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2024/05/03 19:47 |
とある恋人の夏物語 中編
海とお風呂の回ですwww でも健全なのでお色気はほとんどないでござるorz
今回はわからなくて苦痛でした。特に水着の映写を含めた海での場面全ては、参考になる作品(資料)がなかったので、マジ苦戦。それ以外のこともわからなくて……ビクンビクン(後編も同じですorz)
というか、上琴で泳いだりする話がないことに驚き。私が知らないだけかもしれないですけど(・ω・;)

前回の指摘を意識しながら、書きました。よくなっていればいいんですけど…。
ちなみに、これで9000字です。10000字いってなかった…だと!?



 海の家と掲げるだけあって、『わだつみ』にはたくさんの人が泊まっているみたいらしく、ここに泊まっている人たちとすれ違ったりする。
 そのたびに上条は自分の正体がばれるか不安にもなるが、他人に声をかけづらいからなのか、今のところは誰も上条たちのことに気づいていなかった。
 『わだつみ』に来る道中や街だと気づかれるのに、ここでは気づかれないのは不思議であった。
 だがこの後『わだつみ』に戻って来てからは、他のお客さんたちに正体がばれてしまうことになるが、このときの上条はそんなことも考えず、ここにいる間は平和だなと思い込んでいたのだった。
 さて、現在の上条はというと、人の集まり場所から少々離れた位置で、パラソルとブルーシートを敷いていた。敷き終ったブルーシートの上に、美琴から受け取ったプラスチック製の小さな手さげを置くと、上条もその上に座って海を眺めた。
 こうして水着に着替え、海の光景を眺めるのは二度目だっただろうか、と前に来たときのことを少し思い返してみた。
 確か一度目はインデックスと最初に来た時で、二度目は従妹の竜神乙姫が御坂美琴の姿になっていた時だ。
 両方とも海につき合わされ、面倒だったのでぼっとここで見ていたような……と、過去のことを思い返してみると、海で泳いだ記憶がほとんどないことを思い出した。
 だが思い出した記憶よりも、『御使堕し』の方がここでは印象深かった。なので、ここで海を見るのは全てがいい思い出ではないことを思い出し、重いため息をついた。
「やっぱり『御使堕し』の印象だけが一番に残るな…不幸だ」
 今回のメインイベントとなる海は、前回の『御使堕し』のときのような入れ替わりは起きないだろうが、不幸続きの今日一日を思い返すと、海では何も起こらないとは言えない。
 それに前回来た時の乙姫のことを思い出すと、まさかあの時の再現がまたここで、とスク水姿の妹キャラになっていた美琴の姿を思い出し、上条は頭を悩ませた。がそれに関して先ほどまでの話だ。
「まあ、スク水はこの歳になってはないのは当然、か」
 実はここに来る前、スク水かどうか美琴に訊いてみていた。それに、馬鹿にされた思い込んでの怒りの電撃と共に、違うと叫ぶように否定したを美琴が言うには
「ちゃんとした水着を買ってきたんだから、期待しててよね!」
 と市販のものを買ってきたようだ。
 だが美琴のカエルのキャラ好きを考えると、素直に彼女の着てくるであろう水着に喜べず、逆に小学生が着るような水着を着てくる気がしてならない。それだったら、上条の高校指定のスクール水着の方が断然マシである。
 そんな不安を抱える上条の水着は、スポーツショップで買ったトランクス形式の地味な水着で、特にこだわりは見えない普通の水着である。
 だがスポーツショップで買ったこともあってか、意外とかっこよく見えなくもない。でも上条はそんなことを気にはせず、見られても恥ずかしくないものを選んだだけなので、着こなしていることに気づいていなかったが。
「遅いな。女の着替えってこんなに遅いもんなのかな?」
 上条は美琴のものも入った手さげから、自分の携帯を取り出して時間を見てみた。時間は十五時三十四分、と美琴と別れてから十五分が経過している。
 女の着替えが長いことは一緒に住んでいることでわかってはいたが、水着の着替えがどれだけ時間のかかることかは、上条にはまったくわからない。
 学校の水泳の授業での着替え時、女子が更衣室から出てくるのが遅いのは変態な男どもの話で知っているが、それがどれだけ長いかは上条は知る由もない。
 デルタフォースの青ピアスや土御門ならば知っていそうだが、そんなことをあの二人に訊いてもよからぬ誤解を与えるだけだ。
「でも以前来たときよりも人がいるようだし、そのせいで更衣室が混雑してて着替えられないってのもありそうだしな。気長に待つか」
 まだ来る気配のない美琴が来るまでの間、このまま携帯でも弄って暇つぶしでもしていようと思った。そう思って携帯のメニューを開いた時、不意に後ろから砂浜を歩く小さな足音がこちらに近づいてくるのに気づいた。
 そして足音が自分の近くで止まったあたりで、上条は後ろを振り返った。
「遅かったな、美琴…………ッ!!!」
 しかし振り向いた瞬間、上条は頭を思いっきり何かで叩かれた鈍痛と、回路が全て焼き切れシステムダウンしたパソコンのように頭の中が真っ白になった。
 さらに視線が美琴の姿にだけに集中してしまい、身体も金縛りにあったかのように動かなくなった。
「えっと……お、遅くなって…ごめん」
「……………」
「と、当麻……その、似合う…かな?」
 珍しく真っ赤なトマトをイメージさせるほど赤くなった顔には、恥ずかしさと不安の表情があった。
 不安な表情は上条が入院するたびに見たりするが、恥ずかしそうな表情を見るのは最近では滅多にお目にかかれない貴重な表情だ。
 大体恥ずかしがる時は、電撃で照れ隠しをして自分の表情を隠したりするので、こうして目の前で恥ずかしそうな表情は浮かべて、電撃を使ってこないことはなかなかない。もっとも、これは自宅の外で二人の話であるが。
 そんな危険なツンデレの美琴が、電撃や雷撃の槍を使って照れ隠しせずに、上条の目の前で恥ずかしがっている。
 これだけでも十分に可愛いと目を離せなくなってしまうのが普段の反応だが、そんなことを気にしていられないほど、上条は美琴の美しい水着姿に目を奪われていた。
「と、友達にも手伝ってもらって……ちょっと、大人っぽいものを選んだんだけど…やっぱり、似合わない?」
 美琴が着てきたのは、純白のビキニ。分類としては三角ビキニと呼ばれ、基本とも言える一番有名な種類のビキニだ。
 しかし、基本であってもビキニはビキニ。本来持つ露出の意味合いは健在のままで、それを着てきた美琴にも露出から生み出された女の色気が形となっていた。
 ビキニ姿の美琴を見て、似合わないと言う男はこの世には絶対に存在しない。それどころか、女性すらも美琴の美しさと色気に目を奪われるのではないか、とさえ思えてしまうほどだった。
「………………」
「やっぱり……似合わない……かな?」
「………………」
「……当麻?…ねえ、聞いてるの当麻」
 動くことはおろか、声を出すことも出来ない。今の上条は、美琴の美しさを見ること以外の自由は一切許されていない。まさに釘付けになるとはこのことだ。
 そんなことも知らない美琴は、何も反応を示さない上条にむっと怒った表情を見せると、当麻! と大きな声で名前を呼ぶが、上条は一切反応を示さない。
 こうも無反応だと無視をされているのでは、といつものように電撃でも浴びせようかと考えた。
 しかしここは学園都市の『外』で、近くには海がある。能力の使用は禁じられていたし、小さな電撃で海に泳ぐ周りの人間に迷惑をかけないとも言い切れない。
 仕方なくはぁと面倒なため息をついた美琴は、平和的に上条の肩に手を置いて当麻! と身体を揺さぶった。しかしそれでも、上条は一切の反応を示さない。
 こうも反応を示さないとなると、雷撃の槍に代わる様な事をしない限り、ずっとスルーされたままだろう。となると能力を使わずにインパクトのある起こし方と言えば、美琴の十八番である
「久々に技名を言うわよ。常盤台中学内伝、おばーちゃん式ナナメ四十五度からの打撃による故障機械再生法!」
 掛け声とも言える、ちぇいさーっ! の叫び声が浜辺に響いたのと同時に、上条は美琴から上段蹴りを真正面から喰らう羽目になった。
 そして、蹴りを喰らった上条はフリーキックで蹴ったサッカーボールのように、弧を描いて浜辺へと飛んでいき、頭から落下した。
「………………………………………不幸だ」
 その言葉と同時に上条は意識を取り戻し、意識を失った。幸い、海とは逆方向であったため、そのまま海に顔を沈めることはなかった。


 不意に頭に鈍痛が走った。それと同時に上条は意識を取り戻し、ゆっくりと目を開いた。
「あれ? 美琴?」
 目を開けると、目の前には美琴の顔があった。しかし不機嫌だと言うように上条を睨んでいた。
「あれ、じゃないわよ。私のことを無視するわ、蹴りを甘んじて受けて鼻血を出すわ、私のほうが当麻にあれ? って言いたいわよ」
「無視? 蹴り?……………………………………………ああ、思い出した」
 何を言われているかわからず、話を聞きながら気絶する前に何があったか振り返ってみた。
 それからしばらくして、美琴の言っていることと気絶する前にあったことが繋がり、何があったのかを理解してため息をついた。
「美琴さん。上条さんが無視してるからって、顔面を自販機みたいに蹴るのってあんまりじゃないでせうか?」
「当麻が無視するのがいけないんでしょ! せっかく、気合入れて水着を決めたのに、いざ見せてみると無反応なんて酷いと思わない?」
「確かにそうですね、美琴さん。では上条当麻、改めて言わせてもらいます」
 上条は美琴の頬を撫でて、ニッコリと笑うと
「美琴の水着姿が美しすぎて、見た瞬間、意識を飛ばしてました。あと、美琴たんのビキニ最高! 状態の上条さんには、美琴たん以外の人のビキニ姿なんて見たくありません」
「そ、そう…私以外の人のビキニ姿を見たくない……えへへ」
「上条さんは美琴たんのビキニ姿さえあれば、他の女性のビキニ姿なんて見たくありません! もう美琴たんだけしか見えない!」
「えへへ…えへへへへ………嬉しいことばかり言って、もう大好き♪」
 上条に褒められるだけ褒められてしまった美琴は、すでに当麻大好きモードになっていた。
 いくら成長しようとも、上条からとても褒められると舞い上がって喜びを抑えられないのは変わっていなかった。
 だが、漏電をしなくなったのはとてもよい成長と言える。その代わり、当麻大好きモードになってしまうのが、今の美琴の仕様だ。
 こうなってしまっては、周りに何があろうとも一切気にせずに、とにかく上条に好きだと言ってべったりとなってしまう。
 そしてこれを止めることは、美琴にもっとも効果的な人物である上条にも不可能であり、他の友人たちもどうすればこのモードを解除できるか、未だに効果的な解除方法を誰も知らなかった。
 さらに面倒なことに、このモード中に上条がいると、上条も美琴とは別の意味で抑えが利かなくなり崩壊してしまうという、恐ろしい伝染効果もあった。
 そしてそれは、今ここで美琴に膝枕されている上条に当てはまった。
「当麻当麻当麻! 好き好き好き! 大好き! ずっとずっと、死んじゃっても大好き!」
「…………………」
「もう好きで好きでしょうがないの! 当麻のことが好きで好きで、当麻がいないと生きていけない! もう私の命は当麻そのものなの! だから抱きしめて、キスして、いっぱい愛してあげるね。私の大切な旦那様♪」
「…………………美琴」
 もはや某ヤンデレのようになりつつある美琴は、上条の顔を自分の胸元に埋め込んで力の限り抱きしめていた。
 そんな状態から、今の言葉を大きな声で言っていた。もちろん、近くの上条には一言一句全てが聞こえ、近くを通りかかった人や少し離れた人たちにも全てではないが、美琴の言葉の八割以上は聞こえていた。
 それを聞いた人は、これから彼氏こと上条がどのような反応を示すかを注目していたが、本人たちはすでに自分の世界に漬かっているため、まったく気づいていなかった。
 そして、美琴の当麻大好きモードを目の当たりにした上条は、自分の中の何かが音を立てて壊れたことに気づいた。それは、美琴と同じ覚醒の始まりだった。
「俺も大好きだ美琴。もう俺には美琴以外の女なんて、考えられない」
「えへへ、そうだよね~。当麻は私がいないとダメなんだよね?」
「ああ、そうだよ。俺は、美琴がいるから生きていけるんだ。だから美琴が死ぬことがあれば、俺も死ぬ」
「私もだよ、当麻。私も当麻がいない世の中になったら、生きていく意味なんてなくなっちゃう。だから当麻が死ぬ時は私が死ぬ時だよ」
「そっか……でも、俺は絶対に美琴を死なせない。ずっと美琴のそばにいて、俺がずっと幸せにしてやるからな」
「当麻………」
 そして二人は、目を閉じて唇を合わせる。柔らかい感触と唇に感じる互いの暖かいぬくもりを感じながら、名残惜しいがそれをゆっくりと離した。
「何度だって言ってやる。俺は美琴を幸せにする。これから俺も人生は、美琴を幸せにするだけにあるんだからな」
「それは私も同じよ。当麻を幸せにするのが、私のこれからの人生。そして、当麻をずっと愛するのも私の人生。だから、当麻……」
「ああ、俺も大好きだ。ずっとずっと、たとえまた記憶を失おうが、怪我で死のうが、大好きだ。この気持ちだけは…絶対に……」
 上条は美琴の膝から頭を離すと、美琴と向き合って優しく、でも強く両腕で抱きしめた。美琴はそれに笑って答えると、二人はもう一度唇を合わせた。
「ありがとう……………んじゃ、一緒に楽しもうっか。未来の旦那様♪」
 そう言って美琴は立ち上がると、上条の手を握って海へと走っていく。上条のその手に引かれながら、その後を追った。


 時間の流れは、楽しい時ほど早く感じる。
 海で遊んでいた時間も、今思い返すとあっという間で、感覚としては一時間も遊んでいない気さえさせられてしまうが、携帯の時間によると、今の時間は十七時五十五分。
 時間は一定のリズムを保ってしっかりと流れていたことを、携帯の時間が上条に教えているようであった。
 上条は携帯を閉じると、美琴の手提げに携帯を戻した。そして海の向こうに見える夕焼けを見ながら、隣にいた美琴の肩を抱いた。
「夕暮れの海って、やっぱり綺麗よね」
「まあな。上条さんは夕暮れの海には、少々悪い思い出はございますがね」
「それってここでいうことかしら? はぁ~、ロマンに浸る気持ちが台無しよ」
「悪うございました。でも上条さんは素直なことを言った、いてっ!」
「素直なのは感心するけど、雰囲気を読んで言葉を選びなさいよね。まったく、それだけは成長してないんだから」
 美琴は上条の頬をつねって、不満そうな表情を浮かべた。どうやらご機嫌を削いでしまったらしいな、と上条は後頭部をボリボリと掻いた。
 上条がこの夕焼けを見て思ったのは過去、思い出を思い出したのだ。やはりここでも『御使堕し』のことを思い出してしまい、素直に綺麗だと言えない。
 だがそれは不幸ではなく、一つの思い出…忘れられらない記憶であった。
 だからロマンチックな気分に浸りたくとも、上条にはそれが出来ない。この場所での夕焼けは印象に残りすぎていた。
 しかし、それを今ここで話してはそれこそロマンのカケラもなくなってしまうことは、上条にも理解できた。なので、美琴には努力はすると言っておいた。
「はぁ~期待しないでおくわ。というか、一生無理な気がするけど」
「一生ってな………どれだけ期待されてないないんだよ」
 上条は大きなため息をついて、なら言わないでくれよと思う。だが、さすがにそれは今言ったことへの失言なので、言葉には出さなかった。
「それにしても、美琴のビキニ姿……改めて見直すと、なんというか……エロイな」
「!!?? な、何言ってるのよ!! 私の下着姿だって裸だって見てるくせに、何を今更」
「まあそうですけど……ビキニ姿の女を見たのは美琴が初めてだったから………その姿を見たらこれって凄くエロイな、と今更になって気づいたわけで」
「………エッチ」
 否定は出来ませんな、と言って上条は美琴から視線を逸らし夕焼けを眺めた。対する美琴は、顔を赤くしながら視線を砂浜に逸らして、あのーさと控えめに声をかけた。
「当麻は………ビキニの私、どう思ったの?」
「……………冗談抜きで、視線をどこに向ければいいかかなり迷った」
「………そっか」
「………でも、他の女の水着よりも綺麗で眩しかった。だから今度も着てきて欲しいな……なんて」
「………うん」
 初々しい恋人のようにもじもじしながら、二人は小さな声でそんなことを話した。
 それから数分間、無言のまま海を眺めていた上条の肩に重みが加わった。それは上条の肩に美琴が頭を預けてきたのだ。
 上条は何度もされてきたことなので、特には何も言わかった。すると不意に美琴は、楽しかったと小さく呟いた。
「当麻と一緒に海で遊んだとき、すごく楽しかった。学園都市でのデートとは違って能力者としてではなく、ただの高校生としてここで遊べたのって、こんなに楽しいだなんて、知らなかった」
「何言ってるんだよ。ただの高校生としてなら、いつもと同じじゃねえか」
「そういう意味の、高校生じゃないわよ。私が言いたいのは、能力者としてでもなければ、当麻の恋人でもない。ただの普通の高校生、御坂美琴っていう一人の女の子として、海で恋人と遊んだってことよ」
「??? 俺にはよくわかんねえな」
「別にわからなくてもいいわよ……私がふと思ったことだから」
 そうかと相槌を打って、上条も海で遊んだことを思い返した。
 恋人と海で遊ぶとはどういったことなのかわからなかった上条は、とりあえず美琴に従おうと思い、美琴が言ってくることを聞きながら指示に従った。
 と言っても、遊んだことは上条が想像できる簡単なことで、友人と遊びにいくのと変わらないようなことばかりしただけだった。だというのに、友人と遊ぶよりもずっと楽しかった。
「不思議だよな。こうして好きな人と遊ぶのって、友達と遊ぶよりも楽しい。わかってることなんだけど、遊びが終わるたびにそう思っちまう」
「それは私もよく思う。黒子や初春さん、佐天さんにインデックス。当麻がいない日や都合がある日は、時々友達と遊んだりしてるの。だけど、当麻と遊ぶ時だけ、終わると楽しかったって必ず最初に思う。友達と遊んだ時は、もっと違うことを思ったりもするのに………不思議よね」
「もしかしたら、これが好きな人と友達の違いなのか?」
「かもね………私にもよくわからないけど」
 ふと上条は、横目で美琴の顔を伺った。
 夕焼けの色に照らされた美琴の顔は、遠くを見ながら何かを考えているように見えた。
 他人からはいつもと変わらないように見えるかもしれないが、その顔は何故だから真剣で、夕焼けを見ると言うよりも別の何かを見ているようであった。
 しかしそれが何か、上条にはわからない。そして何を考えているか、美琴に訊こうとはしなかった。
「……………友達と好きな人、か」
 不意に美琴は、そんなことを呟いた。
 それを聞いた上条であったが、何も答えることは出来ない。ただ静かに太陽が沈むオレンジ色の眺めるだけだった。


 それからあっという間に時間が流れ、気づいた頃には、あと一時間足らずで日付が明日の13日へと変わってしまう、二十三時をすぎていた。
 『わだつみ』に来ていた客たちは自分の部屋にいたり、外へ出ていたりしている。しかしこの『わだつみ』の風呂場の湯船に一人で浸かっていた美琴は、少なくとも街へ出ようとは考えなかった。
「はぁー疲れたわ」
 美琴は一人になった風呂場で一人、疲れた息を吐きながら夏の空を見ていた。今日の天気は一日中晴天であったので、光り輝く星と月が空に姿を現れていた。
 小さく光る星々たちは、とても綺麗に輝きを放ち、夏の真っ暗な空を明るく照らしている。その中にはあった月は、満月ではなく八割出ている微妙な形の月であり、小さな星とは違ってどう見ても浮いている存在だった。
 しかし月の輝きはこの中で一番強く、湯船に浸かる美琴を照らす夜の太陽の役割を担っていた。この空は、美琴の住む自宅でも前に住んでいた常盤台の寮でも見ることが出来ない貴重な星空だった。
 それを大きな風呂で見ることが出来るのだから、これほど素晴らしい思い出になることはないだろうと、美琴は小さく微笑んで旅行に来れた幸せを改めて実感し直した。
 結果としては、不幸がたくさん付きまとい疲れる旅行であったが、上条と来た初めての旅行にとても満足であった。あとはもう明日の朝に起きて、昼の電車で学園都市に帰るだけだ。
 今日と比べると明日の予定が帰るだけとさびしい気もするが、もう今日だけで何年分かの満足を頂いたこの旅行に、これ以上のものを求めては罰が当たりそうだ。
 それに、美琴自身はもう十分満足だったので、明日そのまま帰ることに後悔はなかった。
 何年ぶりかの海で大好きな人と一緒に遊べた思い出、今日という日をくれた神様に美琴は心の底で感謝した。
「あとは、大切な旦那様の当麻にもね……さて、そろそろも戻ろっかな~」
 上機嫌なまま、美琴は湯船の外に置いてあったタオルを取ると、胸元を隠しながら湯船の外へと出ようとした。その時、男性の脱衣所の方向から扉が開く音が聞こえた。
 この『わだつみ』は混浴の浴場である。大きさは一般的な銭湯よりも大きめであったが、旅館にある大浴場よりは若干小さい。
 さらに今美琴がいる湯船から女性の脱衣所までは、少し時間がかかりすぎる。その間に男の人と鉢合わせはとても危ない。
 この場面ではどうすればいいかをまったく知らなかった美琴は、タオルを胸に巻くと身体を湯船に隠した。
 こうなってしまったら、上がり途中で鉢合わせになるよりは、一言断ってから上がった方が迷惑はかからないと判断して、ここに来る男の人を待つことにした。
 そして、ゆっくりと歩いてくる男の顔が湯煙から見える位置に来た時
「あれ、当麻?」
「は……? 美琴?」
 腰にタオルを巻いているツンツン頭の黒髪の男は、上条当麻。美琴の身内であり、先ほどまで美琴が考えていた相手であった。
「部屋を出たきり戻ってこないから、一人で外にでも行ったと思ったら、ここにいたのか」
「まあ、ね。外に行こうとは思ったんだけど、途中で今日のことを思い出して面倒になったの。それで、気分転換にお風呂に入ってたら」
「俺が来たってことか。はぁー、貸切ならいいけどそうじゃねえから素直に喜べねえな」
 上条が言った意味は、他の人間がここにやってくることがあるかも、という皮肉であった。
 もしこの浴場が貸切であったら、二人は特に何も気にせずに仲良く風呂に入っていただろう。しかし、誰にでも開放している状態で二人が仲良く入っている光景を誰かが見たら、二人はおかしな勘違いをされることは確実だった。
 そうなるのは、上条も美琴も不本意だったので、二人はいつものイチャイチャはしないことにして、他の人間が入ってきてもおかしなことにならないように控えめな態度を取ることにした。
「とりあえず、俺はシャワーでも浴びて体を洗っておく。その間に、出たければ出てもいいぞ………というか勘違いされそうだから出た方がいいと思うけどな」
「うん。でももう少しここにいる。勘違いされたら、私がなんとかするわ」
 そっかと振り向かずに相槌を打つと、上条は湯船から離れていく。
 美琴はそれを見ながら、湯船からタオルを出すとぎゅっと搾って水を搾り出した。そして搾り終えたタオルを頭の上に置くと、上条とは反対向きに座って空の景色を見続けた。

<後編へ>
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2010/04/15 23:46 | fortissimo

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