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2024/05/19 01:39 |
三ヶ月
初オカクリです。
設定としてはSGでのお話です

*『四ヶ月半のピードロ』シリーズ


 紅莉栖と再会して三ヶ月ほどがたった。
 すっかりラボメンとして打ち解けた紅莉栖は、毎日ラボに来て好き放題色々なことをしている。
 それはあのα世界線にいた頃と変わらず、まるでここがα世界線だと思わされてしまうことがあるほどであった。
 しかし俺は知っている。
 ここは『シュタインズ・ゲート』俺が目指した世界線である、と。
「……………」
 で、この世界線にいる俺が今しているのは@ちゃんねるを彷徨うこと。
 要するに、暇つぶしである。
「……………」
 で、もう一名。このラボで暇つぶしをしているのが一人。
 それが、牧瀬紅莉栖だった。
「………」
 紅莉栖はソファーに座り、いつものごとく分厚い本を黙々と読んでいる。
 相変わらず、いつも通り。α世界線でもここでも…。
「…………岡部」
「なんだ?」
「チラチラこっち見ないで。集中できない」
 そんなことしてたのか、俺は。
「というか、岡部は帰らないの?」
「まだ帰る気はない」
「そう…」
「……………」
 沈黙。というよりも、会話が続かない。
「助手は、帰らないのか?」
「帰らないわよ。それと助手言うな」
「そ、そうか…」
「……………」
 オウム返ししてみたが失敗。
 というよりも、話すことがないのに無理に話そうとしたのが失敗だった。
 紅莉栖とは話すこともないし、俺は@ちゃんねるに意識を戻そうとした時だった。
「ねえ、岡部。一つ聞いていい」
「なんだ」
「岡部は、私といて楽しい?」
 ……いきなり何を言い出すんだこいつは。熱でもあるんだろうか。
 俺は椅子から立ち、紅莉栖の額に手をおいた。
「ひゃっ!?」
「熱は…ないな。いつも通りか」
「あ、当たり前でしょう!! 熱なんかないわよ!!!」
「だったら……何か悪いものでも―――」
「それもない!!!」
 実はわかっているが、こいつがそんなことを言うのはおかしい。
 いつもはツンデレ乙の貧乳処女のはずなんだが…。
「岡部。アンタ、今とっても失礼なことを思ったでしょ?」
「な、何を言うのだクリスティーナ。それよりも、お前、本当に大丈夫か?」
「正常。至極正常よ。少なくとも、鳳凰院凶真という設定を持っている人よりもずっと正常なのは絶対よ」
 自分の設定が痛いのを自覚しているがゆえに、耳が痛い。
 それでも、言わせてもらおう。
「今日のおまえが言うなスレはここですか?」
「いや、それはこっちのセリフだ。というよりも質問に答えろ」
 殺気に近い視線を俺に向けてくる紅莉栖。
 そろそろ答えないと、なんだか怖いので、素直に答えることにした。
「楽しいに決まっているだろう。クリスティーナが入ったおかげで我がラボは発展し、これなら機関との決戦に十分間に合う」
「だからお前は何と戦っている」
「機関は機関だ。この俺、鳳凰院凶真を―――」
「はいはい。厨二病乙」
「……………」
「で、それは本当なの?」
「というと?」
「……………」
 紅莉栖は一旦そっぽ向き黙った。が、しばらくして小さな声で言った。
「楽しい……ってことよ」
「嘘はつかないぞ。楽しいに決まっている」
 大切な人と一緒にすごせているのだから楽しいに決まっている。
 諦めなかった結果、俺は紅莉栖といられるのだから…。
「そう……」
「何かあったのか? それともお前がつまらないのか?」
「それはないっ!!」
 紅莉栖は身を乗り出して否定してくれた。
 それに俺は驚いて後ずさってしまったが、同時にとても嬉しかった。
 なぜなら、こうして紅莉栖から楽しいと言われたのはこれが初めてだったのだから。
「で、何かあったのか?」
「……………」
 だからこそ思った。
 こんな質問をしてくるということは何かあったに違いない、と。
「時々、私の方を見て辛そうな顔するのはなんで?」
「……………」
「答えて。岡部」
 驚きはない。むしろ、やはりなと思った。
 しかし、それはあまりにも突然だったので、おそらく俺は一瞬だけ動揺を見せてしまったのだろう。
 そのことは紅莉栖の射抜くようなまなざしを見て判断できた。
「……………なんのことだ?」
「とぼけないで」
 逃げるのはやはり無理なようだ。
 だからといって、俺は素直に話すことは……。
「答えられない」
「なんで?」
「それも、答えられない」
 紅莉栖はα世界線のことに関しては何も知らないし、俺は話していない。
 時々、α世界線の時の記憶が戻ることがあるようだが、まだ核心的な部分、タイムリープマシン完成後の記憶は一切思い出していないようだ。
 だから紅莉栖は今、何も知らない。だからこそ、話さない。
 リーディング・シュタイナーで、タイムリープマシン後の記憶を思い出させたくない。
 そこから先の辛い記憶を思い出させたくないから。
「悪い。紅莉栖」
 勝手な偽善なのは承知している。
 しかし俺は人間だ。神のように、都合のいい記憶だけを思い出すように操作することはできない。
「…………………ったく。なんて顔してるのよ」
「へ?」
 優しい紅莉栖の声と共に、俺はいきなり頭を抱き寄せられてしまった。
「へ? じゃないわよ。あんた、自分がどんな顔してたかわかってる?」
「と、いうと?」
「泣きそうな顔してた」
「……………」
「どうやらわかってなかったようね。ほんと、馬鹿なんだから」
 抱きしめられた腕に力が込められた。
 まるで、母親が子供を抱きしめるかのようなものに似ている。
 抱きしめられた俺はそんな喩えをしながら、仕方なく紅莉栖に頭を預けることにした。
「とりあえずこれ以上は今は追求しないわ」
「今はってことはまたするってことか」
「そうよ。何も聞けないままはごめんよ。それに………」
「それに?」
「お、岡部がそんなんじゃ……私も、調子狂うし……け、決して岡部のことが心配だからってわけじゃないからな!」
 テンプレ通りのツンデレ乙。
 毎回思うが、実は狙ってやってましたじゃ……ないよな。
「と、とにかく! 岡部がそんなんじゃ、まゆりが心配するのよ。だから早く楽になりなさい」
「クリスティーナ…」
 言いたいことは全て言った紅莉栖は、抱きしめた腕を解く。
「それからティーナは付けるな!」
 もちろん、いつものツッコミは忘れずに。
「と、とりあえず、それだけ…かな」
 とゆっくり後ずさっていく紅莉栖。
 それに俺は、心臓が飛び跳ねた。
「紅莉栖ッ!」
 俺は離れていく紅莉栖の手を掴み、
「ふぇっ!?」
 今度は俺の方から抱きしめ返した。
「おおおお岡部!! いいいいいきなりなにするのよ!!!!」
「………」
 見ての通り、抱きしめている。
 牧瀬紅莉栖をこの俺、岡部倫太郎が抱きしめているのだ。
「……………」
「何か……言いなさいよ」
「……………れ」
「え?」
「………離れないでくれ」
 感情が爆発した、と言えばいいのだろう。
 少なくとも、俺の先程の心境を考えるとそれが正しいのだろう。
 抱擁を終え、ゆっくりと離れていく紅莉栖。それに俺はα世界線の最後、紅莉栖の姿を思い出してしまった。
 ずっと仕舞い込んでいた最後の姿と、聞けなかった言葉。彼女は最後に俺に何を伝えたかったのかわからないままだ。
 たとえ、リーディングシュタイナーの影響を受けたとしても、それを思い出すとは限らない。
 だから、耐えた。
 最後の言葉が聞けなかったことを必死に耐えた。
 その結果が、おそらく先ほど紅莉栖の言っていたことにつながるのだろう。
 でも、もう耐えるのは無理だった。
 後ずさっていく紅莉栖を見て、俺は消えるような気がした。
 また彼女が俺の前から消えるような気がした。
 違うとわかっていても、そんな気がしてならなかった。
「頼むから……離れるな。そばに、いてくれ」
「岡部……」
「もう、嫌なんだ。失いたくないんだ」
 抱きしめた腕により力を込めた。
 じゃないと、抱きしめた紅莉栖がどこかに行きそうな気がして怖かった。
「消えないでくれ。頼むから。もう、消えないでくれ」
 三ヶ月。でも俺にとってはそれ以上に長かった時間を耐えていた。
 だが、もう限界だ。
 今、頭にあるのは紅莉栖と離れたくない。
 ただそれだけであった。


 翌日。
 俺は講義後、いつも通りラボへと向かった。だが、足取りは少しだけ重い。
(紅莉栖は………いるだろうな)
 昨日の抱擁に、俺の言った言葉。今思い返すと、恥ずかしさのあまり死にたくなるような言動である。
 唯一の救いは、あの後何もなく紅莉栖は帰っていたことだけだろう。いや、正確には心ここにあらず状態で帰っていった。
 果たしてあの後無事に帰れたか不安になったが、おそらく大丈夫だろう……と願いたい。
 で、問題のラボに到着してしまった。
 とりあえず、外から二階の窓を眺めたが、何も聞こえないし変化もなかった。
 そうなると、あとはもう出たとこ勝負だ。
 階段を上がり、ラボのドアノブに手をかけ、一回だけ深呼吸をした後、いつもようにドアを開いた。
 そこには、
「あ。ようやく来たニャ」
「待ってたよ。オカリン」
「リア充、覚悟おk?」
「お、おかべぇぇぇ!!!」
 涙目の紅莉栖と、その周りを取り囲むように座り不敵に俺に微笑んできているフェイリス、まゆり、ダルがいたのだった。

三ヶ月以上
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2011/09/17 23:58 | STEINS;GATE

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