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2024/05/05 08:01 |
全てが壊れた世界で
執念さん、第二弾です。
執念さんはこれで書ききった気がします。



 2025年。俺の人生が絶望の日々に変わってからもう十年以上が流れていた。
 紅莉栖を失い、まゆりを失い、世界を失い、人生を失った俺はまだのうのうと生き続けている。これも全て、世界線の収束からなる結果なのだろう。
 しかし、世界線の収束には感謝する点が二つだけある。一つは俺の死がいつなのか決定づけられていることだ。これのおかげで俺は無茶でも死ぬことはない。怪我をすることはあるが、死に至るような怪我ではないので問題はない。
 もう一つはタイムマシンが出来上げることが決定していることだ。開発の素材や人員など、様々なものを集めなければならないが完成することは決まっているのは大きい。あとは完成の年までにタイムマシンをどれほどのものに出来るかだけである。
 そして、今の未来ガジェット研究所ではタイムマシンの研究ともう一つ、Dメールを送る装置の研究をしている。
 その二つの研究のためだけに未来ガジェット研究所は存在していると言っていい。それ以外のことはここでは一切行っていないし、誰も行おうとは言わない。
 理由は二つ。一つは皆、その二つのためだけに集められたエキスパートであること。そしてもう一つは未来ガジェット研究所所長が俺であることだ。
 トントン。
 不意に刻みよくドアをノックされた。俺は誰だとノックされた相手に質問をしながら机の上に置いてあるベレッタM92を握る。
「橋田です」
 名前と声を聞いて、俺は一瞬だけ警戒を解くがすぐにまた警戒をしなおした。俺は銃を握りながら、入れと命令する。された橋田ことダルは、丁寧に入りますと言った後にゆっくりとドアを開け、その姿を晒した。
「………」
 ダルは拳銃を持つ俺を悲しそうに見た後、ドアをゆっくりと閉めた。
「………座っていい?」
「ああ。構わない」
 ダルがソファーに座ろうとする間、俺は念の為にドアがしっかり閉まりきっているか確認を取る。少し力を加え、閉じているドアを押してみるとドアは動かず、逆に押した手が押し返された。
 ちゃんと閉まっているようだな。
 閉まりきっているドアを確認した後、俺はソファーに座るダルとは少し離れた場所にある自分の椅子に座った。それから手に握った拳銃を机の引き出しの中に戻し、意識をダルへと向けた。
「海外から帰ってきてもその警戒っぷりは変わらないんだね」
「俺が2025年に死ぬという情報は鈴羽から話されたことでの情報だ。確定しているだろうが、この世界線の俺が本当にその年に死ぬかはその日になってみなければわからない。それに、俺は命を狙われているからな」
 命を狙われていると聞いて、ダルはそうだねと辛そうな声で答えた。俺はそれに何も感じず、天を見上げて狙われている理由を思い出す。
 俺が命を狙われている理由。それはタイムマシンに関して世界中の誰よりも詳しく知っているからである。
 タイムマシン研究はロシアだけではなく他国でも多くされている研究だ。だが我々未来ガジェット研究所はその中でもおそらく一番進んでいて、タイムマシンにもっとも近い研究所と言われている。
 そして、それを取り仕切るのがこの俺、鳳凰院凶真だ。タイムマシン研究のエキスパートだけが集められ、さらには過去にメールを送るDメールの装置の開発と研究に関わる者たちを、ラボメンの力を借りて集めたのが俺だ。
 研究所以外の研究者たちから見れば、俺の存在はカリスマのようなものだ。それとタイムマシンの知識。もし俺がどこにも所属しない研究者なら、どこの研究所も全力で俺の獲得に乗り出すだろう。
 しかし俺はこの未来ガジェット研究所の研究者。しかもそこの所長だ。そうなると、俺の存在を邪魔だと思う研究所が多くなる。
 あとは自然な流れ。俺の存在を消したくなった研究者たちが、俺を殺そうとし始める。
 あの頃であれば、映画か何かかよと笑われていただろうが、世界大戦で荒れた世界ではこんなことは起きても当たり前。世界はとっくの昔に、壊れてしまっているのだから。
「と言いながら、オカリンはもう2025年に死ぬことを自分の中で確定づけてるんでしょ?」
「だからといって警戒しないでいるほうが危険だ。それに死ななくても大怪我はしないとは決定づけられていない。もし俺が撃たれて寝こむような生活を送り、そのまま死を迎える可能性だって否定できない。死だけを見てその過程を見ないのは、一番恐ろしいことだと思わないか?」
「確かに。Dメールの開発はまだ終わってないし、トップとしてまだオカリンには元気でいてもらわないといけないもんな」
「そういうことだ」
 まだ俺は倒れられない。計画を実行に移すまでは俺は健康体でい続けなければならない。
 だから警戒は決して無駄ではない。自分を守るためにも、計画のためにも。
「ところで、行った先で目的のものは手に入れられたん?」
「ああ。問題ない」
 椅子の後ろにおいてある金属のスーツケースを取ると、俺はスーツケースの暗証番号を解除した。そして、その中のものを取り出し机の上に放り投げると、ダルは立ち上がってそれを手にとった。
「ミニブラックホール生成に関する資料。これで開発が進むお」
 俺が海外まで行って取ってきたのはミニブラックホール生成に役立つ一つの論文だった。
 今、ミニブラックホール生成で壁にぶちあっているダルたちには天からの贈り物と言っていいほどの品だろう。
「それじゃあダル。さっそく研究員をたたき起こし、研究に取り組んでくれ」
「え? でもみんな今、休憩―――」
「口答えするな、橋田副所長」
 俺は引き出しからベレッタM92を取り出し、それをダルの顔へ向けた。
 それをされたダルはというと、とても悲しそうな顔をした後、わかりましたと上司の指示に従う駒として動き始める。
「それでいい。ならばさっそく研究に取り組んでくれ」
 俺はダルに満足気に笑ってみせ、拳銃をおろした。ダルは、わかりましたと資料を持ちながら深々とお辞儀をした後、ドアへと向かっていく。
「ああ、そうだ」
 ドアから出ていく直前、俺は橋田副所長と呼びかける。ダルはなんですかと俺に振り返った後、俺はひとつの命令を下した。
「俺のいない間、研究が少し遅れたと聞いた。橋田副所長、プランS-4まで完了するまで休ませるな」
「プランS-4!? 待ってください! それは二日以上―――」
「口答えは許さん。あとで私が行く。皆にそう伝え、作業にとりかかってくれ」
 ダルは辛そうにはいと頷くと、失礼しますとまた一礼した後、ドアを閉めた。



 タイムマシン開発の方は順調だ。俺が海外まで行って取ってきた資料のおかげで研究はスムーズに進んでいる。だがタイムマシンが出来る日はおそらく決定されているはず。スムーズとはあくまで何も知らない研究者たちの士気を上げるだけでしかないので、俺には意味を成さない言葉だ。
 それに俺は今年中に死ぬ。たとえタイムマシン開発が一気に進んだとしても、その時、俺は生きていないだろう。タイムマシンの完成を俺は見ることができない。
 だが今の俺にはそれはどうだっていい。元々わかっていたことであったなので見れないことが残念だと思っていない。
 それよりも今はDメールだ。あいつを、紅莉栖を救うための鍵のほうが今の俺にとっては一番重要なことである。
「………紅莉栖」
 今日、俺は研究所を離れていた。そしてやってきたのはラジ館…ではなくかつてブラウン管工房があった雑居ビルの2階にある初代未来ガジェット研究所本部へ来ていた。
 ここへ来るのはまゆりがいなくなった日、以来だろう。実に13~14年ぶりに訪れた思い出と絶望のある場所だ。
 ラボの中はすっかりと片付けられ、大きな居間だけが目の前に広がっているだけだ。
 光景だけでも十分寂しい。だがそれ以上にここの雰囲気は悲しみで包まれている。そんな感じをさせられた。
「………」
 無言のまま、俺はかつてソファーがあった場所まで移動した。
 ここで、紅莉栖は分厚い本を読んでいた。まゆりはここでコスの衣装作りをしていた。二人はあの頃、ここに座っていた。
「紅莉栖……俺は」
 俺は自分を抱きしめ、膝をつき声を殺しながら涙した。
 こうして俺が弱音を吐くのは、実に何年ぶりだろう。普段は感情を殺し人を駒としてみてきている。最初は苦痛を伴ったが、今はもう何も感じられない。
 しかし1つだけ殺し切れない感情があった。それが紅莉栖への想いだった。
 思い出すたびに胸が締め付けられ、そのたびにあいつが好きになっていく。もういない紅莉栖のことが、俺は日に日にまた好きになっていく。もう、いない…のに。
「紅莉栖…紅莉栖紅莉栖紅莉栖!」
 好きなのに、伝えられない。もう、ここには、いない。
 だから俺は…。



「―――以上です」
「わかった。引き続き、開発を続けてくれ」
「はい」
 Dメールを送るための装置の開発の途中報告をしに来た開発チームのリーダーは、怯えながら俺への報告を終えた。
「では」
 居心地が悪いらしく、すぐに一礼をして丁寧に、でも急いで部屋を出ていく。もうほぼ毎日、見慣れた光景だ。
 俺はそれに感じるものはない。いや、すでに感じる心すら俺にはなくなっていた、と言ったほうが正しい。
 鳳凰院凶真、世界から恐れられる狂気のマッドサイエンティスト、か。望んでなりたかったわけではなくただの設定のはずだったのに、な。
 皮肉を思いながら、俺は資料に目を通した。
 Dメールの方は順調だ。あと数ヶ月もすれば、俺の計画を実行にうつすだけのデータサイズを送ることが出来る。
 送るのはムービー。そこに計画のすべてを叩きこめば、あとはダルたちがタイムマシンを開発し、あの日に鈴羽を飛ばせばいいだけだ。
「フ…フフフ…フハハハハハ」
 実に順調だ。
 あとはその時まで俺が生きればいいだけだ。
「もうすぐだ……もうすぐだよ、紅莉栖。フゥーハハハハハ!」
 勝利の日まで近い。
 それを知った俺は笑わずにはいられなかった…。


『―――エル・プサイ・コングルゥ』
「これでいい。今すぐに送れ」
 支持された研究員ははいと答え、携帯の決定ボタンを押した。
 そして送信中が送信完了に変わったのを確認した後、俺は無言のままその場を後にする。そうして向かった先は俺の部屋、所長室だった。
「………」
 ドアを開け、中に入ると待っていたのはダル一人だけであった。俺はそれを確認した後、ドアの鍵を閉め、ダルとは向かい側のソファーに腰をかけた。
「どうだったん?」
「成功だ。あとはタイムマシンだけだ」
 成功したというのに俺の気持ちに特に変化はない。成功の喜びも計画を実行に移せた達成感も、そして俺の生きる意味がなくなったことに対しても。
「これからの計画はすべて金庫の中に入っているが…お前はもう覚えているよな? 一応、念の為に残してはおくが状況次第では処分しろ」
「了解」
「それとDメール装置だが、あとで破壊しておけ。あと1つだけ、役割を果たしたら、な」
「わかった」
「最後に、俺に関する資料は処分しておけ。金庫に入っている物以外、全て燃やしていい。書類も服も使用した道具も全てだ」
「………わかった」
 言うだけ言って俺は携帯と拳銃を取り出し、机の上に置いた。
 ダルは両方に手を伸ばし、拳銃はセーフティがかかっているか確認した後、再度机の上に残し、俺の携帯はポケットの中に入れた。
「オカリン………これで」
「駒の仕事は終わった。あとはまだ仕事のある駒に任せる」
「………」
 所詮、俺も駒でしかない。牧瀬紅莉栖を助けだすためだけに存在する駒だ。
 それの役割がもうなくなった以上、駒は倒れなければならない。そう、あと俺が残っているのは…。
「所長、あとは任せた」
 立ち上がりながら俺はダルにそう言う。ダルは何かを言おうと口を開こうとしたが、結局何も言えず、頷くだけで答えてみせた。
「タイムマシンが出来るならここを自由に使っていい。それと俺が死んだらそのことを広めろ。ではな」
 言うことを全て言い切ったは、これがダルとの最後の会話だと知りながらも躊躇いなくドアを開け、部屋を出た。
 結局、最後まで俺はダルを友人としてではなく紅莉栖を助けだすための駒として接したのだった。


 俺が死に場所を選んだのはラジ館ではない。
 最初はあそこがいいと思ったが、それよりももっと馴染み深い場所で死にたいと思った。そうして死に場所として選んだのが、初代未来ガジェット研究所だ。
「ここで、終わるんだな」
 すでに鳳凰院凶真の役割を終えた俺は、仮面の奥にある本当の俺、岡部倫太郎としてここへと赴いた。
「なあ紅莉栖。俺、お前のことが好きだ」
 かつてPCと電話レンジがあった場所へ向かってゆっくりと歩きながら、俺は話を続けた。
「大好きだから、お前のためだけに人生を全て捧げた。全部、お前が好きだから。好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きだ!! 俺はお前が大好きだ!! …………………………でも」
 ―――紅莉栖は俺のこと、好きだったのか?
「わからない。最後にお前が! ここで! 何を言いたかったのか! わからないんだ。わからないん…だよ! 紅莉栖!!!」
 ―――お前から好きを、聞いてないんだよ。
「だからもう…いいよな? 紅莉栖」
 ここにはいない紅莉栖に問いかけ、俺は考えることを放棄した。
 もう考えることは何もない。あとは死ぬだけだ。
「は…ははは…ははははは」
 電話レンジがあった場所へたどり着いた俺は懐からナイフを取り出す。この日のために、俺が用意をさせた未使用のナイフだ。
 特徴は特にはない。どこにでもある普通のナイフだ。だが、だからこそこれを選んだ。
「せめて最後は、お前と同じ死に方で」
 俺は両手でナイフを逆手に握った。そして躊躇いなく、
「ぁ……くぁ」
 自分の胸にナイフを突き刺した。
「………は、……はは………ははは」
 これが、俺の死。自分で自分の命を奪う死。運命はこれを望んだか知らないが、誰かに殺されるよりもずっといい。
 それに紅莉栖と同じ死を迎えられる。なら、これ以上ない幸せだろう。
「好き……だ……紅莉、栖」
 好きだ…好きだ…好きだ…。
「好き、だ……紅…莉」
 好き………だ………好………。
「栖…………………………」
 ………………………………………………………………………………………………………………………。

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2011/09/18 00:38 | STEINS;GATE

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