執念オカリン、第一弾です。
執念さん、難しいです(-_-;)
執念さん、難しいです(-_-;)
2025年。あの日からもう15年が経過していた。
その間行ったことといえば、タイムマシンの研究とシュタインズゲートへ到達するための鍵の作成であった。しかし、鍵の作成はつい数日前に終えてしまい、残されたのは後々使うことになるタイムマシンの研究を残すだけとなった。それに俺は残念ながらもう関わることができない。だが、研究が始まった時点で俺の知る知識はダルに全て渡しておいたのでおそらくこれから俺がいなくても問題はないはずだ。
机の上に置いてあるタイムマシンに関しての書類は全て用済みだ。毎日、開発の報告として送られていた書類はもう送られてくることはない。
まあ、そうだよな。
俺の死はすでに決定している。それがいつになるか細かな日にちがわからないだけで、死は避けられない。そのことは世界中の誰よりも俺が一番よくわかっていることだ。
だからなのか不思議と恐怖はない。その代わり、ようやくかと安心感を得られていた。
そう思えたのは長い長い研究から解放されるからではない。きっと、それは―――
不意にトントンと控えめなノックをされた。それだけで相手は誰かわかっていた俺は、相手の名前を呼んだ後に入っていいぞと声をかけた。
入ってきたのはズボンとTシャツ姿と研究所にはらしくない格好をしている俺の右腕だ。体格は15年前と変わって俺程度になったが、研究のこともあってか身体は俺よりも締まっている。
そう言えばダルと会ったのはDメールを送った時以来だったな。
ふとそのことを思い出し、俺は久しぶりだなと言う。ダルは久しぶり、オカリンと未だに変わっていない俺のあだ名で返してきた後、空いている椅子に座った。
それからしばらくは俺たちは何も話さなかったが、沈黙に耐え切れなくなったダルがようやく話を振ってきた。
「オカリンはこれからどうするの?」
俺がここにいてもすることはなにもない。むしろ一部屋つかってここにいること事態、今は迷惑でしかないだろう。言ってしまえば俺はもう用済みの人間だ。ここに残る義理はない。
ならどこへ行くか、であるが実は1つだけ宛があった。俺はそこへ行くと答えると、ダルは小さな声でやっぱりと視線を落としながらつぶやいた。おそらくダルがここに来た理由はこのことの確認だろう。
「そろそろ、準備するか」
俺はあえてダルに伝わるように声を出した。椅子から立ち上がり、机の上に置いてある携帯を片方のポケットに入れ、研究所を出るためのカードだけをもう片方のポケットに入れる。
そして俺は今着ている白衣を脱いで、ダルへと差し出した。ダルはその意味を理解したのか、オカリンと辛そうな表情で差し出された俺の白衣を受け取り、それを着た。
俺はそれを見終わった後にダルの両肩に手をおき、目を見てはっきりと言った。
「あとは頼んだ」
ダルはわかっているおと頷いた後、肩に置かれた俺の手を名残惜しそうに撫でるとゆっくりと俺の手を払った。
そして白衣のポケットに手を突っ込みながらダルは部屋へと出ていく。白衣の背中は覚悟と悲しみで満ちていた。
秋葉原はすっかりと寂れていた。
人の生活感がなくなった多くのビルは世界大戦が起きた時と看板は変わっていない。車は一部撤去されているが、ほとんどのものはそのまま。何年か前にここを訪ねた時と一つも変わっていない。
時が止まった街とはまさにこのことを言うのだろう。もっとも、時が止まった街はここだけではなく多く存在するのだが、俺が今それを実感できるこの秋葉原の駅前だけである。
電気街口を出て、UPXとは逆方向の出口へ出るとすぐ目の前に電気のついていないゲームセンターがある。その右隣にあるのが、15年前とは一切変わっていないラジオ会館の目の前にある止まったエスカレーターを上り、途中で階段に切り替え、目的の階までたどり着いた。
「紅莉栖」
15年前、この長い廊下で俺は彼女を救おうとし、その手で殺した。
今も、肉を貫いた感触とむせるような血の匂い、真っ赤に染まった手と俺に倒れてきた紅莉栖を鮮明に思い出すことが出来る。あの時の声も言葉も、一言一句間違えず思い出すことが出来る。
それだけじゃない。α世界線でのことも、今も鮮明に思い出すことが出来る。そう、彼女のことはどんなことでも俺が観測したことならほぼ全て思い出すことが出来る。
「紅莉栖」
この15年間、一度足りとも彼女のことを忘れたことはない。朝起きて夜寝るまで、ずっと紅莉栖のことだけを考え、紅莉栖のためだけに俺は生きてきた。
紅莉栖を救う。そのためだけに俺は盗みを働いたこともある。人を騙したこともある。殺したことすらあった。そう、全て紅莉栖のためだ。
紅莉栖のため!
紅莉栖のため!!
紅莉栖のため!!!
紅莉栖のために俺は残酷になった。
「は……はは…ははは」
思い返してみれば俺は紅莉栖を殺した日にすでに壊れていた。あれから一年間は普通の大学生を演じ、もう二度とタイムマシンにも紅莉栖にも関わらないと一時期は決めていたはずだったが、今だからこそわかる。その行為自体、すでに俺が俺でなくなっていたのと同じである、と。
「ははははは……はははははははははは」
ああ、そうさ。俺は壊れていたんだ。
紅莉栖という一人の女のために、俺は俺を壊し、多くの人を不幸にした。昔の俺ならそれに罪悪感を感じていたが今は罪悪感などない。
今あるのは数々の困難を乗り越えたすえ、紅莉栖を助けることが出来る鍵を作り、渡せたことへの達成感。それだけだった。
「ははは…………」
そして、鍵を渡すことが出来た今、俺という存在に出来ることは死だけだった。
「………紅莉栖」
俺は紅莉栖の倒れた場所の前までたどり着いた。
床は人がここには来ていないことを証明するかのように埃まみれであった。だがここだけは他の場所とは床の色が少し違う。おそらく血のことが原因なのだろう。
そこで俺は床を優しく撫でた。そこに彼女がいることを、想像しながら…。
「好きだ。紅莉栖」
俺は、そろそろ死ぬだろう。ならばせめて、この壊れた男に最後ぐらい、夢を見させてくれ。
「今も、これからも、死んでも、どこの世界線に言っても、ずっと…ずっと」
なあ?いいだろう?紅莉栖……
<fin>
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