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2024/05/05 23:18 |
勝負下着のクリスティーナ
オカリンが助手に下着をプレゼントするお話です。
Twitter上でいただいたリク話です。



「お疲れ様でしたー」
 自分の残金がピンチになったので急遽メイクイーンで短期バイトをやらせてもらい、早二週間以上がたった。
 すっかりとメイド喫茶に馴染んでしまった私は最近ではメイドの姿になることに羞恥心を感じなくなりつつあっていた。それってどうなの、と心の奥でまだ思うことがあるのだが、仕事だけでしか着ないということでそれには目をつむっている。
 しかしだ。橋田のようなHENTAIたちにHENTAIな目つきでみられるのだけはどうしてもなれない。というよりも、これは自分のためにも慣れてはいけない気がするので、慣れたくない私である。
 閑話休題。
 今日のバイトは終了した。初の4連勤ということもあって身体と精神の疲労がピークに達している。
 出来るのなら今すぐにベットで寝たい。シャワーや着替えなんてどうでもいいから、今は一秒でも早く身体を休めたかった。
 しかし、そうする前に今日は1つだけ用事があった。それを改めて脳にインプットするために、私は携帯のメールフォルダを開き、件のメールに再度目を通した。
『バイトが終わったらラボに来てくれ』
 たったそれだけ。でもこれを読み返し度に、ドクンと心臓が高鳴る。
 期待しているわけではない…と思う。別に岡部が私に何か用があるってことはおかしくもなんともない。なんともない……のだが。
「………何考えているのよ私は」
 岡部には期待するようなことは何もない。というよりもなんで私はそんなことを期待するのか。
 これも全部岡部のせいだ。岡部が…岡部が、悪い。
「そうよ。全部、岡部が悪いのよ」
 岡部のせい………そうに決まっている。


「は、早かったな。助手よ」
 ラボには岡部一人だった。まゆりはバイトでそのまま直帰すると聞いたし、橋田は玄関に靴がない時点で帰宅したと考えて正解だろう。
「すぐにこっちに来たからよ」
「そうか……て、手間をかけたな」
 気のせいか、いつもと態度が違う。いつもなら「鳳凰院凶真だ!」とか「機関だ」とか「運命石の選択か」とか厨二病全開の妄想っぷりを見せるのに今はそれを見せる雰囲気が一切ない。
 明らかにおかしい。顔も若干赤いし、落ち着きもない………し?
 ま、まさか……! い、いやいやいや! 何を考えているんだ私は。そんなうまい話ないだろう。
「それよりも、今日はどうしたのよ?」
「あ、ああ……お前に、どうしても渡さないといけないものがあって」
 渡さないといけないものとはなんだろう。
 まさか……プレゼント? いやいやいや。岡部に限ってそれは…
「これ、なんだが…」
 と岡部から渡されたのは平らな紙袋。
 これは、どうみてもプレゼントだ。そうだ。プレゼントしかない…………って。
「こここここここここここここれ!!!!ぷぷぷぷぷぷれぜんと!?!?!?!?」
 岡部は頬を染め視線を逸らしながら頷いた。本当に、これは、プレゼントだ!
「そ、それじゃあ俺は帰る! あと―――」
「ま、待って!!!」
 まるで私から逃げるようにラボを出ていこうとした岡部を腕を私は掴んで止めた。
 渡して逃げるなんて、卑怯よ。
「開けて、いい?」
「いやだから俺がいなくなってから―――」
「あんたのいる前で、見たいの」
「ま、マジ、か……」
 その時の岡部の表情は、まるでこの世の終わりを見たような酷い表情だった。


「……………」
「これが、真実です」
 先にプレゼントをもらった感想から言おうから。中身は、最悪であった。
「それが上下セットの下着を私にプレゼントした理由だと?」
 中に入っていたのは大人物の下着。しかも私の持っている下着以上に大胆な物で、これを含めたら一番大胆なものになるのは確実だ。
 最初にそれを見た時、つい勢いで岡部の頭をぐーで殴ってしまったが、冷静になって考えられるあの時の私は実にGJである。おそらく冷静でも私は同じ事をしているはずだろう。
「は、はい」
 先程から正座してこちらを怯えながら見てくる岡部は、親に怒られた子供のように小さくなったまま頷いた。その姿は実に情けないが自業自得であるし被害者の私からしてみれば、いい気味である。
「………」
 しかし、岡部が話した理由というのは嘘であるとは思えない。
 確かに岡部はHENTAIだし私に対して酷い態度ばかりとるが、人を傷つけるようなことはしない。逆に人を助けたりするのが本来の岡部。だから、理由はおそらく本当だ。
「一つ訊きたい」
「なんですか?」
「それは、本当なの?」
「ああ。本当…です」
「………」
 まだ若干怯えているが嘘を言ってるようには見えなかった。
「そう………」
 改めてもらったプレゼントを見る。
 からかうにしてももっと大胆なものがあったはずだ。それに下着を買いに行くようなこと、岡部のなんかに出来るわけがない。
 そうやって色々なことを潰していけばいくほど、冗談じゃなく本気だったことが伺えてきた。でも物が物なので素直に喜べない自分がいた。
「岡部は、フェイリスさんから下着にセンスがないなって私のひとりごとを聞いたのよね?」
 私は岡部から聞いた話を今度はこちらから質問をするような形で再度、問う。岡部はそうだと答えたので、次の質問をした。
「それでフェイリスさんと一緒に下着を買うことにした。ただし、無理矢理という形で」
「ああ。あれは無理矢理だ」
 無理矢理とはフェイリスさんらしい。それに付き合わされる岡部も岡部らしいが、フェイリスさんなら逃れられるわけがない。そのことは一緒にバイトをしている私もよく理解しているし、実感させられている。
「それで買った下着を私に渡した。で、今に至ると」
「そうだ…あ、いやそうです」
 相変わらず私の視線に気づくとすぐさま敬語に直す。まだ怒っていると思っているのだろう。
 しかし私はもう怒ってなどいない。岡部が言ったのは本当のことのようだし、再度聞いてやはり悪意を感じなかった。ただフェイリスさんのノリに岡部が付き合わされたようなものだろう。
 まったく、フェイリスさんったら。どうせなら岡部じゃなくて自分で渡せばいいのに…。
「はぁ。フェイリスさんが選んでくれたのはわかるけど、だからって別に岡部が渡す役にならなくてもいいのに」
「それは違うぞ」
「え…?」
 不意に岡部が否定をしたが、あまりにも突然であったので私は何を否定したのかわからなかった。
「何、が…?」
 私は声を搾り出すように岡部に問いかけると、岡部は気まずそうに私から目を逸らした後、小さな声で答えた。
「俺が………選んだ」
「……………」
 何…だと…?
「フェイリスに付き合わされたが、選んだのは俺だ」
「フェ、フェイリスさんじゃなくて?」
「そ、そうだ」
「じゃ、じゃあこれは……」
「お、お前に…似合うんじゃないかなと思って」
 つまり、この大胆な下着のセンスは岡部のセンス…ということ?
 じゃ、じゃあこれを選んで買ったのはフェイリスさんじゃなくて、岡部…?
「お、岡部は……その、似合うと…思ったから…なのよね?」
「そ、そう……だ」
「……………」
 岡部が選んだ下着。に、似合う……かな?
「ね、ねえ」
「なんだ?」
「み、見て…みたい?」


「どうしてこうなった!」
 浴室の中で、私は下着の上に白衣を着る自分の姿を見て、盛大に頭を抱えていた。
 元はといえば岡部が悪いんだ。そうだ、そうしないと絶対におかしい! だって私が岡部の前で下着姿になる。ありえない。絶対にありえない!
 だがありえないが今、ありえたに変わろうとしている。現実を直視したくない。どうしてあんなことを言ったんだろう、私。出来るのなら十数分前に戻って自分を殴ってやりたい。
「ありえない……本当に、ありえないんだから」
 浴室を出れば岡部が待っている。私に似合うといった下着を着た姿を、岡部に見せることになる。
「あ……ぅ」
 意識してしまったせいか、急に出るのが恥ずかしくなってきた。
 このまま、着替えてやっぱりなしでもいいんじゃない?
 そう思ってしまうと、自然と手が自分の服の方へと伸びていってしまった。だが…
「………」
 不意にやっぱりないと言った後の岡部の反応を想像してみた。
 きっと岡部はなしというとそうかと言って、頷くのだろう。それから帰る私を見送って、一人でラボに泊まる。そうしていつも通りの日常が、ただ流れて一日が終わるだけだ。明日にはただの出来事に変わって、プレゼントされた結果だけが残る。
 でもそれって…
「なんだか嫌」
 そう思った理由は私にもわからない。
 でも嫌なのだ。何も変わらず、ただ結果だけが残るのは、わからないが嫌だった。
「………よし」
 それが後押しとなったおかげで、恥ずかしさはまだ残っているがやめる気はなくなった。ならば後は、当たって砕けろ。
 私はゆっくりと浴室の仕切りを開き、岡部のいる居間へ。
 岡部は仕切りが開く音に気づき、ゆっくりこちらへ顔を向ける。そして、ゆっくりと出てき始めていた私とちょうど目が合うと、すぐさま顔をこちらを向く前の位置に戻した。
「い……いい、のか?」
「う、うん」
 何がいいのかわからない。答えた私も何がうんなのかわかっていないが、反射的に答えてたようなものなので特に意味はない。
「み、見て……いい、か?」
「………うん」
 今度は何が見たいか理解できた。
 私は浴室から出て、立ち尽くす。今すぐにでも隠れたい羞恥心を両手で白衣をギュッと握って耐えつつ、岡部がこちらを向くのを待った。
「……………」
 今度は先程よりもゆっくりとであるが、逃げずに顔を向けた。
 そして、私の姿をようやく目に捉えた岡部は、口をぽっかり開けながら私の全身を舐め回すように見つめてきた。
「ジロジロ見るな…」
「え?……あ、悪い!」
 岡部の視線についに耐え切れなくなって、私は白衣で前を隠した。それとほぼ同時に岡部はまた顔をそらした。
「………」
「………」
 気まずい沈黙が流れる。
 何かしないと。それか、何か言わないと…。
「ど、どう……?」
「な、何が……?」
「か、かん…そう……」
 今すぐここから逃げ出したい衝動を白衣をまたギュッと握ることで耐える。
 岡部が私が着たら似合うと言った。ならば一言、感想は欲しい。
「……………」
「……………」
「……………表現、できん。それほど、似合ってた」
 …………………………え?
「悪い。紅莉栖」
 というと岡部はいきなり立ち上がり、私から逃げるように玄関へと向かおうとする。
 私のそんな岡部を止めたかったのかわからないがその手を掴んだ。
「紅莉栖……?」
「え…? あ」
 岡部の手を掴んでいたことを名前を呼ばれて気づいた。
 私は、ごめんとつい手を離してしまったが、岡部は逃げる様子は見せず、不思議そうにこちらを見ていた。
「その……どうしたの?」
「そ、その………だな」
 岡部は頬をボリボリと掻きながら、私とは逆方向にある窓のほうを見ながら、
「これ以上は……ヤバイ」
 小さな声で言った。
「え…?」
 それは…つまり…。
「あ……」
 と、私が考えている合間に岡部はまたも逃げる。今度は反応が遅れたせいでつかもうとした手に見事に逃げられ、そのまま玄関から出て階段を降りていってしまった。
「……………」
 ラボには私一人だけが取り残され、静寂が訪れる。しかし対する私は静寂とは裏腹に、胸には暴れ狂いたいほどの大きな不満だけが残る。
 私は岡部の逃げていったもう誰もいない玄関を見つめる。おそらくラボには戻らずきっと今日は池袋にあるという家に帰るのだろう。私はそれを予想できてはいるものの、追う気は一切ない。
 ただこれだけは、岡部はここにはいないがこれだけはどうしても言いたい。
「根性なし」
 期待なんかしていない。していない……のだが、どうしてもこれだけは言いたかった私なのであった。

<fin>
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2011/09/18 00:34 | STEINS;GATE

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