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2024/04/19 20:08 |
遠い想い
ハロウィンである必要はなかったけどせっかくなのでハロウィンを利用。
シリアスなオカリン。SGではこうやって想いを抑えるのに苦痛を感じて過ごしているのだろうか



 トリック・オア・トリート。
 今日はこの言葉にどれだけ苦しめ、どれだけ呪ったことか。 
「まったく……」
 俺ははぁとため息をつきながら、今日ここであったらハロウィンパーティの後片付けを続ける。
 今思い返してみても本当に苦しめられたと思う。急に企画され、知らぬ間にお菓子が用意されており、それを全く知らない俺だけが集中狙いされた。
 ラボメンガールズは事前にわかっていたらしく、全員お菓子を用意していた。用意をしていなかった俺とダルはもちろん、狙われていいたずらばかりさせられたのだが、何故かダルにはほぼゼロで全て俺だけ。だがダルのあの時の反応を見るかぎり、したくなくなるのもわからなくはない。
 俺もやられっぱなしではしゃくなのでもちろん言い返したがすでに用意をしていたラボメンガールズに勝てるわけもなく、結果は言うまでもなく完敗だ。陰謀にもほどがある。
 だが、色々とやられはしたがとても楽しかった。みんなで馬鹿みたいに笑い楽しむ。当たり前のことが今の俺には、とても愛しくとても心地良かった。
 こいつもこいつで、楽しんでいたな。
 散らかったゴミをゴミ箱にまとめて捨てた俺は、手を洗いながらソファーで寝ている彼女のことを見た。
 スヤスヤと規則正しい寝息を立てながら、タオルケットをかけられた彼女、牧瀬紅莉栖は俺とは裏腹に心地よさそうに眠っていた。前日、研究のことに没頭しすぎてしまったあまりほぼ寝ていない状態での参加だったので、終わったらすぐさまこうして寝てしまった。
 それを起こすのは悪いとラボメンたちは起こさずにこうして寝かせている。で、ラボに泊まる予定だったので俺に紅莉栖の世話を任せ、ラボメンたちは帰ってしまい、今に至る。
 そうして思い返し終えた俺は、またため息を付いた。
 何故、俺なんだ……。
 不服はない。というよりも、紅莉栖といられるのは嬉しい。だが俺も男だ。男の寝ている女の子の世話など任せていいのか。
 おそらく信頼されているからだろう。でなければ俺に頼まないだろう。
「…………」
 一通りゴミを片し、手を洗い終えた俺は眠っている紅莉栖の元へ近づく。そして、片手をゆっくりと伸ばした。
「紅莉栖……」
 俺は手を紅莉栖の頭にまで伸ばし、あと少しで触れる距離で手を止め、手を戻した。
 いや、いい。
 手を引っ込め、俺は椅子に座って紅莉栖を見る。
 心地よさそうに眠っている表情は普段とは違って子供そのものだ。いつもは無愛想で大人に近い女の表情だというのに、こんな顔も出来るんだなと俺は小さく笑った。
 そして、目の前にいる紅莉栖にまた手を伸ばすが、距離が遠くて今度は届かずに引っ込めた。
「遠い……」
 椅子から紅莉栖までは距離がある。だが俺にはこの距離が、紅莉栖の元へたどり着くまでの距離のように思え、ゾッとした。
 目の前にいるのにとても遠い。どんなに手を伸ばしてもこの距離は遠すぎず、俺の手では届かない。そんなことを、俺は思ってしまった。
「ッ……!」
 遠い距離。それはまるでα世界線で手放した紅莉栖のことのようだった。
 最終的には紅莉栖を見捨てまゆりを救ったあの世界線での俺は、こんな風に紅莉栖に手を伸ばしても届かなかった。届かないから俺は紅莉栖を見捨てることしか出来ず、β世界線へ至った。
 今でもよく思う。あれ以外に方法はなかったのだろうか、と。
 そのたびに、こうも思う。そんなことは考えるまでもないだろう、と。
 今が幸せで、これが望んだ最高の結末だ。それを頭ではわかっているのだが……。
「…………」
 俺は唇を噛み締めて、目をこする。
 紅莉栖……。
 心の中で呼ばないと自分の想いがあふれるのがわかっていたから、俺は心の中で紅莉栖の名前を呼ぶ。それでも紅莉栖への想いは全て抑えきれず、目頭が熱くなるのを感じた。
 俺は鼻をすすってもう一度、目をこする。そして、椅子から立ち上がり紅莉栖の前に立った。
「…………」
 耐え切れず、俺は紅莉栖の髪の毛に手を伸ばし、それに優しく触れる。サラサラと手から逃げていく綺麗な栗毛色の感触を一回堪能し、俺は手を戻す。
 こうして感触があることに、俺は心の奥で大きなため息を付き安心する。もちろん、そんなことをせずともこれが現実だと理解しているが、それでもやはり俺にはその証拠となるものが欲しかった。
 愛おしくて愛おしい俺にとっての特別な存在が、こうして現実にいるその証拠を……。
「…………トリック・オア・トリート」
 不意に俺はこの言葉を思いつき、口に出す。もちろん、寝ている紅莉栖はそれに答えるわけもなく、代わりに規則正しい寝息を返してきた。
「トリック・オア・トリート」
 俺はもう一度繰り返すが紅莉栖の返しは変わらなかった。
 お菓子をくれなかった。なら……。
「…………ちゅ」
 俺は紅莉栖の手を掴み、その手に一度だけキスをした。
「お菓子を、くれなかったからな」
 自分を正当化する言い訳を述べて、俺は紅莉栖の手を元の位置に戻し離れる。
「……ッ!!」
 するとチクっと胸が痛んだ。俺は痛んだ部分を手で抑え、下唇を噛み締める。目頭にはまた熱が生まれ、視界は歪みはじめる。
 自分の愛しさを抑えるための行為であったはずが、より愛おしさが溢れてきてしまった。予想に反して効果は逆効果だったようだ。
 もう限界だ。そう思った俺は、名残惜しいが紅莉栖から離れ玄関に向かう。そこで靴を履き、ドアを開けて俺は屋上へと上った。
 そして屋上のドアを開けガチャっと閉めると、ついに耐え切れなくなりその場にしゃがみ込んだ。
 愛おしいなんてものではない。言葉では表せないほど、俺は紅莉栖のことを特別だと思ってしまっている。それがさっきのキスでよくわかった。
「……紅莉栖」
 もう、わかってしまった。
 俺はもう自分でも抑え切ることができないほど、紅莉栖のことを愛していたんだな、と。

<fin>
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2012/05/02 15:18 | STEINS;GATE

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