
 逞しくて大きな上条の手と小さくて壊れてしまいそうな美琴の手。対極的な男と女の手は繋がれると絶大なバランスを生み、見ているだけでもがとても優しく暖かな気持ちにさせてくれる。
 ただ手を繋ぐだけ。でもただ手を繋ぐだけでも、ここまで大きな効果を生むとは不思議なものだ。幸せねと美琴は繋がれた手と上条の顔を交互に見ながら、繋がれた手から感じる余韻に浸った。
 それからしばらくの間、二人で余韻に浸り見詰め合っていると、不意に上条は美琴と名前を呼んだ。呼ばれた美琴は手を繋ぎながら何? と一言で済ませると、上条は美琴の目を見つめた。
「風呂のこと、どうだ?」
 見つめ返してわかったが上条の目はどうすればそんなに優しい目で見れるのよと思うぐらい優しく、見つめ返しただけでまたさらに大きな安心感に包まれた。そうして安心感に包まれながら、美琴は流れるように口を動かした。
「自分の不安や当麻の気持ちがわかってすっきりしたわ。完全にとはいかないけど、私からすればもうこれで満足よ」
「そっか…だったらよかった」
「うん。これも全て当麻のおかげよ。ありがとう、当麻」
 美琴は顔だけ乗り出し、上条にキスをした。すると上条は空いていた片手を美琴の背中に回し、キスをしながら美琴の身体を自分の元に引き寄せて抱きしめた。
「んんっ……ちゅっ……えへへ」
「好きって言うのも、キスをするのも、抱きしめるのも、やっぱり嬉しいんだな」
「そういう当麻こそ嬉しそうな顔をしてるわよ~?」
「上条さんは好きですからやっているので、当然じゃないですか。それに好きな人だからやりたくなると何回も言ってるだろ?」
「そうね。でも美琴さんとしては同じ言葉でも愛がこもっている言葉だったら全然オーケーよ♪」
 美琴は上条の胸に頬擦りをしながら、幸せそうに笑い続けた。上条も美琴の頭を優しくなでなでしながら、幸せそうに笑い続けた。
 互いに好きだからそれが伝わるようなことをしたいと思う気持ちは同じだった。それを口に出して言葉にして言ったわけではないが、上条も美琴も同じなんだろうなと以心伝心しているような考えを互いに考えていたのだった。
「愛、か。何度も聞くけどなかなか興味深い言葉だな」
 不意に上条は、愛の持つ言葉の意味に疑問を持つようなことを呟いた。いきなりどうしたのと恋愛などに鈍い上条らしくない話題に少々驚きながら、そうね~と真面目に何と答えればいいかを考えた。
「多分、気持ちを表す言葉だからじゃないかしら? 気持ちは科学でも当麻の言う魔術でも解明できないほどの難問であるし、目で見えるものじゃなくて感じるものだから」
「………解明できない難問………感じるもの………………」
「??? いきなり黙ってどうしたの?」
 美琴の答えを受け、上条は抱きしめながら何かを考えているようで黙りこんでしまった。一体何を考えているのか美琴ですらわからないが、とりあえず考えがあるのだろうと察し何かを言うまで美琴も黙った。
 そうして大体一分ぐらい経って、上条は抱きしめていた美琴の身体を開放して、今度は両肩に手を置いた。
「なあ美琴。風呂場でさ、『子供の愛情でもいいじゃん』って言ったこと、覚えてるよな?」
「あ、うん。さっきのことだから、まだ覚えてる」
「悪い。ああ言ったけど今の俺、大人の愛を目指してたんだ。あの時は美琴のことを考えるのに夢中で、そのことをすっかり忘れてた」
 上条は申し訳なさそうに視線を落として、思い出していたことを美琴に隠さずに伝える。自分の大人を目指していたこと、それを先ほど言わなかったこと、思い出したこと、嘘偽りなく素直に…。
「『美琴を好きではいけない。きっと好きのままだと美琴には何も返していないことになる。だから好きじゃなくて愛していると思えるようにしよう』って昼寝をしていた時に思ったんだ」
「そう…だったんだ」
「でもそれも俺が大人の恋愛をしようとした焦りだったんだよな。遅いけど、俺も今になって気づいた」
「…………」
 上条も美琴と同じで焦らないと言っておきながら、実は美琴と同じぐらい焦っていた。それは伝えられた美琴には、何を意味していたのか、何を考えていたのか、何を焦っていたのかわかる気がした。
「俺は大人の恋愛をしようと思うのは焦ってる。でも別に大人の恋愛をしようとした美琴やしようとしていた自分を責めたわけじゃない」
「うん。責めて言ってることじゃないことはわかってる」
 それが先ほども上条が言っていたことだ。だから美琴は上条に文句を思ったり、怒りを感じたりしない。
 ただ上条の考えを傍観者として、聞いていただけで意見を言うつもりはなかった。そして話し終わった今も何も言う気はなかった。
「アンタが…当麻が言った事だから。だから大人の恋愛をどう処理するかは、当麻自身が一番良く知ってるはずよね?」
「ああ…さっきも言ったけどわかってるつもりだ」
「なら問題ないじゃない。大人の恋愛をどう処理するかは当麻に任せるわ。………私も、自分でどうしていくか考えているつもりだから」
 今までの上条への想いは一人で焦りすぎていた。まだ時間はたくさんあって、上条や自分が別れてしまう結末などないはずなのに、美琴は何かに焦りを抱いていた。
 しかし今は違う。じっくりと何をすればいいのか考えていきたい。わからなかったら、愛している人である上条に訊けばいい。書いてみれば単純なことであるが、この単純なことでさえも出来ていなかったのが前までの美琴だった。
 美琴は大丈夫だからと、両肩に置かれた上条の手を握って指を絡ませた。そして絡めつかせたまま、体ごと上条に倒れた。
「え…? あ、おい」
「………………好き……誰よりも大好き」
「………美琴」
「何度も言うわ。好き、大好き、誰よりも好き。私のたった一人の大切な人…当麻、大好き」
 そして互いに両手の指を絡ませながら上条と美琴は、自分たちの愛を確かめるように口付けを交わした。


 本日の天気も晴天であった。
 すでに30度を上回った気温と外に輝く太陽のせいで、今日も暑苦しい。しかし今の季節は夏だ。文句を言っても暑さが寒さに変わることはない。
 それでも今日ぐらい涼しくても、と思ってしまうのは夏のお決まりだ。こういった日には、冷房や扇風機が恋しいようなと思いながら、上条は後ろを振り向き『わだつみ』を見た。
「あっという間だったわね」
「そうだな。あっという間の一泊二日だった」
 電車の時間まではあと二時間近くある。だが昨日はあまり街を周れなかったので、電車の時間まで街で時間を潰すことになった。
 そうなると、買い物を終えてまた『わだつみ』に戻ってくるのは面倒で時間がもったいなかった。なので、少し早いが『わだつみ』を出る手続きをしてここを出ることになった。
 そして、手続きを終えた上条は玄関で待っていた美琴と合流すると、置いてあった荷物を持って『わだつみ』の玄関を出た。
「最初はどうなるかと思ったけど、何もなくてよかったよかった」
「何もなくて当然よ。というよりも、何かあるほうが異常なのよ。わかってるの?」
「その異常体験のようなものをここで体験してしまった上条さんとしては、今日を無事に迎えられて一安心ですよ。それに異常体験は、上条さんには必ずついてくる背後霊みたいなものだから仕方ないんですよ~」
「諦めきった台詞ね……まあいいわ」
 上条の言っていることを理解しての諦めだろうか、美琴は呆れてため息をついた。だが上条の言うことは一理あったので、それに反論することは言えなかった。
 そして上条は『わだつみ』に一回頭を下げると、先へと一人で歩いていく。美琴も慌てて、上条と同じように『わだつみ』に一回頭を下げると、ちょっと待ちなさいよと上条の後を追った。
「こらぁ!! 勝手においてくな~!」
「……………」
「だ・か・ら! 置いてくなって言ってるでしょう!!!」
 その言葉とほぼ同時に、美琴は額から小さな電撃を生み出しそれを上条の背中に向けて放った。それを上条は右手で反射的に防ぐと、はぁーと大きなため息をついて荷物をその場に置くと、後ろを向いた。
「美琴たんはいつからビリビリ中学生時代に戻ったのでせうか?」
「あ………あ、アンタが無視するから悪いのよ! せっかく私がいるというのに…酷いじゃない」
「あ~悪い悪い。久々に熱心に考えてたら、何にも気づかなくて」
「…………………私にも気づいてくれないなんて、なんだか傷つくわ」
 付き合ってそれなりの時間が経っているからだろうか、友人時代は無視されたことに腹を立てていたが今は無視されたことに少しだけ悲しくなった。
 美琴はそれを重たいため息と沈んだ声で無意識に表現すると、上条は悪かったと言って美琴を抱きしめた。
「馬鹿。付き合ってるんだから無視しないでよね」
「ごめんなさい、美琴さん。最後の最後にぶち壊してしてしまって…」
「いいわよ、馬鹿。でも………………償いのキス、して欲しいかな………なんちゃって」
「お言葉のままに姫……………まったく吹っ切れたらまた甘えん坊になっちまうんだから」
 というと上条は美琴の唇に向けて自分の唇を押し付け十秒前後たったあたりで、上条は美琴から唇を離した。そして離してすぐに美琴は何を考えてたの? と上条の服をぎゅっと握りながら訊くと、昨日のことをなと美琴の目を見ながら答え、
「それでいきなりなんですが、もう一度普通の恋をしたいんだけど、いいか?」
「普通の恋愛…?」
 ああと目を見ながら頷くと、よくわかっていない美琴の両肩に手を置き、美琴と力と想いが入った声で名前を呼ばれると、
「もう一度美琴に恋をしてもっと好きになりたい。恋人同士、将来結婚する同士だけど、また初心に戻るような感じで美琴と恋がしたい」
「………」
「えっと………いまいち説明が苦手な上条さんですけど、今のことだけでご理解いただけましたでせうか?」
「……………うん」
 上条の言いたいことは大体理解できた。要するに美琴との愛をもっと深めたい…そう言いたいのよねと上条を抱きしめた。
「うん。私ももう一度、当麻と恋をしたい。それで今よりももっと好きになりたい」
「上条さんも同じく。美琴と恋をしてもっと好きになりたい」
 上条も美琴を抱きしめ返し、二人は抱き合いながら耳元をくすぐるように囁く会話を続けた。
「もしそうなったら、私はまた当麻に恋をしてもっと好きになる」
「上条さんもまた同じく。というか、そうなるんなら何度も恋をすればいいのではないでせうか?」
「ふっふっふ、それもそうね。だったらさ『死ぬまで恋をしたい』でいいんじゃない?」
「だな。一度きりの恋なんてもったいないよな。何度も何度も美琴と恋をして、そのたびに好きになる…そっちのがいいよな」
「私も何度も何度も当麻に恋をして、そのたびに好きになる…うん、いいわね」
 と言うか美琴はクスクスと嬉しい気持ちを抑えらず、顔に出しながら笑った。そして上条の頬にちゅっとキスをすると上条に笑いかけた。
「今この瞬間、もう私は当麻に恋をして好きになってるわ」
「俺も。美琴に恋をして好きになってる」
 お返しにと上条も美琴の頬にキスをし返した。それに美琴はお返しにキスを仕返し、また上条も美琴にキスを仕返し………それがしばらくの間続いた。
 そうして互いにキスのし合いが終わると、二人は互いの顔を見詰め合って抱きしめていた腕のさらに力を込めた。
「私たち一緒ね」
「ああ、そうだな」
 そして、見詰め合った二人は少しずつ目を閉じていき、
「愛してる。それと、またよろしくな。俺の大好きな人」
「うん。私も愛してる。私の大好きな人」
 永遠に終わらない二人だけの恋愛がまだ始まったばかりだ。

<クリスマスへ>
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2010/05/06 23:45 | fortissimo

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