忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/06 04:59 |
再会の可能性
SG世界線でのシリアス話です。
作中で紅莉栖は『岡部さん』と呼んでいます。呼ばせたかっただけですw



 失ったものは直せず、戻せず、変えられない。
 かつて―――と言ってもたったの一ヶ月程度前であるが―――記憶だけだが過去に戻ることのできる装置と、過去に戻れる装置を俺は使ったことがある。それを使って俺はあるものを得る代わりに、あるものを失う。または奪う。それを俺は何度か繰り返し、このシュタインズゲートへとたどり着いた。
 得られるものは俺にはとても大きかった。誰も死なず、不幸にならず、タイムマシンの実験にも関わることもなく、ただ平穏な日々を噛み締めることの出来る世界へと俺はたどり着いた。だが逆もある。様々な想いを俺は犠牲にしてきた俺は、重たい罪を背負った。一生かけても、死んでもなお償い切れない大きな罪。それをなくすこと、否定することを俺は禁じた。これは俺が背負っていかなければならないものであるからだ。
 罪に関しては、未だに整理がつかない。入院生活中は恐ろしいほど暇であったので、その間に頭の中で貯めていたものを全て整理した時にこのことを考えたが、結局整理できなかった。重すぎる十字架だからだろう。これの解決にはまだまだ時間を要しそうだ。
 さて、話を戻そう。
 俺は得るものを得られた代わりに、失ったものがある。その代表例、というよりも今悩んでいることと言ってもいいだろうそれは、牧瀬紅莉栖のことである。
 数日前、俺は紅莉栖と再会した。彼女にとってはラジ館の事件以来だろうが、俺にとってはそれを含め別の世界線でのこともあったので、とても懐かしい再会に感じられた。紅莉栖も紅莉栖で色々と苦労と根気を重ね、ようやく会えたらしい。どうやら俺だけでなく紅莉栖にとっても、とても懐かしい再会であったようだ。
 それからラボメンになるまでは一時間もかからなかった。すぐにラボに向かい、そこで顔を合わせ、ラボメンになる。本当にあっという間の出来事だ。しかし、ラボメンになったからこそ俺はこの世界線での紅莉栖との関係を実感させられることになってしまった。
「……………」
 UPX…大型スクリーンにはエロゲーのPVやアニメのCMなどオタク向けの作品の紹介が、絶え間なく流れている。オタクの街、秋葉原だからこそこうして流し続けられるのだろう。
 その正面真下、遊歩道の手すりに寄りかかってスクリーンを見ていた。と言ってもスクリーンに絶え間なく流れているCMなどを見ているわけではなく、ただスクリーンを向いていただけだ。
 ここに来た理由も特にはない。ただ帰り道の途中、ここにたどり着いてしまって、気づいたらここでスクリーンを見て時間を潰していた。急いで帰る理由がないので、こうして時間を潰していても問題はないが。
「………………」
「岡部さん?」
 不意に呼ばれ、俺は横を見た。そこにいたのは、俺のことを「岡部さん」と呼ぶ人物。
「助手か」
「だから助手じゃありません!それよりもどうしたんですか?」
 俺の目の前にいる敬語を話す紅莉栖は、心配そうに俺を見てきた。それになんでもないと答え、よりかかっていた手すりから離れた。
「それよりもお前こそどうしてここにいるのだ?クリスティーナ」
「だから紅莉栖です!!別に。特に意味はないです」
 反応はα世界線とは変わらないが、敬語を使って否定をするので違和感しか感じられない。同じはずなのに別のものを見ているような錯覚だ。
 これがシュタインズゲートでの悩みだ。さん付けで呼ばれると必ず違和感を感じてしまう。覚えていないので当然といえば当然であるし、あちらは俺のことをまだ恩人としてみている。ならα世界線とシュタインズゲートでは認識に圧倒的な違いが出てきてしまうのは当然といえば当然である。別のいい方をすれば紅莉栖は俺のことを恩人として見ている意識が強く、まだラボメンとして見ている意識は弱い。
 α世界線に依存しすぎたせいか、異性としてではなくとも、せめてラボメンとして俺を見て欲しかった想いがあったので、わかっていたからこそ悲しかった。
「………」
「なんです?」
「いや………なんでもない」
 外見は紅莉栖なのに、中身は別の紅莉栖。そのことに気づいたときに別人だと理解したはずだったが、そう簡単に認識を変えることは難しいようだ。これも依存しすぎたせい、か。
「それよりも帰るのだろ?なら俺も行く」
「え?お、岡部さんも帰るんですか?」
「まあ、な。そんな気分だ」
 俺は曖昧な答えを返し、駅の方へと身体を向けた。
「ほら。行くぞ」
 一声かけた後、俺は大スクリーンに背中を向けて駅の方向へと歩き出す。
 帰る気はなかったが、ここにいてもおそらく帰った紅莉栖が気になって落ち着いていられないだろう。それに少しでも一緒にいたいと思う願望があった。それが、別人だと知りながらも。
「………」
「どうしたのだ?助手」
 しかし紅莉栖は俺についてこなかった。というよりも、意識は俺の方ではなく駅の方向へと向いているようだった。
 俺は紅莉栖の視線を目で追った。だがそこにあったのは秋葉原の駅とそこにたくさんいる人々。時々行っているストリートライブがやっていなければ、大道芸のようなことも行っていない。
 ならば何を見ているのか。疑問を感じつつ、俺は紅莉栖と呼びかけようとした瞬間、岡部さんと呼ばれた。
「私たちってここで会ったことはありましたっけ?」
「…………………」
 記憶を思い返す限り、この世界線では出会っていない。だがα世界線でなら何度も会っている。
 ということは、今の紅莉栖の発言はまさか……!?
「夕方にここで岡部さんに会ったような気がしたんですよ。よく思い出せませんが、悩んでいる岡部さんに話しかけたような…」
「………」
「何を言ったかまでは思い出せませんが、二人で真剣に話した……ような……」
(リーディングシュタイナー、か)
 間違いない。リーディングシュタイナーが発動した。
 あまり思い出せてはいないようだが、α世界線でのことを断片的であれこうして話せているのだから間違いないだろう。
「他には?」
「他ですか。そうですね……………」
「……………」
「………すいません。それ以上は」
 どうやら思い出せたのは光景だけのようだ。だが、それでもリーディングシュタイナーはリーディングシュタイナー。発動をしたことには変わりがない。
 ならば、もしかすれば…。
「『人間は根源的に時間的存在者である』」
「ハイデガーの言葉……」
「お前に教わった言葉だ」
「……………」
 俺はここでその言葉を紅莉栖から教わった。
 もちろん、そのことは今の紅莉栖は知らない。だから言った。リーディングシュタイナーが、再度発動することを祈って。
「………」
「どうだ?」
「………」
 と言って紅莉栖はようやくこちらを向いて言った。
「『力になりたいの』と言ったのは思い出しました」
「……………」
(ああ…そうか)
 それを言われ、俺はようやく気付く。そして、気づいた感動を隠すために俺は仮面をかぶる。
「ならば我が力となり、ラボのために働くのだな。フゥーハハハハハ!」
「へ?ちょっ!?い、いきなり何を―――」
「細かいことを気にするな助手。さあ!今からラボに戻って新作未来ガジェットの開発の再開だ。ついて来い!」
「ついて来いって…。ほ、本当に行くんですか!ねえ!岡部さん!!!」
 俺は鳳凰院凶真となって、駅から逆方向にある階段へと向かう。その後ろには文句を言いながらもついてくる紅莉栖がいる。
 俺は後ろから聞こえてきている紅莉栖の声を聞いて、表情が緩んでいる。でもしょうがないことだ。
 だって、もう会えないと思った紅莉栖とまた再会ができる。そんな可能性が形となって出来上がったのだから。

<fin>
PR

2011/09/18 00:29 | STEINS;GATE

<<壊れた男の末路 | HOME | 彼と私が再会するまで>>
忍者ブログ[PR]