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2024/05/06 01:36 |
ペアマグカップ騒動
紅莉栖の誕生日ネタに書いたものです。
ちなみに紅莉栖の誕生日は『7月25日』です。



 2011年.7月24日(日)
 その日、何も知らない俺はバイトを終え、ラボへと向かっていた。
 気温は夜だというのにまだ30度以上もある。嬉しくない猛暑日だ。
 白衣を着ている身としては、この暑さで長袖はきついのが本音だ。
 だが俺はマッドサイエンティストを自称する鳳凰院凶真だ。白衣を脱ぎたいなど、マッドサイエンティストとしてあるまじき考えだ。
 白衣とは俺の半身。脱ぐことなど、出来はしないのだ!
 などと、頭の中で白衣とマッドサイエンティストの関係を考えている間に、ラボの下にあるブラウン管工房へたどり着いた。
「? 電気が付いている…だと?」
 今日は俺がバイトだったことと週末だったことがあって、誰もいない筈だ。
 まゆりは俺がいないということでコスプレの仲間たちと遊びに行くと聞いているし、ダルは阿万音由季と会うと聞いた。
 だから今日はだれもいない筈だった。だが、ラボの電気は付いている。
「誰だ?」
 フェイリスかルカ子の存在を考えたが、あいつらが黙ってくるとは考えにくい。というよりも、誰もいなかったら帰っているはずだ。
 萌郁のことも考えたが、それは一番考えにくい。なぜなら今の萌郁は俺たちのことをラボメンとしてだけ見ており、IBN5100を探してくる相手としては見ていない。
 それにIBN5100は、もう俺達の手に届くことはない。だから、萌郁も違うはずだ。
「だったら……空き巣か?」
 それも薄い。今はやっていないとは言え、先ほどまではブラウン管工房がやっていた。閉めた後にすぐに入ったとは考えにくい。
 それに空き巣なら電気をつけるだろうか?
 結局、ここで考えていても仕方ないので、実際に確かめるのが一番早い。
 俺は念の為に階段をゆっくりと、なるべく足音を立てずに上り、ドアノブをゆっくりと回して中を覗いた。
「ッ!?!?」
 玄関にあったのは一足のブーツ。女物で、それなりにいい素材を使っていそうだった。
 しかし、重要なのはそれではない。俺はこのブーツを履いた人物を知らないのだ。
 だからこそ、ある一人の少女。いるはずのない可能性を思いつき、驚きを隠せなくなった。
「まさか…!」
 俺は玄関で靴を脱いで、ラボに飛び込んだ。
 そこには、PCの前で食いつくように画面を見る一人の少女がいた。そう、彼女こそが―――
「く、くり…す?」
「え? ………あ、お、岡部!?!?!?」
 栗毛色の髪の毛と菖蒲院の改造制服。そして、俺がずっと聞きたかった声。
 牧瀬紅莉栖。ラボにいたのはまだアメリカにいるはずの彼女だった。


「なるほど。予定よりも早く休みがとれたから帰ってきた、と。でも助手よ。話が違うぞ」
「仕方ないじゃない。急遽、OKをもらったんだから」
 話を聞いた限り、当初、休みにしようとした最初の何日かはダメであった。
 しかし、急遽、それがOKになり予定通り休みを貰うこととなった。その代わり、日本で予定されていた講演会に代表として紅莉栖が出るようにと指示が出されたらしい。
 予定通りの休みをやるから依頼された仕事を済ませろ、ということで簡単にまとめるとあっているだろう。
「でもなんでラボに来ていた。いや、それよりもなんで俺に連絡しなかった」
「あんたはバイトだって言ったじゃない。だから邪魔だと思って連絡しなかったのよ」
「だからと言って……いや、いい」
 紅莉栖の話を聞いて少しいらついた。
 理由はわかっている。せっかく帰ってくるのなら俺に連絡して欲しかったと思ったからだ。
 確かにバイトで行けないかもしれないが、終わった後なら紅莉栖とあって何かできる。直接会うにしろ、話すにしろ、日本に帰ってきたからこそ何かしたかった。
 だから、紅莉栖に何も言ってもらえなかったことが少し悔しかった。いや、かなり悔しかった。
「ところで、他のラボメンには連絡したのか?」
「あ。ホテルに荷物置いて@ちゃん見るためにここに来ることに夢中になって忘れてた」
「……………」
 @ちゃんに夢中になっているあたり、相変わらずのようだ。
 @ちゃんを覗いていた限りでは、より@ちゃんに心酔し、一部では糞コテ扱いされ、嫌われている。
 悪い意味で有名になって栗悟飯とカメハメ波は、日に日に酷くなっていくようだ。近いうち、大事件を起こしそうで少々心配である。
「大体把握した。ということは、これからしばらくはラボメンとして精力的に活動をしていくということだな。セレセブよ」
「ま、こっちの仕事に支障をきたさない程度…つまり用がない日はこっちには来るつもりよ。それとセレセブ言うな。明日には私は19よ」
「え…?」
「え?」
 どうってことのない会話だった。
 しかし、取り逃がせないことを確かに聞いた。
「助手よ。俺の耳が正確なら、お前は明日19歳になると言ったがあっているか?」
「そうよ……知らなかったの?」
「………」
 ああ。知らなかったさ。
 紅莉栖の誕生日を誰からも聞いたこともなかったし、紅莉栖に尋ねたこともなかったからな!


 翌日。大学で授業があったが、一分一秒でも無駄にしたくなかったので、大学をサボった。
 で、俺が今いるのは某所にある某デパートであった。
「……………」
 今年から誰かの誕生日にはラボメンたちとともに誕生日パーティーを開き、プレゼントを渡すことが、まゆりから提案され行われ続けている。
 そして、紅莉栖の帰国と今日が誕生日だと知ったラボメンたちは、誕生日パーティーを開くために、動いているに違いない。
 俺もその内の一人だ。もっとも、俺の場合はパーティー買うのではなく、純粋に紅莉栖の誕生日だから祝ってやりたいと思う気持ちのほうが強いので、大判振る舞いをしてこんなデパートにまで来ているのだが。
「……………」
 プレゼントを考え、渡すのはまだ誕生日を迎えていないルカ子と、今日誕生日の紅莉栖以外には全員している。だが、紅莉栖のプレゼントに参考になりそうなものは実はまだ一人も贈ってなかった。
「これならマイフォークを残しておくべきだったな」
 冬に日本に帰ってきたとき、俺は紅莉栖にフォークをプレゼントした。
 最初は文句を言いながらも使っていたが、アメリカにまた行ってしまう頃にはマイフォークと化していた。
 曰く、いいのがなかったから仕方なく使ってあげているのよ。感謝しなさい、と言っていたがツンデレである。
 しかし、マイフォークをその時にプレゼントにしたのは失敗なような気がしてきた。その証拠に、俺は紅莉栖に何を上げればいいか悩み、頭を抱えている。
 で、考えた末出てきたのはアクセサリー。だが、アクセサリーと言っても俺はまったくわからない。
「………………」
 一応、デパートまで来てみたのだが、やはりさっぱりだ。
 それに、白衣の男がアクセサリーショップにいる時点で浮いてしまっているので、周りからの視線が気になって仕方ない。
 おかげで、選ぼうにも視線が気になり選べずじまい。
「ッ…」
 耐え切れず、俺は店を出た。
 いつもならこんなことはどうってことがないのだが、今日はどうも視線が気になって嫌になってしまった。
 原因は、予想が付いている。
「時間がないというのに…!」
 タイムリミットはパーティーが始まるまで。すでに午後になっているため、残り時間は少ない。
 その中で俺は紅莉栖に喜んでもらえる何かをプレゼントしなければならなかった。
「……………」
 腕を組み考えながらデパートの地図を見た。
「…………………くそ」
 それを見て思いつけば苦労はしない。
 俺は苛立ちを感じながら、携帯で時間を確認した。ラボまで帰る時間を計算すると、すでにここにいられる時間は一時間を切っていた。
 しかし、何も思いつかずここに居続けても時間を無駄にする可能性がある。だが、ここよりもいいデパートは秋葉原にはない。
 誰かに聞きたいが、俺自身が選んだプレゼントをあげたいのでそれはしたくない。
 ではどうすれば?
「…ん?」
 頭を悩ませていると、ふとあるものが目に止まった。
 どうってことのないもの。どこにでも売っているもの。でも気になって俺は『それ』に近づき、手にとって見てみた。
「……………」
 『それ』は本当に地味で、プレゼントとしては合ってはいるが普通の品なんだが、気になって仕方なかった。
「すいません。これなんですが…」
 耐え切れず俺は近くにいた店員に『それ』のことを尋ねてみた。
 そして、店員に『それ』についての説明を受け考えた末、俺は『それ』を買うことにした。


 プレゼントを購入後、すぐさまラボに向かった俺はまずプレゼントを隠した。
 見られる恥ずかしさもあったが、それ以上にギリギリまで紅莉栖に知られたくなったからだ。
 それに賛同してくれたまゆりには、事前に紅莉栖と一緒に買い物に出てもらった。おかげで、俺はプレゼントを不安なく隠すことが出来た。
 その後、やってきたダルにも事情を説明すると、当たり前のように頷かれ、ルカ子やフェイリスにもダルと同じ対応をされた。
 ちなみに皆、口をそろえて「愛だな」と言ってきたが、恥ずかしいし反論しても嘘を付いているとバレるだけなので無言で答えた。それに、愛なのは事実だしな。
 それからしばらくして買い出しから紅莉栖とまゆりが帰ってきたので、時間より少し早いが全員揃ったということでパーティーの準備を行う。
 と言っても、料理は二人が帰ってくる間、ルカ子が用意していたのであとは皿に盛るだけ。ケーキはフェイリスがきたとき、一緒に持ってきてくれたので冷蔵庫にある。
 最後に、紅莉栖とまゆりが買ってきた飲み物とクラッカー。その他もろもろも揃っていたので、準備は容易であった。
「あーごほん。それでは! 今から我が助手、クリスティーナの誕生日会を始める!!!」
「せっかくの誕生日なんだから名前で言え! それと助手じゃないわ!」
 そして俺の第一声と紅莉栖のツッコミで、クラッカーの破裂音と共にパーティーは始まった。
 最初は皆、腹ペコだったせいもあってか料理に食いつき、会話で盛り上がった。
 紅莉栖に関してはアメリカでの出来事や行った場所について話した。それを聞いていた俺は、電話とメールでしない話題だったので、面白かったし興味も出た。
 いつかアメリカに行ってみるのもいいかもしれない、と俺は話を聞き終わり思った。
 そして、紅莉栖の話が終わった後、時間もたったし腹も膨れたということで、プレゼントを渡す時間になる。
「ではまずはフェイリスからニャン。お誕生日おめでとう、クーニャン」
「ありがとう。フェイリスさん」
 トップバッターのフェイリスのプレゼントは、とても大きな紙袋だった。
 中身は割れ物ではないのはわかるが、何かまでは思いつかない。むしろ、フェイリスだからこそ余計に思いつかないと言ってもいい。
「なんだろう……開けてみてもいい?」
「もちろんニャ。むしろ開けて欲しいニャン」
 開けて欲しいと言われたので、躊躇いなく袋を開ける。
 そして紅莉栖が中身を覗いた瞬間、なっと驚きの声を上げて顔を真っ赤にした。
「ふぇ、フェイリスさん。まさか……」
「そのまさかニャン♪」
 恐る恐る紅莉栖は中身に入っているものを、取り出す。
「おおっ!! メイクイーンの制服!」
「わぁ! まゆしぃと同じ制服だ!!」
「しかも猫耳付き………」
「……………」
 もらった本人は、持って固まっている。まあ、コスプレの経験もなければ、こうした服もあまり着ていない紅莉栖なのだからわからなくもない気がする。
「それを来て凶真に迫れば凶真もイチコロニャン」
「ななな!!! すすすするわけないでしょう!!!」
 反論しながら何故か俺を睨んでくる紅莉栖に、俺は少し怖くて怯んだ。
 それから服を元の袋に戻すと、大きなため息をついた後、俺の方を見て変態と言ってまた睨んだ。
「フェイリスよ。なんで俺が睨まれなければならないのだ」
「凶真だからニャ」
 清々しい笑顔で答えるフェイリスに、俺は怒りを通り越して呆れてため息を付いた。
「それじゃあ、次に僕が」
 と控えめな態度でルカ子は紅莉栖に一冊の本を渡した。
「これは……料理の本?」
「はい…アメリカでも、料理が出来ればと思って…」
 なかなか良いチョイスだ、ルカ子。
 ルカ子らしさも出ているし、『初心者でも大丈夫』なんてキャッチフレーズが付いているのだから入門の本だろう。料理ができない紅莉栖にはぴったりのものだ。
「料理か……これを機に、ちょっとやってみようかしら」
「え”!?」
 それを聞いて俺が思い出したのは、鈴羽とのお別れパーティーの時に作り出したあのアップルパイと呼ばれた何かだ。
 まだ『シュタインズゲート』では料理の腕前は見ていないが、今の発言を考えるとあのアップルパイ並の可能性が高い。
 だからこれを機に料理ができるようになって欲しいものであったが、それに意欲的とは驚いた。
「何よ。私が料理ができると困ることがあるわけ?」
「あ、いや…そうとは言ってない。むしろ、いい機会だと思うぞ。うん」
「……………」
 疑うような視線が痛い!
「ま、嫁の飯がまずいってのはマイナスだからな、常考」
「よよよよめ!?」
「だ、ダル! 貴様、何を言っているのだ! 大体、クリスティーナはまだ俺の嫁ではないだろう!!!」
「えぇッ!?」
「は?」
「誰も牧瀬氏はオカリンの嫁とは言ってない件。そしてまだとはどういうことかkwsk」
 ダルに言われて、俺はとんでもないことを言ってしまったことに気づいた。
「あ……ぅ……」
 真っ赤になってうつむく紅莉栖を見て、俺も真っ赤になっていたことをようやく自覚して慌てて俯いた。
 とても恥ずかしい。まだ告白すらしていないのに、まだ嫁ではないと言ってしまった。
 これではプロポーズみたいではないか。ま、まあいつかするのだしその予行だと……ではなくて!
「これが初々しいカップルの創りだす固有結界。暑いのに余計に熱くなるニャ」
「リア充爆発しろ!!」
「ととととりあえず次だ次だ!」
 このままではやばいと思った俺は、強引に先に進めた。
 もちろん、フェイリスから反論の声が上がったが無視して俺が強引にダルを指名してプレゼントを渡させた。
 ちなみにダルのプレゼントに関してはカットだ。何故かはプレゼントしたのは胸を大きく見えるようにするためのあれだった、と言えばわかるよな?
「それじゃあ次は萌郁さんから預かったもの」
 萌郁のプレゼントはまゆりが代表して紅莉栖に渡された。
 ちなみに萌郁は今日は都合が合わなかったのでプレゼントのみになる。とても残念だと言っていたが、外せない用事だったので仕方なくそちらに行ったようだ。
「これは……ファイル?」
 萌郁のプレゼントはファイルのようだが、中に何かが挟まっているのだろう。
 紅莉栖は中身を確認するために、ファイルの一ページ目をこっそり自分にだけ見えるように開き、
「ッ!?!?!?」
 すぐさま閉じて、カバンにしまった。
「なんだったのだ?」
「~~~!?!?」
 よくわからないが、言えないような品だったらしく、動揺しながら首を何度も何度も横に振った。
「オカリンオカリン。クリスちゃんにこれ以上聞くのは可哀想だと思うのです」
「可哀想なのかどうかはともかく、嫌だというなら詮索はしない。それでいいな、セレセブ」
「セレセブちゃうわ! そうしてくれると助かる」
「そうか。なら次はまゆりだな」
「えへへ。ようやくまゆしぃの出番なのです」
 まだ顔が真っ赤な紅莉栖に、まゆりは笑顔で小さな紙袋を渡す。
 袋を見た限り、ルカ子と同じように本のようだが一体何を?
「これは………手帳」
「うん。クリスちゃんは忙しい日々を送っているって聞いたから手帳にしてみました」
 なるほど。多忙な紅莉栖にはぴったりのプレゼントだ。
 てっきり縫い物関連で何かあげるかと思ったが、まゆりはしっかりと紅莉栖の生活を考えて選んだようだ。
「来年の3月まで使えるから大事に使って欲しいのです」
「ありがとう、まゆり。大事に使わせてもらうわ」
 おそらく、まゆりのプレゼントは一番扱いやすく便利なものだろう。
 そう思ってしまうと、俺が選んだプレゼントは失敗のように思えてきたが、今更後悔はできない。
「それじゃあ、最後はオカリンのプレゼントだね」
「あ、ああ……」
 不安が残る形で最後に俺の番が回ってきてしまった。
 こうなったら、当たって砕けろ!
「では、しばし待て。助手」
 と言って俺は開発室に隠しておいた『それ』を取りに行った。
 それから『それ』を見て、どう渡すかしばらく考えた末、俺は
「いいか。絶対にここで開けるな! いいか絶対だ! 絶対だからな! 絶対に絶対、ここで開けるなよ!!!」
 と、開けてくださいと言うような台詞だったが、念入りに、しかも無駄に必死に言って、『それ』を紅莉栖に渡した。
「これは……何?」
「ホテルに戻ってから確認しろ! それまで絶対に開けるな!!」
「そこまで念入りに言うなら……わ、わかったわ。開けたいけど我慢するわ」
 紅莉栖の言葉に俺は安堵することが出来た。
 『あれ』はここで開けたらおそらく大変な騒ぎになるのは、店員から説明を受けていた時からすでにわかっていたから…。


「ん………メール、か」
 ヴヴヴと机の上で携帯が振動する音に俺は起こされた。
 あれからパーティーは大盛況で終わり、ラボメン全員で片付けを終えた後、ラボメンたちはそれぞれ住まいへと帰っていった。
 俺はというと、床に食べこぼしのゴミやクラッカーの紙吹雪がまだ残っていたので、掃除機を使って掃除した。
 終わった頃には、今日の疲れが一気にやってきたらしく、一気にだるくなって帰る気がなくなったので、今日はラボに泊まることにした。
 それからシャワーを浴びてすぐにソファーで寝た。そして今、メールをもらったところに至るわけである。
「紅莉栖か」
 夜遅くに紅莉栖からのメール。おそらく、プレゼント絡みだろう。
 そう予測して、メールを確認すると書かれた内容は予想とはずいぶんと違ったものであった。
「『ラボよね?』か」
 夜遅くにそんなことを聞くか? というよりもなんでこんなことを…。
 いまいち紅莉栖の考えが読めないが、とりあえず『ラボだ』と返信をしておいた。それから二、三分後、返事が返ってきた。
 『今、近くにいる』
 こんな時間にか? と思いながら、俺は返事を打とうとした。だが、階段を駆け足で登る音が聞こえた瞬間、それをやめた。
「まさか……」
 玄関の鍵は閉めておいたので、すぐさま鍵を開けに玄関へ向かう。
 そこで鍵を開け、扉を開けた先にいたのはもちろん、
「はぁ…はぁ……はぁ……やっぱり…いたわね」
「……………」
 息を切らした紅莉栖だった。


「これ。岡部にあげる」
 ソファーに座った後、まず最初に出たのはその言葉であった。
 言われて、紅莉栖の片手には俺があげた『それ』があったことに気づいた。
「それはお前にあげたものだろう。俺に渡すのはおかしくないか?」
「なら、私があげてもおかしくないでしょう」
 おかしくはないが、問題である。というよりも、なぜならそれは―――
「大体、ペアグラスなんだから……あ、あんたが持ってないとおかしいわよ」
 俺が紅莉栖にプレゼントしたのは、ペアマグカップだ。
 しかもあろうことか夫婦用。恋人用ではない。夫婦用のである。
「お、おまえ!? じぶんがなにをしているのかわかっているのか!!! これはペアマグカップだぞ、ペアマグカップ!! カップルなどが使うやつだぞ!!!」
「ああああんたがいうな!!! だだだだいたい! なんでペアマグカップにしたのよ!!! お、岡部のプレゼントだったからよかったものを…」
「そ、それはだな………お、おまえがよくコーヒーを飲むからマグカップがいいかと…」
「ま、まあよく飲むけど………だ、だからってペアマグカップは……」
 しかし、マグカップはペアでないと買えなかった。
 あの時、マグカップに目が止まった瞬間、直感でこれがいいと思った。だが店員曰く、マグカップはもう一つのマグカップと合わせたペアでしか売れないというのだから、仕方なくペアで買った。
 ただ買ったのはいいが、ペアマグカップは一人で使うものではない。だからと言って、俺が使うわけにもいかなかったわけで、片方はどう使うかはいい案が出ず、結局そのまま紅莉栖に渡してしまった。
 なので、こんなことになっているのは自分のせいであるのは自覚している……つもりだ…たぶん。
「し、仕方ないだろう。店員に聞いたらペアでしか売れないというのだから仕方なくだ」
「な、なら買った責任がある岡部が使いなさいよ」
「つ、使えるか!! それに、それは夫婦用なんだぞ!!!」
「ふぇっ!?!?!?! ふふふふふふうふーーーー!?!?!?」
「あ………………………~~~!!!」
 つい口が滑って、俺は夫婦用だと余計な真実を伝えてしまった。
 それに紅莉栖は、あわわと口をパクパクさせながらマグカップを見つめている。おそらく、夫婦用だと言われ、驚き慌てているのだろう。
 一方の俺はというと、ここまで言ってしまったことを後悔しながらも、同時に期待の気持ちが芽生えていた。
 期待とは、夫婦用だと知りながらも俺に使えと言ってくるかどうかだ。もし言ってきたら、確証はないがおそらくいい意味で捉えていいのだろう。
 少なくとも、好意は持たれているのは間違いないはずだ。でなければマグカップなど渡してくるはずがない………たぶん。
「く、紅莉栖よ。それをあげる相手はちゃんと選ばないと勘違いされるぞ。俺が買ったから使えなど、言ってはいけんぞ」
 しかし、口から出たのは気持ちとは裏腹な余計な一言だった。
 それに紅莉栖はそうねと納得すると、マグカップを引いていく。それからもう一度マグカップを見て、俺につきだした
「………な、なら……おかべに………」
「え…?」
 何を言われたかわからなかった。
 貰う? 俺が? 何を?
「え? ………え?」
「だ。だから! あんたが責任をもってこれを使えって言ってるのよ!!!」
「え………? えええぇぇぇ!?!?!?」
 ようやく何を言われたか理解できた俺は、驚く以外に反応することが出来なかった。
「か、勘違いしないでよ! これは持っていてももったいないし、こういったのは買った本人が責任を取るものなのよ! だから私とペアだとか夫婦用だとか関係ないんだからな!」
「わわわわかっているぞ!!! こ、これは仕方なくだ! 買ったのは俺だから、責任を取らねばな! そ、それにもったいないのなら仕方なく使ってやるぞ! べ、別に紅莉栖から貰えて嬉しいわけではないからな!!」
「わわわわかってるわよ! べ、別に私は岡部が嬉しいと思ってもなんとも思わないんだからね!」
「し、知っている。そ、それにこれは仕方なくだ! 仕方なくだからな!」
 なんてツンデレトークをする俺たちは、素直に嬉しいやもらって欲しいなどと言えるわけがなかった。
 そして最終的には片方は俺、もう片方は紅莉栖が持つことでペアマグカップ騒動は集結したのだった。

<fin>
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2011/09/18 00:15 | STEINS;GATE

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