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2024/05/04 08:13 |
紋章の思い込み
マリアらしいマリアを書いた気がします。
これぐらい厳しくて不器用なのが原作に近いイメージです。
そして、フェイトは鈍いぐらいがいいですね。

クロセル戦後、シランド城にて。



 フェイトにはある悩みがあった。
 旅を続ける中で、その悩みは次第に大きくなり、ついには抑えられない欲望にまで発展…してはいないが、気になってしかなかったのだ。
 これから、バンデーンとの戦いが始まる。しかし、気になった状態で戦いを始めたら、先行する自分がミスをする可能性がある。だから、フェイトは手が空いている時間を利用して、行動へと移った。
「それで、俺に何を訊きたいんだ?」
「実は、マリアのことなんだけど」
 相談相手のクリフは、マリアと言う名が出てニヤリと嫌な笑みを浮かべて、フェイトを見た。
「ほーう、恋愛相談か?一応育て親みたいなもんだからな、マリアのことは知ってるが…何を知りたいんだ?」
 フェイトはため息をついて、首を横に振った。
 確かに、恋愛相談もわからなくはないが、フェイトは元々、クリフにだけは絶対に相談したくないと思っている。理由は…言うまでもなく、勘だけを言うやつだからだ。
「違うよ。恋愛相談なんて、お前となんて死んでもやるもんか」
「じゃあ……なんだよ?」
 クリフには、無駄なことを言うより単刀直入に言った方がいいと思ったフェイトは、少しだけ躊躇う仕草を見せたが、一呼吸を置いて、クリフに訊きたいことだけをずばっと言った。
「マリアは僕のことをまだ憎んでいるのかな?」
「………………」
 フェイトの質問にクリフは何も言えず、ポカーンと口をあけた。何故なら、フェイトの質問があまりにも、無意味で馬鹿でありえないからだ。
 しかしフェイトの顔は深刻であった。あまりにも深刻すぎて、クリフはマリアが担当する仕事を全て任されてしまうときよりも、苦労をしていた。
「おい、クリフ。僕の話を聞いているのか?」
「あ、ああ。聞いてる……呆れるぐらい、聞いている」
「気になって不安だから、誰かに聞きたかったんだけど、クリフはどう思う?」
「……………」
 これは重症だとクリフは思い、フェイトの両肩を掴んで、真剣な表情で答えた。
「フェイト、いいか。よく聞けよ」
「あ、ああ」
「そんなことは、本人に聞け」
「それが出来ないからお前を―――」
「もう一度言う。本人に聞け」
 戦闘中以上に、クリフは真剣だったため、フェイトは頷くしかなかった。 そして、クリフは心の中でマリアがあまりにも可哀想だと娘の将来を考える父親の気持ちになりながら、泣いた。
 それがフェイトには理解されることはなかったのは、皮肉であった。



 マリアはシランド城の自室で本を読んでいた。少しの間だけだが、久々にゆっくりと休める環境にいるマリアには、シランドの住人の毎日が、このように静かなでとても平和に感じられて、少し羨ましかった。こ
 クォークにいるマリアにはこの平和は誘惑のようであった。しかし、マリアは現実を受け入れていたので、この誘惑に惑わされることはなかった。
「…………」
 無言のまま、ページをめくる姿は絵になりそうなほど美しく、静かであった。もしここに誰かがいてその姿を見れたなら、その人物はとても得をしていただろうと思うぐらいの魅力があった。だが、当のマリアにはそんなことはどうでもよく、本の内容の方だけを気にしていた。
 そして、最終章あたりに進んだとき、トントンとリズムよくドアを叩く音が聞こえ、マリアは意識をドアの方へ向けた。
「誰かしら?」
「僕だよ、マリア」
「こういう時は名前を言うのが礼儀ではないのかしら?」
「う、ごめん。フェイトだ……これでいい?」
「ええ。入っても構わないわよ、フェイト」
 マリアは読んでいたページにしおりを挟んで、やってきたフェイトを迎えた。しかし、すぐにフェイトの表情が重いことに気づき、あまりいいことではないと予感した。
「どうしたの?そんな顔して、何かあったの?」
「あったというよりは…これからあると言ったほうがいいかな」
 頭の回転が速いマリアは、フェイトが何か用事があって自分を訪ねて来て、それはあまりいいものではないと予測を立てた。決して、警戒をしているわけではないが癖でこれからのことを警戒をして椅子に座りなおした。緩くしていた表情も厳しいものに変え、とりあえず彼の出方を待つことにした。
「少し、聞きたいことがあってきたんだけど…いいかな?」
「それを聞く前に、質問の内容を聞かなければ意味はないのだけれど?」
「それもそうだね。じゃあ、説明抜きで単刀直入で聞くよ。マリア、紋章遺伝子学、生物兵器のことをまだ憎んでいるの?」
 マリアは一瞬だけ、何を訊かれたかわからなかった。それは自分たちの生活を奪い、改造された不幸な自分たちには憎むべき学問だ。フェイトはそれを"まだ"憎いかと訊いてきたのだ。
 しかし、フェイトもこの質問は考えあってのことだ。自分のこともそうだが、その前に訊いておきたかったことであった。
「憎いわよ。私の平和を奪って、兵器に改造した学問なんて、憎しみしかないわ」
「やっぱり。その考えは変わらないんだね」
 フェイトは表情を変えず、マリアの言葉を受け止めた。
 予想はついていたし、答えも前に聞いたときとあまり変わらなかったことから、マリアは紋章遺伝子学を憎む以外のことは考えていないのだと思った。
「そういう君はどうなの、フェイト」
 自分たちが改造された人間同士、訊きたがるのは当然だし、マリアの性格からも確実とはいえないが、予測はついていた。そして、フェイトもそれの答えは出していた。
「まだ全てがわかったわけじゃないから、確実なことはいえないけど、僕は父さんのことを信じたいと思っている。そりゃあ、兵器として改造されたことは許せないといえば許せないことさ。でも…父さんが戦争のために僕たちを作ったのじゃないって言うのは、息子の僕が一番よく知っている」
「呆れた。確証もないのによくもまあ、そんなにすらすらと言えるのね。しかも、自分の父親だからという理由でね」
「マリアの言う通りだ。父親と理由で僕は父さんを信じている。でも、それだけじゃない……何か、別の意図が働いている気がするんだ」
「別の意図?……興味があるわね」
 挑発的な笑みを浮かべるマリアからは、かすかだが敵意のようなものを感じた。だが、フェイトはそのまま話を続けた。
「これは仮定の話だけど、もしかしたら戦うためではなく救うためにこの力があるんじゃないか?破壊の力だけが戦争に繋がるわけじゃないと思うし、何よりも戦争のためなら僕は裕福な暮らしをしていなかった。兵器にするのであれば、それなりの教育を受けていたはずだし、父さんたちで戦争を起こしてもメリットはないんじゃないか?」
「………それもそうね。フェイトが普通に暮らしていたことも不思議だし、何より自分たちで起こす戦争だけに使うには、リスクが大きいということで納得がいくわ。でもフェイトは、大切なことを忘れているわ」
 マリアはそういって、苦虫を噛み潰したような表情で続けた。
「フェイト、私たちは科学者から作られたのよ。知ってる?科学者はあくなき探求心を求めるものたちの集まりなのよ。その科学者であったロキシ博士が、探究心を持たない科学者だと言えるのかしら?」
 探究心を否定することはフェイトには出来なかった。科学者である父もそうだが、自分もサンダーアローというものを作ってしまった。形は違えど、父と同じことをしてしまったフェイトには、黙って俯くしかなかった。
「だけど、その仮定も博士を助ければいいことよ。私たちはこれからバンデーンと戦うのだから、答えはそう遠くないかもしれないわね」
「そう……だね」
 自分の考えを否定されたのは思ってた以上に効いた。こうなると、本命の質問の答えは見えているように思えたが、今聞いたほうがすっきりするだろうと思って、深く深呼吸をした。
「それで、もう一つ訊きたいことがあるんだけど」
「構わないわよ。紋章遺伝子学以外なら、ね」
「まあ……少しは関わると思うけど、一応訊くよ。マリアは、僕が憎い?」
「………は?」
 マリアの表情は、さきほどのクリフのようにポカーンと口をあけた状態になっていた。そして、同じようにフェイトの表情も真剣であった。
 だが、マリアはフェイトの表情に気づくことなんて出来なかった。何故なら、彼女はあまりにもありえない質問に頭がオーバーヒートしてしまったからであった。当然、フェイトはそんなことに気づかない。
「紋章遺伝子学を知らないで、暮らしていた僕にも責任はあるよ。それに、憎むべきものの息子だから憎まれても当然だと―――」
「ちょっと待って!!!」
 マリアは何がなんだかわからずにいた。
 フェイトを憎んでいる?ありえない、そんなわけない!というよりも、憎むとは逆の感情を抱いている!!でもフェイトは私が憎んでいると思っている。それはつまり…勘違い、彼の思い込みよ!!!
「フェイト、私がいつ、君の事を憎いと言ったかしら?」
「え……?あれ……?」
「なんで私が君を憎まなくちゃいけないのよ!!!」
 マリアはフェイトに噛み付かんばかりに、問いただそうとするが、今度はフェイトが混乱してしまった。
 つまりなんだ…マリアが起こっているってことは、違うと言うことだよな。それに、憎んでないって……ということは…。
「まさか……違うの?」
「勘違いにも程があるわ!!私が君を憎むなんてありえないわ!絶対にありえないわ!神に誓ってもありえないわ!」
「………それじゃあ……憎んでない?」
「決まってじゃない!!馬鹿フェイトッ!!!」
 マリアは殺意まで出しながら、フェイトに銃を向けた。それは脅しではなく、本気で打とうとしていることに気づくと、それを止めなくてはいけないと言う自衛能力が働いた。 しかし、時すでに遅し。フェイトが彼女の名前を呼ぼうとしたその瞬間、フェイトは重力の渦に引き込まれてしまった。



「おい、何寝てんだ?」
 廊下を歩いていたクリフに声をかけられ、フェイトは目を覚ました。どうやら、自分は気絶してしまったようだ。でも 気絶で済んだのは不幸中の幸いだったのかもしれない。それかマリアが手を抜いてくれたか…。
 そして、廊下から気づかれたということはドアが開いているということなんだな、と冷静に物事を判断し、クリフの方へ身体を向けた。
「お前か……どうしたんだよ?」
「それはこっちのセリフだ。見たところ、こっぴどくやられたみたいだけどな」
 ああ、と手短に答えて、フェイトは今日一番重いため息をついた。
「クリフ。僕って馬鹿なのかな?」
「はぁあ?おいおい、フェイト。お前、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。ちゃんと頭も働いてるし記憶もあって冷静だ」
 そうか、と今度はクリフがため息をつき、少しだけ考えた。そして、後ろ髪を掻きながら、クリフらしく、ずばっと答えた。
「馬鹿だろうよ。じゃなちゃ、マリアにやられるわけないからな」
「そうだよな……はぁ~」
 自分の思ったとおりの答えを返してくれたことに、フェイトはさらに気落ちした。
 だが、そんなフェイトを見かねてなのかクリフは、そうだと言って、にやりと笑った。
「フェイト、いいことを教えてやるよ」
「いいこと……またどうせくだらないことじゃないだろうな?」
「安心しろ。ちゃんとした情報だ。実はさっきな、マリアを見たんだ」
 マリアと言われ、ドキッとしてしまったフェイト。クリフはその一瞬の動揺を見逃さなかった。
「それでな、マリアのやつ不機嫌そうに"フェイトの馬鹿。私が嫌いになんかなるわけないじゃない"って言ってたんだぜ」
「それで……?」
「んでだ、どこへ行くかと思ったら、城下町の公園の方に言ったんだ。あんなところに何をしてるんだかなって思って追いかけてたらな、マリアのやつ、泣いてたんだよ」
「な??!!」
 それには耳を疑った。
 マリアが…泣いてる?あのマリアが?そんな…嘘だろう。しかも……僕のせいで?!
「なあ、フェイト~。お前ってやつは罪な―――」
 男だよな、と言おうとした瞬間、目にも留まらぬ速さでフェイトはクリフの横を通り過ぎていった。その姿を見て、クリフはニヤリと笑いながら、もう一人の人物に話をかけた。
「ミラージュ、フェイトもまんざらじゃないみたいだな」
「ええ。お似合いのお二人ですね。ですけど、クリフ。後が怖いですよ」
「後って…何がだよ?」
「もし、マリアにクリフの嘘がばれたらどうするんですか?」
 それを言われて、クリフは自分の失態に気づいた。しかし、言った後だし取り返しがつかない。だから、クリフはいつも頼りにしているあれに頼った。
「ま、なんとなるだろう」
「なんとか…ねえ」
「俺の勘だけどな…」
 クリフは自分の勘が当たることを信じながら、ミラージュと一緒にその場を後にした
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2009/11/03 15:03 | SO3

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